番外編21 君の意外な一面
人気の少ない陸見山の奥地で、ノアはひとり修行に励んでいた。
いつも共に居る氷華は、現在特別任務に行っている。単独での任務を承諾するのは不安だったが、「あの赤いのと一緒でないのなら、氷華が冷静さを失うような事もないだろう。普段の氷華の実力ならば問題ない」と自分に言い聞かせるようにしながら渋々彼女を見送った。それに、四六時中付き纏うのもどこか気が引ける。氷華も年頃の女子だ。世界を護る救世主とはいえ、プライベートもあるだろう。
この世界の雰囲気にもやっと慣れ始め、最近ではノアもひとりで出掛けるようになっていたので、とりあえず暇潰しも兼ねて陸見山へときていた。
「――と言っても、特にやる事がなくて修行になるのだが」
ノアは隠し持っていたレーザー銃を抜くと、瞬時に眩い光線を放つ。ひらひらと舞い降りる木の葉には綺麗な風穴が開いていた。
「修行修行と言ってると、赤いのと同レベルになるな……」
ふぅっとノアが溜息を吐いた瞬間を狙ったように飛び交う奇声に、ノアはぎょっと目を見開かせる事になる。
「わあっ、凄いよ! かっこいいよノアくん!」
目を輝かせながら突如現れた少年――ではなく、太一や氷華と同じクラスの青年――南条法也の姿を見て、ノアは反射的に後退。脳内では「こいつに関わると面倒な事になる」と警告も鳴っていた。アンドロイドであるノアの感覚器官は人間のそれを超えている筈なのだが、それにも関わらず存在に気が付けなかった法也を奇怪な目で見ながら、ノアは「ど、どこから現れた!」と慌てる。
「まあまあ、そんな事は気にしないで」
「気にする!」
「ちょっと気配を消すのが得意なだけだって、大した事ないよ」
簡単に言ってのける法也だったが、それは大きな才能でもあるだろう。ノア自身もそう思ったのだが、法也に対して常識は通じないと理解していたので、ノアはツッコミを入れるのを放棄した。それに、変に舞い上がられてしまっても困る。
ノアは目を細めながら「で、僕に何の用だ」と冷たく問いかけた。それに反比例するように、法也は「特に用はないよ! ノアくんが近くに居た気がして外に出てみたら案の定!」と明るく笑って答える。嘘偽りのない、純粋な瞳だった。
――まさか、発信機でも付けられているのか……?
法也の言葉を信じずに疑っていたノアは、自分の服に不審なものが付いていないかと確かめていると、法也は「へえ~、ノアくんの銃って面白い構造してるんだね」と呑気な声を上げる。
いつの間にか自分の武器を法也に取られていて、ノアは内心で「こいつの気配の消し方、只者じゃない」と確信した。今度シンに法也の素性を調査してもらおうとも思った。
「こんなタイプはボクでも初めてだなあ。ねえノアくん、これって何製?」
「この世界では生産されていないものだ」
「って事は、例の異世界の! ねえノアくん、これボクに改造させてくれない!?」
「……駄目と言っても聞かないんだろう」
「ありがとう!」
そしてノアは上機嫌で跳ね回り――消えた。あまりにも唐突過ぎてノアはぎょっとしながら暫く固まっていたが、足元にある不自然な穴の中へひゅんっと落ちたらしい。不審に思ったノアは恐る恐る穴を覗くと、どうやら地下空間へと通じる穴のようだった。
「追うべきか追わないべきか……」
数分間迷ったノアだったが、自分の銃を変に使われたくはなかったので――一応、追いかける事にした。
◇
「陸見山の地下にこんな場所があったとはな」
「ここはボクの秘密基地だからね!」
まるで戦隊モノの秘密基地のような空間だった。ひんやりとした空間には無数のコンピュータ、機械が並び、奥には巨大なロボットまで点在している。ここまでの基地を法也ひとりで作ったとは思えない程に圧巻だった。
恐らく面白い事に興味を示したシン辺りが力を貸したのだろうが。
「レーザー銃……あ、太陽光を変換してるんだ。破壊のイメージが強いのに、環境には優しいんだね!」
「そうなのか?」
「ねえ、ノアくん! そこにある武器どう思う? 作ってみたんだけど。あ、機械にだけは当てなければ存分に試し撃ちオーケーだよ! 勿論、ここが崩れない程度にね」
手元のレーザー銃からは目線を離さずに、法也はノアの背後に立て掛けてあるショットガンを指さす。視界に入った時から密かに興味を惹かれていたので、ノアは何の抵抗もなくそれに触れた。
驚く程、自分の手に馴染む。重さ、質感、大きさ――全てが完璧だった。
「そう簡単に作れるものなのか、これは」
「ボクなら、ね!」
法也の才能に圧巻されながらも――ノアはショットガンを構え、そのまま引き金に手を添える。
――――バシュンッ!
「……悪くない」
「やった!」
ノアに褒められて気をよくしたのか、法也はくるりと振り返って「ねえ、横にある赤いボタンも押してみて!」と目を輝かせながら指示を出す。指示通りにボタンを押すと、手元からガシャンという謎の音が響き渡った。
「なっ!?」
法也お手製のショットガンは、そのまま見事なサブマシンガンへと変形し始める。最初は驚き唖然としていたノアだったが、少しだけ楽しそうに目を輝かせながら「凄いな」と素直に感心していた。
「でしょ? それノアくんの為に作ったものだから、あげるよ!」
「……いいのか?」
素直に受け取っていいか悩むより先に出てしまった言葉に、ノア自身が顔を赤くするが、法也は「勿論!」と嬉しそうに微笑む。
「あの時のお礼だよ」
ノアは以前、闘いの最中に法也を救った事があった。その時二人は敵対していた関係だったが、ノアはそれを顧みずに彼を救った。それ以来――法也はノアを尊敬し、多大なる憧れを抱いている。
ノア自身はそれを鬱陶しく感じる時もあるが、別に嫌悪している訳ではなかった。彼の性格上、それを素直に表に出す事はなかなかできないのだが。
「……一応、感謝する」
そして、ノアから面と向かって感謝されたのは初めてだった法也は、少しだけ驚きの表情を浮かべるものの――至極嬉しそうに「ボクを救ってくれてありがとう、ノアくん! これからは全力でキミたちをサポートしちゃうから、期待しててよね!」と笑顔で答えるのだった。
「って訳で、ちょっとレーザー銃改造してみたよ! 太陽光発電じゃなくて普通のコンセントからの充電式にしたから――これなら一定時間充電すればほぼ無限に発砲できるからね! 雨の日でも安心だよ」
「早っ!? よくわからないが、お前本当に凄いな……」
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