388話 「キング・オブ・クズ選手権 中編」


「てめぇら、ここで何をやっている! うちらのシマだぞ! 落ちているもんは全部俺らのもんだろうが!」


「うるせぇな! 誰が決めたんだよ! 何年前の何時何分何秒前だ!」


「俺らが生まれた時から決まってんだよ! さっさとよこせ!」


「ふざけんなよ! やるか!!」


「ったりめぇだああああ!」



 クズとクズが出会えば、憎しみと混沌しか生まれないものである。


 どう考えても彼らのものではないにもかかわらず、落ちている金貨の所有権を巡って二つのグループが猛烈な奪い合いを始める。


 元構成員たちが大半なので殴り合いや蹴り合いはもちろんのこと、相手のズボンごと引き抜いてポケットに入っている金貨を奪おうとする者すらいる。


 なんて浅ましく愚かで醜い姿だろうか。



 そして―――なんと楽しい瞬間だろうか。




(くくく、愚民どもが争う姿は最高だな。もっと醜く奪い合うがいい)



 アンシュラオンは醜い争いを見て、ニタリと笑う。


 ロリコンと出会った頃の会話でもあったが(12話参照)、こうして相手の興味がある者をばら撒いて争わせるのが大好きなのだ。


 欲望丸出しの人間の姿は、ある意味で美しいものだ。これこそノンフィクションの極みであろう。


 ただし、クズどもにわざわざ金貨を恵む理由はないので、この行動にはしっかりとした目的がある。



(さて、クズの中のクズは誰かな?)



 アンシュラオンの目的は―――よりクズな人間を見極めることにある。



 シャイナの父親はかなりのクズと聞いている。そんな人間を捜し歩くなんて面倒極まりないし、クズの中に入りたいとも思わない。


 ならば、向こうから出てきてもらえばいいのだ。


 これは獲物をおびき寄せるための『撒き餌』である。



(クズには一つだけ特殊能力がある。それは自分の利益には敏感な点だ。こんなイベントがあれば見過ごすわけがない)



 クズと呼ばれる人種にもいろいろとタイプがあるが、すべてに共通するのが『利己主義者』という点だ。


 人間は誰しも利己的ではあろうが、その中でもとりわけ利己主義者だからクズなのだ。


 違う見方をすれば「協調性がなく、相手のことを考えない」、あるいは「相手を同じ人間だと思っていない」「相手を労わらない」と言い換えることもできる。


 この方法は父親が拘束されていなければ、という条件付きだが、レイオンの統治方法を見ている限り、その可能性はかなり低いと思われる。


 数を集めて様子を見るうえでも最適だし、やってみる価値は十分あるだろう。




 では、こうして始まった【キング・オブ・クズ選手権】において、どんなクズがいるのか具体的に見てみよう。





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1、子供でも容赦しない



「邪魔だ! どけっ!!」


「ぎゃーー!」



 どんっ ガス ぐしゃっ


 トットが吹っ飛ばされ、踏まれて、もみくちゃにされる。


 クズは相手が子供だからといって加減はしない。金がかかる場面では特に顕著だ。


 当然、子供からも奪う。



「よこせ!」


「アーー! おいらの金貨がーー!」



 トットの抵抗虚しく、簡単に金貨が奪われる。力なき普通の少年なので仕方がないことである。


 こうしてトットはすべての金貨を失った。自分の物すら守れない人間の末路は悲惨だ。


 あとは尻を差し出すしか挽回のチャンスはないだろう。



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2、大きいものに価値があると思っている



「おっ、こっちのほうが大きいんじゃないのか? そうだ。絶対にそうだよ!」


「なにぃいいい! よこせ! 大きいのをよこせ!!」


「馬鹿野郎! やるわけねえだろうが! …って、そっちのほうが大きくないか?」


「な、なにぃ!? …本当だ! ちょっと大きいかもしれねぇな…」


「…よこせ」


「…あ?」


「でかいほうが価値があるに決まっている! それをよこせえええええええ!」


「ぐあっ!! てめっ、このやろう! 同じグループだろうが!」


「同じグループでも別の人間だ!! その金貨は俺のもんだぁああああ!」



 クズは、大きいものを選びたがる習性がある。


 何に対しても大きいものに価値があると思っているのだろう。不良(死語)がだぶだぶのズボンをはくのも、それが要因かもしれない。


 しかし、どこぞの昔話ではないが、大きいからといって良いものが入っているわけではないし、そもそも硬貨なので製造過程による誤差の範囲内である。


 そんなことにも本気で気付けない頭の悪い連中でもあるわけだ。



―――――――――――――――――――――――

3、嘘をつく



「お前、何枚取った?」


「やべー、俺一枚しか取れてねぇよ」


「なんだよ、せっかくのチャンスなんだから気張れよな!」


「いやぁ、俺ってノロマだし…みんなのおこぼれを狙う感じでいくよ」


「ったく、そんなんじゃいつまで経っても底辺の生活だぞ」


「ああ、そうだな。でも、俺はこれで満足したから先に戻っているよ」



(けけけ、大量大量。どこに隠そうかな…)



