550話 「とんちんかんタッグマッチ  その4『頼るべき相棒カッコワライ』」


 JBは苦戦を強いられていた。


 まず最初の要因は、彼が本来は単体の敵を相手にするタイプではないことだ。


 これだけの技量とパワーがあっても、あくまで自衛目的のために使用することを前提に設計されている。


 もしやるとすれば、これは護衛の任務に就いているクロスライルの役割だ。


 彼は単体戦闘能力に長けた武人で、一対一はもちろん、一対多数の戦いも十分にこなせる実力がある。


 武人としての完成度としては、クロスライルのほうが数段上と考えるべきだろう。


 だが、ここにクロスライルはいない。いないうえで、目の前の思想を相手にしなければいけない。



(この思想は、あまりに強大かつ危険だ。ネイジアのためにも倒す必要がある)



 ネイジア〈救済者〉とは、人々を救う者である。


 実力主義によって統合する思想ではあるものの、根本にあるのが【人を助ける】ことだ。


 混沌とした東大陸を武力によって統一することは、至って普通の考え方であるし、それ以外の方法はありえない。


 戦罪者のような荒くれ者や、各種犯罪者が跋扈している大陸なのだ。


 そんな場所で話し合いをしようとノコノコ歩いていけば、即座に餌食にされるだけだ。



 ネイジアの思想は、【正しい者が力によって統治】することで平和を生み出す思想、なのである。



 警察が弱ければ、治安維持などできない。軍隊が弱ければ、誤った思想を持った者たちに国が乗っ取られてしまう。


 すべては力によって維持される。力こそが平和への第一歩となる。



 その意味で、魔人の思想とは正反対といえる。



 目の前の黒い力は強大であっても、あくまで破壊の力だ。人間の存在を否定するために『造られた』のだから、それも仕方がない。


 されど、人は自らの手で道を進まねばならない。歩まねばならない。



「ネイジアの思想よ、我に力を与えよ!! 邪悪なる力に負けてはならぬ! 常に正しい者が勝ち続けねばならぬのだ!!」



 ゴオオオオオオ


 JBから白い思想の戦気が溢れ出る。


 清純で清浄で、人が安心して暮らせる大地を求める慈愛の力だ。



(限定的に力を解放して、一気に消し去る。扱いは難しいが、これしか方法はあるまい)



 エバーマインドには、都市を吹き飛ばすだけの力がある。


 それだけの力があれば、もっとJB単体が強くてもよさそうなものだが、大きすぎる力は扱いがひどく難しいものだ。


 普段は蛇口を小さく開いているから扱えているだけであって、大きく開いてしまえば水圧が強くて制御できず、下手をすればすべての力を解き放ってしまう。


 その先にあるのは、グラス・ギースに来るまでの彼がそうであったように、干からびたミミズの姿だ。


 その状態で敵に襲われれば勝ち目はない。JBでも死んでしまう可能性がある。


 こんな時、相棒のクロスライルがいればと思わざるをえないが、今現在の相棒といえば―――




「へぇ…すげぇな」




 それをぼけーっと見ている、あの馬鹿である。


 頭が悪いだけならばまだよいのだが、彼は極めて「にぶい」男だ。



 そうしてぼけっとしているから―――



 ぼごんっ がしっ



「…え? えっ!! うわあああああああああ!!」



 ずるるるるるっ


 完全に油断していたビッグは、足をムジナシに捉まれ、またもや地中に引っ張り込まれる。


 マサゴロウの変化に驚いていたあまり、地中に潜んでいる者の存在を忘れていたのだ。


 さっきまであんなに激怒して戦っていたのに忘れるとは、正直信じられない。


 普通の人間ならばありえないことでも、この偉大なるビッグ様ならばやってしまわれるのだ。


 さすがビッグさん、今日もキメてる!!


