587話 「その者、因果応報 その2」


「ついに年に一度のビッグイベント、地下闘技場、派閥対抗戦が始まります!! 今回も解説のイケダさんとともに、試合を盛り上げていきたいと思います! イケダさん、よろしくお願いいたします!」


「はい、よろしくお願いいたします」


「さっそくですが、初戦はマングラス対ラングラスとなります。どういう戦いになるのでしょう?」


「例年ならば、特に話題にもならない対戦ですが…」


「今年は違うと?」


「ええ、キング・レイオンだけならば、いつも通りに一勝だけ確保して終わりでしょう。しかし今年は『彼女』がおります」


「もう言わずもがな、あの噂の美少女ですね」


「彼女には期待せざるをえません。ようやくラングラスにも、まともな戦力が整ってきたことを印象付けます。話は脱線しますが、先日の『騒動』でもラングラスが担った役割は大きいと聞き及んでおります。新しい時代がやってきたのかもしれません」


「なんと! 元ハングラス第二警備商隊出身の『キレたフォーナドッグ(狂犬的な意味)』と呼ばれたイケダさんの発言ならば間違いありませんね」


「いえいえ、それほどでも。しかし、だからといってラングラスが勝ち抜けるとは思いませんね」


「ほぅほぅ、それはいったい?」


「ご存知の通り、団体戦は【三人】で行われます。各勢力も最高戦力を出してくるでしょうから、そう簡単には勝てません。キング同士の戦いは禁止となっておりますし、そのあたりでどう戦略を立てるかが重要です」


「なるほど。組み合わせが重要ということですね。ちょうど対戦表が発表されましたので、ここでご紹介させていただきます」




―――対戦表―――



□第一試合


マングラス 先鋒:ギニー・アルバレン


ラングラス 先鋒:カスオ



□第二試合


マングラス 中堅:オチアン


ラングラス 中堅:キング・レイオン



□第三試合


マングラス 大将:キング・ジュンユウ


ラングラス 大将:黒姫




「―――となっております。これをどう見ますか?」


「ふむ…こうなりましたか」


「何か気になることでも?」


「マングラス陣営は、いつもの『マングラス三銃士』となっています。どれも安定した実力者ですし、キング・レイオンに対して、三人の中で一番劣るであろうオチアン選手を当てるのもいつもの光景です」


「あえてキングに挑む必要はありませんからね。昨年と同じですね」


「そうです。さて、そうなると他の組み合わせが重要です」


「気になるのは大将戦でしょうか?」


「それがみなさん、一番気になっているところでしょうね。キング・ジュンユウと黒姫、非常に興味深い対戦です。彼女に対抗できるのはジュンユウ選手しかいないでしょう」


「なるほど、なるほど。では、どこが気になっているのでしょう?」


「私が気になるのは先鋒です」


「先鋒ですか。今イケダさんがおっしゃったように、マングラス三銃士のアルバレン選手の実力はすでに周知の通りですね。しかし、カスオ選手という人物はご存知ですか? 私は初耳なのですが…」


「長年解説をやっている私も初めて耳にします。ラングラスは今まで、たいした人材を輩出してきませんでした。勧誘活動も活発ではありませんし、たまに出る戦力もどんどん他に流れていく始末。すでに残されためぼしい人材はいないと考えてきました」


「その状況で出てきたのが、あの黒姫選手ということですね?」


「その通りです。あれだけの逸材をどこで手に入れたのか気になりますが、そのラングラスがあえて先鋒に謎の人物を持ってきた。これにはマングラスも警戒しているはずですが、どうしてもキングの対戦相手は決まってしまいます」


「黒姫選手を無視することはできませんからね」


「その通りです。そこで消去法でこうなったわけですが…【罠】かもしれません」


「罠!? それはいったい!」


「ええ、黒姫選手を大将にもってきてキング・ジュンユウの注意を向けつつ、実は『先手を取って逃げきる』つもりではないかと」


「逃げきる? 先鋒と中堅で勝負を決めてしまう、ということでしょうか?」


「はい。団体戦は勝ち抜きではありません。先に二勝したほうが勝ちます。このルールならば、キングを大将には置きたくないのです。どの派閥も先に一勝しておきたいですからね」


「流れに乗れば中堅で勝負が決まってしまいますからね。たしかに今まででは、キングの出番は先鋒か中堅が多かったと記憶しております」


「そうなのです。しかし今回は、どうしても大将に引っ張られる形となりました。無視できない相手ですからね。もし先手必勝が決まってしまえば、キング戦は負けてもよいのです。そもそも勝ちにくい相手ですから、大半の派閥は捨てています」


「これが本当ならば、まさにラングラスの奇襲大成功といったところですが…イケダさんは、カスオ選手を相当評価しておられるようですね。なぜでしょう?」


「誰が対戦するかは、互いの派閥同士の話し合いで決められます。その段階から勝負は始まっているのです。さきほど私がマングラス陣営にインタビューした際、彼らはカスオ選手から強い圧力を感じたと述べております。また、私のところにもラングラス陣営から彼に対する『通り名』が伝わってきました」


「通り名! 異名ですね! それはどのようなものでしょう!?」


「はい。彼、カスオ選手の異名は…『不死身の男』です」


「それは!! なんとも刺激的な異名ですね」


「他の派閥が言うのならば、はったりの線が有力なので一笑に付すだけなのですが、ことラングラスにおいては、あながち嘘ではないかもしれないという危惧があります」


「私はそちらには疎いのですが、各派閥の伝承というものでしょうか?」


「ええ。ですから気になるのです。もしカスオ選手の実力が予想以上ならば、中堅で勝負が決まってしまうかもしれないのです。勝敗はともかく、今年のラングラスは面白いといえるでしょうね」


「これはこれは! ものすごい情報がイケダさんからもたらされました!! この情報は賭けに影響を及ぼすのでしょうか!! 試合開始まで、あとわずか! ぜひとも予想をお楽しみください!! では、今回も特別リングアナウンサーである、ユーノさんに現場をお任せいたします!」




 今回は特別な試合ということで、普段とはまったく違う大きなイベントとなっていた。


 特別解説のイケダとともに、リングアナウンサーも女性を採用している。


 場を盛り上げるための軽快な音楽が演奏される中、ユーノと呼ばれた愛らしい女性がリングサイドを駆け回る。



「はい、現場のユーノです! まもなく選手入場となりますが、その前に両陣営の直前コメントをいただきたいと思います! まずはラングラスのセコンド、白我はくがさん。今回の意気込みをお願いいたします!」


「当然、勝ちにいきますよ。そのための布陣です」


「なんと力強いコメントでしょうか! では、黒姫選手については? 相手はキング・ジュンユウです! 勝機はあると?」


「面白い戦いになると思います。五分五分でしょうか」


「これは自信満々ですね!! キング相手に五分五分とは!」


「いえいえ、事実を申し上げただけです。それだけ面白い試合になるのは保証しますよ」


「楽しみにしております! 先鋒のカスオ選手に対しては? 闘技場自体の参加が初めてのようですので詳細を!」


「ふふふ、それは見てのお楽しみです」


「こ、これは! なんとも不敵な笑みが出ました!! といっても布で覆われているので素顔は見えませんが!! ところで白我さんは試合に出ないのでしょうか?」


「私が? なぜでしょう?」


「それはその…ものすごい実力者という噂が…」


「噂は噂です。私はただの敏腕マネージャーですよ」


「そ、そうですか。失礼いたしました」


「せっかくのイベントです。楽しみましょう」


「はい! 期待しております! 以上ラングラス陣営より、余裕のコメントをいただきました!」



 この白我という人物は、仮面を脱いだアンシュラオンのことである。


 表向きにはホワイトは死んだという扱いになっているため、こうしてサナと同じく布を覆って顔を隠しているだけだ。


 知っている人間は当然知っているものの、あえて知らないふりをするのがマナーであろうか。




「次にマングラスのセコンドに話を伺います。今回の意気込みは?」


「負けるつもりはありません。毎年勝つつもりで出ています。前回はハングラスに遅れをとりましたが、常に優勝することを目標にしています」


「すでにラングラスは眼中にないと?」


「そんなことはありません。敬意は払っていますよ。しかし、総合力で負けることはないでしょう」


「なるほど、冷静に分析したうえでの余裕なのですね。では、見所は? キングはどうでしょう?」


「巷ではどこぞの小娘が騒がれているようですが、ジュンユウの勝ちは間違いありません」


「そのジュンユウ選手のコメントは?」


「特にありません。彼は今、精神統一を行っているところです。個別のインタビューはお控えください」


「それは黒姫選手を強敵とみなしている、ということでしょうか?」


「馬鹿を言わないでもらいたい。キングの勝利は間違いない。そろそろ試合開始でしょう。コメントは終わりにしていただく」


「あ、ありがとうございました! これは面白くなってきました! まもなく選手入場となります!!」





(マングラスのやつら、やはりサナを無視できなかったか)



 そのインタビューを見ていたアンシュラオンが、ほくそ笑む。


 この団体戦は、誰と誰が対戦するかは事前に互いの勢力同士で話し合うシステムとなっている。


 これも八百長やら談合がありそうなものだが、序列は地上からの支援に影響するため、わざと負けることはあまり多くない。


 その中でマングラスは、比較的調整に応じるタイプの派閥であった。


 これも以前述べたが、地下マングラスは地上部からあまり重要視されていないため(もともと地上では人材が豊富なため)、地下の序列はあまり意味がなく、例年三位が定位置となっていた。


 言ってしまえば、ラングラスに負けなければそれでよかった。最低三位になれれば威厳は保たれるので、それだけで十分だったのである。


 だがしかし、インタビューでセコンドがカリカリしていたことからも、今回は事情が異なる。


 サナが現れたこともあるが、その最大の要因は、天井横に設けられた『特別観戦席』にあるようだ。



(どうやらマングラスの幹部がいるらしいな。やつらも負けは許されないか)



 地上の人間が試合を見るための観戦席に、どうやらマングラスの幹部がいるらしい。


 視線から強さは感じられないためセイリュウたちではない。おそらくはワカマツたちだと思われた。


 彼らがどのような圧力をかけたかは不明であるも、マングラス陣営はかなりの意気込みで試合に臨むようだ。


 その結果として、サナ対ジュンユウが実現した。



(サナを大将にしてジュンユウを食いつかせる。そのためにはカスオという存在が必要だった。わざわざキングが危ない戦いをする必要はないからな)



 マングラスにとっては二勝できればいい。なおかつキングが負けなければいい。


 この条件を満たすのは簡単だ。先鋒にキングを配置して一勝。次でレイオンに負けてタイにして、最後で締めるだけだ。


 これが例年の配置だったのだが、サナの登場によって勝敗が読めなくなった。三銃士と呼ばれていても、他の面子ではサナに負ける可能性があるからだ。


 だがこれは、マングラスにとっても不安要素である。


 仮にジュンユウが負けることがあっては困るため、最悪はサナを避ける選択肢も残されていた。


 その場合、アンシュラオンがわざわざ団体戦にサナを参加させた意味が薄れてしまう。目的はキングとの対戦なのだ。


 そこで怪しげなニューフェイスである『カスオ』なる人物を用意した。


 カスオの情報は謎であり、どこの誰かもわからない。なにせ彼自身、目立たないように生きてきたのでラングラス内部でも存在感がないくらいだ。


 それだけでは餌にならないため、事前協議中には彼が装備している鎧にアンシュラオンの戦気をまとわせ、いかにも強者アピールをしておいた。


 その気配を悟った三銃士たちは、さぞやカスオを警戒したことだろう。


 突如として黒姫なる危険な少女を送り込んできたラングラスだ。ここにきて謎の戦力投入となれば、それもまた無視することはできないのだ。


 結果として三銃士で一番弱いオチアンを、ほぼ絶対負けるであろうレイオン戦に投入して戦力を温存。(これはいつものこと)


 その次に、すでに実力が判明しているサナに対し、キング・ジュンユウを当てる。


 これは正体不明のカスオに万一の敗北を喫しては困るのと、『サナと戦っても勝てる自信』がジュンユウにあることを示している。


 そして消去法かつ安全策として、二番目の実力者であるアルバレンをカスオにぶつけてきた、というわけだ。


 最初からカスオはこのために使う予定であったので、すべて既定路線といえる。



(予想通りに事が進んでよかった。これでサナとキングの対戦が実現できる。さて、その前にカスオの出番か)





―――ざわざわざわ





 場内が騒がしくなってきた。


 一度光が落とされた暗い空間に、浮き上がるように光の道が生まれた。


 よく格闘技で見られるような照明ジュエルによる演出である。





「お待たせいたしました! 選手の入場です!! まずはラングラス先鋒、カスオぉォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」





―――ワァアアアアアア!!





 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!!



