414話 「おっぱいの契約 中編」


「か、確認させてくれ。俺たちはまたハンターとして仕事ができるってこと…でいいのか? まっとうな仕事でってことだが…」


「お前たちが望むのならばな。マフィアの構成員や日雇い労働者にはなりたくあるまい?」


「もちろんだ! そっちに行ったら、二度と戻ってはこられないだろう。一生日陰者の人生を送ることになる。俺は…俺たちは、そんな人生を送りたいわけじゃない!!」


「でもよ、おっぱいの妖精がボスになるんだろう? それって名誉なのか? ちょっと人前で言えないぜ」


「マーク!! 刺激するな!」



 マークパロスの言葉も事実である。



 「俺今度、おっぱいの妖精のために働くんだ」

 「え? おっぱいの要請?」

 「いやいや、おっぱいの妖精だって」

 「おっぱいから要請されたの? え? どういうこと!?」

 「いやいや、だからおっぱいの妖精なんだってば!」

 「は? …お前、そういうやつだったんだな」



 「妖精」であれ「要請」であれ、どちらも地獄だ。


 まず、おっぱいという単語自体がまずい。


 人間は見栄を張りたがる生き物である。職業に貴賎無しとはいえ、できれば聞こえの良い職業に就きたいものだ。


 たとえば声優がアダルト作品に出るときに名前を変えるのも、これを思えば致し方がないことである。


 どれほどの大金を儲けていても、それが人前で自慢できないと意味がないのだ。



「我の名前を出す必要はない。どのみち表の世界では知られていない名だからな。言ったところで恥ずかしい思いをするだけだろう。それにこれはハローワークを通じて出す依頼という扱いにしておく。つまりは守秘義務付きの警護依頼だ」


「そ、それならば…うん、問題はないな。普通の依頼ってことだもんな」


「金も出る。悪くはないな…」


「たしかに…」



 他の面子もようやく状況に慣れてきたのか、話が呑み込めてきたようだ。


 ハローワークを通じての依頼ならば、依頼者の名前は守秘義務で秘匿されるため、無理におっぱいの妖精という名を出す必要はない。(依頼側でそう伝えれば守秘義務は付随する)



 何よりも金払いがいい。



 たしかに名誉は必要だ。やる気につながる。


 だが、やはり請負である以上は金が一番重要だ。


 どんなに気に入らないやつでも、金払いがいいクライアントは喜ばれるものだ。


 ソブカの傭兵が貴重な武具をもらって恩義を感じるように、これだけの額を軽く出す妖精に対して、少しずつシーバンたちも信頼を抱き始めているようだ。



「依頼内容は、警護でいいんだな?」


「ああ、そうだ。女を守ってもらう」


「一つ質問がある。それだけの力がありながら、どうして自分で動かないんだ? あんたなら楽勝だろう?」


「妖精は表の世界には出ないのが鉄則だ。陰からひっそりと見守ることが最大の美徳とされている。我は静かに儀式ができればいいのだ」


「ずっと気になっていたんだが、その儀式は何か意味があるのか?」


「いい質問だ。この儀式を行えば、女性のストレスを発散させることができる」


「…それだけ?」


「それだけだ」


「えと…もっとすごい目的があるわけでは…ないのか?」


「重要だとは思わないか? もしすべての女性が常時ストレス状態になれば、人間社会など一ヶ月も経たずに崩壊するぞ。殴り、暴言を吐き、酒と麻薬に溺れる女たちと一緒にいたいと思うか? 仕事で疲れて家に帰っても鬼嫁しかいない世界は地獄だ。店に行っても鬼ホステスしかいなかったら世界は終わりだろう? 我々が女性に求めるのは癒しのはずだ。違うか?」