 と茶化したいが、一緒にいるJBは最悪だろう。



「あの馬鹿が!! どうして注意を怠る!!」



 黒紐を出して、地中に引きずり込まれたビッグを追跡。


 しゅるるっ がしっ


 途中で彼を確保しつつ引っ張るのだが、今回はムジナシも敵に援軍がいることを重々承知していた。


 彼も負けじと引っ張る。



 ぐいぐい ぐいぐいっ



「ぎいいいいやああああ! 優しく!! もっと優しくぅううううう! ちぎれちゃうからぁああ!」



 地中で豚の引っ張り合いが始まるという、訳のわからない状況が生まれる。


 まるで大岡裁きの「子争い」である。(赤子を二人の自称母親が引っ張る話)


 べつにビッグなど死んでもかまわないのだが、エバーマインドがなぜか彼を助けようとするのである。


 それもまた不快だ。



「雑魚が!! うろちょろと!」



 JBが追加の黒紐をムジナシに放つ。


 その殺気を寸前で感じ取ったムジナシは、手を離して離脱。さらに下に逃げる。


 相手が手を離したことで、ビッグさんの権利は見事JBが手中に収めることになる。



 ずりずりずりっ ぼこんっ!



「ぶはっ!!」



 そうしてビッグは、無事地上に舞い戻った。


 しかし、そうしてビッグの世話に手間がかかれば―――



「ムウウンッ!!」



 ぶちぶちっ


 黒紐の束縛を強引に破ったマサゴロウが、JBに襲いかかる。


 ブンッ


 豪腕が迫る。



「ちっ!! よけられん…!」



 ビッグに黒紐と集中力を分けてしまったJBは、よけられない。



 ドーーーンッ! ぐしゃっ



 多少回避運動をしたおかげで顔面は避けたが、マサゴロウの拳が右肩に直撃。


 肉が裂け、骨が砕ける。


 だが、黒い力はそれだけにとどまらない。



 ジュウウウウウッ バシュンッ



 存在そのものを抉り取る。


 抉り取られた部分は、戻ってはこないのだ。


 たとえてみれば、アンシュラオンが使う滅忌濠狛掌めっきごうはくしょうが常時発動しているようなものだろう。実に怖ろしい。



「ぬんっ!!」



 バキッ


 右肩を失ったJBはマサゴロウを蹴り、その反動で離脱。


 マサゴロウは追撃。


 ブンブンと大きな手を振り回して攻撃してくる。


 それをかわしながら、JBは黄色の紐を生み出して迎撃。



 バチバチバチッ!!



 激しい電流がマサゴロウを襲う。


 以前はこれで彼の動きを封じられたのだが、すでに状況は大きく変化していた。



「ふーーー、フーーーー!!」


「ちっ、一瞬動きが止まるだけか! 消耗を考えれば割に合わぬな」



 雷撃はかなりの集中力を使うにもかかわらず、マサゴロウに与える影響は微々たるものだった。


 もはや前と同じ手段は使えないことが確定する。



 となれば、方法は一つだ。




「ちまちまやっても意味がない。一気に吹き飛ばす!!」




 ずるるるっ


 JBから七色の色合いが混じった紐が『一本だけ』出てくる。


 これは広域破壊用の紐で、本来は全方位に向けて放射することで周囲一帯を吹き飛ばすものだ。


 それでは無駄が多すぎるのと、クロスライルたちまで巻き込むため、今回は紐を一本だけにとどめて指向性を与えて放射しようというのだ。



(狙いを定めて…少しでもずれれば意味がない)



 普段やっている全方位破壊に比べれば、一本だけならば簡単のようにも思える。


 しかし、自由気ままに力を解放するのとは違い、一点に力を集めるのは戦気術の中でも高等技術に該当するものだ。


 威力も高いので、射線がずれればどんな被害が出るのかもわからない。


 街並みが壊れるくらいならばいいが、肝心のマサゴロウに当たらねば意味がないのだ。


 相手の動きをしっかりと見定めて、ロックオン。



「消えろ…!」



 そうして爆破しようとした時である。




「おおおりゃあああああ!!」




 ザクッ! ザクッ!


