421話 「死滅の担い手 中編」


(もしや、こいつらの能力は…)



 JBがそのことに気付いた時には、もう遅い。


 ズズズッ ビシビシビシッ


 レクタウニードスたちが地面に口を付け、放射して失われた牙が再生を始めると、あっという間に元のサイズの大きさにまで回復した。



「フォオーーーーーーーンッ!!」



 牙を補充した彼らが、再び一斉放射。



 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!


 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!


 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!


 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!


 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!


 ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!



 およそ四十頭から八十発に及ぶ牙が襲ってくる。


 速度も今までの倍を超えるもので、もはや砲弾と同等のレベルになっていた。



「ぬんっ!」



 ドガドガドガドガッ! バキバキバキバキッ!!!


 JBはそれを高速の打撃で何度も何度も壊していく。


 このあたりの体捌きは実に見事である。巨体にもかかわらず細かく体重移動を行い、小さな連打を積み重ねていく。


 すべての魔獣が同時に攻撃を仕掛けているわけではない。0.1秒にも満たないタイムラグを利用して、的確に迎撃していく。


 だが、これだけの数だ。限界はある。



 いつかは捌ききれなくなり―――



 ドゴンッ!!



 一発が当たる。


 戦気の防御で防いだので刺さりはしなかった。


 出来立ての牙ということもあってか、当たった瞬間に爆砕する感覚である。


 だが、衝撃はかなりのものだ。


 身体はまだ重く、上から常に押し付ける力が働いているため飛ばされないものの、一般人の感覚では交通事故に匹敵する衝撃だろう。


 思わずJBの身体がバランスを崩す。




 そこに―――集中砲火。




 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!



 一度バランスを崩したが最後、迎撃する時間を与えてはくれない。


 半数が攻撃している間に半数が牙を補充し、途切れることなく次々と牙を放射してくる。


 彼が奇妙に思っていたように、すべての牙が百発百中の精度で襲ってくるので避けようもない。




―――命中




 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!



