506話 「真なる闘争への道 後編」


 コウリュウが龍人に変化。


 これが彼の本性。植えつけられた因子によって覚醒した力である。


 しかし、アンシュラオンは興味深そうに笑う。



「面白い! 面白いよ! いい玩具だ! ルアンあたりにくれてやってもいいかもな。ははは!!」


「龍人の力を侮るな!」



 コウリュウが、爪が伸びた手をぎゅっと握り締める。


 ぎりぎりぎりっ ぶしゅっ


 強く握り締めたせいか、掌からは赤い血液が流れ出ていた。


 彼の血は紫だったので、逆に人間らしく感じられるのは気のせいだろうか。


 されど、その血がただの血であるはずがない。



 血が―――燃える



 空気に触れた途端、激しい爆炎を生み出す。



「皇龍は炎の力!! すべてを焼き尽くす!!」


「御託はいい。来いよ」


「死ね! 災厄の魔人!!」



 コウリュウが灼熱を宿した拳で攻撃を仕掛ける。


 まずは移動。


 ギギギギッ バンッ


 速い。一瞬でアンシュラオンのもとに到達する。


 身体中の細胞組織が人ならざるものに変質しているのだ。その脚力は、もう魔獣といっても差し支えない。


 サナがジュエルを全解放しても、まだこの速度には達しないだろう。


 雷光すら超えた速度で迫ってくる。


 そこから拳のラッシュ。



 ドドドドドッ



 これも速い。もはや肉眼で捉えることはできない速度だ。


 それをアンシュラオンは―――



 ドドドドドッ ガガガガガッ



 真正面から同じ拳速で迎撃する。


 拳も相手のほうが数倍大きいのに、まったく撃ち負けることがない。


 拳にまとった爆炎に対しても、水気をまとわせることによって相殺していく。



 ドドドドドドドドッ バンバン じゅーじゅー



 打ち合う。打ち合う。打ち合う。


 両者の拳が拮抗して、周囲に激しい炎や水が吹き荒れる。



(人の身すら超えた龍人と、こうも簡単に打ち合うのか!!)



 少し余談になるが、この世界には『竜人』と、さらに同音の『龍人』と呼ばれる種族が実在している。


 竜人は比較的人間の姿に近く、ルーツも【偉大なる者】に連なる者たちである。


 その竜人の中で、より魔獣の因子を覚醒させた者を龍人と呼び、今のコウリュウのように優れた身体能力を持っている。


 彼らは基本的に人里離れた自然の中で細々と暮らしているので、戦闘する機会は少ないだろうが、普通の武人が龍人と戦うことは極めて難しいだろう。


 少なくとも同数の戦いでは勝ち目がないほどに、彼らは強い。


 なぜならば、彼らの獲物の大半が『野良支配者』だからだ。


 自然に悪影響を与えるようになったマスターたちを倒すことが、彼らの自然界の中の一つの役割になっている。


 人間では到底勝ち目がない相手でも、彼らならば対応ができるのだ。


 コウリュウの階級が第四階級の「魔戯まぎ級」になっているように、戦闘タイプの龍人は基本的に人のレベルを超えていることが多い。


 基礎のステータスが、そもそも違うというわけだ。虎が生まれもって強いのと同じである。



 アンシュラオンは、それとたやすく打ち合う。



 身体の大きさも違うのに、まったく苦にしない。


 彼の肉体構造もまた、普通の人間を遙かに超越しているからだ。



(だが、これは想定していたことだ! 見た目で判断するな! この中身は―――魔人なのだ!!)



