401話 「刀の意思 前編」



「西から登場しますは、武器の試合に初登場となります、黒姫選手!! たった今、無手の試合で勝利したばかりですが、こちらにも参戦となります!!」






―――ワァアアアアアアア!!





「おっしゃあああ! 楽しみにしていたぜ!!」


「またすぐに試合が観られるなんて最高だ!!」


「無手に続いて連戦か…すごいな。あんな小さな身体のどこにそんな力があるんだ?」


「さっきの戦いを見ていただろう? 根本からして違うのさ。さすが姫様だな」


「黒姫ちゃーーーん! がんばってーーー!」




 と、観客のほうもどこかで見たことがある連中ばかりである。


 それも当然。無手の試合の観客がそのままやってきただけだ。


 変わったのは試合会場の装飾と、リングアナウンサー(兼レフェリー)が違う点だろうか。


 無手とはかなり様相が違うため、それなりに武器に精通した者でないと有効打等の判断が難しいことが多い。


 剣道の試合を初心者が見ると「あれ? 今のは流していいの?」と思うのと一緒だ。


 唯一試合を止める権利を持つレフェリーには、それなりの眼力が求められるのだ。




 スタスタスタ


 サナがリングに歩いてくる。


 今回は仮面と鎧を着ているが、その身長から当人だとすぐにわかるだろう。


 それはいい。むしろ観客が気になったのは武器である。




「ん? あの武器は何だ?」


「あんなのあったかな…? 剣…だよな?」



 普段見慣れぬ武器に首を傾げる者たちが多かった。


 たしかに日本刀には独特な趣がある。造詣自体が凛としており、シンプルな中に深みがあるのだ。


 サナ自体も異色な存在のため、より一層見慣れぬ武器が目立つのだろう。


 そんな若い連中に、一人の老人が溜息混じりに話しかける。



「おぬしら、そんなことも知らんのか。なさけないのぉ」


「なんだよ、じいさん。知っているのか?」


「当然じゃ。ありゃ『サムライソード』っていうんじゃよ」


「サムライ? なんだそりゃ?」


「西側の一部の国家における剣士の呼び方の一つじゃな。ただ、発祥はダマスカス共和国っていう国らしいがの。その国では、ああいう『刀』が一般的だそうじゃ」


「ふーん、そんなもんがここにもあるんだな」


「昔はそれなりに使う者も多かったが、最近ではほとんど見かけんの。懐かしいもんを見せてくれるもんじゃのぉ」




(サムライ…か。明らかに地球から持ち込まれた言葉だよな。これは小百合さんから聞いた話と同じか)



 その会話は、耳が良いアンシュラオンにも聴こえていた。


 以前、小百合の家に行ったときに聞いていたので驚きはない。彼女の祖国であるレマール王国も刀を使う剣士が多いという。


 名刀以外の普通の刀そのものは西側で一般的に流通しているものなので、どこかで混ざったものがグラス・ギースにまで流れ着いたのだろう。


 キブカ商会を見てもわかるように、南部の都市からも物資を仕入れているので、ここにあることは不思議ではない。





「続きまして、東側からはハングラス所属、ニットロー!! 堅実な戦いで現在、六戦無敗の実力者です!」





 東側からサナの対戦者である、ニットローと呼ばれた男がやってきた。


 こちらも全身を鎧で覆っていて顔は見えない。身長は一般成人男性程度で、体格もそこまで大柄というわけではない。


 ニットローの戦士因子は、「0」だ。


 戦士因子の有無が肉体の質に大きく影響するため、戦士因子効果が半減される生粋の剣士になればなるほど、体格には恵まれない傾向にある。(それ以上に戦士因子が高ければ別だが)


 多分に漏れず、彼も体格ではさして目立ったところは見受けられない。肉体面ではアカガシのほうが上だろう。


 ただし、彼が持っている武器は『長剣』と『盾』であった。



(一般的な武装であるロングソードと、防御重視のカイトシールドか)



 ロングソードはすでに説明した通り、特に短所らしいところもない一般的な剣である。


 ニットローはたしかに体格に恵まれていないが、それは戦士と比べた場合にすぎない。


 武人としては標準以上の体型はしているので、片手でもロングソードの重さに振り回されることはないだろう。


 問題なのは『盾』のほうだ。



(六戦無敗とか言っていたな。その要因は、おそらくはあの盾だろう。バランス防御型か? あるいは防御型かもしれん。どちらにせよ、サナとの相性は悪いな)



