339話 「衛士隊 VS ソイドファミリー 後編」


「こいつっ!! これでもくらえ!!」



 それを見た衛士が、バズーカを持ってビッグに向けて発射。



 ヒューーーンッ ボンッ



 炸薬弾がビッグに直撃。


 普通は人間に対してバズーカを撃つという選択肢はあまりないが、相手がソイドファミリーの武人だと理解しているので躊躇はない。


 そして、撃たれた側の様子を見れば、その躊躇のなさも頷けるものだ。


 モクモクと舞い上がった煙が晴れると―――



「…いってぇ…な!! いきなりそんなもん、ぶっ放すんじゃねえ! つーか、なんだそりゃ? 派手なわりにあまり強くねぇな」



 ビッグはバズーカを片手で受け止めていた。手の平が多少黒ずんでいるが、ほとんどダメージはない。



「なっ! 効いていない…のか!?」


「効いたさ。痛いって言っただろうが。だが、【師匠】の一撃のほうが何倍もやばかったぜ!! こんなふうにな! おらぁあっ!!」


「う、うわあああっ! ごばぁっ!?」



 バズーカを撃った衛士は、ビッグの反撃の拳によって一撃でダウンする。


 貫通弾同様に炸薬弾とて脅威ではない。武人の肉体そのものが一般人とは違うし、戦気で数倍の防御力に膨れ上がるからだ。


 実際アンシュラオンも戦艦の砲撃をたやすく防いでいる。術式弾でなければ、通常の火薬を使ったものであってもダメージがほとんど通らないのである。


 この程度の炸薬弾ならば、ヤドイガニ亜種師匠の強烈な薙ぎ払いのほうが数十倍は強烈だ。


 もともと一般人と比べれば強かったビッグであるが、陽禅流の修練を積んで一回り強くなったらしい。あの地獄と比べるとすべてが生温く思えてくる。




「どけどけどけええええ! リトルはどこだ!!」



 ビッグたちは衛士隊の囲いを突破し、リトルを探す。



「若頭! あそこに拘束されています!」



 しばらく進むと、武器などが積まれた馬車の荷台に縄で縛られているリトルを発見した。


 その様子を見た『家族想い』のビッグは激怒し、猛然とダッシュ。



「てめぇら! 俺の弟に何しやがる!!」



 バキッ ドガッ



「ぐえっ!?」



 周りにいた衛士を殴り飛ばして弟を奪還。


 縄を解き、肩を揺する。



「おい、リトル! 無事か!! 俺だ! ビッグだ!!」


「う、ううん…に、にい…さん? いたっ…頭いたっ…」


「俺が来たからには、もう大丈夫だぞ! 何があった?」



 なんと頼もしい言葉だろう。こんなに格好いい台詞を吐ける男だったとは意外だ。


 弱い連中には強気。それがビッグという男である。



「うう…助かった…! よくわからないけど……なんか急に衛士がやってきて…工場を…」


「衛士が? なんでだ!?」


「訳がわからないよ…もう滅茶苦茶だ」


「そうか…。お前は安全な場所でゆっくり休め。俺が送り届けてやる」


「で、でも、工場が…僕の大切な工場が…! ニャンプルちゃんもいるのに…」


「この状況じゃ、どうしようもない。もうかなりヤバイことになっていやがる。非戦闘員のお前がいたんじゃ危ないだけだ。一度下がるしかないだろう。大丈夫だ。もうすぐ『あの人』がやってくるからな! 安心しろ!」


