第3話 雪合戦
最高のペアと最悪のペアの誕生の瞬間だった。残念でしたと言わんばかりに、降る雪が勢いを増す。天気に笑われている。
「よし。チームも決まったことだし、ルールを確認しよう。首から上を狙うのはなしだ。危ないからね。それと雪玉に石とか詰めたり、思いっきり固くしたりも駄目だぞ? 怪我してお正月を迎えたくはないだろう?」
勝一がそう言うと、兄弟と姉妹は互いに距離を取る。
「私の足を引っ張らないでよね? 瑠璃。言っとくけど、負けたら承知しないから」
「さっきはもう負けだとか言っといて、今度は負けたくないなんて都合良過ぎでしょ! 私だって負けたくないもん。できる限りのことはするから、あなたもそうしてよ。とにかく今は、楽しむことに集中しましょうよ」
瑠璃は言ったはいいが、璃緒の耳に届いていない。きっと負けたら後で、瑠璃さえペアでなければとか言い出しかねない。責任を押し付けるのも、璃緒がよくやることだ。
雪合戦が始まった。向こうは主に勝一が雪玉を作り、利次がそれを投げる。そういう作戦だ。対して瑠璃と璃緒は作戦なんてないよと言わんばかりに、自分勝手に雪玉を作っては投げる。こんなんでは負けは見えているようなものである。
ドスっと瑠璃のコートが音を立てた。確か利次は野球のクラブチームに入っていたんだっけか。コントロールが良い。二発目も瑠璃に当たった。対して瑠璃はまともな雪玉はすぐに作れるけどいくら投げても一発も当たらない。
今度は勝一の方で雪玉の当たる音がした。璃緒が当てたのだ。璃緒は運動能力だけなら、昔から瑠璃よりも高いのだ。利次の投げる雪玉も、ひょいひょい避ける。でも作る雪玉に問題ありだ。あれを玉と言ってもいいのか疑問に思うくらい歪な形をしているし、投げた直後に空中分解するのもある。ある意味、璃緒の性格を表している、彼女らしい雪玉だ。
「ねえ、ちょっと待って、璃緒」
勝一たちが雪玉を作っている隙を見て、瑠璃が璃緒を呼び止めた。
「何よ? 私は今、忙しいんだけど」
「そんな雪の塊なんて投げ続けても意味ない! 私なら勝一より速く丁寧な雪玉作れるし、あなたなら利次より正確に当てられる。ここは協力しましょう」
「嫌だよ。誰があんたとなんか」
瑠璃の申し出を、即行で璃緒は断った。でも今は引き下がれない。この雪合戦、負ければ夕飯の時に、瑠璃のせいで負けたとか言い出しかねない。親戚一同の前で、そんな恥かきたくない!
「このままじゃ、負けちゃうのよ!」
「…わかった。じゃあどうすればいいの?」
璃緒が簡単に折れた。負けるのが嫌だからだ。そういうところは扱いやすい。
「私が次々雪玉を作るから、あなたはそれをとにかく投げて。簡単でしょ?」
「わかった。ならさっさと雪玉寄こしなよ」
二人の協力が決まった。これなら勝算はある。
早速瑠璃は雪玉を作り始めた。素早く丁寧に、雪玉が出来上がっていく。そしてそれを、片っ端から勝一たち目がけて璃緒が投げる。向こうでドス、ドスっと音が鳴る。雪玉作りに集中している瑠璃には見ている暇がないが、その音でわかる。璃緒の狙いは正確だ。利次の投げてくる雪玉もあまり当たらないし数も減ってるから、二人の連携も崩れてきているはずだ。
自分は雪玉を作っているだけだが、それでもいい。璃緒が当ててくれれば、それだけでも嬉しい。
その時瑠璃は初めて、自分が璃緒と一緒にいて良かったと思っていることに気付いた。いつもは口を開けばもめる二人が、この時はまるで昔のような仲の良さだ。
こんな夢のような時間がずうっと続けばいいな、と思った。でも二人が協力し始めてすぐに、勝一たちは降参した。
「やった! 勝った!」
璃緒が幼い子供みたいにはしゃいでる。余った雪玉を、パレードの花火みたいに上に向かって投げる。璃緒は自分のお蔭で勝ったと思っているだろうけど、その勝利には私も貢献してるのよ、と言わんばかりに瑠璃は彼女に抱きついた。
「そうよ! 私たちの勝ちよ!」
雪まみれになりながら、利次が二人に歩み寄り、
「いやあ今の、すごかったなあ。ねえお兄ちゃん?」
「ああそうだな。突然吹雪にでも来たかと思うぐらいだったよ」
勝一たちは瑠璃と璃緒のペアを絶賛する。
「本当の、本当に、勝てた…」
瑠璃がそう言ったのは、勝ったことに安心したからではない。璃緒と組んで、勝つことができたことが嬉しかったのだ。
「ちょおっと、放してよ、瑠璃。くすぐったいじゃない」
璃緒は口ではそう言うが、顔があまり困っていない。それどころか、嬉しそうな顔である。それにいつもなら、こんなことしたら突き飛ばすはずだ。璃緒もきっと、私と同じ気持ちなんだろうなあ。
瑠璃は、これが幸せなんだと感じていた。
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