 何を思ったのか、ビッグがマサゴロウに攻撃を開始していた。


 背後から鉤爪を装備して切り裂こうとしている。


 だが当然ながら、今のマサゴロウには効くはずもない。


 そもそも通常のマサゴロウにもたいして効いていないので、まったくもって無意味な行動だ。



 そして、これは―――JBにとっては最大の迷惑となる。




「貴様、何をやっている!!」


「何って…俺も戦うぜ!! あんただけにがんばらせるわけにはいかねえ!」


「やめろ!! 貴様がそこにいると制御が上手くいかん! 邪魔だ! どけ!!」


「なんだよ! 俺だって戦えるんだぜ!! 俺だって戦士だ!!」



 言っていることは格好良い。一度は言ってみたい台詞だ。


 しかしながら射線上にビッグが入ったことで、エバーマインドの力が抜ける。


 せっかく溜めた力がしぼんでいく。



「ぬううっ! どうなっているのだ!! 理解できぬ!! どうしてエバーマインドは―――っ!!」



 がしっ ズボンッ!!


 ここでJBにさらなる不運が訪れる。


 ムジナシがターゲットを変更して、今度はJBを狙ってきた。足を掴んで地面に引きずり込もうとする。


 不意をつかれたJBは、それに対応できない。一気に地中に沈む。



 ズズズズズズッ!


 ガリガリガリガリガリガリッ!!



 引きずり込まれながら、ビッグと同じように土石によって削られる。


 彼に痛みはないが、さらなる不快感に襲われる。



「貴様らああああああああ!! どこまで邪魔をする!」



 ズルルルッ ボオオオオオオオ!



 JBが赤い紐を出して、ムジナシに火炎を浴びせる。


 だが、ムジナシは咄嗟に手を離すと、横の穴に逃げ込んで炎をやり過ごした。



 ズルルルルッ バチバチバチッ!!



 今度は黄色い紐で雷撃を放射するが、地面の中では散ってしまって上手く集約できない。



(意外と面倒な! 相性が悪いか!)



 JBは、自身とムジナシとの相性の悪さを知る。


 彼は地表部を爆破するために生まれた存在だ。紐の大半も姿勢制御に使われるし、火炎や雷撃も爆破の副産物にすぎない。


 一方のムジナシは、常に地中に身を隠している。


 炎は土の通路によって防がれるし、土も電流を通すのだが、拡散してしまって致命傷を与えるまでには至らない。


 黒い紐で追っても、地中ではムジナシのほうが機動力が高い。



 ずずず



 そして、そうこうしている間に―――



 ズバッ ズバッ!



 地中を移動してきたムジナシが攻撃を仕掛けてくる。


 外套を破り、内部にまで攻撃は届いた。



「モグラが!! 死ねっ!!」



 ぼごんっ


 JBも反撃を行うものの、ムジナシは土を操作して上手くかわす。



 ズバッ ズバッ!


 ズバッ ズバッ!


 ズバッ ズバッ!



 身動きが取れないJBは、爪攻撃によってダメージを負っていく。


 幸いながらムジナシには黒い力は宿っていないので、決定的なダメージを負うことはないが、煩わしいことには変わりない。


 彼も無敵ではない。こうして続けて攻撃を受けると損傷するし、再生すればするだけ力を失っていく。



「ぐぬうううう!! とりあえず吹き飛べ!!!」



 強い不快感に苛まれたJBが、業を煮やして爆破を開始。


 ぶくぶくぶくっ


 紐に爆破のエネルギーが溜まり、爆発寸前になる。


 こうなったら地中もろとも爆破するしかない、という結論に達したのだ。


 かなり強引ではあるが、今現在取れる打開策としては一番有効だろう。



 しかしながらこの戦いは、【二対二】で行われていることを忘れてはならない。




「うおおおおおおお!」




 なぜかビッグが、上から落ちてきた。



「貴様!! なんで来た!!」


「助けられたんだ! 今度は俺が助けるぜ!!」


「この馬鹿があああああああ! よりにもよってこのタイミングか!!」



 ビッグの考え方は、とても簡単だ。


 してもらったことは返す。恩を受けたら自分も同じようにしてあげる。


 人間として立派である。なかなか見所があるものだ。




 だがしかし―――爆破




 ぶくっ びゅーーー




 膨れた紐から爆破液が放射され―――




 ドドドドドドッーーーーーーーーーーーーンッ!