「…うん、そうだね。…任せるよ……がくっ」



 兄が来たことで安心したのか、また気を失った。


 これほどまでになってもニャンプルを心配するとは、リトルもなかなか気骨のある男だ。


 ニャンプルはもういないが。



「俺は一度下がる。この場は任せるぞ!」


「わかりました。お気をつけて!」



 弟を担いで、ビッグは一度騒動の場を後にする。


 自分がいなくなっても大丈夫だという確信があるからだ。






「ええい、何をやっている! まだ鎮圧できないのか!!」


「それが…相手はかなり手ごわく!」



 有利だった展開から一転して、再度劣勢に陥ったため、ミエルアイブが苛立ち始める。


 特に増援でやってきたソイドファミリーの中級構成員が厄介だ。


 明らかに工場の作業員とはレベルが違うし、衛士たちを次々と倒していく。



「ここで奪い返されたら意味がない! これでは領主様に怒られるではないか! というかファテロナ侍従長はどこに行ったのだ! 武人の相手はあの人の役目だろうに!」


「お姿が見えません!」


「ああ、もうっ! 煽るだけ煽って、あの人は! もういい! 戦車と速射砲を使え!」


「よ、よろしいのですか? あれは対艦用ですが…」


「やつらを見ただろう! あれが武人なのだ! 普通のやり方では止められん! それに対抗するための戦車であろう! 領主様のご命令だ! 我々に怖れるものはない! 今こそディングラスの御旗を掲げよ!」


「了解しました!」



 戦車の主砲や速射砲は対人ではなく、対戦車や対艦、あるいは大型魔獣を撃退するために存在するものだ。


 今回持ってきたのは実際に使うためではなく、壁の強度チェックや威圧のためである。領主としても本気の戦争を想定して持っていかせたわけではない。


 が、一度ヒートアップした流れは止められない。


 特に激しい戦いに慣れていない衛士隊は、極度の緊張状態に晒されると現実感がなくなって平静を失うものだ。そこで凶行に及んでしまう。


 下手をすれば城壁内部で内戦の勃発であるが、もうこのまま突っ走るしかない。




 キャタキャタキャタキャタ



 ミエルアイブの命令で戦車が動き出す。


 ウィーーンッ


 砲身が工場に向けられ、今度は本当に当てるために照準を定める。



「でかいもん持ち出しやがって! 潰してやれ!」



 それを見たソイドファミリーの中級構成員が戦車に向かっていく。


 戦車砲は直射とはいえ、近距離での対人使用には向いていないので、このままでは当たらないだろう。動きも丸見えだ。


 一般人では傷を付けるくらいが精一杯の装甲も、彼らが一斉に飛びかかれば労せず破壊することができるかもしれない。


 周囲に味方もいるので走り回ることも難しく、この状況での戦車は圧倒的に不利である。



 が、これは囮。



 ウィーンッ



 その構成員を狙って速射砲が照準を定めていた。


 この速射砲は最初に述べた通り、大破した駆逐艦から引っこ抜いたスクラップ品であるが、砲身を強引に半分に切り取ってあるため、比較的短い距離にも対応できるようにした改造品となっている。


 そのせいで威力と命中精度が相当落ちているが、従来の速射砲のように角度をつける必要がないので、戦車砲と同じく直射することが可能である。


 また、命中率が悪いことも相手が武人ならば案外悪いことではない。


 もともと素早い武人たちである。狙いすぎてしまえば射線を読まれ、簡単に回避されてしまうのだ。



 なので、かなり狙いをラフにして―――発射。



 ドンッ ドンッ ドンッ



 地球での速射砲は、一分間に四十発程度の弾を発射するものを指すことが多い。こちらも同じような機構で造られているので性能は似たようなものだ。


 この速射砲の場合は、一秒間に一発発射という性能なので、リズム良く撃ち出すことができる。



 ドバーーーンッ!!



