375話 「謎の小部屋とロボット 後編」


 アンシュラオンとサナは、部屋に出現した六体のロボットに襲われる。


 こればかりはさすがのアンシュラオンも予測は不可能だったため、まだ若干の困惑の感情のさなかにあった。



(ただラングラスのエリアに入ろうとしただけなのに、どうしてこうなったんだ? 地下では当たり前…なわけがないよな。こんな戦闘兵器があったら、地下にいる程度の武人じゃ相手にならないぞ)



 少なくとも今のレーザー攻撃は、通常の銃弾の威力を遙かに超越している。


 仮に重装甲アーマーを来た衛士が十人並んでいても、やすやすと貫通するレベルにある。プライリーラの武装商船でも船体に穴があくだろう。


 そんな一撃が普通の武人に耐えられるわけがない。レイオンでも簡単に死ぬはずだ。



 世の中にはもっと強い者も大勢いるので、これ自体の存在はいいとしても、問題はそれが地下に普通にあることだ。



 そのうえ最深部ではなく、まだ入ったばかりのところにである。


 エリアへの移動は生活上必須なので、誰もがここを通るはずだ。こんな危険なものと毎日出会っていたら命がいくつあっても足りない。


 しかし、アンシュラオンがいくら考えても答えが出るわけもないし、相手が待ってくれるわけでもない。

 


 キュイインッ ビーーーー!



 再びレーザーがカブトムシ(ロボットの仮称)から放射される。


 今度は相手の武装がわかっていたので、アンシュラオンは軽々と回避する。


 速いが直線の動きであり、射線を読めばかわすのは難しくはない。ギリギリまで見極めて観察する余裕まであった。



(エネルギーを集中させて細く鋭くしている。それで戦気の網目を潜り抜けたんだな)



 水泥壁を貫いたのは、単純に水系の最大の弱点を突かれたからだ。


 水は全体を包み込む能力には長けているが、分子自体はスカスカに等しい。


 水に砂糖や塩を溶かして交じり合うのは、その隙間に入り込むからである。実際は合体したようでも別々に存在している。


 このレベルの圧力と鋭さになると、普通に戦気を出すだけでも防ぐことは難しいだろう。戦気もすべてが完璧に埋められているわけではないのだ。


 だが、その性質がわかれば対処はたやすい。



 ビーーー ブシュウッ



 次に飛んできたレーザーを強化した戦気で堰き止める。


 通常展開で駄目ならば、今度は攻撃された箇所に戦気を集中させて圧縮すればいいだけだ。


 アンシュラオンクラスの武人に同じ技はなかなか通じない。最初の一撃が最大のチャンスであった。



(こんなものか。たしかに初見では驚いたが、相手の能力がわかれば問題ないな。あの尖った頭は射線が読みやすいし、よけられなくても戦気の密度を上げて防御すればいい。しかし、このままではつまらんな。どうせなら何か試したいが…ふむ、そうだ。一度あれを試してみるか。これだけの威力の攻撃に出会うことも少ない。試してみるいい機会だろう)



 キュイインッ ビーーーー!