 わざと弱者のふりをして、隠れて利益を得ようとする。



(馬鹿なやつらだ。頭の悪いやつらは扱いやすいぜ)



 しかも他人を自分よりも馬鹿だと思っている。


 そう思うのは当人の自由だが、案外そういう態度は見透かされているものであり、こうした人間はそのうち誰かに騙されるものである。


 それがクズの末路だ。



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4、目先の快楽しか考えない



「はぁはぁ! おい、この金貨を全部やるから、隠してある酒と取り換えてくれ!!」


「おいおい、いいのか? お前、借金があるんだろう? 上にも仕送りを送らないといけないって言っていたじゃないか。嫁さんはどうするんだ?」


「そんな先のことなんて知るかよ! 俺は今、無性に酒が飲みたいんだ! 頼むよ! レートを考えれば、そっちは得するだろう!?」


「そりゃそうだが…まあ、お前がいいなら問題ないけどよ。あとで文句言うなよ」


「ありがてぇ! 今日は宴会だぜ!!」



 これは酔いが醒めた翌日に後悔するパターンである。


 上の家族からの信頼もなくなり、すべてを失ったことにショックを受けて、また堕落する。


 後日何かの幸運で金を手に入れても、すぐに目先の欲求に耐えられずに使い果たすを繰り返す。


 依存症の典型的なパターンだ。ギャンブルでもよく見られるので注意が必要だろう。



―――――――――――――――――――――――

5、裏切る



「やったぜ! 三枚ゲットした!」


「おう! よくやったな! 同じグループとして鼻が高いぜ! ほら、この袋でまとめて管理しているから、ここに入れてもう一度行ってこいよ!」


「おうよ! 任せておけ! また三枚取ってきてやるさ!!」


「ああ、頼むぞ」



 そう言いながら男は、少しずつ距離を取っていく。


 その腰にはグループで集めたはずの金貨が入った袋がある。


 そして騒動のさなか、すっと消えていく。



「はぁはぁ! 駄目だ! 競争が激しくて一枚も手に入らない! でも、三枚取ったからいいよな……って、あれ?」



 そうして仲間が戻った頃には、どこにもいない。


 利益のためならば簡単に人を裏切るタイプだ。あるいは詐欺師にも見られるパターンかもしれない。


 仲間だと思わせておいて安心させ、ある日突然いなくなるのだ。


 日々信用を積み重ねるという努力が必要な分、ある意味では努力家かもしれないが、その努力の使い方を間違えているわけだ。


 クズだから仕方がない。元の性根に問題があるのだ。



―――――――――――――――――――――――




(さすがクズの巣窟だな。典型的なクズが多くて楽しいよ)



 キング・オブ・クズに輝くのは誰か。


 実にそそられるテーマである。テレビ番組でやれば、けっこうな視聴率が得られそうだが、どうだろう。


 ここで重要なのはリアリティだ。


 ただの遊びではなく、確実に禍根を残す方法でやるとよいと思われる。憎しみ、恨みという感情は見ている側には面白いものであろう。



(もっと争いを見ていたいが…目的を忘れるわけにはいかない。さて、この中でシャイナの父親が該当しそうなグループは…3と5あたりかな?)



 シャイナの父親は、麻薬の持ち逃げを図ろうとして捕まった男だ。


 クズのタイプはまだまだあるので一概には断定できないが、「嘘をつく」「裏切る」あたりが怪しいだろう。


 アンシュラオンは騒動を起こしながら、その二つのタイプを重点的に見ていたわけだ。




 そして、しばらく様子をうかがっていると、後ろのほうで何やら怪しい動きをしている者がいることに気付く。




 その人物は最初の時間帯からこの場にいたが、特に何もせずにじっと見ていただけだ。


 おそらく腕力に自信がないのだろう。自分が直接行っても返り討ちだろうし、仮に拾っても奪われるのが関の山だと判断したと思われる。


 だが、けっして諦めたわけではない。


 他の者たちのために飲み物などを用意して、ご機嫌をうかがいつつ、徐々に気配を消していくのがわかる。


 何かを狙っているようなそぶりだ。



(怪しいやつがいるな。ちょっとクローズアップしてみるか)



 アンシュラオンが波動円で男をサーチする。


 身長は百六十センチという小柄で、体型は小太り。


 髪は短く、あまり手入れもされていないボサボサの状態だ。


 顔は丸型。目と口は小さいが、鼻はだんご鼻で妙に大きく目立つ。はっきり言えばブサイクと呼んでも差し支えない容姿だろう。


 肌のシワから判断するに、年齢は五十前後といったところだ。



(年齢は近いな。髪の色は…どうだ?)



