387話 「キング・オブ・クズ選手権 前編」


 なぜかピアス男は状況を受け入れる。


 ピアスばかり付けていたので、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。



(うん、あいつが馬鹿でよかった。心配になるレベルに馬鹿だな。馬鹿はどうやっても馬鹿だということか。だが、これは好都合だ。このまま情報を引き出すとするかな。入り口ではあまり絡めなかったし)



「お父さん、訊きたいことがあるんだ」


「おっ、いきなり普通の言葉遣いになったな! 成長しているってことか!」


「そうだよ。けっして面倒くさくなったからじゃないよ。お父さんの皮膚の栄養を喰らって進化したんだ」


「こわっ! かなり危ない発言だけど、それもまた可愛いな。それで何が訊きたいんだ?」


「この先にいる元麻薬の売人のクズを捜しているんだけど、心当たりないかな?」


「ん? 元麻薬の売人? なんでお前がそんなやつを捜しているんだ?」


「うん、ずっと黙っていたけど、僕はピアス星人の刑事なんだ。それで麻薬の売人を捜しているんだよ」



 かなりの変化球で勝負したものである。正直、訳がわからない。


 そもそもこの星の人間は、ここが『惑星』であることすらも知らない者がいる。


 そんな状況で「~星人」を選択するのは、なかなかに勇気がいるものだ。


 だが、あえてこれで勝負する。男は黙ってナックルカーブである。



 で、肝心のピアス男の反応だが―――




「なるほど、そうだったのか。お前も大変なんだな」




 見事に見逃しストライクであった。


 男が馬鹿で助かった。



「どんなやつを捜しているんだ?」


「麻薬を持ち逃げしてフルボッコにされて、ここに入れられたやつかな」


「ふむ…クズの中のクズか。麻薬関係ならば、ここから入って右伝いに行くとグループがあるぞ。さすがにどいつかまではわからないけどな」


「グループはいくつかあるの?」


「大小含めて六つくらいはある。麻薬のグループは人も多いから見極めるのが大変そうだ」


「へー、そうなんだ。いろいろとありがとう」


「なんの、俺のピアスのためだからな。気にするな」



 ピアスには優しい男のようだ。


 一通りの情報は集めたのでお礼をしてあげよう。



「じゃあ、お父さんの顎に戻るね」


「おう、戻ってこい!」


「いくよっ!!」



 ビュンッ!!!


 突如急加速したピアスが男の顎に直進。



 おそらく時速五百キロは出ていたはずなので―――



 ボスンッ ボギャンッ!!




「―――ぎゃっ!?!!?」




 顎に当たったピアスが骨に食い込み、破壊。


 爆発的な衝撃が骨だけで支えられるわけもないので、そのまま首がガゴンと変な方向に曲がって吹っ飛んだ。


 ゴンッ


 さらに不幸なことに、廃材に頭を打ち付けるというオマケ付きだ。



「おぐぐぐぐ―――がくっ」



 そして、本日二度目の気絶を味わうことになるのであった。




「ありがとう、お父さん。助かったよ」



 アンシュラオンが倒れたピアス男の前にゆっくりと姿を現す。


 彼も大好きなピアスに突撃されて幸せだったことだろう。人助けはいつやっても気持ちいいものである。



「あわわわ、ひでぇ!! そこまでしなくてもいいのに…」



 トットもその場に姿を見せる。


 が、彼が気にしたのはピアス男の容態であって、アンシュラオンがやった妙技ではない。


 食事前の一件で、アンシュラオンがレイオンより強いのかもしれないとは察しているようなので、この現象自体に疑問を抱いてはいないようだ。


 無知とは幸せなものである。



「こいつのことを知っているのか?」


「う、うん。よく門番でいるからね。でも、そんなに悪いやつじゃないよ。こいつは奥の連中の中でもまともなほうだから、レイオンも門番をやらせているんだ。少なくとも、おいらたちに危害を与えるようなやつじゃないんだ」


「そのわりにはカツアゲをしていたぞ?」


「ここには駄目な大人が多いからね。上下関係をはっきりさせるための方法さ。あれはちゃんとレイオンのところに運ばれてから再分配されるんだ」


「クズの中でも少しはましなクズ、ということか。悪いことをしたな」



 と言うわりには治療もせずに放置する。


 多少ましでもクズには変わりない。ピアス男に優しくする理由はないのだ。




 こうしてピアス男を排除し、少し進むと扉がいくつか見えてきた。


 ただ、今まで見てきた扉と違って、このあたりの扉は【半壊】しているものが多かった。



(この壊れ方…崩落とかではないな。何か強い力が横からぶつかって壊れたんだ。これだけの破壊痕が残っているということは相当な衝撃だったようだな。やはり昔に何かあったのかもしれない)



