第150話 真実を知り仲間を信じる②
「な、何だよ、これ……」
カイリたちと同様、太一も全ての“真実”を知って顔を蒼くさせていた。
――俺が世界を壊す引き金?
――俺も、仲間たちも全員死んで……全てが壊れる?
――その運命は何回も続いていた?
ぐしゃりと前髪を押さえながら、太一は「これが……“真実”……」と振り絞るように声を漏らす。太一の様子を観察していた男は「残酷な真実――流石にこいつには耐えられないか」と内心で悟っていた。
「こんな未来なんて……こんな運命なんて……ッ!」
太一は何も考えられなくなっていた。今まで自分が闘ってきた、生きてきた全てが否定されそうな感覚に支配される。
救世主を目指して闘っていた。もがき苦しみながら、引き摺るように前に進み続けた。いつか全てを救えるような、そんな救世主になれると信じて。
しかし結果はどうだ。自分の存在を破滅の引き金に利用され、全て壊れた。それが何度も続いていた。何度も、何度も。
ずっと自分は救世主にもなれず、プルートに勝つ事もできず、何も救えなかった。
“いつか”、全てを救えるような救世主になれると信じていた。
しかし、自分たちに“いつか”はこない。
「俺は、何も……救えて……俺が、俺の存在がッ!」
カタン、と太一の竹刀が手から零れ落ちる。何もかも投げ捨ててしまいたいと自暴自棄に陥りそうになっていた。
そんな太一をを見て、氷華の幻影は悲しそうに目を伏せる。その様子を見て、太一は察した。同じように救世主を目指していたからこそ、昔からの幼馴染だからこそ――理解できてしまう。
氷華ならば、きっと――。
「それに氷華はもしかして……あれじゃあ氷華はあんな選択をするしかッ! こんなの殺されたようなものじゃないかッ! こんな真実、こんな世界…………違う、氷華が本当に望んでいる事は……氷華ならきっと、俺を、俺たちを信じて……」
必死に最悪の考えを打ち消そうとしている太一を見ながら、氷華の幻影は落ちた竹刀を手に取る。それを太一に差し出しながら、唐突に『ねえ太一。もしも明日世界が壊れるとしたら、太一はどうする?』と問いかけた。
「そんなの決まってる……壊させない。何をしてでも、俺が……俺たちが世界を救う……」
『それは私と同じ考えだね。その言葉を聞いて安心したよ』
そして氷華の幻影は全てを信じ切ったような表情で、優しく微笑んだ。
『救われたい、じゃない。救いたいなんだ』
その言葉を聞いて太一は顔を上げた。幻影の氷華は光に包まれながら『太一が考える救世主像を聞いて、私思ったよ。私たち二人なら、全てを救える救世主になれる』と続ける。
『世界を救う太一。仲間を護る私。世界に対する救世主の太一。仲間に対する救世主の私』
「氷華……」
『救う太一と護る私。ほら、二人揃えば全てを救えちゃいそうでしょ? だからさ、私たちならきっと、全てを救える救世主になれるよ。もう一度、世界を、仲間を、自分を信じて』
太一の脳裏に、あの時の言葉が蘇る。
太一を封印した氷華が、最後に呟いた言葉。
――「私が皆を護るから、太一が世界を救ってね」
いつまでも自分が憧れる救世主にはなれず、ずっと救えなかった事が真実だったとしても。
因縁の相手に負け続け、ずっと勝てなかった事が真実だったとしても。
その真実はもう壊れかけている。否、壊してみせる。
――「いいか、“これからも”それだけは絶対に忘れんな。全て忘れても、それだけは忘れんな」
闘い続けていた経験を思い出せ。
救えなかった苦しみを思い出せ。
勝てなかった悔しさを思い出せ。
想いを全部糧にして、自分を信じて、太一はもう一度立ち上がった。今なら“あの時の”フォルスの言葉の意味がわかる気がする。
「俺は……ッ!」
太一がゆっくり竹刀を手に取ると、氷華の幻影へ満足そうに笑っていた。
『私も、信じてるよ』
そして完全に消失してしまった氷華の幻影を想いながら、太一は目元を片手で押さえる。太一の背中を押すように、心の奥底である言葉が蘇った。
「……だけど……俺はまだ生きている……」
「!」
太一の呟きに謎の男は顔を上げる。激しく落ち込み、終わりの見えない絶望に打ちひしがれるだろうと思っていたのだが――太一は違かった。
何度も凍夜に負け続けた過去があっても、太一は諦めなかった。だったら、何度もプルートに殺されていた運命があっても同じだ。ここで諦める訳にはいかない。皆が闘っているのに、自分だけ逃げる訳にはいかない。
「俺の覚悟はそんなもんか? 大切なものを救う為なら、俺は何だってしてみせるんじゃないのか?」
自分の予想を覆され、男は目を見開かせながら「面白い」と期待を込めて笑う。
「救世主になる時、決めたじゃないか……俺が世界を救うって、護るって。大切なものを救う為なら、何だって死に物狂いでやってやる……」
太一は竹刀を握り直し、陽光のように温かな魔力を放ちながら顔を上げた。
「勝てない運命だろうと関係ない。俺は死ぬまで闘い続ける。生きている限り、俺は……救世主だから」
その瞬間、太一の髪がぶわりと逆立つ。
「俺は、何があっても絶対に――立ち止まる訳にはいかない! だって俺はまだ、世界と仲間を救っていないッ!」
絶望的な運命に立ち止まってしまおうかと考えたが、氷華の言葉が自分の手を引いてくれた。
過去の――京と闘った時の助言が太一を導いてくれた。
そのまま今も闘っているであろう相棒の顔が脳裏に過ぎり、太一は「氷華がくれたチャンス、絶対に無駄にしない。俺がこんなだったらそれこそ凍夜さんに殺されそうだし」と言いながら、覚悟を決めた強い瞳で眼前の男に向き合う。
「それに――あの時にお前も言ってたろ?」
「ああ、そうだな」
――《お前に死せる覚悟はあるのか? 神を殺める覚悟はあるのか?》
――「質問の意味がよくわからないけど。世界を救う為なら、俺は何だってしてやるよ」
太一の周りに渦巻く強靭な魔力を感じ、男は一瞬だけ“自分と太一が重なった気がした”。
「今なら断言できるよ。世界を救う為なら……俺はプルートって神を殺す」
――やはり、お前は……。
「何かを殺してでも、俺は世界を救う」
謎の男は不敵な笑みを浮かべると「ソレイユ」とだけ呟く。
「?」
「俺の名だ」
太一は「どこかで聞いた名だな……」と考え始めるが――ソレイユが真っ赤に燃え盛る剣を構えた事で、その思考は一時中断される。
「説明している時間も惜しい。構えろ、北村太一」
「もしかして、力貸してくれんの?」
「くくっ、誰がお前なんかに」
そして太一はいつものように竹刀を変形させながら、ソレイユに向かって走り出した。
「『玖の型・天叢雲』!」
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