 アンシュラオンはこちらに視線が向いていない瞬間を狙って、少しだけ顔を出して男を視認する。



 髪の色は―――錆色だった。



(ふむ、金髪とは言いがたいが、親子が同じ髪色とは限らない。この世界では判断が難しいところだな。ただ、あれから金色が生まれる場合もあるか。もうちょっと様子を見よう)



 きょろきょろ


 またしばらく波動円で様子をうかがっていると、突然小太りの男が挙動不審になった。


 どうやら誰かに声をかけられたようだ。


 話しかけた男はがっしりした体格で、小太りの男に何やら話しかけている。


 その都度、小太りの男がペコペコ頭を下げていた。同時に揉み手をしながら愛想笑いも欠かさない。



(話しかけた男のほうが立場が上の人間のようだな。小太りの男は…完全に小物臭が漂っている。が、注意して見るのは小太りの男のほうだ)



 ここのトップを探しに来たわけではない。


 あくまでシャイナの父親を捜しにきたのだ。着目するべきは、より駄目な人間であり、より小物の相手である。


 小太りの男はへこへこしながら、また気配を消して様子をうかがう。



(やれやれ、これでは時間の無駄だな。こちらできっかけを作ってやるとしよう)



 アンシュラオンが戦気を遠隔操作すると、瓦礫の下から革袋が出現した。


 トットを小突いた時に、二つの革袋を忍ばせておいたのだ。中身は当然ながら金貨である。




 それを―――舞い上げる。




 ブワッ!



 ジャリリリリリリリンッ!!



 空中で袋が開き、派手に金貨がぶちまけられた。


 その音に周囲の男たちが、びくんと跳ね上がる。



「なんだぁ!? 今の音はなんだ!!」


「き、金貨だ! まだあるぞ!!」


「し、信じられねぇ! 今、革袋が勝手に飛んだぞ!! 嘘じゃねえ! 本当だ!」


「そんなことはどうでもいい!! あれは俺のもんだあああああ!」



 ドドドドドドッ


 金貨に男たちが殺到して奪い合いを始めた。



 そのタイミングを見計らって―――さらに二つ目の革袋を放り上げる。



 それによって男たちの視線が、すべて宙に浮いた革袋に集中した。


 なぜ革袋が勝手に浮くのかなど考えている暇はない。大事なことは、その中身が金貨であることだ。


 それを知っている者たちは誘惑にはあらがえない。


 さきほどのがっしりとした体格の男も、視線は完全に革袋に向いている。



 その時である。




 小太りの男が―――動いた。




 小さな淀んだ目をぎょろりと動かし、小太りながらも機敏な動きで、近くにまとめて置かれていた金貨を数枚だけくすねたのだ。


 そのグループが集めていた金貨は二十枚はあったので、実に微々たる量である。


 たとえるのならば、数万円ある財布の中から数千円盗むようなものだ。


 実にセコイ。どうせならば八枚くらいは盗ってほしいとさえ思う。



 が、これで確信した。



(盗みに慣れているな。あれは空き巣やスリ、横領でよくある手口だ)



 前に元空き巣の防犯アドバイザーが言っていたが、上手い空き巣やスリは全部を取らない。


 仮に一万円札と千円札が一枚ずつあったら、千円札のほうだけを盗る。


 その程度ならば「あれ? たしかにあったと思ったけど…まあいいか。たかが千円だ。勘違いだったかな?」という心境になりやすいからだ。


 あるいは盗られたとわかっても、小額ならば妥協してしまう心境もある。


 大事にして面倒な手続きをするくらいなら、それくらいはいいかと思ってしまうのだ。


 実際に地球時代、アンシュラオンの母親が職場で盗難に遭った時も、三万五千円あった財布から五千円札だけが盗まれていた。


 もちろん全部盗むのが基本だが、あくまで【内部犯】に限定した場合は、こちらのタイプのほうが多いのだ。



(…あいつだ。この中で一番可能性がある)



 アンシュラオンは、その男に照準を合わせた。


 自分の中にある「クズセンサー」が激しく反応しているのだ。



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