588話 「その者、因果応報 その3」


 カスオが倒れて、およそ十秒。


 一向に起き上がってくる様子がない彼を、誰もが見つめていた。



「…だ、ダウン! カスオ選手、ダウン!!」



 その中でレフェリーだけは、反射的にダウンを宣告していた。


 ちなみに大会のルールでは、ダウン中の攻撃は禁じられている。このあたりは立ち技格闘技と同じだ。(寝技はありだが、武人同士の戦いでは基本使われない)


 どくどくと鎧の中から血が流れていることもあり、このダウンは正当なものと認められたようだ。



 これには解説席も困惑する。



「い、イケダさん、これはいったい…何が起きたのでしょう?」


「完全に無防備でくらってしまいましたね。アルバレン選手の攻撃力は高いですから、まともにくらっては普通の鎧では防げません」


「アルバレン選手の奇襲成功…なのでしょうか?」


「いえ、彼は対面したときから戦気を放出していました。カスオ選手にもそれはすぐにわかるはずです」


「では、どうして?」


「わかりません。わかりませんが…もしかしたら…」


「何かお気づきに?」


「私にはどうにも、あえてくらったように見えて仕方がないのです」


「あえてくらう!? 意味がわかりませんが?」


「ええ、それは私も同じです。まったく意味がわかりません。ですが、妙な不気味さを覚えるのも事実です。カスオ選手自身もそうですが…【彼】が気になります」


「彼? 彼とはまさか…」


「はい。あそこにいる彼はまったく動じていません」



 イケダの目が、セコンドにいるアンシュラオンに向けられる。


 満を持して送り出した先鋒が倒れたのに、ぴくりとも動かない。ただじっと見つめているだけだ。



「あの余裕っぷり。これも作戦ということなのでしょうか?」


「わかりません。ですが、これで終わるとは思えないのです」


「ルール上では、ここでメディカルチェックが入りますね。それでアウトならば負けとなります。はたしてカスオ選手は、立ち上がってこられるのでしょうか!!」





 レフェリーが倒れたカスオに近寄る。



「カスオ選手、まだやれるか!?」


「………」


「カスオ選手? 聴こえるか!?」


「………」


「これは…まずいな」


「レフェリー! もう戦闘不能だろう!!」



 ここですかさずマングラス側から試合終了が叫ばれる。


 彼らにしてみれば早く一勝が欲しいのだから、カスオが期待外れであろうがどうでもいいことだ。


 だが、観客にしてみればそうもいかない。



「おい! まだ止めるなよ! 始まったばかりじゃねえか!!」


「こっちはカスオに賭けてんだよ!! 早く立ち上がれ!!」


「アルバレン、てめー、空気読めや!!」


「スリップだ、スリップ!! ダウンじゃねえよ!!」



 カスオに賭けた観客は、野次を飛ばしてレフェリーを邪魔する。


 そう、これはあくまで賭け試合である。


 接戦ならば納得もいくが、いきなりこうやって終わっては困るのだ。かつてのレイオンがわざわざ試合を引き伸ばしていたのは、そのためだ。



(これは戦闘不能だ。すぐに担架で運ばなければ…だが、いきなりこれでは団体戦の盛り上がりが…いやしかし、選手の生命が最優先のはずだ…。私はどうすれば…)



 そうしてレフェリーが葛藤していると―――





―――パチパチパチッ





 突然、セコンドにいたアンシュラオンが拍手を送った。


 何の拍手か誰もが理解できなかったが、彼は拍手を続ける。




―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ





「イケダさん、この拍手はいったい!?」


「自分の選手が倒れているのに拍手とは、おかしなことです。相手を賞賛しているようではありませんし―――!? あ、あれを見てください!!」


「え!? おお、おおおおおお!! か、カスオ選手が…動いた!! し、失礼! カスオ選手が起き上がってきましたぁああああああああああ!!」



 がしゃん むくり


 拍手に反応したのか、倒れたカスオが起き上がってくるではないか。


 しかも、やっとのこと起き上がったのではなく、いきなりむくりと立ち上がったのだ。



「い、イケダさん、これは何が起こったのでしょう!?」


「わ、わかりません。単に気絶していたのかもしれませんが…それにしては動きが機敏です! これはまさか…演技だった?」


「演技!? 試合を盛り上げるためにでしょうか!?」


「だとしたら怖ろしいものです。まずは我々も試合に集中しましょう! ますます見逃せなくなりました!」


「は、はい! カスオ選手、反撃開始となるか!!」





 カスオは起き上がる。


 鎧から血をどばどば出しながらも、ただただ無言で立ち上がる。



(なんだこいつ? 気味が悪いが…次で仕留める!!)