 揺れる、揺れる、揺れる。


 ヤジロベエのように右に左に揺れていく。


 こうしてしばらくは完全に魔獣側が主導権を得ることになる。




―――――――――――――――――――――――

名前 :レクタウニードス〈重磁大海象〉


レベル:38/45

HP :820/820

BP :230/230


統率:B   体力: D

知力:D   精神: E

魔力:D   攻撃: D

魅力:E   防御: D

工作:E   命中: E

隠密:D   回避: F


☆総合: 第四級 根絶級魔獣


異名:磁界を制し、牙穿つもの

種族:魔獣

属性:磁、土、岩

異能:集団統率、磁界操作、鉄分吸収剛化、牙発射、物理耐性、家族想い、復讐心

―――――――――――――――――――――――



 これが彼らのデータである。


 こうして見ると素の肉体能力も優れており、そもそもが耐久性に長けた魔獣といえる。


 それが集団で襲ってくると考えただけで相当な脅威だろう。群れになれば扱いは第三階級の討滅級魔獣にもなる。


 仮にこの数がグラス・ギースを襲った場合、篭城しない限り追い払うのは困難を極めるに違いない。


 シーバンたち『ライアジンズ』が、チームならば討滅級魔獣にも対応できると言われているが、それが魔獣にも当てはまるわけだ。



 そして、最大の能力は『磁界操作』というスキルだ。



 JBを押さえつけている力も、磁場あるいは磁界と呼ばれる力を使っているからだ。


 磁石を想像するとわかりやすいだろうか。


 といっても文房具で見かける小さなものではなく、自動車を持ち上げるような強力なものだ。


 その力によって地面と同じ磁気を対象に与えつつ、反対の磁場を生み出してさらに押さえつけている。


 当然、簡単にできることではないので、群れ全体が協力しなければ不可能だ。


 最初に接触した三頭は、JBに磁気を与える役割を果たしてもいた。そのための特攻部隊でもあったのだ。


 地面をバンバン叩いていたことも、その一つ。すべてが彼らの戦術によるものだった。



 それに加え、牙に対象と同じ性質を与えることで、自然とホーミングがかかるようにしてある。それが優れた命中精度の正体だ。


 上のデータは磁界を展開していない状態のものなので、スキルを発動させた場合の命中の値は「AA]となる。


 このレベル帯の魔獣にすれば極めて高い数字といえるだろう。


 また、彼らの牙は普通の動物のようなものと違い【鉄分】によって構成されている。


 牙が黒っぽい色をしているものが多い理由は、けっして不衛生なものではなく、そもそもが大地の中にある鉄分等を吸収凝固することで生み出されたものだからだ。


 それが長い年月をかけて磨かれることで、徐々に白味が増えていくだけのことである。


 ただ、こうして牙を連続して再生させることは、彼らにとっても多大なる負担だ。


 中には力を使いすぎて、二度と牙を生み出せなくなる個体さえいる。それでも『復讐心』があるので戦うことをやめない。


 相手を最大の脅威とみなした時だけ、こうして犠牲を覚悟して戦うのだ。



 これはレクタウニードスの【最終手段】。



 JBが危険な存在と認められたからこその決死の攻撃である。




 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!


 ドゴンッ!! ドゴンッ!! ドゴンッ!!



 絶え間ない攻撃がJBを襲う。


 前から後ろから、右から左から、砲弾に匹敵する威力の牙が当たっては爆散していく。


 服が擦り切れ、破れていく。防御の戦気を貫いている。


 これだけの衝撃である。肉体にもかなりのダメージが入っているはずだ。


 むしろこの攻撃を受けて大きく破損しないほうが不思議にさえ思えるほど、滅多打ちにされている。



 では、実際に彼はどういう状態なのだろうか?



 痛みに悶えて苦しんでいるのだろうか?


 ピンチに焦っているのだろうか?


 あるいは後悔しているのだろうか?




―――否






(【不快】―――だ)






 彼の中にあった感情は、ただただ『不快』の二文字。


 身体に当たる少しザラザラした感触が極めて不快なのだ。右に左に揺られることも同様に不快である。


 当然気持ちいいはずがないが、彼が今、心からそう思っていることは事実だ。


 それ以外の感情はない。




 JBは―――痛みを感じていない。




 クロスライルがJBのことを『不感症』と称したが、それはまったくもって真実だ。


 彼は痛覚を感じない。感じられるものは『触覚』だけにすぎない。


 度重なる肉体強化によって、もうその段階にまで到達してしまっている。


 だからこうして薄汚い魔獣に攻撃されて感じる触覚は、極めて不快。



 不快不快不快



 不快不快不快 不快不快不快



 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快




 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快 不快不快不快!!




 人の感覚の中では痛覚が一番嫌われているものであるが、気色悪い感触もまた同様に嫌悪の対象だろう。


 たとえば女性が痴漢に遭うのはもちろん、男もゲイに撫で回される等々、精神的苦痛を伴う感覚があるものだ。


 今JBが感じているのが、それ。


 これは触覚しかない彼にとっては最大限の屈辱である。



 ブツンッ



 その不快の中で、ついに―――キレる!




「魔獣どもが…!!! この私に触れるとは!!! 穢れたものが触れるとは!!! なんという罪よ!!」




 ボオオオオオオオオッ!!! ゴゴゴゴッ!!



 JBから凄まじい戦気が放出される。


 襲ってくる牙が途中で爆散するほど巨大な戦気だ。


 戦気の色には個人の性質が大きく影響するという話は、すでに何度も聞いているだろう。



 その彼の戦気は―――白く輝いている。



 穢れなく純粋で、アンシュラオンに似た白い雰囲気を宿している。


 その中に黄色い要素が加わって、なんとも神秘的で神々しい輝きをまとっているではないか。


 これだけ好戦的でサディストならば、戦罪者のように赤黒いものをイメージするのだが、実際は正反対なのだ。



 なぜならば―――【穢れなき信仰心】があるから。



 この輝く戦気は信仰を持つ者に多く見受けられる気質である。


 特に本気で心の奥底から信じている者ほど、こうした色合いを持つことがある。


 アンシュラオンは魔人という特殊な性質なことも影響しているが、自分自身が常に正しいと思っているので白く輝くのである。



 ズルルルッ ズルルルルルウッ!!