 地中で爆発が発生。


 それによって大量の土砂が巻き上げられ、二人は一緒に急上昇。



 どばーーーーーーんっ



 見事地上まで一気に押し上げられる。




「どわわわあああああっ!」




 ひゅーーーーんっ ごんっ



 またもや着地に失敗したビッグが、地面に叩きつけられる。


 続いてJBも着地。



「なんだよ! いきなり何するんだ!!」


「うるさい! どうしてじっとしていられない!! 邪魔だと言っただろう!! おかげで台無しだ!!」



 ぶすぶすっ じゅうう


 JBは、自身の爆発によってダメージを負っていた。


 ビッグがやってきたことで放射のタイミングがずれ、さらには位置も自分にかなり近い距離で爆発してしまった。


 もしJB単独だったならば、ムジナシの場所を突き止めて、その周辺で爆発させることで彼を仕留めた可能性もある。


 それもビッグのせいで台無し。怒るのも無理はない。


 だが、そんな手筈だったことをまったく知らないビッグは、悪びれるどころか、平然とこう言ってのける。



「そんなに邪険にするなよ! 俺らは【仲間】だろう?」


「ぐぬうううう!! 力無き者が仲間面するな!! わが同胞は、同じ思想を持つ者だけだ!! ネイジアの思想を共有できぬ者は、生きる価値もない!」


「おいおい、そんなつまらねぇこと言うなよ。考え方は違ってもよ、こうして力を合わせてがんばって、一緒に戦えているじゃねえか。それってよ…へへ、なんかいいよな」



 へへ、いいよな。



 じゃなーーーーーいっ!!




「この馬鹿が…!!! もう我慢の限界だ!!」




 ブチブチブチッ


 JBに生まれた青筋が切れそうに…いや、切れた音が聴こえる。



「いいか、二度と私に近寄るな!! 貴様の面倒を見ているほど暇ではない! わかったな!!」


「わ、わかったよ! だが、俺だって戦うぜ!!」


「好きにしろ!! お前など、さっさと死んでしまえ!」


「人様に死ねってなんだよ!!」(注:ビッグもムジナシに言ってた)


「うるさい! 話しかけるな!!」


「ったくよ、どうしてそんなに狭苦しいんだよ、あんたは。もっとおおらかによ―――」



 と、振り向いたところには、またもやマサゴロウの姿。



「あっ、ど、どうも」



 思わずお辞儀。


 ついつい「どうも」と言ってしまうあたり、さすがビッグさん。間が抜けている。



「ドオォォオオオモッ!!」



 マサゴロウもお返しの「どうも」を繰り出す。


 同時に張り手も繰り出す。



 ぶんっ!!



 無防備なところにこんな一撃をくらえば、ビッグなど簡単に死亡だろう。


 こんな邪魔なやつは、さっさと死んだほうがいい。そのほうが楽だ。



 そう思っていたにもかかわらず―――



 どんっ!!



 JBがビッグを突き飛ばす。




「どうして!! どうしてこうなるのだ!!」




 そして代わりに―――



 ぐしゃっっ!!



 JBが攻撃を受ける。


 盾代わりにした右腕ごと、胴体の何割かを持っていかれた。


 黒い力が発動しているので、その部分の再生は行われない。


 JBには痛みがないので、そんな傷はどうでもよかった。


 それ以上に精神的な渦に呑まれている。



(理解できぬ。まったくもって理解に苦しむ。何が起きているのだ。これは現実なのか? それとも夢か? 私はいったいどうすればいいのだ…)



 なぜ、ビッグを庇ってしまうのかわからない。


 彼のことは好きどころか、かなり嫌いだ。


 こんな頭の悪い豚を好きになる人間など、そうそういないだろう。


 今まで自分の好きなもの(ネイジアの思想)だけに固執していた彼にとっては、到底理解はできない状況に陥っていた。



 唯一わかっていることは、



 このままでは―――負ける



 ということだけ。



 JBだけならば勝てる勝負でも、お荷物の相棒カッコワライが一緒では、勝てるものも勝てないのは道理だ。


 片方がプロでも、もう片方が素人ならば、どんな競技でも勝つことは極めて難しいのと同じである。


 なぜならば相手は弱いほうを常に狙ってくるので、それを庇っているだけでは勝ち目はないからだ。



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