513話 「『マキ VS JB』 その2」


 ドスドスドス


 JBが怒りの形相(顔は見えない)で、マキに向かっていく。


 一方で、最初は横入りされた連中は誰もが彼を嫌っていたが、今は賭けの対象になっていることから声援も飛んだりする。



「よっ、がんばれよ!!」


「大きいの、負けるんじゃねえぞ!!」



 しかし、普通ならばありがたい声援なのだが、この男にしてみれば不快が増すだけである。



「ゴミが!! 邪魔だ!!」



 ぶんっ ぼーーーんっ



「ぎゃーーーー!」



 JBが手を振ると、強烈な突風が発生して大勢の人間が吹っ飛ぶ。


 幸いながら戦気の放出はなかったので死者は出なかったが、ただ腕を振るだけでもこれだけの風圧が襲いかかってくるのだ。


 それによって骨折したり打撲をする人々が続出。



「こら! 他人に迷惑をかけるんじゃありません! あなたたちも変に関わるからよ! 自業自得ね。こういうのは無視が一番なのよ。覚えておきなさい」



 マキは怒るものの、その行為を咎めたりしない。


 彼女にしてみれば、賭けをする人間も駄目人間の一人なのだ。


 駄目な人間のところにクズが集まる。そこで争いが起きるのは自然なことと受け止めているようだ。


 彼女の役割は、門を守ること。


 本当に無害な一般人が襲われれば助けるが、駄目な連中が自滅しても助けたりはしない。門番はそこまで暇ではないのである。




 JBが、マキと対峙。




「いいだろう。もはや貴様を雑魚とは思わぬ。この私が本気で相手をしてやるのだ。ありがたく思え」


「いやいやいや、もう勘弁してよ。ほんともう、男の子って馬鹿ばかりね。アンシュラオン君みたいに頭が良くて可愛くて素直で、心に正義を抱いている人なんて本当に少ないと実感するわ」



 …え? 誰のこと?


 一瞬わが耳を疑ったが、どうやらマキの中ではそういったアンシュラオン像が形成されつつあるようだ。


 おそらくアンシュラオンが非道なことをしても、きっと美化されてしまうのだろう。


 恋は盲目。否、魅了は盲目。


 なんと怖ろしいことだろう。恐怖すら感じる。


 だが、JBが言ったことは何も間違っていない。



 JBが、構える。



 両手を広げた独特なスタイルだが、完全に戦闘モードに入ったことを示していた。



(こいつ、変質者だけど…強いわ。初手でもう少し痛めつけておくべきだったかしら)



 マキは即座にJBの実力を把握する。


 こうして構えを見ただけでも相当な実力者だ。各派閥を代表とする武人に匹敵する可能性がある。


 そんな相手に彼女が圧倒できたのは、先手を取ったからである。


 相手がこちらの情報を何も知らない段階で、自分の一番の武器を使って攻撃したからこそ、JBはまったく対応ができなかったのだ。


 初手では相手を吹き飛ばすことに徹したが、もしかしたら全力の技で対応すべきだったかもしれない。


 いくらマキでも、待ち構えているJBに対しては迂闊に飛び込めなかった。



「来ないのか? ならばこちらから行くぞ」


「っ!」



 ドスドス ドヒュンッ



 ゆっくり歩いたと思ったら、JBが一気に加速した。


 それが普通の走る動作ならば問題なかったが、何の予備動作もなく一気に身体が飛んできた。



(なんで!? 戦気を放出したの!? でも、そんな様子はなかったわ!)



 明らかに異様だが、戸惑っている暇はない。


 JBは間合いを詰めると、その両手で乱打を放つ。


 レクタウニードスにも使った六震圧硝ろくしんあっしょうである。


 高速の拳打と同時に衝撃波を叩き込む技だ。


 マキが戸惑った一瞬の隙をついて技を練り上げたのだ。これだけでも高等技術である。



(くっ、この間合いはかわせない!)



 不意をつかれたせいで回避が間に合わない。


 マキは防御の構えを選択。



 ドドドドドドッ!!



 両腕でブロックを形成し、乱打をガード。


 拳を受けるごとに身体が揺れ、発生する衝撃波が石畳を激しく抉っていく。



「ほぉ、洗練されているな」



 だが、マキは防御の戦気を放出して、それらの攻撃を受けきる。


 彼女の戦気は清々しいまでに赤く、真紅の輝きを持つ美しい輝きだった。


 質も練度も高く、ガードに徹すれば六震圧硝の威力もかなり軽減できる。


 多少腕に痺れは残ったが致命傷にはならなかった。



 技を受けきったならば、次はマキの反撃だ。



「ほぁた!!」



 近距離から、さらに超至近距離に間合いを詰め、渾身の拳を叩き込む。


 彼女の拳は直線的で強い。だからこそ間合いが近くても真価を発揮する。



 ドンッ



 強烈な一撃が直撃。



 そのままJBが吹き飛ば―――ない。



 ぐぐぐぐっ



 衝撃が伝わって後方に力が働いたものの、JBはその場に踏みとどまる。



(手応えはあったのに! 頑丈なやつね!)