 魔人を姿かたちで判断してはいけない。


 彼らは至って普通な―――といっても完成された美をもった―――姿で現れるが、その内部に宿された因子は世界を滅ぼす力を宿したものなのだ。


 なぜ、この遺跡にいたかつての文明の人間が、闘争本能を抑えようと実験を重ねたのだろう。



 魔人を怖れたからだ。



 魔人は人間の中から現れる。闘争の中から現れる。


 逆にいえば、闘争がなければ彼らは出現しない。


 人間が増長しなければ災厄が起こる必要性はないのだ。


 だが結局、魂から感情を奪い取ることはできなかったため、彼らもまた滅びた。



 この遺跡に連なる文明に共通するものが、いかに災厄と対峙するか、であった。



 災厄という巨大なシステムの前では、人は無力。


 それに対抗しようとするのだから、並大抵のことでは不可能だろう。


 これはわかっていたこと。こうなることはわかっていたこと。



 されど、現実に対峙してみると―――




「どうした? こんなものじゃないだろう? さらに上げるぞ」


「ぬっ…ぬおおおっ!!」



 ドドドドドドドドッ



 拳速はさらに加速していき、人ならざる領域に突入していく。



 上がる、上がる、上がる。



 どんどん際限なく上昇し、すでに閃光に近い速度に達した。


 それに伴って威力も上昇。


 この速度で放たれる一撃でありながら、砲弾すら超える力が激突する。



 メィイイイッ! メイメイメイッ!!



 羊の鳴き声のような、なんとも形容しがたい音が発生した。



 メイメイメイ メメメメメメメメメッ!!



「ぬぐううううっ!! ぬうううううう!!」



 音が次第に速くなるにつれて、コウリュウの顔が歪む。


 若干爬虫類っぽくなった顔なので、喜怒哀楽がわかりにくいが、苦しみの表情だけは雰囲気でわかるものだ。



 コウリュウは―――苦しんでいる



 龍人となり、ステータス上は魔戯級とも評される彼が、単純なパワーとスピードで圧倒されているのだ。



「なぜだ!! なぜこうも打ち合える!! 貴様には限界がないのか!!」


「限界? まだまだ本気じゃないぞ」


「ありえん!! もはや…これは!! 人智を超える!!」


「コウリュウ、お前はもともと強い武人だったのだろう。そのうえで、さらに強くなる選択をした。人の限界を超えるために魔獣の力を得たのは、強くなるための一つの方法としては正しい。だからオレは、お前を尊敬するよ。そこまで強さに対して貪欲だったことは称賛したい。だがな、根本的な問題があったんだ」


「根本的な…問題?」



「ああ、そうさ。それはな―――」







―――「たかが災厄魔獣程度で、オレに勝てると思うな」






 シュパン



 アンシュラオンの拳が唸るたびに、周囲の空気が圧され、鋭いカマイタチとなってコウリュウにぶつかる。


 それが一発や二発程度ならば、龍の鱗は簡単に耐えられるが―――



 シュパンッ シュパンッ



 二発。



 シュパンッ シュパンッ シュパンッ



 三発。



 シュパシュパシュパ シュパシュパシュパ

 シュパシュパシュパ シュパシュパシュパ



 十二発。



 シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ



 多発。



 シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ


 シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ


 シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ シュパシュパシュパシュパッ




 多発。多発。多発。



 多発。多発。多発!!!




 たはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつたはつ!!!!





―――多発!!!!





 多発被害!! 多発注意報!!! 緊急多発注意報発令!!!




 エマーああああああああああああ―――ジェンシぃいいいいいーーー!!





 限界を―――超える!!!





「うぐっ―――うおおおおおお!!」



 ぶしゃーーーーっ ボオオオオ


 押し寄せる拳圧の刃に鱗が切り裂かれ、炎の血が流れ出る。


 焼身自殺を図った人間かのように、自らの爆炎によって焼かれていく。


 そこにアンシュラオンの本物の拳が炸裂。



 ドゴオオオオッ メギョォオ



「ぶはっ…!! げぼおおおお」



 怖ろしいまでの衝撃が突き抜けた。


 胸に突き刺さった拳の一撃で、コウリュウがさらにマグマのような血を吐き出す。


 こんな小さな拳なのに、隕石の落下に巻き込まれたかのような激動だ。



「へぇ、いい耐久力をしているな。馬はこれで顔が吹っ飛んだけどな」



 プライリーラの愛馬、ギロード・ドラゴンワンドホーゼリア〈両腕風龍馬〉のことである。


 彼女は防御に長けた魔獣ではなかったため、アンシュラオンの本来の拳を受けただけで顔が吹き飛んでしまった。


 それと比べれば、コウリュウの防御性能は高いといえる。


 『物理耐性』に加えて、ユニークスキルあるいは『種族スキル』というべき『炎龍鱗』が、この恐るべき一撃に耐える力を与えたのだ。


 これは術以外のダメージを無条件で三割カットするもので、炎に至っては五割以上もカットする優れたスキルだ。


 さすが龍といったところだろうか。龍人の名は伊達ではない。(炎龍系の魔獣にはしばしば見られるスキルである)


 総合的に見て単純な物理戦闘力ならば、風龍馬に乗ったプライリーラに匹敵するだろう。


 彼らが四大悪獣すら怖れなかったのは、そのためだ。普通のホワイトハンター程度ならば問答無用で鎮圧も可能だ。


 しかしながら、四大悪獣の一体を屠ったアンシュラオンからすれば、所詮その程度の存在でしかない。



「撃滅級魔獣より弱いなんてさ、災厄魔獣の名が泣くぞ。随分と生ぬるい場所で生きてきたんだな」


「貴様に!! 張本人が言うことかあああああああ!!」


「だから人違いだって言っているだろうが。いい加減に覚えろよな」


「っ!!」



 コウリュウがダメージを受けて怯んだ隙に、アンシュラオンは間合いに入っていた。


 そこから覇王滅忌濠狛掌はおうめっきごうはくしょうを放つ。



 ぎゅううううううっ ばしゅんっ



 超圧縮された戦気が、空間そのものを抉り取る。


 この力の前にはグランハムでも一撃だった。


 姉でもダメージを受けると豪語するくらいなのだから、その威力はお墨付きである。



「ぬぐぐぐぐっ!! 貴様…!!」



 コウリュウの身体が、半分なくなっていた。


 顔は一部が切り取られた程度だが、左半身が球体状に抉り取られ、灼熱の血液がゴボゴボと流れ出ている。


 いくら龍人の鱗が強いとて、この技の前では無力であった。


 しかも『自己修復破壊』効果まであるので、身体が再生することもない。


 圧倒的な力の前には、龍人でさえ無意味なのだ。



 ただ、災厄魔獣の力はこれだけではない。



「貴様も道連れだ!! 皇龍の光炎を受けろ!!」



 ぶくぶくぶくぶくっ!!