「な、なるほど。それはとても大切だ!!」


「わかってくれて嬉しい限りだ。我は女性の味方、すなわち人間社会の味方なのだ」



 正直、納得するかどうかは微妙に個人差がある内容ではあるが、女性を守るという一点ではブレがない。


 シーバンたちも男だ。その思想には賛同するしかない。



「わかった。依頼を受けよう。どうせこれしか道はないんだ。そうだ…こうすればいいんだ。こうすれば…心は平穏になる。これだけが唯一の解決方法なんだ」



 この時、シーバンは悟った。


 怖れる存在がいるのならば、自分がそちらの側に組すれば恐怖はなくなる、ということを。


 彼は妖精を激しく怖れている。だが、味方側になれば、これだけ心強いものもいないだろう。




「英断だと言っておこう。お前たちは正しい選択をしたのだ。一応訊いておくが、命をかけることになるかもしれない。そのあたりはどうだ?」


「ハンターだって命がけだ。よほど無茶な相手以外は大丈夫だ」


「いい心がけだな。では、お前たちの戦力を確認しておきたい。軽く自己紹介をしてくれ」


「ああ、そうだな。俺たちライアジンズのパーティー編成は―――」



 この後、シーバンからメンバーについての紹介が行われた。


 それを聞きながら、事前に集めておいたデータと照合する。





〇シーバン


 ライアジンズのリーダー。


 サポートを得意とする剣士タイプの武人で、主に中衛で戦線を支える役割を果たす。


 術符を扱いながら戦うので、第一警備商隊のグランハムに近いタイプの武人といえるだろう。


 現在は情緒不安定だが、基本的には仲間想いで気の好い男である。


―――――――――――――――――――――――

名前 :シーバン


レベル:32/50

HP :550/550

BP :180/180


統率:D   体力: D

知力:E   精神: E

魔力:E   攻撃: E

魅力:E   防御: D

工作:D   命中: E

隠密:E   回避: E


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:1/1 術士:1/1


☆総合:第九階級 中鳴ちゅうめい級 戦士


異名:おっぱいの妖精の下僕 NO.1

種族:人間

属性:

異能:中級戦闘指揮、チームワーク、術耐性、情緒不安定、不運

―――――――――――――――――――――――




〇マークパロス


 ライアジンズの攻撃の要。


 典型的な剣士タイプで、防御よりも攻撃に特化した武人。


 彼の攻撃が通るかどうかで戦局が大きく変わる。元傭兵なので対人戦にも強い。


 性格は皮肉屋だが、リーダーに物が言えなくなったら終わりなので、それも自分の役割だと思っているらしい。


―――――――――――――――――――――――

名前 :マークパロス


レベル:30/50

HP :420/420

BP :230/230


統率:F   体力: E

知力:F   精神: E

魔力:D   攻撃: C

魅力:F   防御: F

工作:E   命中: E

隠密:F   回避: F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:2/2 術士:0/0


☆総合:第九階級 中鳴ちゅうめい級 剣士


異名:おっぱいの妖精の下僕 NO.2

種族:人間

属性:火

異能:単体剣術強化、対人戦巧手、皮肉屋

―――――――――――――――――――――――




〇ビギニンズ


 ライアジンズの防御の要。


 防御型の戦士タイプで、彼が囮や壁役をこなすことで、シーバンやマークパロスが動きやすくなる。


 大盾を使うためサリータにスタイルが似ているが、攻撃に使うことは滅多にない。


 性格は温厚。チーム一番の良識人だろう。


―――――――――――――――――――――――

名前 :ビギニンズ


レベル:35/50

HP :720/720

BP :150/150


統率:F   体力: C

知力:D   精神: D

魔力:E   攻撃: E

魅力:E   防御: D

工作:F   命中: E

隠密:F   回避: F


【覚醒値】

戦士:1/1 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:第九階級 中鳴ちゅうめい級 戦士


異名:おっぱいの妖精の下僕 NO.3

種族:人間

属性:

異能:身代わり、低級盾技術、根性

―――――――――――――――――――――――




〇レッパーソン


 一応戦士タイプだが、身体は小柄でほっそりしているので近接戦闘には向かない。


 彼は主に後方からパーティー全体を見回し、銃や弓矢で援護したり、負傷した仲間を回復をする役割を負う。


 罠にも精通しており、待ち伏せする際は彼の技能が魔獣狩りに大いに役立っている。


 性格は陽気。彼女が妊娠しているので必死。


―――――――――――――――――――――――

名前 :レッパーソン


レベル:28/50

HP :380/380

BP :190/190


統率:F   体力: F

知力:F   精神: F

魔力:E   攻撃: E

魅力:F   防御: F

工作:C   命中: D

隠密:D   回避: D


【覚醒値】

戦士:1/1 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:第九階級 中鳴ちゅうめい級 戦士


異名:おっぱいの妖精の下僕 NO.4

種族:人間

属性:風

異能:下級罠技術、後方支援

―――――――――――――――――――――――




〇クワディ・ヤオ


 暗殺者タイプで、パーティー内での役割は主に遊撃を担当する。


 屋内戦闘が得意なので対魔獣戦での出番は限られるが、人間同士の諍いになった場合は頼りになる男である。


 性格は無口で冷静。趣味は盗撮。


―――――――――――――――――――――――

名前 :クワディ・ヤオ


レベル:30/50

HP :280/280

BP :150/150


統率:F   体力: E

知力:D   精神: F

魔力:F   攻撃: E

魅力:F   防御: F

工作:D   命中: E

隠密:C   回避: D


【覚醒値】

戦士:0/1 剣士:1/1 術士:0/0


☆総合:第九階級 中鳴ちゅうめい級 暗殺者


異名:おっぱいの妖精の下僕 NO.5

種族:人間

属性:

異能:暗殺、低級投擲術、屋内戦闘巧手

―――――――――――――――――――――――




 以上、五名である。




(ふむ、全員が第九階級の中鳴級か。といっても、単体で見ればラブヘイアより数段劣るな。各人に特色があるから、やはりチームで真価を発揮する連中なのだろう)



 シーバン自らが言っていたように、単体ならばラブヘイアのほうが上だろう。


 能力値ではさほど引けは取っていないように見えるが、よほど上手く立ち回らない限り、いざ戦闘になればあっさりと負ける可能性が高い。



 だが、チームとしての完成度は悪くはない。



 まずはビギニンズが前衛に立って防御を引き受ける。このパーティーの中でもっとも耐久力の高い彼がいることで長時間戦線を維持できるようになる。


 その盾を上手く使いながら、アタッカーであるマークパロスが攻撃を仕掛けてダメージを与えていく。


 前衛二人をレッパーソンが援護しつつ、隙があればクワディ・ヤオが横や背後から強襲を仕掛けるといったところだろう。


 それを支えるのがリーダーであるシーバンの役割だ。


 攻守に渡り中盤でバランスを取る重要なポジションである。


 サッカーでいえば、まさにボランチの位置でタクトを振るう司令塔なので、彼の出来次第で勝敗が決するはずだ。


 彼ら全員合わせてブルーハンターレベルと考えたほうがいい。個ではなくチームで戦う集団だ。



(未知数なところはあるが、戦力が増えることは悪くはない。こいつらが現状ではベストの選択肢だろう。これ以上のパーティーをいきなり集めるのは無理だしな)




「それで、誰を守ればいいんだ?」


「ホテル街にグラスハイランドというホテルがある。そこを守れ」


「ホテルの誰をだ?」


「女性全員だ」


「全員!? 全員って…何人くらいいるんだ?」


「さて、どれくらいだろうな。従業員も含めると数十人はいるんじゃないのか?」


「誰か特定の相手とかじゃなくてか?」


「そうだ。ホテルにいる客を含めたすべての女を守れ。それがお前たちの役目だ」


「つまりは、ホテル自体を守ればいいってことなのか?」


「頭は悪くないようだな。そうだ。ホテルに危害を加えようとする者がいたら、そのすべてがお前たちの敵だ。殺すなり拘束するなり、好きにすればいい。ここで重要なのは、『相手が誰であれ遠慮するな』という点だ」


「誰であれ? 引っかかる言い方だな」


「そのままの意味で受け取ってかまわん。相手が衛士であっても遠慮するな、ということだ」


「え、衛士!? ど、どういうことだ!? 衛士は都市の味方じゃないのか? どうしてホテルを…」


「領主のことは知っているな?」


「あ、ああ、俺たちもそこそこ長くグラス・ギースにいるから、それなりにはな」


「領主の妻が病気であることはどうだ?」


「そうなのか? そういえば、まったく見ていないな。病気だったのか…」


「その領主が、ハーレムを作ろうとしているのだ」


「な、なにぃいいい!」


「領主の娘がスレイブの少女を集めているのは知っているな?」


「あ、ああ。イタ嬢のことか。たしかにそういう話は聞くな」


「なぜ、少女ばかりだと思う? 不自然に思ったことはないか?」


「…え? …ま、まさか……」


「そうだ。お前の想像通りだ。妻が病気で性欲を持て余した領主が、いたいけな少女を…くっ、これ以上はさすがの妖精でも言えないな。あまりの悪行だ。さらに娘を隠れ蓑にしている点が悪質だといえよう」


「な、なんてこった! とんでもない悪党じゃないか!!」


「そうだ。だから衛士も敵なのだ。理解したか?」


「だが…どうしてホテルを狙うんだ? そんな目立つことをしなくてもいいだろう?」


「ホテル事業は誰が始めたものだ? 領主だろう? では、何のためにホテルを作った? 男がホテルに女を連れ込んでやることは何だ?」


「っ!!」


「あのホテルは、そういう場所だということだ。だが、勇気ある女性たちは果敢にも抵抗し、スレイブ商を通じて我に助けを求めてきた。だから妖精が動いているのだ」


「な、なんてことだ…そんなことが行われていたなんて! 顔のわりにがんばっていると思っていたが、本当に人相通りの悪人じゃないか!!」



 酷い言われようである。


 誰がどう聞いても完全なるでっち上げなのだが、ハローワークを掌握している妖精が言うと説得力がある。


 さらに普段から感じている領主への疑念が加わり、それもあるかもしれない、という思いが渦巻いているのだ。



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