 今度は相手を破壊するつもりで打った一撃であるため、たしかに吹き飛ばす力は少ないが、全力の拳を受け止められたことに若干のショックを受ける。


 だが、ショックを受けている暇はない。


 JBの反撃の蹴りが迫る。



(これはかわせる!)



 さきほどは奇妙な動きで戸惑ったが、本来の敏捷性ではマキのほうが上である。


 そして彼女の持ち味は、相手の攻撃を何倍も上回る連続攻撃にある。


 相手の攻撃がヒットする前に、自分から積極的に攻めてこその強さだ。



 今回もJBの蹴りをかわしつつ、カウンターの蹴りを入れようとした瞬間―――



 ビシシッ



「つっ!」



 彼女の目に向かって、細かい石つぶてが襲いかかった。


 それに気を取られてしまったがゆえに動きが遅れ―――



 ドゴンッ!!



「くふっ…!」



 JBの蹴りがマキに直撃。


 咄嗟に左腕でガードしたが、ミシミシと骨が軋む音が体内で響く。


 マキは体力に長けた武人ではない。JBの重い蹴りを受けて動きが止まる。



 そこにJBの連撃。


 ガードの上からかまわず殴りつけ、蹴り上げる。



 ドガドガドガッ バキィンッ



 彼のパワーを十全に生かした強引な攻撃でマキを圧していく。


 それをなんとか捌きつつ後退するも、相手にペースを持っていかれてしまった。


 その原因は、やはり『石つぶて』である。



(ぐっ!! どこから来たの!? 足元? でも、目を離してはいなかったはずなのに!)



 マキは完全にJBの動きを把握していた。


 顔や胴体、四肢のすべてを視界に入れて動きを予測し、完璧に自分の間合いに入ったことを確認してから動いている。


 しかしながら、石は足元から飛んできた。彼の足は余計な動きをしていないにもかかわらず、である。


 一瞬、ほかの誰かが投げたのかと思ったが、そんなそぶりをした者はいないし、何よりも強力な武人である彼女に一般人の投石が通用するわけもない。



(なんなの! このっ!!)



 ただでさえ不満が溜まって怒りに満ちているのだ。


 かなり強引であっても攻めに転じるのは仕方ないだろう。


 事実、彼女の推進力は極めて高い。


 JBの攻撃を押しのけるように前に出て、拳を叩き込む!!



 めきょっ!!



 拳はJBに当たる。手応えもあった。



 しかし―――



「惰弱! 脆弱!」



 JBは攻撃に耐え、そのまま反撃に転じる。


 マキは攻撃の打ち終わりなので、どうしても反応が鈍くなり―――



 バシイインッ



 拳を受ける。


 かろうじて首を捻ってかわしたが、額から血が滲んでいた。


 相手が女であっても容赦なく顔を狙うあたり、JBの性格が歪みきっていることがわかる。



 とはいえ、これが武人の戦い。



 女だからといって加減するような者は、けっして生き延びられないし、仮に石つぶてがJBの仕業だとしても卑怯ではない。


 やりたいならば自分もやればいいし、やりたくないのならばやらなければいい。


 邪魔ならば防御すればいいし、嫌ならよけてみせればいい。それだけのことだ。


 それはいい。そんなことはいい。



 それより気に入らないのが―――




(なんでこいつに攻撃が効かないの!?)




 JBに攻撃を叩き込んでいるのに、なぜか効いていない。


 マキがJBに痛覚がないことを知らないこともあるのだが、優れた武人ならば痛みを消すことは日常的なので、そこはたいした問題ではない。


 問題は、こちらからの攻撃に対してまったくの無頓着である点だ。


 痛みがなくても身体は損壊するので、攻撃は基本的に防ぐか回避すべきだ。


 それなのに自分の攻撃を受け続けている。


 これが攻撃力に自信がない武人ならば「俺の攻撃なんて、こんなもん」と割り切れるが、攻撃力に長けているマキの場合「カチン」と来るのも仕方ないだろう。



(なめてるの!? いいわ! それならば、くらいなさい!!)



「はぁあああああ!! うららららっ!!」



 ドガドガドガドガドガッ!


 殴る殴る殴る。


 一発の拳をきっかけにして、マキが怒涛の連撃を叩き込む。


 顔面、アゴ、胸、鎖骨、肩、胸、鳩尾、脇腹、骨盤といった、人体にとって致命傷になりかねない箇所に、手甲をはめた拳で殴りつける。


 揺れる揺れる揺れる。


 殴られた衝撃でJBが揺れている。攻撃はたしかに届いている。


 されど、それで油断したりはしない。



 マキが―――回転を上げる。



 ボオオオオオッ


 身体から熱い炎が燃え上がり、爆発的に戦気が増える。


 彼女が『技』の態勢に入ったのだ。


 これはマサゴロウにもやった紅蓮裂火撃の準備である。


 彼女の両腕に真っ赤な戦気、火気が宿り、準備が整う。


 JBは連撃の影響で動けない。痛みはなくても打撃を受けた身体は、すぐには動けないのだ。




 そこに―――火を噴く。




 ドガドガドガドガドガドガドガドガッッ!!



 腰の回転が急速に上がり、高速の拳打がJBに襲いかかる。



 殴る殴る殴る殴る殴る!


 殴る殴る殴る殴る殴る!

 殴る殴る殴る殴る殴る!


 殴る殴る殴る殴る殴る!

 殴る殴る殴る殴る殴る!

 殴る殴る殴る殴る殴る!



 ドガドガドガドガドガドガドガドガッッ!!



 さらにこの技の特徴として、殴った箇所が爆発するという追加効果がある。



 バンバンバンバンバンバンバンバンッッ!!



 連打と爆発が同時に起こり、視界を完全に赤で染め上げる。


 凄まじい戦気の放出に周囲の温度が一気に上昇。爆炎が吹き荒れる。


 攻撃型戦士である彼女の最大の特徴は、相手を上回る攻撃量である。


 一発が通じなければ、二発。二発が通じなければ、三発。


 三発でも駄目ならば、四発。それが駄目ならば五発、六発と叩き込む。




 相手が倒れるまで―――叩き込む!!




 ドガドガドガドガドガドガドガドガッッ!!


 ドガドガドガドガドガドガドガドガッッ!!



 バンバンバンバンバンバンバンバンッッ!!


 バンバンバンバンバンバンバンバンッッ!!




 殴り、殴りまくり、殴り尽くす。


 あまりに激しい熱気は自身にまで及び、殴るほうもなかなかにしんどいが、攻撃をやめない。


 ひたすら殴り続けた。




 ボシュウウウウウ



 攻撃が終わり、拳から煙が上がる。



(これだけ打ち込めば、このレベルの相手でも倒せるはずだわ! やりすぎたかしら?)



 実際にマサゴロウの時よりも速度と威力は上がっていた。


 相手の実力が高かったので、彼女も遠慮などはまったくしていない。


 彼女の連打が直撃すれば、体力の低いファテロナくらいならば軽く撃沈だ。プライリーラとて無事では済まない。


 むしろ多少やりすぎたかもしれないと反省するほどである。


 だが、その心配は不要だ。



 なぜならば―――




「くくく…ははははは!! そんなものか、女!!」




「なっ、まさか…!」



 煙の中から笑い声が聴こえる。


 フードはボロボロに破れてしまっている。攻撃は彼の戦気を貫通してダメージを与えたようだ。


 しかしながら、それでもJBは立っていた。



 それを支えているのが、三本の黒紐。



 彼の身体からは、黒い触手のような紐が三本出ている。


 身体から突然紐が、にょろっと背中から飛び出ているが、べつに縫い付けたわけではない。


 この紐はJBの意思で自由に「創造」することができるのである。



「なにこいつ! 気持ち悪い!」



 正直な感想であり、多くの者が賛同する言葉であろう。


 だが、これがなかなかに厄介だ。


 黒紐はこの隙に彼女の死角に回り込み、襲いかかる。



 バシュンッ



「っ!」



 バチイイインッ


 ほぼ斜め後ろから飛んできた紐の対応は難しい。


 マキの身体に鋭い衝撃が走り、背中に痛々しい傷が付けられた。



(くっ!! なにこれ!? こんなものを操っていたの? …そうか。だからね。殴られても動かないわけだわ)



 マキが地面をよく見ると、何かが突き刺さった形跡がいくつもあった。


 JBは縄を地面に突き刺すことで姿勢制御を行っていたのだ。


 足を使わず突然加速したのも、この紐を使っていたからにほかならない。


 石つぶてを投げつけたのも、無数にある紐を使えば簡単なことだ。



 そして、フードが破れた以上、もう隠す必要はない。



 JBの身体から出た黒紐が、マキに襲いかかる。



 バシュンッ



 再び死角から紐が攻撃を仕掛ける。


 マキは右に駆けて回避。


 彼女の素早さは伊達ではない。一瞬の動きではJBを凌駕する。


 これくらいならば比較的簡単によけることができる。



 それが一本ならば、であるが。



 バシュンッ バシュンッ



「くっ…!」



 今度は二本の紐が襲いかかってきた。


 これもかろうじて回避に成功する。


 だが直後、さらに数は増える。



 バシュンッ バシュンッ バシュンッ



 三本目は上から襲いかかってきた。


 最初は急ブレーキをかけてかわしたが、地面に当たった紐は勢いそのままに跳ね返り、下からの攻撃に変化。


 バチィイイイイインッ!!



「つううっ!」



 マキのアゴに衝撃が走り、血が滲む。


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