 扉の開閉等を除いて、このあたりの遺跡は大半の機能を失っている。


 稼動しているロボットなどもいるにはいるが、音声機能もかなりオンボロだったし、主体的に動いているわけでもないので、基本的にはすでに朽ちた遺跡だと思ってよいだろう。


 そうなると遺跡が終焉を迎えた何かしらの理由があるはずだ。


 この破壊痕は、それを探るための重要なヒントになるだろう。


 ただ、これも遺跡調査に興味がある人間にしか意味がないので、アンシュラオンにとっては扉を開ける手間が省けるという利点があれば十分である。


 今重要なことは朽ちた遺跡ではなくて、現在ここに住んでいる人間の状況なのだ。



(扉が素通りなのは防犯上あまりよくないな。レイオンがこの場所を奥の連中に割り当てたのか、あるいは自分たちが住みやすいから選んだのかは不明だが…腕輪がなくても移動可能であることは重要な要素だ。紛れ込むには悪くない環境だな)



 扉の開き方を見て感じていたことだが、腕輪は誰か一人でもかざせば開くので、他の人間が持っている必要性はないようだ。


 そうなれば無関係な人間が入り込む可能性も否定できない。


 扉まで半壊しているような場所では、さらに混沌とした状況が生まれているだろう。


 アンシュラオンがこれから対峙する連中は、そうしたカオスな者たちなのだ。普通に父親を見つけようとしても難しいかもしれない。



(ピアスの情報では右側に沿っていけばいいはずだが、人の気配も増えてきたようだ。さて、どういう方法でいくかな。隠形と全速移動を使えば見つからずに行動は可能だが…臭い場所にはあまり近寄りたくないし、できれば自分の手を汚す必要なくスマートに調べたいな。…となれば、やはりこいつを使うか)



 ちらり、とトットを見る。


 気持ち悪いのを我慢して連れてきたのだ。ぜひここで役立ってもらうとしよう。



「おい、トット。いいものをやろう」


「え? 何かくれるのか?」


「うむ、いいものだ。ほれ、両手でしっかりと受け止めろよ」


「いいものって…どうせガムとかそんなん―――」



 ドババババッ ジャリジャリジャリジャリッ!