 コウリュウの血液が激しく沸騰。


 ただでさえ高温の血液がさらに上昇を始め、数秒もたたないうちに光をまとう。


 炎すら超えた光。


 これはどこかで見たことがある。



 そう、パミエルキがアンシュラオンに使った『臨気』である。



 炎の最上位属性であり、命気と対を成す最高の火の顕現である。


 この光炎の前には、いかなる者も存在が許されない。消え去るのみだ。


 かつての皇龍は、これを地上にばら撒くことで、周囲一帯を文字通りに焦土にしていった。


 場所は不明だが、これによって人が住めない灼熱の大地が生まれたともいわれている。



「燃え尽きろ!!」



 コウリュウの灼熱の血が蠢き、アンシュラオンに殺到する。


 逃げ場などはない。上下左右、あらゆる場所から襲いかかる。


 触れただけで黒焦げ必至。消滅必至の炎である。


 これに対してアンシュラオンがどう対応したかといえば―――



 じゅわわわっ ジュウウウッ



 アンシュラオンの身体の周囲に命気が展開される。


 臨気に対応するには、同じく水の最上位属性である命気が一番効率的だ。


 姉の臨気も命気で相殺することができたのだ。すでに効果は立証済みである。



 が、それは相殺などではなかった。



 ずずずずずっ ガチガチガチガチッ



 命気はあっという間に臨気を侵食し、急速に黒く固めていく。


 その光景は、噴出したマグマが空気に触れて急速冷却され、瞬く間に溶岩になっていくかのようだった。


 ただし、スピードが違う。



 すべての臨気が侵食されるまで、【一秒もかからなかった】のだ。



 これではまるで業務用冷凍庫のCMである。「こんなにすぐにカッチカッチ! 俺の筋肉もカッチカッチ!」と筋肉芸人が出てきそうだ。



「………」



 コウリュウは言葉が出ない。


 正直に言えば、道連れ覚悟で放った一撃である。


 それが通じるどころか、反対に侵食までされてしまった現実に呆然とする。



「なんだこれは? 姉ちゃんの半分にも満たないぞ。いいや、一割にも満たない。これでよく臨気のカテゴリーに入れたな」



 アンシュラオンは、心底拍子抜けした表情を浮かべる。


 少しは楽しめるかと思ったらまたこの有様なのだから、胸中は不満で一杯だろう。


 だが、コウリュウはけっして手加減をしていない。本気の本気なのだ。



「ま……まじん……め!!」


「お前たちは何でも魔人のせいにしたいようだが、それは違うな。まったく筋違いだ。ただただ弱いんだ。圧倒的に弱い!! 実力的に弱い!!! 力で劣っている!! 闘争が足りないんだよ!!!」


「ずっと闘ってきた我々に、それを言うのか!!」


「実際に足りないんだ。闘争の数も、レベルも、年数も!! いったいオレたちがどれだけの研鑽を積んできたかわかるか。脈々と受け継がれてきた武を―――」





「侮るなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」





「ううっ…うあおおおおおお!!!」



 ドバーーーーンッ バキバキバキッ



 コウリュウを飲み込んだ命気が、そのまま命気水晶に変化。炎ごと閉じ込めてしまう。


 こうなればもはや置物である。観賞用として売れるかもしれない。


 わざわざこうしたのは、周囲にいるサナやミャンメイたちに被害が出ないようにしたのであって、べつに欲しかったからではないが。




「ふん。思ったよりつまらないな。災厄という名前にこだわらず、素直に撃滅級魔獣の力でも得ていれば、もう少しは善戦しただろうに」


「コウリュウ…! お前…よくも!!」


「グマシカ、もう護衛はいない。終わりだな」


「こんなところで…死ねるかぁあああああああ!!」


「その首、もらうぞ!」



 アンシュラオンがグマシカに迫る。


 コウリュウという盾を失ったグマシカには、もはや抵抗する術はなかった。



(これで終わりだ。グマシカを殺して、あとは飽きるまでのんびりと暮らすだけだな。だが、最後の詰めは怠らないぞ)



 何事もそうだが、最後の詰めが一番大事だ。


 それを怠れば、今までのすべてが無になることも珍しくはない。


 だからアンシュラオンも、けっしてグマシカから目を離さず、首以外の場所をすべて滅するつもりで攻撃を仕掛けるつもりだった。



 手が迫る。


 大丈夫。油断はしていない。


 完全に捉えている。


 ここまでは完璧だ。




 しかしながら、アンシュラオンにも盲点が一つだけあった。




 【知らないもの】は―――どうしようもない。






「フフフ……ハハハハハハハハッ!!」






「っ―――!!」




 笑い声は、アンシュラオンの背後数十メートル、その上段から起こった。



 そこには賢者の石、スパイラル・エメラルド〈生命の螺旋〉に





―――【手を突き刺したミイラ男】





 がいた。



 このまま手を伸ばせば、グマシカを殺すことができる。


 ソブカを強烈にアシストすることにもなり、マングラスの利権、人材についてはほとんど掌握できる。


 それで女の子とまったり暮らせるのだ。簡単なものである。ボロい商売だ。


 あと少し手を伸ばせば、それが達成できるのだ。



 だが、アンシュラオンの本能が、その中に眠っている『魔人因子』が、ミイラ男に対して警戒感を抱く。




―――まずい。止めろ




 と。



(なんだ!? この感覚は! どうしてこんな気持ちになる! だが、それ以上に…あいつは誰だ!?)



 アンシュラオンがミイラ男を見るのは初めてだ。


 だから、存在そのものを知らなくても無理はない。


 ミイラ男自身も、今までは網にかかって半ばスクラップ状態だったのだ。


 気配もなく、存在感もなく、何よりも価値がなかった。



 しかしながら、しかし、だがしかし。



 この瞬間だけは、彼が『世界の中心』に見えた。



 アンシュラオンのその予感は正しかった。


 ミイラ男は、石の依代よりしろとなった初代マングラスの胸に、ずっぷりと手を突き刺していた。


 胸を揉むというレベルではない。乳房を突き破り、心臓に手をぶっ刺していたのだ。


 その触り方には、相手に対する尊敬も慈悲もない。




―――〈っ!! ぁああ…あぁあああああああああ!〉




 愛を求めていた彼女にとっては、真逆の行為。


 愛の反対である【憎悪】を向けられた彼女は、あまりの『痛み』に絶叫する。


 それが、どうしても見ていられなかった。



「てめぇええええ!! それが女の触り方かああああああああ!!」



 アンシュラオンが怒ったのは、女性に敬意を欠く行動に対してだ。


 この男は敵対する相手には厳しいが、自分に媚を売る女は嫌いではない。


 彼女に呼ばれたことを知らずとも、感覚で好きか嫌いかはわかるものだ。



 それ以上に、おっぱいは―――【神】だ。



 あの柔らかい母性の象徴は、尊敬を込めて愛でなくてはならない。


 むしろお祈りをして清めの儀式をしてから『ありがたく触らせていただく』のだ。


 そんな至高の存在に対しての無礼が、おっぱいの妖精としてどうしても許せなかった。


 グマシカに向けた殺意を、そのままミイラ男に向ける。



 だが、ミイラ男は手を抜くどころか、さらに突き刺す。




「スパイラル・エメラルド。神に認められた私に力をよこせ」




―――〈あああああああああああ!!!〉




 ずぶずぶずぶっ ぐちゅぐちゅぐちゅっ



 ミイラ男の手が内部を掻き回すたびに、賢者の石は泣き叫ぶ。


 痛い痛いと泣き叫ぶ。



 バリバリバリッ



 ミイラ男がまとっていた布が全部弾け飛び、その中から剥き出しの機械の身体が現れる。


 全体的に激しく老朽化しており、動いているのが奇跡的に思えるほどボロボロの身体だ。


 男がいかに戦いを続けてきたかが、一目でわかる姿である。


 だが、これはもう用済みだ。



 ぎゅるるるるるるっ



 吸う。吸う。吸う。


 賢者の石から力を吸収し、男の身体は見る見る間に、弾性をもったしなやかな『肉体』へと変質していく。


 機械の身体があれば、どんなに便利だろう。痛くもないし力も強いし、きっと便利なんだろうな。


 誰もがそう思う。ちょっとは憧れるはずだ。


 しかし、真なる力は肉体に宿る。


 魂の宮である、痛みを感じる肉体だからこそ、真理への道が開ける。




 そこにいたのは―――透き通るブルーの髪をした男。




 美男子といって差し支えないが、鋭い目はわしを彷彿とさせ、ソブカ以上に危ない雰囲気をありありと放っている。


 この男は、ヤバイ。


 それなりの洞察眼を持った者が見れば、即座に逃げるほどの圧倒的な圧力を放つ男だった。



「なっ…お前は……」



 その男を見たアンシュラオンが、一瞬だけ止まる。


 驚いたような顔で、じっと凝視している。


 男にとっては、その一瞬だけで十分だった。




「災厄の魔人。この私とゲームをしようじゃないか。真なる闘争への道を用意しよう。どちらが先に相手を滅ぼすか、存分に楽しもう」




 賢者の石が光る。



 その場の空間すべてが光に包まれる。



 そしてアンシュラオンたちは、その場から消え去った。



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