 気を取り直したアルバレンが、再度攻撃を仕掛ける。



 ブーーーンッ



 大きなバトルアックスが振り払われ―――



 どがしゃっ!!



 カスオを横薙ぎにした。



「ごばあああああ!!」



 ばたんっ


 無防備で受けたため、駒のようにぐるぐる回転しながらリングの床に倒れ込む。


 だが、その直後にアンシュラオンが拍手をする。




―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ




 すると、どうだろうか。


 むくり


 再びカスオは立ち上がったではないか。



「はーーー、はーーーー」



 息遣いは荒く、身体からは相変わらず出血を伴っているものの立ち上がる。



「なんだ…こいつ!? なんで立ち上がれる!?」


「はーー、はーーー」


「この野郎!!」



 その気味悪さに引いたのか、アルバレンが全力の一撃をカスオにお見舞いする。


 カスオはよけず―――



 ズガシャッ!!



 直撃。



「ぎゃああああああああ!」



 ばたんっ


 断末魔を上げながら床に転げ落ちる。


 しかし、すでに予想していた者も多いだろう。




―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ




 むくり


 拍手とともに彼は立ち上がった。



「ふーーー、ふーーーー」


「なんなんだ、こいつは!?」


「アルバレン、怖れるな!! こうなったら殺してもいい! 遠慮なくやれ!! 我々に負けは許されない!」


「わ、わかった!!」



 上層部の人間が見ている手前、負けは絶対に許されないマングラス陣営は、初戦からいきなり死者を出すことを容認する。


 これは通常の闘技場では珍しいことであり、いかに団体戦が特別かを示してもいた。


 賭け試合でもありながら真剣勝負でもあるという、地下ならではの奇妙な状況も見所なのだろう。


 そしてアルバレンが、かつて裏スレイブだった頃に得意とした技を繰り出す。



(首を撥ねてしまえばいい!! それなら立ってはいられない!)



 彼は持ち前のバトルアックスを駆使して、相手の首を狩るのが得意だった。


 斧を水平にして構え、走りながら身体を捻り、全体重をかけて首に叩き込む。


 実戦でこれをやるのは難しいため、待ち伏せ状態ならではの奇襲方法だが、今のカスオのような無防備な相手ならば十分可能だ。


 アルバレンはカスオの反撃に注意しつつも間合いに入ると、斧を振り払った。



 ズバンッ!



 斧は何事もなくカスオの首に入り込むと、そのまま頭を―――撥ね飛ばす。



 ボトッ ごろごろ



 そして、カスオの頭部(兜付き)が床に転がった。




「ひぇーーー! やりやがった!!!」


「これだこれ! これが本当の団体戦だぜ!! 昔の迫力が戻ってきた!」




 観客からも悲鳴やら歓声が轟く。


 地下闘技場での戦いは久しく生ぬるかったが、サナの登場によって人々は本物の刺激を求めるようになっていた。


 戦いで死ぬことは珍しくはない。よくあること。当然のこと。


 それを思い出した彼らは、凄惨な状況を楽しむことができるのだ。




(久々にやっちまったが…どうだ? こんなやつに全力を出すまでもなかったな)



 アルバレンにしても、こうして人を殺すのは久々だ。


 カスオがそこまでの相手でないと思ったからこそ、若干の後味の悪さも感じたが、これも彼の仕事である。


 仕方ない。


 そう思っていた時だ。




―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ


―――パチパチパチッ




 またもや拍手が聴こえた。


 不思議なことに、拍手からでも相手の感情は伝わるものである。


 その拍手の主は、極めて冷静かつ、非常に【愉しんでいる】ことがわかる。


 愉快、痛快、爽快。


 この状況をもっとも愉しんでいるのは、ほかならぬ拍手の主なのだ。


 それを証明するかのように、誰もが期待していたことが起きた。



 ずる ずる ずる



 身体が、動いた。


 頭を撥ね飛ばされた胴体が、床を這いずるようにひとりでに動き出し、自らの手で頭を掴む。


 がしゃんっ ぐちゃっ


 それを自らの胴体に押し付けると、再び彼は立ち上がった。



「…ばか…な」



 あまりの光景にアルバレンも立ち尽くす。


 いくら武人が首を撥ねられただけでは死なないとはいっても、それは強力な武人に限ってのことであるし、あくまで即死しないという意味だ。


 そこから即座に回復できる者など、まず存在しえない。


 『何かしらの特殊な力』がなければ不可能だ。



「ちぇ、チェック! レフェリー! チェックだ!!」


「め、メディカルか?」


「【不正干渉】もだ!!」



 ここでマングラス側セコンドからの『要請』が入ったので、改めて団体戦のルールを確認してみよう。




○大会基本ルール○



1、制限時間は一試合、六十分。勝負がつかない場合は、それまでの戦況の優劣によって決められる。(意図的に時間を引き延ばす行為の防止)


2、具体的なルールは、対戦者同士が同意すれば何を採用しても問題はない。


3、ダウン中の攻撃は禁止。違反した場合は減点となる。


4、ダウンした場合はメディカルチェックが行われ、明らかな戦闘不能状態、あるいは死亡すれば負けとなる。


5、選手以外の者、あるいは物によってリング内部に干渉することは禁止。


6、第五項の違反が判明すれば、減点対象になる。




 となっている。



 マングラス側が要請したのは、この第四項目と第五項目に関してである。


 まず、メディカルチェックが行われる。



「か、カスオ選手、その…傷を見てもいいかな?」


「………」


「ちらり」



 カスオは答えなかったので、代わりにセコンドのアンシュラオンを見る。



「かまわない。好きなだけ見るといい」


「で、では、失礼して」



 許可を得たレフェリーが、恐る恐る鎧の隙間からカスオの傷口を見る。(許可を得る必要はないので、彼が動揺していることがうかがえる)


 今まで数度攻撃されているため大きな裂傷が残っているが、切断されたはずの首が一番気になるのは仕方ない。


 案の定レフェリーは、じーっと首を凝視していた。



「カスオ選手、首を動かしてもらえるか?」



 ガシャ


 カスオが頷いてみせる。



「落ちない…? つながっている…のか? 本当にか?」



 ガシャ


 再びカスオが頷いてみせる。


 かなり大雑把に切断されたので傷口は痛々しいが、それも徐々に塞がっているように見えた。


 にわかには信じがたいが、実際に見た以上は信じるしかない。



「問題はなさそうだ」


「馬鹿な! そんなことはありえない! 不正干渉じゃないのか!?」


「チェック班、どうか?」


「異常は感知できませんでした。外部からは干渉されていません」


「術具の使用は?」


「その鎧からも術式は検出できませんでした。事前に調べています」


「そ、そうか。結界にも異常はないし……その、言いにくいが……問題はない。試合続行だ」


「ふざけるな! そんなわけがない! 首が飛ばされて死なないやつがいるものか!! その男が何かしているに違いない!」



 マングラスのセコンドが、アンシュラオンを睨む。


 が、彼は微動だにしないどころか、人差し指を軽く立ててクイクイ動かしながら、公然と言い放つ。



「証拠はあるのか?」


「なっ…」


「証拠がなければ不正ではあるまい。言いがかりも甚だしいぞ」


「このようなことが起こるわけがない!」


「お前に武人の何がわかる。勉強不足だな。用が終わったのならば引っ込んでもらおう。戦いの邪魔になる。それとも時間を引き伸ばしているのか? それこそルール違反じゃないのか?」


「くっ…!」



 証拠がない。


 不正を証明するのは訴える側であり、訴えられた側にはない。極めて当然のことだ。


 それができないマングラスの主張は、あっけなく論破されて終わる。





 その後、戦いは泥仕合の様相を呈した。




 アルバレンがカスオを【痛めつける】も、彼は死なないで何度も立ち上がる。



 そうこうして六十分間の不思議な時間が経過し―――






―――カンカンカンッ!!!






