486話 「ミャンメイの資質」


「お母さんが…適合者?」


「そうだ。母さんは若い頃にやつらの実験対象に選ばれて、生命の石を植えつけられていたようだ」


「そ、そんな! どうして!?」


「経緯も理由もわからん。たまたま目に付いただけかもしれん。やつらの判断基準なんて知りたくもないしな。まったくもって反吐が出る」


「そ、それってどうやって突き止めたの? 今はお母さんとは会えないし…わからないでしょう?」


「そもそも母さんに自覚はないだろう。訊いたところで意味がわからないと思う。これが判明したのは、先生がやつらの目論見に気付いて、過去の記録を調べていた時だ。母さんも一時期、体調を崩して医者にかかっていたことを突き止めたんだ。担当したのは違う医師だったが、病状が奇病に少し似ていたことで、医師連合の記録に残っていたのさ」


「医者にかかるなんて…かなり危なかったの?」


「いや、筋肉の衰弱が多少見られた程度らしいが、すぐに戻ったようだ。ただ、【お前を身ごもっていた】から、安全のために受診したんだろうな。俺は幼かったから記憶はないんだが…どうやら事実らしい。それもおばあさんから辿っていってわかったことだ」


「じゃあもしかして、お母さんは歳をとらないのかしら? あれ? でも、お母さんって普通に老けて…じゃなくて、歳をとっていたわよね」


「そうだな。年齢のわりには若々しい部類だとは思うが、それくらいだ。あとは少し丈夫なくらいか。この『適合者』という言い方は、石の力を受けても意識不明にならなかったり、筋肉が衰弱しないという意味であって、必ずしも力を引き出せるわけではないらしい」



 適合者のすべてが同じラインに立っているわけではない。


 【成功例】だと思われるセイリュウが強大な力を持っていることから、【どれだけ力を引き出せるか】という点も重要になってくるのだろう。


 ミャンメイの母親は、そこまでの能力はもっていなかった。


 単に副作用が出ない、または効果を多少引き出せて病気になりにくくなる、といった程度のメリットしかないだろう。



「ええと、最初にお母さんが狙われて…でも無事だったから適合者だってわかって…あれ? 適合者だとわかったのはいいけど、それからどうなるの? その人たちに酷いことされちゃうのかしら?」


「そこもわからない。俺たちが見つけたのは失敗した例ばかりだからな。実際に適合者がどのような扱いを受けるのかは、わかっていないんだ。少なくとも母さんの件では、今のところやつらに動きはない。ここ最近はわからないが、俺たちがゴウマ・ヴィーレにいる時は普通に暮らしていたからな」


「うーん、なんだかよくわからないわね。何がしたいのかしら?」


「不老不死が目的、などという陳腐な目的ではないだろう。それに意味はないからな」



 地球でもありがちだが、不老不死を目的とする意味はまったくない。


 誰が好き好んで、こんな物質に塗れた世界に居続けたいと思うだろう。それはむしろ地獄でしかない。


 生命とは燃焼するものだ。


 目的のために、何かのために意思と心を燃やして生きるからこそ、生命は輝くのである。


 ただ、セイリュウのように肉体能力の強化という意味合いでは、非常に大いなる価値を持つかもしれない。



 【強大な軍勢を作る】という意味では。



 

 こうして意外なところで接点があることがわかった。


 そして、これからがミャンメイ自身の話になる。



「母さんが放置されていたことには、もう一つの意味があると考えている。それはお前にも関係があることだ」


「私にも…?」


「今言ったように、当時の母さんはお前を身ごもっていた。そこに意味があるんだ」


「レイオン、そいつはまさか…【遺伝】ってことか?」


「…ああ、そうだ」


「てめぇのばあちゃんが選ばれたってのは、そういうことか」



 最初に選ばれたのは、レイオンとミャンメイの母親であった。


 その彼女が適合者、マイナス要因に耐えられるだけの何かの要素を持っていた事実が判明する。


 この段階でセイリュウたちに動きがなかったのは、それが【遺伝】するものかどうかを調べていた可能性が高い。



「おばあさんが狙われたのは、遺伝の始まりを調べるためでもあるだろう。結果は知っての通り、残念ながら失敗だったようだがな」


「遺伝の始まりは、てめぇのかあちゃんからだったってことかよ。そのために老人を犠牲にするってやり方は気にいらねぇな。老人には優しくするもんだろうが」


「…道徳的だな、お前」


「筋者ってのは、そういうもんだろうが! 今までがんばってきた人たちを守るからこそ、俺らは生きる意味があるんだぜ」



 グリモフスキーのほうが、アンシュラオンより道徳意識が高いという事実も判明。


 というよりは、慣習法の力が強いグラス・ギースにおいては年功序列がそれなりに機能しているので、マフィアの人間のほうがそういう意識が強い傾向にあったりもする。


 そのせいで、ソブカのように実力主義で若い連中を重用することへの反発が根強いのである。


 どちらも良い面と悪い面がある。できれば互いに融合するのが一番だが、それが難しいことは誰の目にも明らかであろう。


 だから両者は対立するのだ。



 と、グリモフスキーの話はいいとして、レイオンの祖母が狙われたことには、もう一つの大きな意味があった。



「祖母の実験は失敗した。だが、これは想定内だったかもしれない。このタイミングで実験を行ったことには、もう一つの思惑があったのだろう。お前をこの都市に呼び戻すための工作とも考えられる」


「それって…私にも遺伝しているかどうかを調べるため?」


「だろうな。この都市に来てから、お前の周りを嗅ぎ回る連中が増えた理由も、それが原因だろう。最初からやつらはお前を狙っていたんだ」


「もしミャンメイがやってこなかったら、どうするつもりだったんだ? その可能性だってあるだろうが」


「誰がやってくるにせよ、そこでまた実験すればいいだろう。それで失敗すれば、いつかはミャンメイをおびき出すことができる」


「辻褄は合うがよ、そのわりにはミャンメイに対して、やつらのリアクションが乏しいんじゃねえのか? てめぇが賞品で出しても、やつらは食いついてこなかったじゃねえか」



 これだけミャンメイの存在をアピールすれば、彼らにわからないはずがない。


 そして、何の反応もないのも不自然だ。


 彼らにとっては貴重な実験材料の彼女を、そのまま放置する理由がない。


 だが逆に、そのことによって次の推測が成り立つ。



「そのことについては俺もいろいろと考えていた。先生とも話したが、やつらが俺たちを地下に誘導した可能性も否定できないということだった。それならばやつが…セイリュウが俺を殺さなかったことにも意味が出てくるだろう」


「わざと逃がしたってのか? だが、収監砦の地下はやつらの管理下にはないんだろう?」


「管理下でないとはいえ、上の大半を仕切っているやつらだ。そもそも地下に入る段階で、やつらの監視下にある。それを黙って見過ごすのならば、意図的に地下に向かわせたと考えるべきだろう」


「そうだわ。地下ならば腕輪を通じて監視ができるもの。彼らが似た装置を持っていれば不可能じゃないわ。…じゃあ、もしかしてあの順位って…」


「うむ、適合者のランクと順位だと考えている」



 腕輪から読み取っていた情報は、生命の石の適合者を調べるものだった可能性がある。


 それならばマザーが含まれていたことにも、それなりの整合性があるだろう。


 生命の石もジュエルの一つと考えれば、彼女のジュエリストとしての能力が影響を与えたと考えてしかるべきだ。


 そして、そのマザーを抜かして、ミャンメイが一位だったということは―――



「お母さんから私に受け継がれているの? その資質が?」


「まだ推測にすぎないが、そう思って動くべきだろうな」


「お母さんの身体の中の石って、どうなったの? まだあるのかしら?」


「これも推論になるが、今までの先生の研究成果を考えるに、溶けてなくなった可能性も否定できない」


「え? なくなっちゃうの? 石でしょ?」


「俺たちが手に入れた石も、五十人に一人くらいの割合だった。これは逆に、効果を発揮しきれなくて体内に残ったもの、なのだろう。やつらが実験を躊躇なく行っていたのも、通常は溶けてなくなるからかもしれない」



 用意周到で慎重な彼らが、野放しの一般人に研究を行うのは、証拠が残らないからである。


 だが、やはり実験だ。予想外のことは発生するものだ。


 通常は溶けてなくなるのだろうが、被験者の中には、生命の石が力を発揮できずに原形が残ってしまう場合がある。


 何の知識もない人間ならば、そのまま死体を焼いたり埋めたりして終わりだが、バイラルは解剖して、残りかすとはいえ石を手に入れてしまった。


 ただ調べるだけではなく、物証まで手に入れたのだ。狙われるのも無理はないだろう。


 そこからツーバやログラスの事件に行き着くことは難しい話ではないからだ。


 また、それ以前に起こった不審死についても、新たに暴かれる可能性もある。彼らにとっては好ましい状況ではないといえる。



「資質があるのはわかったわ。でも、私の身体の中には石はないのでしょう? そんなに騒ぐことじゃないと思うけど…」


「『石』という呼び名が悪いのかもしれないな。普通のジュエルも結局はエネルギーの塊を器に入れているだけだ。だから重要なのは力のほうなんだ。それは溶け込んでいって、いつかは当人の力になるものだからな。それが赤子のお前に引き継がれたとすれば、やはりやつらにとっては興味深い存在だろう」


「だから作る料理にも影響が出るの? なんだかピンと来ないわ。ただ作っているだけなのに…」


「お前の場合は、石の力を他者に分け与えることができるのかもしれないな。いや、言ってしまえば【拒絶反応】かもしれん。身体にとって毒になるものを摂取したら、俺たちの身体は防御機能として体外に吐き出そうとするだろう? 吐いたり下痢をしたりしてな。それと同じ現象じゃないかと先生は考えているようだ」


「えええええ!? そんな感じなの!? 私の力って、なんだか不衛生ね」



 本来、生命の石の力は人間には不要なものだ。


 ならば自浄作用として、外に出そうとする力が働くのが自然のすごいところである。


 ミャンメイの能力も、料理という形態を通じて力を外に出す仕組みになっているのかもしれない。


 なぜ料理かと問われれば、それはまったくもってわからないのだが。



「うーん、それでも私に価値があるようには思えないのだけれど…」


「てめぇ、自分が女だってことを忘れてやがるな」


「え? 知ってますよ。私は女です」


「そういう意味じゃねえよ。てめぇに力が受け継がれたなら、てめぇの子供にも受け継がれるかもしれねぇだろうが。さっきから遺伝の話をしてんだからよ」


「あっ!」


「この遺伝が男でも影響するのかわからねぇが、幸いにもてめぇは女だ。母親と同じ状況を再現できるし、息子を産めば違う実験だってできるだろうよ。そういう意味でよ、てめぇは金の卵を産む鶏かもしれねぇんだ。価値はあるぜ」


「そんな、酷い! なんて非人道的な!」


「だからそういう話をしてんだろうが! やつらをなんだと思ってんだ!」


「もっとこう…人の健康を考えているのかもしれないなーとか思ったり…」


「そんなやつが、てめぇの母ちゃんやばあちゃんを実験台にするか? ちったぁ、世の中をちゃんと見つめやがれ!」


「…そうですね。…はい。すみません…」



 グリモフスキーの指摘も、もっともである。


 彼らの実験がどれだけ進んでいるかは不明だが、ミャンメイの実験材料としての価値は大いにあるに違いない。


 そう考えると、かなり切羽詰った状況であった(今現在もある)ことがわかる。



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