 アンシュラオンに向かって三体がレーザーを同時発射。



 それに合わせるようにアンシュラオンが掌を向け、正面に水気を放出。



 その放出速度はいつもとは比べ物にならないほど速い。


 一瞬にして千リットル以上の水気がそこに生まれたのだ。やる気になれば、もっと多く出すこともできるだろう。


 とても簡単そうにやっているが、戦気術で解説すると凄さがわかる。



 戦気を『練気』し、『展開』し、『集中』させて『放出』し、『変化』させ、『維持』している。



 サナの鍛練でもやったすべての要素を全部使っているし、戦気を水気に変化させる技まで使っているのだ。


 また、これだけ大量の水気を出しているのに、水流にまったく乱れがない。


 この水の上で仏陀が悟りを開けそうなくらい、あるいはイエスが歩けそうなくらい、とてもとても静かな水面が広がっている。


 これがアンシュラオンの本気である。凄まじい戦気術の練度と精度だ。



 しかもこれで終わらない。




 刹那の時間もかからず―――『結晶化』する。




 即座に命気に昇華された水気が『命気結晶』となり、アンシュラオンの前に盾として立ち塞がったのだ。



 チュンッ チュンッ チュンッ



 スズメが鳴くような音がしたと同時に―――『命気盾』がレーザーを反射。



 バシュンッ バジュウウウッ



 反射したレーザーは、当たった壁の一部を蒸発させて消えていった。


 その結果にアンシュラオンが驚く。



「意外と強固…というより反射できるんだな。単純に密度の高いものを作るためにやったことだが、思ったより使えそうじゃないか。光線だから『光属性』なのか?」



 命気を結晶化させたのは、単にそれが一番密度が高くて安全だったからだ。


 しかし、まさかの副産物である『光反射』の効果があるとは思わなかった。


 どうやらレーザーは『光属性』らしく、それを反射する能力が命気盾にはあるらしい。



「どうした? レーザーが効かなければ、ただのでくの坊か?」



 命気盾を展開させたアンシュラオンに対して、カブトムシは射撃を行わない。


 この盾の前には無力だと気付いたのだろう。なかなか学習能力の高い人工知能である。



(レーザー自体は珍しくはない。魔獣なら使うやつも大勢いる。この程度ならば楽勝だな)



 レーザーに関しては、撃滅級魔獣の黄金鷹翼〈常明せし金色の鷹翼〉も使っていたので珍しいものではない。


 厄介ではあるが、こうして対策さえ練ってしまえば問題はないのだ。


 最初の不意打ちでアンシュラオンが受けた傷も、ちょっとした火傷程度で収まっているし、すでに自然治癒で回復しているくらいだ。


 直撃したとしてもアンシュラオンの肉体を破壊する力はないらしい。


 といっても、この男の身体が丈夫すぎるだけなので相手からすれば想定外であろう。



(こいつらの戦闘力よりも目的が気になる。明らかにオレを狙っているようだ。警戒はしていたが…サナには向かっていかないしな)



 アンシュラオンには対処可能でも、サナにとってはまだ強敵の部類だ。


 仮にレーザーが向かっても命気足があるので大丈夫だろうが、念には念を入れて守ったほうがいいだろう。


 そう思って自らを盾にしていたのだが、相手の狙いは間違いなく自分のようだ。


 狙いも頭だったし、サナに向けて撃ったのならば高すぎる。



(やつらの目的…か。そういえば『マジン因子』と言ってたかな? それに反応したようだが……ん? マジン…マジン……魔人? 魔人っていえば『災厄の魔人』だな。姉ちゃんを思い出すよ。サナのデータを見る限り、オレも同類にされているようだが…もしやこれは人違いじゃないのか?)



 サナを狙っていないことから想像するに、相手の目的は「マジン因子」ならぬ「魔人因子」を持つ者の排除のようだ。


 そこでまず思い出すのが『災厄の魔人』という異名を持っている姉である。


 なぜかサナのデータ上では自分も『白き魔人』扱いになっているので、意識はしていないが自分も魔人なのだろう。


 しかし、いきなり攻撃されるほど悪名高くはない。


 ホワイトの悪行の報いとして被害者から襲われるのならばともかく、魔人因子を持っているからという理由で攻撃されるのは不愉快である。


 確実に冤罪だ。




 ところでレーザーが効かなくなったカブトムシだが、彼らも黙って見ているわけがない。



 ガコンッ ギュイインッ



 背中の部分が開いて『丸鋸刃まるのこ』が飛び出てくる。


 いわゆる円盤状のノコギリカッターで、ホラー映画で出てきそうなアレである。



 ギュイイイイイイイインッ ガシャン ガシャン!



 前に飛び出たカッターを高速回転させながら突っ込んできた。


 機械兵器と電動カッターの相性はバッチリだが、その無機質な殺意に対して誰もが恐怖するに違いない。アンシュラオンでなければ足が竦むところだろう。


 だが、この男は動きもしない。



 ガギィンンッ ギギギギギリュルルル バチバチッ



 電動カッターが命気盾に衝突。激しい火花を散らす。


 しかしながら、ここで削れているのは彼らのカッターのほうである。


 カッターが何の素材で造られているのかわからないが、ダイヤモンド以上の高い硬度と靭性を誇る命気盾に死角はない。


 見る見る間におうとつが磨り減って平らになっていく。もし刃がダイヤモンドカッターであっても同じ結果になるだろう。



(命気盾は思った以上の強度だ。これは使えるな。作るのが面倒だが今後も有効利用できそうだ。それにしても、このカブトムシも面白い素材ではある。本当は鹵獲ろかくして、使えるのならばオレの物にしたいが…さすがに無理だろうな。今はやめておこう。置き場もないし)