「勝者、アルバレン!!」




 判定の結果、勝者はアルバレンとなった。



 まったく攻撃らしい攻撃をしなかったカスオに対し、終始攻めていたアルバレンの構図であったため、判定の結果は妥当といえるだろう。


 そしてアンシュラオンは、ぐったりとしたカスオを一度控え室にまで連れ帰るために入場口に消えていった。



 その間に総評が行われる。



「イケダさん…この試合はどうでしたか?」


「……衝撃的でした。あまりに衝撃的すぎて言葉が出ません。我ながらよく六十分もの間、あのような光景を見続けられたと感心するほどです」


「…ですよね。私も同じ気持ちです」


「見てください、あのアルバレン選手の表情を。まるで彼のほうが死人ですよ。切っても切っても死なないのですから、彼のほうこそ生きた心地がしなかったのではないでしょうか」


「血の気が引いていますね。あれが『道端の処刑人』とは到底思えません。しかし、一勝は一勝。これは大きいのではないでしょうか?」


「そうですね。マングラスとしては大きいでしょう。ですが、『試合に勝って勝負に負けた』のかもしれません」


「ほぅほぅ、それはいったい?」


「あの自信を失った顔を見てください。アルバレン選手が、次の試合で同等のパフォーマンスを出せるでしょうか? 私にはそうは思えません」


「攻め疲れもありますし、何よりも精神的ダメージが大きいということですね」


「その通りです。マングラスもあと二戦しなくてはなりません。勝ち星候補の彼があの様子では、上位浮上は難しくなってきたかもしれませんね」


「なるほどなるほど。そういうことですか。ですが、ラングラス側が負けてしまいました。これは痛いのでは?」


「まだ注目の試合が残っていますからね。十分チャンスはあります。それに、カスオ選手と対戦する次の相手は嫌なはずです。ジングラスはともかくハングラス陣営は、今頃戦々恐々としているでしょうね」


「それも次への布石ということですね」


「しかし、驚きました。『不死身の男』とは言われておりましたが、本当に信じてしまいそうです」


「そうでした! あれについてはどのようにお考えでしょうか?」


「正直、わかりません。強力な回復術式でも使えば可能でしょうが…まずグラス・ギースで手に入るとは思えませんし、あの鎧も普通のものだったようです。唯一わかったのは、あの鎧の赤色は『彼自身の血』の色だったことです」


「それは…あまりにショッキングですね」


「ええ、怖ろしいことです。いったいどれだけこんなことを続けたのか…想像するだけで失神しそうです。それでもまた見たいと思ってしまうことが、我々人間の怖さなのかもしれませんね。私からは以上です」


「ご解説、ありがとうございました。マングラス対ラングラスの先鋒戦は、マングラスのアルバレン選手の勝利となりました。次の試合もまもなく始まりますので、ぜひ賭けていってください!!」