 カイトシールドのカイトは、『たこ』という意味である。


 たまに海に行くと砂浜で遊んでいる人がいるが、なかなか面白い形をしている。


 ただ、その面白さとは裏腹に、いざ戦いでは非常に頼りになる武具だ。


 あれは上部がやや出っ張った「ひし形」に近いタイプだろうか。傷が多く見受けられるので使い込んでいるのがわかる。


 鎧もそのまま既製品を使っているのではなく、自分なりにアレンジして改造している様子がうかがえた。



 ニットローは、弱くはない。



 アンシュラオンはそう判断する。


 この言い方だと語弊がありそうだが、他の試合で見たような「おままごと」をする連中の仲間ではない、ということだ。



(この男との戦いは今朝には決まっていた。ロックアルフの戦いを見てから決めたわけではない。…少なくともそれなりの評価はされていたということかな。あるいは噛ませ犬か)



 アンシュラオンがちらり、と視線を会場の隅っこに動かす。


 そこにはフードを被った男が座っており、一人静かにこちらを見つめていた。


 顔は見えないが、そこから覗く目が、その人物が誰かを如実に物語っている。



(あの目はジュンユウか。まあ、オレには『情報公開』があるから、あの程度のフードじゃ誤魔化せないけどな)



 アンシュラオンたちが会場に入った頃から、彼はすでにその場に静かに佇んでいた。


 彼が来たのは運営から頼まれてのことだと思われるが、その瞳にはわずかながらの「興味」の感情が宿っていた。


 嫌々ここにいるというわけではなさそうだ。




「黒姫ちゃんの相手はニットローか。あいつ、ここんところ負けてないよな」


「そんなやつが、わざわざお出ましかよ。なんでこのカードなんだ? あの子にはちょっと強すぎるんじゃないのか? まだ初戦だぜ?」


「ニットローは今回勝てば、キング戦って話を聞いたぞ」


「ああ、なるほどな。運営としてはそれなりに注目させたいってことか」




 観客の間でもニットローは有名らしい。そんな声が聴こえてくる。



(ふむ、ニットローはジュンユウの次の対戦相手になる可能性があるのか。ならば、視察も兼ねてのことだろう。まあいい。どんな理由があるにせよ、キングが見に来てくれるのならば話は早い。あいつを倒して挑戦権を奪ってやろう)



 ボクシングなどの試合でもそうだが、挑戦者が世界ランカーに勝てば、丸々相手が持っていた権利を奪うことができる。


 ニットローの次戦がキング戦ならば、そのままもらってやろうではないか。


 そのためには勝つことは前提として、「可能性」を見せ付けねばならない。


 ジュンユウが興味をそそられるような戦いをすれば、早期のキング戦も実現可能だろう。






「では、賭けの時間です! ジャンジャンバリバリ、ご参加ください!」





 賭けの時間が始まる。


 今回はオッズが事前に公表されない通常の賭けの形式で行われる。


 引き続き観客の数も普段の三倍以上なので、売り上げもいつもの何倍にもなっていることだろう。


 通常ならばニットローはもっと後ろの試合のはずなので、これもサナが注目されている証拠である。




 賭けが終わる。




 結果、サナが「6.3倍」、ニットローが「1.9倍」となった。




 ちなみに賭けは、競馬と違って両方にはかけられない仕組みである。どちらか一人を選ばねばならない。


 この数字を見れば、客がどちらに多く賭けたかがわかるだろう。


 サナは人気があるので賭けた者も多かったが、様子見の金額も多かったということだ。



(ニットローは実績が評価されたかな。一方のサナは日本刀の物珍しさもあって信用しきれなかったか。仕方ない。これが初戦だ。懐疑的にもなるだろう。実際、オレから見ても未知数な部分が多いしな)



 多少サナの倍率が高いとは思うが、自分から見ても「4:2」くらいが妥当だろう。


 今回も単純な実績や実力では相手が上と判断している。






「では両者、前へ!」





 二人がリング中央で向かい合う。



「いい勝負をしよう」


「…こくり」



 ニットローがサナに握手を求め、彼女も応じる。


 彼の中身は試合前に一度見かけたが、なかなかのイケメンである。爽やかなスポーツマンタイプといえるだろうか。


 アンシュラオンならば「所詮はスポーツマンだな」とまた罵倒しそうだが、侮ってかかる相手よりは厄介かもしれない。


 逆にスポーツマンだからこそ弱い相手にも全力を尽くす、というスタイルの者もいる。





「試合開始!!」





 カァアアーーーーーーンッ




 サナの武器の試合が始まった。




「さあ、来たまえ!」



 ニットローは盾を前に出して防御の構えだ。


 アカガシと違って本気の防御であることはすぐにわかる。



「…しゅっ」



 その様子を観察しながら、サナが刀を抜く。


 ギラリと美しい刀身が輝く。アンシュラオンが命気で磨いたので、まるで新品同様に綺麗だ。



(あの武器はサムライソードか。まだ残っていたとはね。…しかし、たどたどしい抜き方ではある。明らかにまだ慣れていない。だが、油断は禁物だ。無手の戦いでも格上の相手を倒している。戦士型剣士という可能性も捨てきれないんだ)