 もし機械まで従えられたら楽しそうとは思うが、この状況では差し控えるべきだろう。


 なので殲滅を優先する。




「さっさと潰すか」



 命気盾をサナの前に残しながら、アンシュラオンが跳躍。


 八メートル以上はある天井の壁をつたって、相手の頭上にまで到達。


 そこから戦気弾を発射。


 ドンッ バンッ


 発射された戦気弾がカブトムシの一匹に着弾。



「…ジジジ…ジジジジジ」



 カブトムシの背中が、カッターの根元ごと戦気弾で吹っ飛んだ。


 だが、まだ少しながら形状を残しており、全壊までは至っていない。



(さっきのロボットとは耐久性が段違いだな。あちらは調査用で、こっちが戦闘用と考えるべきか。戦気の効きが悪いのは気のせいじゃない。こいつらの装甲に何かしらの特性があるんだ)



 戦闘用に発したアンシュラオンの戦気弾を受ければ、最初のロボットのように消滅してもおかしくはない。


 だが、激突の瞬間に幾分かダメージが軽減されたように感じた。


 もしかしたら素材あるいは表面に、特殊なコーティングが施されている可能性がある。



(戦気の効果を阻害、または妨害する方法があるようだな。だが、数発当てれば問題はない)



 ドンドンドンッ ボンボンボンッ


 すかさず追撃を撃ち込み、カブトムシの胴体が完全に消滅。


 他の虫に捕食されて頭だけが残った食べカスのようになってしまった。一発は防げても二発以上は無理なようだ。



「今度はこれだ」



 アンシュラオンは包丁を取り出すと、剣気をまとわせる。


 ズオオオッ ブスッ


 そのまま剣硬気で伸ばして、もう一匹を串刺しにした。


 多少の抵抗はあったが、少し硬い岩程度の感触だったので問題なく突き刺さる。



(剣気で1.5倍された戦気には対応できないようだな。この程度ならば、硬い皮膚を持っている魔獣のほうが数倍厄介だ。とはいえサナでは貫けないだろうから、それなりの硬さではあるが…)



 ズバンッ ボンッ


 二匹目を真っ二つにして破壊。



 剣気の次は直接の剣撃を試す番だ。


 アンシュラオンは天井を蹴って降下接近し、三匹目に包丁をぶっ刺す。


 こちらもほとんど抵抗なく入り込んだ。


 ガギギギッ バチンバチンッ


 せっかくなので包丁を動かして『解体』してみる。動かすたびに装甲が裂かれ、火花が散るが気にしない。



(なんだこれは? 思ったよりメカメカしいわけじゃないな。当然ながら素材は肉ではないが、人間の筋肉に似た造りをしている。人工筋肉というやつか? おっ、中に何かあるぞ。これは…ジュエルか?)



 カブトムシの中は思っていたものとは違って、ぎゅっと何か筋組織のようなもので埋め尽くされていた。


 これはMG(魔人機)にも使われる人工筋肉であり、機械ながら優れた柔軟性と瞬発力を生み出せる逸品だ。


 そして、心臓部分にあったのは『赤いジュエル』である。


 ためしに腕を突っ込んで取り出してみる。



 がしっ メキメキッ ぶちんっ



「ガガガガガッ―――プシューーー」



 ジュエルを取り出したカブトムシが、突然動かなくなった。


 どうやらこれがエネルギー源らしい。



「造りは普通の生物と同じだな。それが機械の部品になっただけか。どうせ作るならもっと強くすればいいのにな」



 たいした価値があるようには見えなかったので、ぽいっとアンシュラオンがジュエルを投げ捨てる。


 しかしながらこの機械に詰め込まれている技術は、実はとても貴重なものである。


 現在ではWG《ウルフ・ガーディアン》と呼ばれる特別な組織しか扱えない高度なもので、希少性は相当なものとなるはずだ。


 今の時代に、こんな前文明の機械が手付かずに残る遺跡は珍しい。それだけでも遺跡の価値が数段引き上がる。グラス・ギース自体にも価値が生まれるだろう。


 だが、アンシュラオンにとっては無価値だったにすぎない。単に「うざい機械虫」としか思っていない。



「拳はどうだ?」



 シュッ ボゴンンッ!!