 カスオの戦いによって、闘技場は摩訶不思議な空気に包まれていた。


 死なない人間。


 極めて奇妙で怖い存在であるが、どこか憧れてしまう。


 そんな人々の願望を体現したためか、結果に文句を言う者は誰もいなかった。


 だがしかし、この世に奇跡などは存在しない。結果があれば原因があるのである。





 アンシュラオンがラングラスの控え室に戻ると、カスオを放り投げる。



 ぽいっ ごしゃっ



「うう……」


「どうだ? 楽しかったか?」


「はぁはぁ…ううう……」


「楽しくて声も出ないか。どれ、兜を取ってやろう」



 アンシュラオンが兜を取ると、そこには紛れもなくカスオの顔があった。


 あれだけの出血である。顔色は悪く、目も虚ろで、身体は傷だらけだ。


 ただ、彼は死んではいないし、死ぬことは許されない。



「ふむ、ルアンに投入した薬の量を二倍にすると、耐久力はさらに上がるようだな。その代わり判断能力が皆無になるから使えないがな」



 普通に考えて、常人のカスオがあんな攻撃に耐えられるわけがない。


 最初の一撃で死亡確定だ。ましてや首が飛ばされても生き残ることなど不可能である。


 であれば、それを可能にしたのがルアンと同等の強化処理だ。


 ミャンメイを失った日から、カスオは薬漬けにされていた。しかも二倍の量を投入されているため、強い副作用も出ている可能性があるが、死ななければ問題はない。


 アンシュラオンもカスオを殺すつもりはなかった。どんなクズであれシャイナの父親である。彼を殺しては苦労が台無しだ。


 かといって『許す』つもりもない。



「お前はオレに逆らった。逆らったらどうなるかは事前に通告していたな? それでもオレに逆らったならば、とことん痛みを与えてやる。おい、聞いているか?」


「はぁはぁ……お、おゆるし……を…」


「おいおい、お楽しみはこれからだぞ。次の試合は、まさにオレが言っていたことをそのまま実現させてやろう」


「ううう…」


「やれやれ、悪趣味なやつだ。そんな雑魚をいたぶって楽しいのか?」



 その様子を見ていたレイオンが、呆れたように呟く。



「オレは自分を裏切ったやつは絶対に許さん。見せしめは必要だ。こいつのせいでミャンメイを失ったんだ。当然の罰だろう?」


「その点に関してはいっさい同情はしない。お前がいなければ俺が殺していた」


「そんなことより、お前は大丈夫なのか? もうすぐ試合だぞ」


「…ふん、こんな状態は慣れっこだ。年季が違う」


「カスオの時みたいに援助してやろうか?」


「断る」


「バレなければイカサマじゃないんだぜ?」


「お前の手は借りない。すぐに終わらせる」




 そう言うと、レイオンは出て行った。




「無愛想なやつだ。結界が緩んでいるから不正し放題なのにな」



 カスオの異常な状態は、ただ薬だけが原因ではない。


 アンシュラオンが、命気を付与したことが最大の要因である。



(三つの会場を見て思ったが、会場それぞれの結界は同一ではない。無手の会場が一番強くて、武器、無制限と弱くなっていくんだ)



 無手の試合会場では、サナに付与した命気が完全に消えていた。


 これは宿された封印術式が相当強固なものであり、遠隔操作するのが困難だったせいだ。


 一方、武器の試合会場では、武具の持ち込みが可能なためか、どうしても無手のものより結界が甘くなるらしい。


 たとえばイベント会場にいく場合における「持ち込み完全不可」と「飲み物持参可能」との違いに似ている。


 完全不可の場合はチェックも厳しくなるが、飲み物持参となれば、その中身を入れ替えるくらいはできないことではないだろう。


 仮に「酒類禁止」となっていようと、多少混ぜた程度では見た目ではわからない。


 それ以前の問題として、アンシュラオンの遠隔操作を見極めることができる者など、この場には誰一人としていないのだ。


 事実ホテルでの一件において、ラブヘイアほどの実力者であってもモグマウスには気付かなかった。さらに完全警戒中の彼の背後を、いとも簡単に取ったのだ。


 アンシュラオンの技術は相当高い。最初から注意して隠蔽すれば、アーブスラット級の探知能力がなければ発見は不可能だろう。


 加えて今回の会場は「無制限」の会場である。


 ここにかけられている結界は、あくまで内部の攻撃が外に届かないようにするものであって、外から持ち込ませないようにするものではない。



(この抜け道は運営側も理解していたはずだ。そうでなければ第六項目の意味がない)



 さきほど紹介した大会規約の中に、不正干渉がバレたら『減点』と表記されている項目がある。


 なぜ減点なのか? 失格ではないのか?


 誰もがそう思うだろう。


 これは不正が【公認】されていることを意味している。



(やるならバレないようにしろ、ってことだ。それも工夫次第、強さの証明ってわけだ。考えたやつは頭がいいな)



 これも大会を盛り上げるためのルールの一つであり、弱い相手でも勝てる可能性があるからこそ賭けが成立する。


 アンシュラオンの正体に気づいている人間は、彼が何かしたと思っているだろうが、それはそれでいいのだ。


 もし対抗したければ、不正を暴いてみせればいいだけなのだから。


 それができないのならば自分たちもやればいい。それだけのことである。





 そして、しばらくして中堅戦が始まり―――





―――カンカンカンッ!!





「勝者、キング・レイオン!!」




 レイオンの勝利が決まった。



 これで一勝一敗。



 勝負の行方は大将戦に持ち越されることになる。



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