542話 「戦罪者と対峙する者たち その6『クロスライルの実力』」


 ごろごろごろ ダッ!


 銃弾を受けたヤキチは転がりながらも、なんとか立ち上がる。



「はぁはぁ!!」



 右肩からは、かなりの出血が見られる。


 肉も相当抉られているので、刀を振るう速度にも影響が出そうだ。



「ひゅー、やるじゃん。よく【いなした】な」



 それを見たクロスライルが、口笛を吹いた。


 皮肉ではない。単純に褒めているのだ。


 銃弾が当たっているので、いなしたというクロスライルの言葉には違和感を覚えるが、ヤキチは実際にいなしている。


 これだけの威力の銃弾が当たれば、防御力の低いヤキチでは、肩から上半身の半分くらいは吹き飛んで致命傷を負っていただろう。


 だが、当たる寸前に全戦気を操作して銃弾を覆うようにしたことで、なんとかこの程度の傷で済ましたわけだ。


 太ももを銃弾が貫通した際も、同じように咄嗟に防御を行っていた。



(この威力、やべぇ…。いなせなかったら死んでいたぜ。ったくよ、防御は苦手だってのによぉ)



 ヤキチは完全攻撃型剣士なので、防御があまり得意ではない。


 ガンプドルフのように重鎧で防御を固めているわけでもなく、単なる服やサラシ程度で覆うだけなので、まさに紙装甲である。


 彼が軽装なのは、攻撃時の移動を素早くするためだ。


 短所を補うことよりも、長所を伸ばすことを選択したのだ。どうせ上手くない防御を伸ばしたとて、彼の良さが生きないからだ。


 が、今回は防御しないと、おそらく死んでいただろう。


 クロスライルの銃弾の威力は、術式弾でもないのに、それを遙かに上回っている。


 地面を破壊しながら貫いていることからも、一発一発が巨大な砲弾だと思ったほうが身のためだ。



 ただし、普通ならば弾丸である性質上、『弾切れ』という現象が発生する。



 衛士隊の銃とて、二発しか装填できないから困っているのだ。


 ヤキチにとって、そここそが付け入る絶好の機会なのだが―――



 シュパパンッ カシャンッ



 クロスライルは、すでにリロードを終えていた。


 銃を撃っている間に、予備の弾丸を身体の移動だけで服から取り出し、空中でリロードを完了させる。


 そのすべての動作が攻撃の流れの中で行われる。


 装填には0.1秒もかかっていないだろう。怖ろしいまでの高速リロードだ。


 そして、即座に射撃。



 パパパパパンッ!!



「くっそ!!」



 ヤキチはもう飛び退くしかない。


 必死に観客席の裏側に逃げ込むが、銃弾はいとも簡単にそれらを破壊。



 ドガンドガンドガンッ!!



 ほとんどスタジアムの解体工事。


 彼が銃弾を撃つたびに設置された機材が、いとも簡単に吹き飛んでいく。


 昨今の日本の解体は静かにゆっくりやるのが主体なので無理だが、途上国のビルの解体くらいならば、彼は引っ張りだこだろう。


 解体するのに数分もかからない。残弾さえあれば、即座に破壊が可能な射撃速度と銃弾の威力だ。



 パパパパパンッ!!


 パパパパパンッ!!


 パパパパパンッ!!



(何発撃ってんだ!! リボルバーじゃねえのかよ!! どんだけ弾を持ってきてやがる!)



 しかも銃撃は、一向に途切れる様子はない。


 装填数が何十発もあるアサルトライフルかと思わせるほどの連射性能と継戦能力だ。


 改めて言っておくが彼の銃は『リボルバー』であり、装填数は各六発である。


 回転式拳銃は、ジャム(弾詰まり)のない信頼性の高い銃として、日本の警察でも採用されている。


 いわゆる「お巡りさん」が持つ銃と同じ構造だ。


 扱いやすく操作が簡単で、トリガーを引くだけで銃弾が出せ、不発弾があっても撃ち続けることができるという利点がある。


 とはいえ装填数が少なく、DBDの銃が速射式に対応していることを考えれば、荒野で使うには心もとない武器だろう。


 しかしクロスライルは、それを自身の能力による高速射撃に加え、普段ならば多少手間がかかるリロードも、ほぼ一瞬で終えることで対応している。


 残弾については、押入れ君やポケット倉庫に大量にストックがあるので、弾切れの心配はまずないだろう。


 切迫した戦闘ならばともかく、これだけ一方的な状況ならば、かなり余裕をもって弾を補充することが可能だ。



 それ以上に彼がリボルバーを使う最大の理由は、【高威力の弾丸】を撃ちやすいことが挙げられるだろう。



 もともとリボルバーのメリットは、口径の大きな高威力弾を装填できるところにある。


 現在使っているものは通常の弾丸だが、これより高威力の弾丸をいつでも込めることが可能だ。


 そこに戦気を乗せれば、ただでさえ強い威力が何倍にもなるのだから、それだけでも怖ろしいものだ。



 実際に銃弾を換えれば、こんなこともできる。



 ぼんっ ドカーーーーーンッ!!



 銃弾が当たった場所が爆発炎上。


 激しい爆炎を噴き出しながら観客席が燃える。爆炎弾を使ったのだ。



 ぼんっ バチバチバチバチッ



 続いては電撃弾。


 当たった箇所に電流を生み出し、相手を感電させる効果がある。


 こうして弾を自在に入れ替えることで、戦況に応じた攻撃ができるのだ。


 左右別々の弾丸にすることも可能だし、同じリボルバーに交互に装填することも容易だ。




 止まらない高速射撃によって、ヤキチはまったく身動きが取れない。




「どうした、ヤキチの兄さんよ。出てこないのかぁ? つまらねぇな。これじゃ、すぐに終わっちまうぜ」



(やろう、なめやがって。殺そうと思えばすぐに殺せるくせによぉ)



 クロスライルは、かなり手加減をしていた。


 彼の技量を考えれば、当てようと思えば簡単に当てられるに違いない。


 それこそ隠れられる場所すべてを強引に破壊してしまえばいいのだ。そんなことは造作もないことである。


 だが、最初にラブヘイアに言っていたように、簡単に終わらせたらギャラリーが楽しめないと思っているのだろう。


 これはあくまで【見世物】だ。


 無頼者であっても、受けた仕事はやりきる。誰かに頼るわけではなく、当人の満足感のためにまっとうする。


 今しがた属性弾を使ったのも、観客に対するアピールである。


 といっても周囲にいた観客たちはすでに逃げ出しており、無観客試合のような不気味な静けさに包まれているのだが。



(それが油断だって教えてやらぁ! 一瞬だ。一瞬が勝負だ! 近づいて一発で決めるしかねぇ! あとはその手段だぜ)



 銃で撃たれた太ももを見る。


 筋肉を圧縮して止血はしてあるが、傷はかなり深い。痛みを消しても、間合いに入るまでに多少の時間がかかるだろう。



(だが、俺にはこうするしかねぇんだ。近づいて、ぶった斬る! それだけよ!)




「待ってろよ!! 今からぶっ殺してやるからよ!! 刀の錆にしてやるぜ!!!」



 壊れた観客席の後ろに潜みながら、ヤキチは大声を上げる。



「ははは!!! いいなぁ、その台詞! まだまだ元気じゃねえか! もっと盛り上げようぜ!!」



 ずわっ ぼおおおお


 クロスライルの戦気が燃える。


 傲慢で猛々しく、不遜で敬うことを知らず、誰も信じず、自己の流儀だけに則って生きてきた男の戦気は、非常に生き生きとしている。


 戦気が踊る、という表現が正しいのかはわからないが、今が最高に楽しいといった歓喜に満ちていることがわかる。



「さあ、楽しくやろうぜ。人生は楽しまないと損をするからな。楽しめるうちに楽しんだほうが利口ってもんよ」



 そうだ。彼は楽しいのだ。


 いつだって楽しい。ドキドキワクワクしている。自分でそうしようとしている。


 人間はつまらない環境に居続ける傾向にあるが、その根幹にあるのは『恐怖』や『怯え』といったマイナスの感情に起因する。


 たとえばパワハラが酷いブラック企業に残り続けるのも、辞めたあとの生活が困窮することを怖れるからだ。


 その心理状況は理解できるが、そこにいてはいつまでも自分を楽しくすることができない。


 その先にある、もっと豊かな世界を堪能できない。


 自分を楽しくさせられるのは、ほかならぬ自分だけなのだ。いつだって自分で決断するのだ。



 無頼は―――自由



 彼は誰にも頼らない。仲間がいて利用することはあれど、心の底から頼っていない。


 依存しない。信頼しない。信じるものは自分のみ。


 だからこそそれは、どことなくアンシュラオンにも似ている気質であった。




「おおおおおおおお!」




 ヤキチが叫ぶ。さらに大声で叫ぶ。


 だが、その大きな声とは裏腹に、物陰から飛び出しはしなかった。


 あくまで突っ込むと思わせるための演技だ。



 その隙にヤキチは―――暗衝波を放つ。



 バシュッ ブワワワッ


 放った場所は、自分の周囲の適当な地面だ。


 暗衝波が当たった場所からは彼の暗気が噴き出し、イカ墨のように空間を黒く染め上げる。


 暗気の視界封じの性能は、モズが使っていたゴーグルのような特殊な術具でなければ防げないほど優れている。


 アンシュラオンでも素の状態ではまったく見えないほどだ。



 バシュッ ブワワワッ


 バシュッ ブワワワッ


 バシュッ ブワワワッ



 一瞬で周囲は、夜よりも暗い闇に包まれた。



「へぇ、目隠しか。いいぜ、やってみなよ」



 クロスライルも、暗気の闇の中に包まれる。



(おらぁには、これが精一杯だ! やれることをやるしかねぇぜ!!)



 正直、ヤキチは遠距離性能が極めて低い。


 暗衝波を使うのも間接攻撃に自信がないからであり、サナと同じように放出系をやや苦手としている。(ヤキチの場合はむらっ気が強いから)


 そのため相手の攻撃や意識を逸らすような立ち回りを追い求めてきた。


 まともにやれば、クロスライルに勝てる道理はない。


 彼は極めて高い身体能力と近接戦闘能力に加え、中遠距離での強力な武器まで持っている。


 穴がないのだ。どこからでも高い火力をリスクなく発揮できる。


 JBのように広域破壊という極端な武器がない代わりに、あらゆる面で万能かつ高性能であった。



 唯一の勝機は、奇襲。



 すでに存在はバレているので、この場合は機転を利かせるしかない。



(紛れながら近づいて、斬る!!)



 ヤキチは物陰から飛び出し、クロスライルに向かっていく。


 しかし、痛みは消しているものの、足のダメージと違和感が残っている。


 常人ではわからないが、そこにはわずかなズレが生じていた。


 そして、常人ではないクロスライルは、そこを見逃さない。



「はははは! 当たるかな?」



 パパパッ パパパンッ!!



 完全なる闇の中でも、クロスライルはまったく動じていなかった。


 むしろその状況を楽しむように、軽い波動円の探知と勘だけで銃を撃つ。


 弾が迫る。



 ヤキチは最小限の動きだけをして、銃弾を回避―――しきれない。



 普通の銃弾だったならば回避できたが、クロスライルのものは戦気を使ってブーストさせている。


 速度も、弾丸が影響を及ぼす範囲も何倍も優れているのだ。


 それをすべてよけることはできず、脇腹に命中。



 ボンッ!



「ぶはっ…!」



 腹が吹っ飛んだ。


 左脇腹から腹の真ん中あたりまで、一気に持っていかれた。



(やろう!! いい勘してやがるじゃねえか!!)



 クロスライルは視力で物を見ていない。完全に勘だけで撃ったのだ。


 だが、長年人を殺し続けてきた彼の勘は、怖ろしいまでに冴えている。


 当人は無意識の感覚で戦うタイプ、つまりはヤキチと同じく『カオス側』の人間であるが、その勘を突き詰めていけば精密機器さえ上回る精度を生み出せる。


 また、当然ながら波動円までは誤魔化せないので、素早く動いていても、ある程度の位置までは特定されてしまう。


 だから、いくら視界を奪ったとしても、このまま突っ込むのは危険である。



 ヤキチは押入れ君を取り出して、ありったけの大納魔射津をばら撒く。



 これらはすでに安全装置を取り払っている剥き出しのジュエルで、地面に触れただけで爆発するような代物だ。



―――爆発



 ぼんぼんっ ドーーーーンッ



 爆発したものもあれば不発だったものもあるが、それがランダム性を生み出して、クロスライルの波動円を掻き乱す。


 波動円は触覚を使用するため、こうして粉塵を巻き上げるのは極めて有効な阻害方法だ。


 誰だって指先に集中している時に突然、大量の砂を吹きかけられたら気が散るだろう。


 それと同じような感覚を与えられるわけだ。



 ただし、近くに投げたものだから、ヤキチにも影響を与える。



 爆発と一緒にヤキチも吹っ飛ぶ。


 それによって自身もダメージを負い、地面に転げることになったが、それでいい。


 爆発で大量の土砂を噴き上げたので、一緒に吹き飛ぶことで、どれが本物かわかりにくくすることができる。


 転がる、すっ転ぶ、回転する。


 あがく、這いずる、引きずる。


 どんなに惨めでも、どんなに哀れでも、自身がゴミやアリであっても、生きることをやめない。




 最期の最期まで、生きることを―――やめない!!




 そして、ついにクロスライルに刃が届く間合いにまで到達する。



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