 トットの手に革袋から【コイン】が投入される。


 それは一枚や二枚ではなく、溢れんばかりに大量であった。



「ええええええ!? なんだこりゃーー!」



 いきなりのコインと、その重さにトットが叫ぶ。



「大陸硬貨だ。見たことはあるだろう?」


「そ、そりゃあるけど! こ、これは【金貨】じゃないか!!」


「まあ、そうだが…一枚五千円くらいだぞ? 一番安い金貨だしな」


「た、大金じゃないか!!! す、すげー!! 初めて触った!!」



 この世界には、全世界共通通貨である『大陸通貨』があることはすでに述べた。


 そして、これは地球と同じく基本的には紙幣のほうが価値がある。


 紙幣自体の目的が、大金を簡単に持ち運べるようにするためだからだ。


 ただ、中には普通の紙幣よりも価値のある硬貨があるものだ。記念品だったりプレミア物だったり、単純に収集家がコインを好むといった事情もあるだろう。


 それと同じように、大陸通貨にも価値のある硬貨がある。



 それが―――【金貨】だ。



 金貨には、いくつか種類がある。


 一番高い金貨は大陸王の顔がデザインされた、通称『王様金貨』と呼ばれる一枚百万円の価値がある大型のものだ。


 これは大陸暦の誕生を祝って数量限定で生産されたものなので、現在はプレミアが付いており、実際には十倍から百倍以上の値段が付くという話だ。


 一枚一億円の金貨というのも面白いものである。落とした時は涙が止まらないが。



 その次に女神への感謝をかたどった『女神金貨』が、一枚五十万の価値があるものとして知られている。


 こちらも女神崇拝を好む組織や個人が買い占めているようなので、かなり値段が高騰しているらしい。


 ちなみにマザーがいたカーリス教も大量に買い込んでおり、各地に赴く司祭たちにお守りとして渡されることもあるそうだ。


 彼女もまだ持っているので、ぜひ盗難には気をつけてもらいたいものである。



 それに加え、一枚二十万円の『水竜金貨』、一枚十万円の『火狼金貨』、一枚五万円の『雷鳥金貨』、一枚一万円の『風松金貨』と続く。


 これらも記念品として出されたものであるため、滅多に見かけないものである。



 そして、今アンシュラオンが出したのが、その最後に位置する一枚五千円の価値がある『豊穣金貨』と呼ばれるものだ。



 三種類の稲のようなものが絡み合ったデザインで、五穀豊穣を願ったものだと思われる。


 これは通常時に使用することも想定して作られているので、相当数が全世界に流通しているらしく、普段の生活でもそこそこ見かけるものだ。


 アンシュラオンは硬貨を集める趣味はなく、支払いはだいたい紙幣を使う。金持ちならではの「札束ドン」である。


 この金貨は、その際のお釣りを適当に貯めていたものにすぎない。アンシュラオンにとっては、さしたる価値があるものではない。


 が、トットにとっては大金だ。



「す、すげぇ…これだけでいくらあるんだ…!? はぁはぁ、とんでもない!」


「そんなに興奮するな。はした金だぞ?」


「か、金持ちなんだな!! と、友達になろうぜ!」


「お前が死んだら考えてやる」


「死んだら金も意味がないだろおおお!」


「金を目的に友達になろうとするほうが悪い。浅ましいやつめ。…さて、その金はお前にやろう」


「えっ!? 本当か!?」


「やると言っただろう? それは今からお前のものだ。男に二言はない。完璧に絶対的に究極的にお前の所有物だ。返せなんて言わない」


「や、やった…! これだけあればいろいろと買える…!」


「ただし、一つだけオレの言うことを聞いてもらうぞ」


「任せてくれよ! 何でもするよ!」


「そうか。助かるよ。じゃあ、頼む」


「うん! で、何をすれば―――」



 ドンッ



 その質問が終わる前に、アンシュラオンがトットを蹴り飛ばす。




「どわああああ!!」




 ドザザザザッ


 軽く小突いただけだが、ちょうど廃材などが溜まった瓦礫の頂上部分にいたため、一気に転がり落ちていく。


 そして、ここが一番重要だが、今トットは両手に大量のコインを持っている。


 特に革袋に入れているわけでもない状態で、両手にこんもりと乗せているだけである。




 となれば―――ぶちまける。




 ジャリンッ ジャラララランッ


 キンキンッ コンコンコンッ



 駅の改札で小銭をぶちまけた人ならば、どんな音がしたかがわかるだろう。


 大量の硬貨が遺跡の硬い床にぶつかって、甲高い音が響く。


 こうした高域の音は警戒音でもあるので、動物の耳には非常によく聴こえるものだ。


 人混みや電車の音がしても聴こえるくらいなので、この静かな遺跡の中ではかなり反響して遠くまで届くことだろう。



「ぐうう…うう。いててて…何するんだよ!」


「何でもすると言っただろう」


「えええ? 蹴られるのが仕事なのか!? どんだけサドだよ!」


「文句を言っている暇はないぞ。いいか、それはもうお前のものだ。自分のものならば自分で守らないといけない」


「何を言っているんだ?」


「オレがいることは黙っていろよ。もし口を滑らしそうになったら強引に塞ぐからな。じゃあな」


「えっ! おいらはどうすればいいんだ!?」


「とりあえずがんばれ」


「がんばれって…え!?」



 そう言ってアンシュラオンは、トットを無視して瓦礫の隅に隠れて気配を消す。


 隠形も使って完全に周囲と同化しているので、一般人にはまず見破ることはできないだろう。



 では、なぜアンシュラオンがこんなことをしたかといえば―――




「うん? なんだ? 今の音は…」


「これは…まさか!」


「金の音だ!! 間違いない!」



 そろぞろ ぞろぞろ


 半壊した扉から、硬貨の音を聴きつけた男たちが姿を見せる。


 普通の人間でも甲高い音には敏感である。誰だって気付くだろう。


 そのうえ彼らは常に金に飢えている者たちだ。


 そのあざとい耳と目が、散らばった金貨をすぐさま発見する。



「っ!! あの輝きはまさか!!! か、金だ!! 金貨だ!」


「なにぃいいいい! 金貨だとおおお! そんなもん、滅多に見ないぞ!! お宝じゃねえか!」


「馬鹿、声を出すな! 他のグループにバレるだろう!」


「金だ! 金だぞ!! 拾えええええ!」



 ドドドドドッ


 彼らの目には金しか映っていない。我先にと走り出し、金貨を拾い出す。



「うっ、臭い…!」



 男たちの悪臭に、トットが思わず呻く。


 こんな場所にたむろしている連中だ。まともな生活をしているわけがない。


 着ているものもくたびれているし、風呂にも満足に入っていないのだろう。刺激臭も相当なものだ。



(おお、思ったよりいい感じの連中が来たな。そうだよ、この腐敗した感じこそ地下だな。好感が持てるぞ)



 それをうかがっていたアンシュラオンが、思わず笑う。


 これこそ自分が想像していた地下の人間の正しき姿である。やはり駄目人間はこうでなくてはならない。




「ん…? なんだあいつは?」



 一人の男がトットを発見する。


 ここに子供がいること自体が非常に珍しいのだろうが、金の亡者と化した彼らにとっては金だけが重要だ。


 その手にある金貨だけが目に入る。



「金貨だ!! あいつ、金貨を持っているぞ!!」


「なにぃいいい! よこせえええええええ!」


「あれは俺のもんだああああ!」


「えっ!? えええええええ!! く、来るな!! これはおいらのもんだぞ!!」


「うるせえ! よこせ!!」


「どわあ!」



 ドンッ


 男が体当たりをしてトットを吹き飛ばす。



 ジャリーーンッ チャリンチャリンッ



 その手から多くの金貨がこぼれ落ち、床にぶちまけられた。



「んー? なんだぁ、うるせえな」


「どうした? 何があった?」


「っ!! お前ら、なにやってやがる!!」


「ちっ、面倒なやつらが来やがったぜ!!」



 その音を聞きつけた別のグループがやってきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます