566話 「ホテル迎撃戦 その2『おっぱいの契約の名のもとに!!』」


「なっ…一発だと!?」


「ふん、悪党が! 貴様らもこうなりたくなければ、さっさと逃げ帰るんだな!」


「んだと!! この野郎!!」



 今度は剣を抜いた男が突っかかってきた。


 当たり前だが刃のある剣なので、こちらを殺す気満々である。



「遅いな」



 だがシーバンは、腰に下げていたショートソードを素早く抜くと、男の剣を受け止める。


 体型的には相手のほうが上なのに、彼の身体はまったくブレていなかった。悠々と受け止めている。


 さらに手首を回転させていなし、からめ取る。


 ガキィイインッ ガランッ


 そうして無防備になった男の腕を剣撃一閃。


 ザシュッ! ぶしゃっ!!



「ぐあっ!!」



 悪党相手に遠慮などはしない。かなり深く切り裂く。


 ドボドボと男の腕から血が噴き出し、地面が赤く染まった。



「その傷では手当てしないと死ぬぞ。いや、お前らのようなクズは、死んだほうがいいのかもしれんがな!!」


「て、てめぇ…マングラスに喧嘩売るつもりか!?」


「弱い犬ほどよく吠えるな。殺そうと先に攻撃してきたのは、お前たちのほうだろうに。マングラスがなんだ! いまさら俺に怖いものなんてないんだよ!!」



 マングラス以上に怖ろしい存在がいる。


 その名は、おっぱいの妖精!!