 ニットローも慎重にサナの様子を観察していた。


 実は彼も無手の試合を観ていたのだ。次の対戦相手なのだから視察するのは当たり前のことだろう。


 むしろそうした準備を怠るようでは、ここでは勝ち進んでいけない。



「…ぐっ」



 サナは柄を深く握り込むと―――剣気を放出。


 赤い光が刀身を覆い、今までの戦気とは明らかに違う質となる。



 トトトトトッ



 サナがニットローに向かって駆ける。


 今回は様子見をするのではなく、自分から相手に突っかかっていく。


 日本刀が今までの武器よりも重いせいか、若干後ろに引っ張られながらも強引に前に向かっていく。


 間合いに入ると、そのままの勢いで振り回すように横薙ぎを放った。



 ブーーーンッ ガンッ



 ニットローは避けることもなく正面から受け止める。


 好きなように打たせた一撃なので、サナも体重をかけて放った強い一撃だ。


 しかし何事もなかったかのように、がっしりと受け止めた。反動で押されることもない。



(悪くない剣気だ。しっかりと力が乗っている。ただ、今のが本気の一撃だとすれば…怖くはないね)



 サナの一撃は剣気が乗っているので、たしかにそれなりに強い。武人以外の一般兵ならば倒せていただろう。


 が、相手が同じ武人ならば話は異なる。


 なぜならばニットローの盾も、同じ剣気によって強化されているからだ。


 剣士の因子は武器を扱う能力であり、最大の醍醐味が剣気の制御である。


 長年剣士として戦っている自分からすれば、目の前の少女の攻撃はありふれた一撃でしかない。



「…しゅっ!」



 ブンッ ガンッ


 ブンッ ガンッ


 ブンッ ガンッ



 サナが刀を振るう。ニットローが受け止める。


 サナが刀を振るう。ニットローが受け止める。


 サナが刀を振るう。ニットローが受け止める。



 そうした攻防が続く。


 いや、これは攻防とは呼ばない。


 ニットローが『攻撃していない』だけだ。



 これにはアンシュラオンも少しばかり冷汗を掻く。



(サナ、完全に舞い上がっているぞ。もしかして相当嬉しかったのか? まるで買ってもらったばかりの木刀を振り回す子供だな)



 サナが自ら攻撃に出ることは珍しいことだ。


 いつもならば、じっと相手を観察するはずだ。



 そうしなかったのは―――【楽しい】から。



 手に入れたばかりの玩具に興奮して、まずは振り回したい気分になったからだ。


 新しいスマホ、新しい車、新しい釣竿、新しい家。


 それが何であれ、新しいものは人の心を浮き上がらせるものだ。嫌な出来事があっても忘れさせてしまう素晴らしい魅力を持っている。


 ゲームの世界だって新しい武器を手に入れれば、まず試し斬りをしたくなるだろう。


 彼女は今、そういう状態なのだ。とりあえず試してみたくて仕方がない。


 気持ちはわかる。誰だってそうだろう。



 がしかし、それが実戦だと危険だ。



 もともとサナは刀の扱いに慣れていないうえ、こんな振り方をしていたら防御されるのは当然である。


 どうやらニットローの肩書きに偽りなしのようで、盾の扱い方もサリータ以上に上手いように感じられる。


 サナの攻撃をすべて見切り、完璧に盾の中心で受け止めている。


 彼のカイトシールドは中央が少し出っ張っている造りなので、そこに合わせる余裕すらあるわけだ。



(カイトシールドは、サリータが使っている大盾とは【目的】が違う。そのままだと危ないぞ)





「…しゅっ」



 そうアンシュラオンが危惧しているとき、サナが再び打ち込んだ。



 ブーーーンッ ガンッ



 ニットローが受け止める。ここまでは同じ流れだ。


 だが、そこからが違った。



 ガシュッ ズリリリッ



 いつもとは違う音がして―――日本刀の刀身が流れる。



 ニットローが盾に付いている傾斜を利用して、剣を【受け流した】のだ。


 そして、ロングソードを持っている右手が動いた。


 盾に隠れるようにして出された突きが―――



 ガキィイインッッ!!



 サナに直撃する。




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