澄んだ瞳で、虐殺


おれは汽車の中で怯えていた

おれだけじゃないみんなだ

近頃、この辺りは物騒で

赤ちゃんが出るらしい

全長60メートルの

「ポーーーーーーーーー!」

鳴り響く汽笛

そんなに大きい音を出して大丈夫なのだろうか?

赤ちゃんが起きないだろうか?

あの鉄橋さえ渡りきってしまえばもう赤ちゃんはやって来れない

川を泳げないから

「あ」

誰かが言った

そして窓の外を指差した

「来たあーーーーーーーーーーー!」

車内、大パニック

丘の向こうから

赤ちゃんがゆっくりとおれたちを殺しにやって来る

ぷよぷよの二の腕によって

おれたちの進路は完全に遮られた

急激な摩擦による白煙が窓を覆った

赤ちゃんの瞳がその向こうに薄っすらと見えた

赤ちゃんはひどく上機嫌のようだった

最悪だ

おれたちを皆殺しにするまでけして離してはくれないだろう

汽車が持ち上げられた

そして乱暴に捻じ曲げられた

何度も上下にひっくり返された

隣りの車両へと続くドアの下から血が染み出してくるのがわかった

「バアアアアーーーーーーーーーーーーブウゥゥーーーーーーーーーーーー!」

赤ちゃんのおべべに涎が垂れた

バケツ一杯分の

ああ………

おれは思った

お前は最強だよ

指で

窓からおれたちを一人残らずほじくり出そうとしているね


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