 アンシュラオンの拳が四匹目に激突。あえて衝撃を内部に伝えなかったので、ピンボールのように吹っ飛んで壁に激突。


 その装甲は大きくひしゃげており、人間に踏まれた虫のような状態になっている。


 戦気に対しては防御特性があるらしいが、物理防御は得意ではないことがわかる。



 ギュイイイインッ



 四匹目を殴ったアンシュラオンに、五匹目がカッターで攻撃を仕掛ける。


 今度はあえてくらってみることにした。



 ガギンッ ババババババババババッ



 アンシュラオンの肩にぶつかった丸鋸刃が火花を散らす。


 しかし、戦気を強化しているアンシュラオンには通じない。むしろ戦気に負けて刃が焼き消えていく。



「やはり機械か。戦気による強化がなければ、普通の武器ではこんなものだな。いいか、ガラクタ。戦気ってのは人間の可能性なんだよ。それがこんな機械の刃で―――潰せるものか!!!」



 ゴスンッ!!



 アンシュラオンの拳が、真っ直ぐにカブトムシの腹にぶち当たる。


 それは四匹目を殴った時のように派手ではなかったが―――



 ドガシャッーーーー!!



 直後、衝撃が相手の体内で炸裂し、人工筋肉やジュエルをぶちまけながら爆散した。


 これが力を内部に伝える【本物のパンチ】だ。


 派手な音はしないが確実に相手を滅殺するための殺人拳である。


 まあ、相手は機械なのだが、伝わったエネルギーは必ずどこかに向かわねばならない法則なので、こうして同じ結果になるわけだ。



「サナ、これが本物の…」



 と、アンシュラオンがサナに本当の拳を見せていたとき、六匹目がサナのほうに向いた。



「ピピピッ? ガガガガッ…ピピピッ」



 何やら六匹目がサナに対して反応している。


 それから尖端を彼女に向けた。


 尖端を向けたということは攻撃の意思を示したということだ。




 それに対し、ただでさえ不快感が残っているアンシュラオンは―――キレる。





「てめぇ…オレのものに何してやがるうううううううううう!!!」





 ブオオオオオオッ


 アンシュラオンの戦気が一気に巨大化し、より濃密なものとなる。


 ゾワリ、と内部にある怖ろしい何かが顔を覗かせた。



「ピピピッ!! 因子急速増大! 危険、危険! 人類滅亡可能性、1.2%上昇! 即刻抹消―――」


「死ね!!!」



 アンシュラオンの掌に巨大な戦気の塊が生まれ―――



 ズオオオオオッ ボシュンッ



 六匹目が強大な力に飲み込まれて消失。


 グランハムを殺した覇王滅忌濠狛掌はおうめっきごうはくしょうである。


 あまりの威力の強さに空間が歪み、その力の奔流に触れた複数のカブトムシの残骸が消失してしまうほどだ。



 こうして殲滅完了。



 恐るべき機械兵器とはいえ、アンシュラオンの前ではまったく無力である。



「ふん、機械程度がオレのサナに色目を使うんじゃない。しかし、こいつらは何だったんだ? まったく、いきなり最低の気分だ。もっとよく調べたいが、まずは先に進むほうが優先だな。状況確認を最優先にしよう。サナ、行くぞ。周囲の警戒を怠るな」


「…こくり」



 カブトムシの残骸が転がる中、アンシュラオンは次の扉の前に立つ。


 もしこの機械を操っているやつがいるのならば、相応の返礼をしなければならないだろう。



 ウィーーンッ ブシューーー



 二人は扉を開けて、先に進んだ。




 ただこの時―――まだ機械虫の一体はわずかに機能を維持していた。




 そのモノアイが去り行くサナを捉える。




「…ピピ…ピピッ……ピピ、…マジン因子……確認。推定覚醒率……0.122223%。危険度低。…要監視対象。……ピピッ………プシューー」




 そして、そのまま機能を停止した。



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