 あれに比べれば、マングラスがなんだというのだ。



「調子に乗りやがって! いくぞ、お前ら! もう遠慮はいらねぇ!!」



 ならず者たちが銃を取り出す。


 これは衛士が使っているものと同じタイプで、二発撃ったら弾切れになる代物だ。


 最近は鉄製の銃がちらほら散見されるものの、やはりグラス・ギースではこちらのほうが圧倒的に多く、入手もしやすい。


 ワカマツがいくら金を持っていても、無い物資の都合はつけられない。南から輸入しようにも、それなりのコネと手続きが必要だ。


 人材管理が主な仕事であるモザート協会は、ハングラスではない。人は得意でも物は苦手なのだ。


 ただ、銃は銃。


 当たれば人を殺すだけの力があるものだ。



―――発射



 パスッ パスッ パス



 三人の男が、銃でシーバンを撃つ。


 ここで大げさによけてもいいのだが、そうすると背後のホテルに被害が及ぶため、彼は即座に術符を選択した。


 取り出した紙がボロボロと崩れると同時に、幾重にも連なった見えない盾が出現。


 ガンガンガンッ


 展開された『無限盾』が発動し、銃弾を弾き返す。


 今まで何度か使われるたびにかなり簡単に壊れていたが、本来はこれだけ頑丈な術式なのである。


 一回の使用で十万円以上はするのだ。これくらいの効果がないと困るだろう。



 こうして本格的に戦闘に突入。



 シーバンも臨戦態勢に入った。



「自己の欲望のために優秀な人材を貶め、か弱き婦女子を蔑ろにし、自分だけ高みの見物をする悪党め!! 正義の刃によって成敗されるがいい!!」



 一瞬アンシュラオンのことかと思ったが、これは領主及びマングラスのことである。


 相手が銃を取り出した以上、否、相手が悪の手先である以上、許しておくことはできない。



「囲め! 数で押し切れ!!」


「ブルーハンターをなめるなよ。お前ら程度の威圧など、魔獣の『無感情の殺意』に比べたら、そよ風みたいなもんだ。それにな、ハンターは独りで戦うわけじゃない」



 ならず者の集団が、シーバンを取り囲もうと散った瞬間である。


 彼らの背後の茂みから、炎の刃が襲いかかる。


 放たれた剣圧は真っ直ぐに突き進み、無警戒な男の背中を切り裂いた。


 ズバッ! ボオオオッ


 革鎧を切り裂き、中にまで達した剣圧が燃える。


 剣王技、炎王刃えんおうじん


 一般的な放出技の一つで、原理は風衝とまったく同じだが、炎の性質を帯びるとより凶悪になるため、名称は『火衝』ではなく炎王刃と別の様式になっている。


 地面に一本線を引いたガソリンに引火させたように、美しく火が走る光景が印象的だ。


 そして、すでに述べたように威力は凶悪。



「ぎゃあああああ!」



 革鎧を着ていたので即死は避けられたが、その後の火の追加効果で火達磨になる。


 戦気で生み出した火気は、そう簡単には消えない。男はじきに焼死するだろう。


 それが連続して襲いかかる。



 ズバッ! ボオオオッ


 ズバッ! ボオオオッ


 ズバッ! ボオオオッ



「ぎゃあああ!!!」


「あっちだ! あそこに誰かいるぞ!」


「撃て、撃て!!」



 男たちが炎王刃が飛んできた場所に銃弾を撃ち込む。


 慌てて撃ったこともあり、まったく見当違いの場所に飛んでいったが、もともと命中精度は低いのである。



「おっとと!」



 そこから転がり出てきたのは、マークパロス。


 ライアジンズのメンバーの一人で、立場的にサブリーダーとしてシーバンの補佐を務める皮肉屋だ。


 彼はシーバンが相手を引き付けている間に回り込み、絶好のポジションを確保していた。


 なおかつ彼は、ライアジンズにおいて「切り込み隊長」も務めている。


 転がり出たマークパロスは、そのまま低い体勢のまま加速。一気に敵陣に突っ込むと、剣を一閃。



 ズバ ズバ ズバッ! ブシャーーー!



「ぐえええ!」


「がはっ…て…めええ…ごぼっ」


「やろう……げぼっ…死に…さらせ」


「死ぬのは、あんたらだ」



 ズバンッ ごとっ


 一瞬で三人を斬り、さらに首を刎ね飛ばす。



「やろううううう!」



 斧を持った男が果敢にも飛びかかってくる。


 が、これは悪手だ。



「俺様とやるっての? 悪いけど、人間相手のほうが得意なんだぜ」



 シュパンッ



「あ…えっ……ごぶっ」


「人間が使う得物ってのは柔らかいな。魔獣の爪のほうが、よほど硬いぞ」



 持っていた斧ごと、相手の喉を切り裂いた。


 凄まじい剣速に、斬られたことを悟るまでに数秒要したくらいだ。


 それでようやく、相手は気付く。



「な、なんだ、こいつら!! 武人か!?」


「くそ!! やべえぞ! 武人を相手にする準備なんてしてねぇよ!」



 武人と呼ばれるまでに至った者の数は、人類全体の1%といわれている。


 ソイドビッグの工場での暴れっぷりを考えれば、いかに武人が怖ろしい存在かがわかるだろう。


 ならず者は傭兵出身者もいるとはいえ、なんとマークパロスの因子覚醒度は、ファテロナと同様の「2」である。


 彼女はハイブリッド〈混血因子〉なので同列ではないが、2もあれば一人前の武人である。軍隊ならば十分「騎士」になれるレベルだ。


 そんな彼だけでも怖い存在だが、まだシーバンもいる。


 シーバンはショートソードを上手く使いながら敵を切り裂きつつ、距離を取ってからの術符攻撃を仕掛ける。


 ヒューーンッ ぼんっ



「ぎゃっ! あちあちち!!」



 火痰煩かたんはんの術符だ。


 ねっとりとした火の塊を放出することで、身体にまとわりつく焼夷弾のような効果を発揮する。


 火は、火によってさらに加熱。


 マークパロスが、今度は近距離で剣王技『炎王斬』を繰り出す。


 これは炎王刃の近距離型で、風衝における風威斬と同じく、直接叩きつけることで威力を二倍にするものだ。


 そんなものに斬られたら、あっという間に斬死または焼死確定である。



 ズバッ!! ボオオッ!


 ねっとり! ボオッ!



 炎王斬と火痰煩によって、その場は一気に火災現場と化す。


 これによって相手は完全にパニックだ。



「ちくしょう! 離れろ!! 火が燃え移る!!」



 さすがならず者。


 火達磨になった仲間を蹴り飛ばし、自分だけ火の中から逃げようとするが、そう人生は甘くない。


 シュンッ トスンッ



「っ…!!」



 男の頭部斜め上に『矢』が突き刺さった。


 矢は完璧に脳を貫き、男はどさっと地面に倒れた。おそらく即死だろう。


 射線を辿ると、ホテルの近くの木の上にはレッパーソンがいた。


 サナが使うものより一回り大きなクロスボウ(武器屋バランバラン製)を構えており、散らばった男たちを狙撃する役割を請け負っていた。


 ここで素人とプロの違いが出る。



 トスンッ トスンッ トスンッ



 レッパーソンが放った弓矢は、ほぼ完璧に逃げ惑う男たちの頭を貫いていく。


 サナと比べると明らかに命中率が高いのは、彼の技が実戦において磨かれたものだからだ。


 立ち向かってくる魔獣は、実に脅威だ。一発たりとて誤射をする余裕はない。


 そんな長年の緊張感の中で培った弓矢の技術は、まさに芸術と呼べるものだった。


 魔獣と比べれば皮も柔らかく、骨も脆い人間など、彼からしてみれば物足りない標的でしかない。




 こうしてシーバン、マークパロス、レッパーソンによって、集まったならず者たちは簡単に蹴散らされる。




「あーあ、やっちまったな。これで後戻りはできねぇぞ」



 マークパロスが、血に塗れた剣を見て呟く。


 マングラスと敵対した以上、こうなると都市内部での彼らの立場も危うくなるだろう。



「後悔しているのか?」


「はっ、馬鹿言うなよ。俺はもう、あのおっぱいの感触が忘れられないぜ! あれはよかった…今まで味わった中で最高のおっぱいだった!!」


「たしかにな。今までどの店に行っても、あれだけのものに出会ったことはない。シチュエーションだけが問題だったが、それを除いても凄かったな」


「おうよ。なら、覚悟決めてやるしかねえよな! 俺らは正義の使者!! おっぱいの勇者なんだからよ!!」


「おお! そうだぜ! おっぱいの勇者だ!!」


「おっぱい!!」


「勇者!!」



 おっぱい! おっぱい! 勇者! 勇者!


 ネットで煽り文句として使われそうな単語を連呼しながら戦う彼らは、誰が見ても異様であった。


 おっぱいの契約とは、これほど魅力的なのだろうか。


 パミエルキの乳を模しただけの水の塊で、これほど男を魅了するのだから、何かしらやばいものが含まれていそうで怖くなる。


 と、彼らは見事ブルーハンターとして仕事をこなしているが、相手もそれで終わるほど甘くはなかった。



 ぞろぞろぞろ



 援軍の到着である。


 また四十人単位の部隊が一つ、ホテルに派遣されていた。


 ワカマツの執念を侮ってはいけない。彼は復讐のためだけに人生を捧げているのだ。



「ちっ、まだいるのかよ!」


「あいつら、また雰囲気が違うぞ。気をつけろ!」



 今回やってきた連中は、今蹴散らしたならず者たちより数段危険な雰囲気を宿していた。


 なぜならば、彼らは【裏スレイブ】だからだ。


 マングラスは人材を司るため、当然裏スレイブも彼らの手の内にある。ハングラスでも暗殺部隊を投入できたのだから、これくらいは普通のことだろう。




 裏スレイブ部隊とシーバンたちが、激突。




 ここでもシーバンは、ブルーハンターの名に恥じない活躍を見せた。


 適度に距離を取ってマークパロスを援護しつつ、術符をばら撒いて戦線の拡大を防ぐ。


 そうして限られた場だけに集中することで、マークパロスは思う存分剣を振れる。


 それをレッパーソンが弓矢や銃で援護。時には煙玉や術符を使って戦況に対応していく。


 このあたりは長年チームを組んでいただけあって、阿吽の呼吸だ。


 即席で集められた裏スレイブ程度では、このコンビネーションは打ち破れない。


 また、この裏スレイブ部隊は、アンシュラオンのように厳選した者たちではない。


 マタゾーたちはモヒカンに「とびっきりの危険なやつらを集めろ」と命じてあったので、彼も必死になって異名持ちのメンバーを集めたのだ。


 それでも使えた幹部クラスは、たかだか四人。ムジナシを入れても五人だ。


 ああいった強い自負を持った戦罪者は、アンシュラオンに噛み付いたことからもわかるように、依頼者にも牙を向ける。


 もちろんワカマツにも扱えないし、普通の人間では雇うことさえ困難だ。


 彼らに畏怖されるアンシュラオンだからこそ、手足のように使えたのである。


 よって、この場にいるのは、多少揉め事に特化した鉄砲玉くらいなものだ。


 それくらいならば、普段から魔獣と戦っているシーバンたちのほうが強い。圧力が比ではないからだ。



 がしかし、数の力だけはどうしようもない。



 次第にシーバンたちが圧され始め、戦線がホテルの入り口にまで及び始めた。


 おっぱいの勇者、ピンチである。



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