 JBのボロボロになった服の中から、いくつもの縄が出てきた。


 裾から出した時とは異なり、二本や三本といったものではない。


 全方位に対して百本以上の縄が出てきたのだ。


 縄の色がそれぞれ違うため、海洋生物のように色鮮やかではあるのだが、ここまで色とりどりともなると、かえって不気味である。




 そして、その波動はクルマの修理を行っていたクロスライルにも届く。



「なっ…! この戦気は…あいつ、キレやがったな!!」



 最初は笑いながら見ていたクロスライルだが、今は焦ったような顔つきになっていた。


 これから何が起こるかを知っているからだ。



「ふざけるなよ! ローラちゃんごと粉々になるだろうが!! おい、やめろ!! そこまでの相手じゃないだろう! 落ち着け!!」



 大声で叫ぶが、JBが聞くわけもない。そもそも聴こえていない。


 彼は今、不快という悪感情のさなかにあり、そこから脱却するために周囲全部を【死滅】させようとしているのだ。


 それ以外のことは何も気にしないだろう。



「ちくしょう!! こりゃ逃げるしかねえ! 巻き込まれたら最悪だ!」



 クロスライルはクルマを引っ張って移動させながら、必死に逃げる。


 この大きなクルマを軽々と動かせるのだから、見た目以上にかなりの腕力がある証拠だ。


 だが、この切羽詰った状態では、さすがに牽引しながら逃げるのは大変だ。この速度では間に合わないだろう。


 愛しのローラを守るか、それとも逃げるかで激しい葛藤に晒される。



「しょうがねえ…すまねえ、ローラちゃん。オレは恋多き男でな。ここで死ぬわけにはいかねえんだ。バラバラになってもまた直してやるからな! でも、買い換えたらごめんな!!」



 結局、最終的に逃げることを優先。


 大切なものさえ、生きるためには見捨てねばならないこともある。


 これもまた荒野に生きる人間の掟であり、彼が無頼者であることを示してもいた。


 サナもそうだったが、この判断ができないと荒野では生きてはいけないのだ。


 クロスライルは全力で場から離れていった。





 JBの戦気がさらに増大していく。


 すでに磁場の影響などまったく感じさせず、自身の戦気のみで宙に浮いている状態だ。


 引き付ける力も押し付ける力も含めて、それを凌駕する力を発揮しているにすぎない。


 全力モードになった彼に、そんなものは何の意味もないということだ。



「私に触れてよいのは、ネイジア〈救済者〉のみ! その思想のみ!! 穢れた者は死滅せよ!!」



 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!

 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!

 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!

 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!

 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!

 ドヒュンッ! ブスブスブスッ!!



 JBの身体から飛び出た縄がクレーターの内側の縁に突き刺さっていく。


 どこか片側ではなく、ワイヤーのように全方位に張り巡らされる。


 ドクンドクンッ ドクンドクンッ


 その縄を通じてJBの戦気が送り込まれ、尖端に溜まっていく。


 ポタッ


 少しばかり溢れた戦気が、大地に突き刺さった尖端からわずかにこぼれた。


 次の瞬間―――



 ドオオオオオオオオオンッ!!



 激しい爆発を起こし、近くにいたレクタウニードスが吹っ飛ぶ。



「ゴォオオ……オンッ……」



 ふらふら バタン


 爆発に巻き込まれた個体が、身体を大きく損傷させながら死亡する。


 ここで重要なことは、これは攻撃でもなんでもない、ということだ。


 ただ集めた力が少しだけこぼれてしまっただけだ。


 JBは全部で百もの縄を制御している。その中の一つの制御が多少甘くなり、力がほんのわずかだけ流出しただけである。


 まるでニトログリセリンだ。たった一滴でさえ、ほんの軽い衝撃で爆発する危険なものである。



 そのうえ―――威力も桁違い。



 一匹では根絶級魔獣に該当するとはいえ、レクタウニードスを一撃で殺す力がある。


 そんな危険な代物が百という数、今起きた爆発の何十倍もの規模で集められ、展開されているのである。


 クロスライルが逃げるのも当然だ。


 これが同時に起爆したら、このあたり一帯は消し飛んでしまう。魔獣だけではなく、クルマも仲間も含めてだ。



 なぜ彼らが殲滅部隊と呼ばれているのかが、これでわかるだろう。



 JBは【広域破壊型の武人】なのである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます