505話 「真なる闘争への道 中編」


「は?」



 今度はアンシュラオンが首を傾げる番だ。



「おいおい、姉がいるくらいで何を言っているんだ。姉くらいいたっていいだろう。むしろ、いたほうがいいだろう!! 姉は最高だぞ!! ふざけるな! いたっていいだろうが! このやろう!!」


「なんでキレてんだよ!」


「姉ちゃんが恋しいだなんて、絶対に言わないからな!!!」



 言っている。声を大にして言っている。


 妹であるサナは愛しているし、姉に近しい年齢の女性はいる。


 いるのだが、やはりパミエルキの魅力に勝てる女性など、そもそもこの世にいないのだ。


 元来は極度の姉好きなので、時折姉が恋しくなることがあるが、そこはぐっと我慢するしかない。そこにストレスを感じることもあるわけだ。



 と、それはいいとして。



「オレに姉がいたらおかしいのか?」


「そうだ! 魔人の存在は、その時代で一人しかいないはずだ…!! あいつらは…お前たちは転生を繰り返して何度も蘇る!!」


「転生を知っているのか?」


「お前たちは『ウロボロスの』で廻って、また戻ってくる! そういう役割が与えられているんだ! いや、それもすべては一人なんだ。たった一人の魔人が同じことを繰り返すんだ」


「何度も地上にやってくると言いたいのか? 何度もか? 制限はないのか?」


「そうだ。それが【災厄システム】だからな! だから魔人が二人は同時に存在はしない! しないはずなんだ!」



(こいつの言っていることは、オレが体験している転生とは違うようだな。この星内部での再生ということか)



 アンシュラオンは、外部の星からやってきた魂である。


 地球でたとえれば、木星で過ごした魂が転生してくるようなものだ。


 あるいは、もっと離れた同程度の星から、違う体験を求めてやってくる魂である。



 だが、グマシカが言っているのは、この【星内部における転生】のことだ。



 地球でも、人間は主に四回から五回程度、同じ地上での生活をするといわれている。


 その間に必要な経験を得て、その後は本来の生まれ故郷である霊界で暮らすのだ。


 この【霊的規格】は宇宙共通なので、だいたいの星ではこのように何度か地上人生を経験することになっている。



 それはこの星でも同じなのだが―――魔人は違う。



 何度も地上に再生しては、災厄を撒き散らすというではないか。



(それではまさにシステムだな。星に組み込まれた作用なのか? だが、姉ちゃんがいくら強くて危ない人間でも、そこまでのものか? どうにもしっくりこないな)



 姉が自由気ままに世界を破壊する可能性は、ゼロではない。


 一方、彼女に『使命感』があるかと問われれば、即座に否定するだろう。


 弟を溺愛することしか考えていないような女性だ。欲望丸出し、自分のことしか考えていない彼女が、誰かの命令で動くとは思えない。(弟とそっくりだ!)


 しかし、グマシカは狼狽を隠さない。


 おそらく見た目以上に長生きをしている彼がそう言うのならば、それなりの根拠があるのだろう。



「どうして!! なぜ二人いる!! お前はなんだ!! 何者だ!!」


「なんだと言われても…なんだ? 変なおじさんです、とでも言えばいいのか? というか、お前こそなんだ。なぜ俺のことを知っている」


「お前に会うのが初めてじゃないからだ! あの時にも…ぐうううう!! あの災厄の時もお前は…!! 俺の大事なものをすべて破壊した!!! 災厄、災厄の魔人めええええええええ!!!」


「いやな、だからそれは俺じゃないって」


「俺は…俺はぁあああああああああ!!」



 グマシカの身体が光る。


 頭、胸、両手足に植えられた『擬似エメラルド』が輝いている。


 これによって彼もまた、肉体を生命の石で長らえさせている者であることがわかる。




「若!! それ以上はお身体がもちませんぞ!!」



 サナを振り払ったコウリュウが、目の前にまで来ていた。



(突破されたか。このレベルでは対応できなかったようだな。仕方ない。経験を積めたことは価値があるし、今はこれでいいだろう)