 人々の熱気が渦巻き、視線がラングラス側の入場口に集中する。


 どの観客の目にも期待しか浮かばない。


 ラングラスが用意してきた新戦力なのだ。期待しないわけがない。


 その視線を浴びながら出てきたのは―――



 がしゃん がしゃん がしゃん



 手にハンマーを持った、真っ赤な全身鎧の人物であった。



 背は小柄。フルフェイスガードのため顔は見えない。


 その人物は、ゆっくりとした足取りでリングにたどり着くと、じっと静かに立ち止まった。


 さっそくカスオを見た感想が観客から漏れる。



「あれがカスオってやつか。背は小さいが…大丈夫か?」


「おいおい、もう忘れたのか? 黒姫ちゃんの事例があるじゃねえかよ。背なんて関係ないさ」


「おお、そうだったな。子供の女の子だと思っていたら…だもんな」


「きっとすげぇやつに違いない。不死身だって言ってたしな」


「おい、カスオ!! てめぇに賭けたんだ! 絶対に勝てよ!!」


「一発かましてやれや!!」





「続きまして、マングラスの先鋒―――ギニー・アルバレェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエンッ!!」





 ドスン ドスンッ ドスンッ!



 マングラス側の入場口からは、大柄な体躯の男が現れた。


 急所や関節をプロテクターで守った軽鎧を着ており、手には大きなバトルアックスを握っている。


 顔は傷痕だらけで凄みがあり、人を何人も殺したような鋭い目をしている。


 実際に彼はこう呼ばれていた。



「きたきたきたぁああああ! 『道端の処刑人』が来たぞおおおおおおお!」



 アルバレンの異名『道端の処刑人』。


 抗争の際にはヒットマンとして使われていた元裏スレイブの男である。


 彼は夜の道端で待ち伏せ、標的が通りがかると確実に殺したことから、道端の処刑人という異名が付いた。


 地下に送られてからは普通の試合には出てこないが、団体戦になると出てくる本物の危険人物の一人として認識されている。


 これも団体戦ならではの楽しみである。



 アルバレンがリングにたどり着くと、両者が睨み合う。




「この一戦は、武器ありの試合形式となっております! 術具を除きまして、五つまで何でも使用可能です!」




 何でもありが基本である団体戦においては、当事者同士が納得すれば一定のルールを設けることもできる。


 外とは違ってリング内部は狭いため、互いの実力が一番発揮できる環境を整えるためである。


 忘れてはならない。これは賭け試合なのだ。できるだけ面白くしないと成り立たない。


 そこで今回は、武器ありの試合形式をそのまま使うことにした。


 武器ありのルールは、五つまでの武具の持ち込みの許可である。(格闘は当然問題なし)


 ただし、術具といったものの使用は禁止となっているため、核剛金程度ならば問題はないが、ソブカやベ・ヴェルが使っているような術式武具は使用禁止とされている。




「では両者、前へ!!」




 がしゃん がしゃん


 どすん どすんっ



 両者が対峙。



 こうして改めて見比べると身長差はかなりあった。


 もともとカスオは猫背で小柄なため、大柄なアルバレンと比べると半分程度しかない。


 だが、そんなカスオに対してアルバレンは気を抜かない。



(ラングラスの新顔。あの小娘の例もある。本気でいくぞ)



 すでにアルバレンは戦気を放出し、やる気を見せていた。


 上では幹部も見ているのだ。ここで活躍すれば、もしかしたら地上に戻れるかもしれないという期待もあった。





「それでは、試合開始だぁあああああああああああああああ!!」





 カーーーーーーーーンッ!!




 ゴングが鳴らされ、試合が開始。




「うおおおおおおおおおおおおお!」



 それと同時にアルバレンが一気に突進。


 両手で持ったバトルアックスを思いきり振り下ろす!!


 刃が迫る。


 カスオは動かない。


 このバトルアックスは魔獣の素材で作られた、刃がある本物の武器だ。



 それが―――




 どがしゃっ! ブシャッーーーーー!!




「ぎぃいやああああああああああああ!」




 鎧を破壊し、肩口からめり込んだ刃が、胸まで一気に押し潰すように通り抜けた。



 がくがくがく ごとん



 そして、カスオは倒れて動かなくなった。



「………」


「………」


「………」



 観客は黙る。


 レフェリーも黙る。


 何よりもアルバレン当人が一番黙って、じっとカスオを見ていた。


 あまりに手ごたえがありすぎて呆気にとられているのだ。


 だがその後、カスオが立ち上がってくる様子はなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー