444話 「決着、レイオン戦 後編」


(逆にサナの身体能力の向上が著しいと考えるべきだ。あのレイオンとまともに戦っているんだから、凄まじい変化というべきだろう。ステータスがそれを物語っている)



 アンシュラオンの目は、しっかりとサナの強さを測定していた。


 ここでも情報公開を欠かさない。


 そこには驚愕すべき能力値が見受けられた。



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名前 :サナ・パム 【ジュエル解放】


レベル:15/99

HP :380/380 → 530/880(+500)

BP :160/160 → 430/560(+400)


統率:E → D(+1) 体力:E → B (+3)

知力:E         精神:E → B (+3)

魔力:E → B(+3) 攻撃:E → B (+3)

魅力:A         防御:E → B (+3)

工作:E         命中:E → B (+3)

隠密:E         回避:E → B (+3)


【覚醒値】

戦士:1/4 剣士:1/4 術士:0/4


☆総合:第八階級 上堵じょうど級 雷人


異名:白き魔人に愛された意思無き闇の少女

種族:人間

属性:闇、雷

異能:トリオブスキュリティ〈深遠なる無限の闇〉、エル・ジュエラー、観察眼、天才、早熟、即死無効、闇に咲く麗しき黒花

魔石:雷狼化、雷技限界突破、雷属性付与、雷迎撃、小型障壁、精神保護、五感強化、感受性強化、HP+500、BP+400、統率+1、魔力+3、体力+3、精神+3、攻撃+3、防御+3、命中+3、回避+3

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※本来データは上乗せされたものだけが載るが、わかりやすくするために便宜上このように表記している。



 これが現状でのサナの情報である。


 はっきり言って、とんでもない性能と言ってよいだろう。


 まず何よりも身体能力の向上が著しい。データになると一段と際立っている。



(HPの低さに目を瞑れば、ステータスだけならばプライリーラと同格だな。マキさんすら上回る数値だ。サンダーカジュミロンの力が上乗せされているんだ。当然の結果だろう)



 ジュエリストの怖ろしいところは、ジュエルの力を元の能力に上乗せできる点だ。


 特に魔獣から作られた魔石に関しては、元となった魔獣の特性を色濃く受け継ぐ。


 サンダーカジュミロンは、狼という種族から考えても、速度や俊敏性といった身体能力に長けていることがわかるだろう。


 そのうえ攻撃力もあるし、耐久力だって並の魔獣を凌駕する。


 平均的に強いのだ。弱点らしい弱点はない。すべてが高純度かつ高レベルにまとまっている。


 サナもバランス型ということも相まって、能力が全体的に底上げされることとなったようだ。


 戦気の質等さまざまな相違はあるが、素の能力ではプライリーラと大差ない。レイオンの腕を振り払ったことも納得である。



(能力値の+3という値は、つまるところ『300上昇』するということだ。能力が低いうちは特に驚異的な上昇率といってよいだろう。それでも階級が上堵級なのは、おそらく技を覚えていないからだな)



 マキとサナの最大の違いを述べれば、技や『奥義』を覚えていないことが挙げられる。


 第七階級の達験たつげん級になるには、上堵級の中でも奥義を修得している者、という条件があるので、そこに達していないサナは、いくら素のステータスが高くてもそれ以上にはなれない。


 現に今も拳が七割、蹴りが三割程度の格闘術しか使わず、覇王技をほとんど使っていない。


 否。


 ほとんど教えていないから使えない。


 このあたりは因子の覚醒率もあるので難しいところだ。


 もし因子レベルが上がって幾多の技と奥義を修得すれば、最低でもプライリーラと同じ王竜級レベルにはなれるだろう。


 そこに経験が加わればアーブスラットに勝てる可能性すら出てくる。


 国家を代表する武人と同レベルになれる資質があるのだ。それだけでもたいしたものといえる。



(さりげなく防御機能も残っているな。レイオンのダメージを軽減しているのも、これらのスキルのおかげか。このあたりは仕方ないかな。ハンデの許容範囲内だろう)



 黒雷狼の『中型障壁』が『小型障壁』に縮小したものの、しっかりと障壁機能も残っている。


 さきほどの巻蝦まきえびをくらっても骨が折れなかったのは、この防御機能が発動したことも一つの要因だろう。


 仮に障壁の耐久値がHPの一割ならば、88までのダメージを軽減できることになる。


 HPの少ないサナにとっては非常にありがたい数値だ。これがあるだけでも生存率が上がるに違いない。


 その他、サナの五感も強化されている。


 野生の勘とはよく言うが、そういった周囲のことを感じ取る動物的な感覚が加わり、もともと優れていた観察眼にも磨きがかかっているようだ。


 それによってレイオンの経験に対抗している。対抗できている。


 新進気鋭の新人は、感覚、インスピレーションで勝負するしかない。経験で勝てない以上、どの分野でも同じような構図になるはずだ。



(もう一つ気になることがある。『雷人らいじん』…か。初めて見る【因子】だな)



 サナの変化に対しては、いろいろと気になる点があるものの、黒雷狼同様にどうしてもその場所に目が向いてしまう。



 それが因子の覚醒状況―――『雷人』の表記である。



 普通、雷属性の技を使っても因子の覚醒率が変動することはない。戦士ならば戦士のままだし、剣士ならば剣士のままだ。


 それがなぜか変わっている。使う前は「剣士」だったので注目して当然だろう。


 サンダーカジュミロンの雷の性質と融合した結果なのだろうが、実に気になる点である。



(雷人…か。普通ならば『雷神』のほうを思い浮かべるが、オレが元地球人だからかな? 黒い狼といい、なかなか珍しいことになっているもんだ。あれにどういう意味合いがあるのか興味深いものだが…)




 そんなことを考えていると、サナが一歩引いた。


 特に引くような間合いではなかったので不思議に思っていると、サナの右手に雷が集まり出した。



 ばちばちばちっ バチンバチンッ!!



 集まった雷は、サナの拳の数倍以上に肥大化し、彼女の身体とほぼ同じ大きさになる。


 さらに形態が徐々に変化。


 指に合わせたように、五つの突き出した長く鋭い雷が生まれる。



 そのまま―――【雷爪らいそう】を振るう。



「なっ…!」



 突然サナがそんなことをしたものだから、レイオンは対応が遅れてしまった。


 必死に後ろに飛び退くも、雷が伸びてきてかわしきれない。


 仕方なくガードするが―――



 ズバッ!! ボボンッ!



 レイオンのガードを切り裂く。


 火体身の炎と防御の戦気ごと腕を切り裂いた。


 かなり深く抉られたのだろう。左腕は骨が見え、肉がごっそり削げ落ちている。それに伴ってかなりの出血も見られる。


 だが、これで終わらないのが怖いところ。


 バチバチバチバチッ!!


 雷の追撃が襲う。



「ぐうううっ!!」



 じゅうううっ


 肉が焼け焦げ、腕が痺れる。



「このっ!!」



 それでもレイオンは反撃。


 比較的傷が浅い右手で戦気掌を放って牽制する。


 掌から広がるように前面に放出された戦気であったが、雷爪はそれすら切り裂く。


 ズバアッ ぼしゅっ


 ズタズタに切り裂かれた戦気掌が消滅。あっさりと掻き消された。


 レイオンの戦気掌は弱くはない。ソイドダディーに迫るレベルにあるだろう。


 それを簡単に切り裂くのだから雷爪の威力が相当高いことがうかがえる。




 これを契機にして、サナが前に出る。




 攻撃にシフトしたのはレイオンだけではなかった。


 サナも攻撃型にシフトし、全力で殺しにかかってくる。


 ペンダントの光が輝きを増し、彼女の周囲に雷が落ちる。



 バリバリバリッ どーんっ! ドドンッ!



 それに伴って再び右手に雷が集まり、雷爪が唸る。



「くっ!!」



 ズバッ!! バチーーンッ!!



 紙一重でかわしたレイオンだったが、迸る雷の追加ダメージで身体が痺れる。


 だが、止まらない。止まれない。


 我慢して足を動かさねば、一瞬で切り裂かれて死んでしまう。



(なんだこの力は!! 防御の戦気がまるで役に立たん! こんなものと打ち合ったら、すぐに死ぬ!)



 必死になって逃げ惑う。


 この大男が一気に逃げの態勢に入るほどに、今のサナは苛烈な攻撃を仕掛けているのだ。


 攻撃の能力値がBになっているサナである。その攻撃はマキにも匹敵する。


 それだけならばまだよかったのだが、【この技】は危険だ。どう見ても攻撃力が倍増している。


 今の様子から、最低でも【倍率二倍以上の技】であるのは間違いない。


 Bは500以上なので、その二倍となれば1000を超える力を持つ。仮に防御無視ならば、一撃くらっただけで半分以上のHPを奪われることになるのだ。


 正直、まともに打ち合うという選択肢が浮かんでこないレベルだ。


 小柄なサナにとって、無手での攻撃力の無さが最大の弱点であった。


 それが雷爪という強力な武器を手にした今、スピードと威力を兼ね備えた「猛獣」となる。



 ブンブンッ!!



 サナが雷爪で攻撃を仕掛ける。


 それに対して、レイオンが戦気掌などを使いながら逃げ惑う。


 そんな奇妙で滑稽な構図が生まれていた。





 その現象に、さすがのアンシュラオンも驚いていた。


 何よりも、その技に見覚えがあったからだ。



(あれは…『雷滅禽爪らいめつきんそう』か! なぜサナが使えるんだ!)



 アンシュラオンが愛用する技の一つに、因子レベル3の蒸滅禽爪じょうめつきんそうがある。


 これは酸性の水属性を使った技で、切り裂いた相手に対して酸で追加効果を与えるものだ。


 防具の劣化効果もあるので、相手の防御力を奪うことにも使える便利な技である。


 一方、それを雷属性でやると『雷滅禽爪らいめつきんそう』という技になる。


 技の形態自体に変わりはないが、雷属性なので感電の追加効果を与えることができる。


 技そのものはかまわない。ソイドダディーが雷火宴武爪らいかえんぶそうを使ったように、扱える武人だっているだろう。


 だが、サナの戦士因子レベルは1のままだ。


 足りない。圧倒的に足りない。




 因子が―――足りない!!




 が、ここであることに気付く。


 それは最初に見た時から興味を惹かれていたスキルである。



(スキル欄にある『雷技限界突破』とは、こういうことか! 雷属性限定で因子の制約を受けないってことなのか? だとしたら…チートだな)



 サナのスキルに『雷技限界突破』というものがある。


 初めて見るスキルなので首を傾げていたものだが、この攻撃によって謎が解けた。



 因子レベルを超えて技が使える。



 文字から推測するに雷限定のようだが、もし事実だとすれば、これは驚異的な能力である。


 雷は単体攻撃に優れた技が多く、ガンプドルフが使った雷王・麒戎きじゅう剣も一撃必殺の力を持っている。


 あの威力で因子レベル5なのだ。当然、その上位の技も存在し、威力はその数倍のものもある。


 こちらもチートスキルの『デルタ・ブライト〈完全なる光〉』を持っている自分でさえ、因子レベルを超える技は使えないので、まさにチート級のスキルであろう。



 ただし、世の中に甘いだけの話など存在しないものだ。



 デルタ・ブライトも努力なしでは意味を成さないように、サナのスキルの弱点についてもアンシュラオンは即座に見抜いていた。



(あの雷爪は、厳密に言えば雷滅禽爪ではない。型が出来ていないから不安定で力の大半が外に漏れてしまっている。おそらくオレが使った蒸滅禽爪を見よう見まねで真似したのだろうが、因子レベルが足りないから不完全になっているんだ)



 なぜ、技というものがあるのか。


 それは、効率良く力を維持して安定させるため、である。


 どの技にしても、それが基本技であっても、幾万、幾億という武人の血と汗と涙によって生み出されてきたものだ。


 どうすれば効率良く技を扱えるのかを追求して、ようやくにして完成し、伝承されてきた偉業の集大成なのだ。


 因子レベルに合わせて技が設定されているのは、いわゆるストッパーの意味合いも強い。


 無理をして力を読み込む、あるいは扱えきれない力を望む者に対して制限を設けているわけだ。



 なぜならば―――危険だから



 この危険性については何度も述べてきた。


 血の沸騰が起これば、十秒もたたずに死んでしまうこともあるくらいである。非常に危険だ。



 サナの場合、スキルがあるので技自体はなんとか成立しているようである。


 威力も出ているし、使うこと自体が悪いわけではない。


 が、因子レベルという基本条件を満たさず、加えてしっかりとした型も習わずに使っているので、非常に効率性が悪い。


 周囲に放電が発生していることからもわかるように、一度攻撃するたびに力がドバドバ流れてしまっている。


 雷滅禽爪の使用BPは、およそ15といったところだろうが、その三倍近くは軽く流出しているようだ。


 おそらく一回使うたびに50近いBP消費をしているだろう。


 現状でのサナの最大BPが560であるので、一応は十回前後は使える計算だが、すでに消耗して400強しかない状態では―――





 ズバッ!!



 サナの雷爪がレイオンを切り裂く。



(しまった!! 受け損ねた!)



 サンダーカジュミロンを彷彿とさせる鋭い一撃が、レイオンの腹に命中。


 腹を抉られ、血がドバドバと流れる。


 なんとか筋肉操作をして、臓物が飛び出るグロい光景だけは逃れたが、ダメージは深刻だ。


 一気にレイオンの動きが鈍る。


 そこに追撃をされたら、もう勝負は終わってしまう。



(くそっ! こうなれば相打ちだ! こい!!!)



 レイオンは玉砕覚悟で迎え撃つ。


 残されたすべての力を出して勝負に出ようというのだ。


 もうそれしか選択肢がないので仕方がないだろう。まさにギャンブルだ。




 だが、追撃はこなかった。




 覚悟を決めて待っていたが、サナは動かない。


 その理由は、アンシュラオンが危惧していた通りである。



「…はぁはぁ」



 ばくんばくんっ ばくんばくんっ



 息が急速に上がっていく。


 心臓が激しく鼓動して血液を供給するが、まったくもって間に合わない。



 チカチカチカッ チカチカチカッ



 ペンダントも明滅を繰り返す。


 寿命が来た蛍光灯のように、チカチカと弱々しい明滅になっていく。



(なんだ…? 勢いが弱まったぞ)



 明らかにサナの勢いが落ちた。それも急激にだ。


 雷爪も見た目からして七割くらいの大きさになっており、輝きも鈍くなっている。


 これには見覚えがあった。



(スタミナ切れ! 生体磁気が切れたのか! …そうか、それも当然だ!! これだけの威力だ。そんなに乱発できるわけがない!!)



 弱った心臓を保護するために生体磁気で苦慮していたレイオンには、その症状はとても見覚えのあるものだった。


 なにせ試合前の自分が、常にその状態だったからだ。


 技を出したくても出せないのだ。



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