 奥のほうでは、コウリュウに迎撃されたサナがうずくまっている。


 コウリュウは現段階においても、プライリーラと同レベル帯にある武人だ。まともに打ち合わずとも、サナに勝ち目などはなかったのだ。


 コウリュウもグマシカの援護に向かうことを重視したため、致命傷を負うほどのダメージは受けていないようなので、そこは安心だ。



 しかし、サナの狙いもまたコウリュウではなかった。



 コウリュウがグマシカのほうに向かったために、離れた場所にいたミャンメイへの道筋が出来ていた。


 アンシュラオンのフォローをするとみせかけて、実際の本命はこちらというところが、相変わらずのしたたかさである。


 兄と行動することにより、彼女の能力は十全に生かされることが、これで証明された。


 その彼女は、こちらの様子をうかがいながらも、無事ミャンメイと接触することに成功する。



(あちらは問題ないようだ。なら、そろそろ決めるか)





「グマシカ・マングラス。お前には訊きたいこともあるが、ひとまず死んでもらおうか」




 シュボッ ゴゴゴゴゴッ


 アンシュラオンの気質が変化。本当の戦気を解放する。


 グマシカが打ち合えていたのは、低出力モードだったからだ。


 だが、これからは本気で殺しにいく。その意思表示である。



 アンシュラオンの目的は、グマシカの殺害。



 彼は災厄について何かしら知っている可能性が高いが、正直に言えば、アンシュラオンにはまったく興味がない。


 もし姉が本当に『災厄』を引き起こす存在だとしても、だからといって何かが変わるわけではない。


 自分にとって重要なのは、女の子たちとまったり暮らすことである。それ以外のことはどうだっていいのだ。


 そのあたりの信念がブレないのは、ある意味でさすがだ。



「俺を殺してどうする! またこの都市を破壊するつもりか!」


「俺の目的は金だ。お前がいなくなれば利権を手にすることができるからな。それでたっぷり楽しませてもらうとしようか」



 注意:上は主人公の発言です



「馬鹿な…! 災厄の魔人が、そんな動機で動くものか!」


「だから違うと言っているだろうが。俺はこの都市にあまり興味がないし、お前たちの派閥争いにも関心があるわけじゃない。面倒なことは、お前の代わりに上に立つやつに任せるさ」


「結局、やっていることは同じだな! お前の好きにはさせない!!」


「とことん自分を美化したいようだが、お前たちがやっていることも似たようなもんだ。お前たちが権力を握っていることには変わりがない。いざとなれば何も知らない上の連中だって殺すんだろう?」


「生き永らえさせることが重要だ」


「手足を切り取っても、か。偽善と欺瞞があるだけ悪質だぞ」


「お前に言われることじゃない! 簡単にやれると思うな!」


「それはこっちの台詞だ。さっきと同じだと思うなよ」



 アンシュラオンが掌を向けて、戦弾を放つ。


 姿かたちは大差ないが、込められた威力は桁違いだ。



「ぐっ!!」


「若っ!」



 ガードするグマシカの前にコウリュウが躍り出て―――被弾。



 ドーーーンッ ボボボンッ



 激しい爆発に晒される。



「若、お下がりを! 魔人の相手は私が!!」


「コウリュウ!! 腕が!」



 コウリュウの左腕は、今の一撃で破壊されていた。


 上腕部分が力づくでもぎ取られたように、すでに原形はとどめていない。


 心臓もアンシュラオンに貫かれたままなので、かなりのダメージを負っているといえるだろう。



「コウリュウ、セイリュウがいない場で無理をするな! お前たちは二人で一つなんだぞ!」


「ですが、若を失うわけにはまいりません! 都市を守れるのは、もはやあなたしかおられないのです!」


「だが、これでは…! くっ、スパイラル・エメラルドが動けば…! なぜ動かない!!」


「致し方ありません。こうなれば我らだけでやるしかありません。今まで災厄と戦うために準備を重ねてきたのです。人の身を捨てれば、魔人とも戦えます!」



 むくり ぞわわわっ


 アンシュラオンが本当の力を解放したのと同じく、コウリュウの気配も変化していく。


 人とは異なる圧倒的な存在感が広がっていく。



 ばりばり ばりばりりりっ!



 それと同時に彼自身にも変化が起こった。



 体表に―――ウロコ



 身体が黄色く変化するごとに、表面が鱗に変化していく。



 ぼごんっ ぼごんぼごんっ



 新たに生まれた筋肉が傷を塞ぎ、腕も再生していく。


 否、再生ではない。


 同じ形の手が生まれたわけではないのだ。


 まったく違う存在が、その場に顕現しようとしている。


 人とは違う細胞が生み出され、増殖し、身体全体も一回り大きくなり、より太く強靭な体躯になっていく。




「ぬうううっ…ううううう!! ああああああ!」




 コウリュウが―――人の皮を脱ぎ捨てる。



 文字通り体表にあった人間の皮が、蛇の抜け殻のように剥がれていく。


 ぬるぬるぬる ずるるるっ じゅうううう


 高まった熱によって粘膜が蒸発し、煙が発生している。




 そこから出てきたのは―――【龍人】




 いわゆるファンタジーでいうところの「リザードマン」に似ているだろうか。


 龍と人との間の存在へと変貌を果たす。



(やはりこいつも人体改造を行っているようだな。まあ、そうでなければオレと殴り合いなんてできないか。『遺伝子改良』かな?)



 マングラスが手に入れた遺産は、なにも『賢者の石』だけではない。


 彼らが手にした力は、人の身をさらに強くするもの。


 【箱舟】に眠っている因子データを使って、より強い生物の因子を人間に移植するというものだった。


 それは賢人の中でも人体改造を得意とする【白賢人しろけんじん】の領域の力。



 そして、コウリュウが選んだ力は―――




「災厄には災厄!! この身に宿した力で、打ち破る!!」




 かつての災厄で大地を席巻した双龍の片割れ。


 大地を喰らい、何千万という人々を駆逐した【皇龍】であった。



―――――――――――――――――――――――

名前 :コウリュウ(皇龍型)


レベル:150/150

HP :18000/18000

BP :3200/3200


統率:B   体力:S

知力:B   精神:AA

魔力:S   攻撃:S

魅力:B   防御:A

工作:D   命中:AA

隠密:D   回避:AA


【覚醒値】

戦士:8/4 剣士:6/2 術士:0/0


☆総合:第四階級 魔戯級 龍人


異名:マングラスの双龍、厄災の皇龍

種族:人間、龍人、魔獣

属性:光、火、炎、臨、土、活、実

異能:擬似転神、人工龍人、灼熱の血流、炎龍鱗、物理耐性、銃耐性、術耐性、爆炎吸収、即死無効、毒耐性、精神耐性、自己修復、自動充填

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(能力値は、ほとんど【魔獣】だな。気になるのは、因子レベルが限界を突破していることだ。かなり無茶をしている証拠だ)



 サナを見てもわかるが、因子を超える力を引き出すことは非常に危険だ。


 もし『魔獣の因子』を転用していなければ、血の沸騰を引き起こして死亡しているだろう。


 とはいえ、それでも危険なことには変わりない。


 普通にやっていては魔獣の因子が人間と適合するわけがない。


 人間と動物の遺伝子が似通っていても、それを使って合いの子を作ることは法則上不可能なことだ。


 それを無理やりやるのだから、何らかの特殊な手法が存在するのだろうし、無理やりやれば弊害が出てしかるべきだ。


 彼にとって龍人に転化することはリスクが伴うことだと思われた。



(災厄…ではなく『厄災の皇龍』か。文字が前後しただけだが、意味合いとしては真逆になったということなのだろう。その力を逆に使って災厄に対抗する、という意味か。発想は正しいな)



 物の考え方は悪くない。


 蛇の道は蛇。災厄には災厄の力を当てるべきだろう。


 悪には悪をぶつけるのと同じ考え方なので賛同できる。


 ただここで、一つの疑問が生じる。



(…ん? 待てよ? 災厄の時に出現したのは『四大悪獣』じゃなかったか? オレが倒したデアンカ・ギースも、その一体のはずだ。それ以外にいれば危険生物に指定されているよな。…となれば、あいつが使っているものは【その前の災厄】のものってことか?)



 グマシカの言葉を信じるのならば、災厄は何度も起こっているようだ。


 そして、ハローワークではデアンカ・ギースに懸賞金をかけて集めさせていた。


 あれは単純に治安維持の目的だったのだろうが、では、その肉はその後どこにいくのだろうか?


 他に食糧がある以上、食肉加工されるわけではないだろう。



 おそらくそれらは―――【保存】されるのだ。



 最終的にはマングラスが管理して、因子データを記録保存する。


 彼らの口ぶりからすると、ここにはそれができる施設あるいは設備があるようだ。


 目の前にかつての災厄魔獣を模したコウリュウがいるのだから、それが何よりの証拠だ。



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