 まずは一発目が着弾。


 予想通り、速射砲は構成員には当たらない。全員が避ける。


 しかし、地面にぶち当たった砲弾が激しい土砂を巻き上げ、彼らの行く手を塞ぐ。



 続いて二発目が着弾。


 今度は構成員をかすめるようにして、工場に命中。


 ドーーーーンッ


 工場の外壁が吹っ飛ぶ。命中箇所に大きな穴を穿ちながら、それ以上に大きな破壊痕を残す。



 続いて三発目が着弾。


 工場に当たったことで注意散漫になった大柄な構成員の男に命中。


 ドーーーーンッ



「ぐおおっ!!?」



 肩に当たった構成員が押され、吹っ飛んだ。


 そのままゴロゴロと転がっていく。



「ぐっ…! 肩が…!!」



 直撃した構成員を見ると、鎧の肩の部分が破壊され、肉が抉れて骨が剥き出しになっていた。骨も折れているようだ。


 だが、十センチ大の砲弾が当たったことを考えると、想像を絶する防御力である。


 速射砲の砲弾は一メートル近い長さがあるので、炸薬量も多い。常人ならば粉々に吹っ飛ぶところである。


 こんな連中がウヨウヨいるのだ。実に怖ろしい世界だと改めて痛感する。


 しかし、貫通弾が効かなかった彼らにも確実にダメージを与えられることが立証された。これは非常に大きな意味を持つ。




「いいぞ! 撃て、撃てぇえええ! 撃ちまくれ!!」



 ドン ドンッ ドンッッ!



 速射砲はそのまま撃ち続ける。それに加えて戦車も距離を取り、主砲を工場に向けて撃ち込んでいく。


 工場を奪還したいソイドファミリー側としては、これはあまり好ましくない状況だ。


 放っておけば工場が穴だらけの廃墟になってしまう。かといって正面から阻止するのは難しい。


 撃ってくるのは砲台だけではない。衛士たちも銃弾を撃ち続けて妨害してくる。


 戦気でガードすれば防げる貫通弾であるが、逆に言えば戦気を使わねば危険なのだ。常に防御を気にしていなければならない状況では、今度は攻撃が疎かになる。



 衛士隊の強みは、やはり【数】だ。



 こうしている間も衛士隊の増援部隊がやってきていた。数の差は広がっていく。


 総勢三十人(バッジョーが死んだので二十九人)のソイドファミリーに対し、衛士隊の総数は外周を含めれば三千人近くなり、上級街だけでも五百人以上はいるので数だけは多い。


 産業が少ないグラス・ギースでは、仕事がない男性が衛士になることが多く見受けられる。


 地球のアメリカなどでも、能がなく他に職がない者の最後の行き場所が軍隊、といわれるほどである。このグラス・ギースでも能力の有無にかかわらず、数だけはそろえるようにしてある。


 それゆえに武人の総数は極めて少ないのだが、武器が整えば戦力になることは立証済みだ。


 時折、術符での攻撃も飛んでくるので、上級衛士たちも本気で工場を潰すつもりのようだ。



 こうなるとソイドファミリーの構成員であっても、工場を盾にして篭城するしかない。


 入り口に滑り込むように退避すると、半数を工場内の奪還に回し、残りの三人で迎え撃つ形を作る。



「これでもくらえ!」



 ポイッ ころころっ ドーーーンッ!!


 構成員の男が大納魔射津を放り投げる。


 衛士たちは慌てて逃げたので、爆発は速射砲を上手く巻き込んだ。


 しかし、さすがは戦艦のパーツである。耐久力だけはかなりあるので、これくらいの衝撃では壊れることはなかった。振動で照準が狂った程度だ。


 やはり三人、しかもこの距離からでは応戦は難しいことがわかる。



「くっ、仕方ない。こうなれば『特攻』を仕掛けるしかないな。懐に入れば打開できる可能性は高まる」



 犠牲を覚悟で突っ切って、速射砲と戦車を破壊するしかない。


 もしかしたら誰か死ぬかもしれないが、途中でバッジョーの死体を見た彼らは覚悟を決めていた。


 これは本当の戦いなのだと。殺し合いなのだと。




 これは本物の―――【抗争】なのだと!!




 戦いのきっかけは何でもよい。溜まっていた不満が爆発することに理由はいらないのだ。


 もともと多くの問題を抱えている都市だ。マキやソブカのように不満を溜め込んでいる者も大勢いるだろう。


 いつどこで爆発してもおかしくない。今回の原因が、たまたまベルロアナだっただけのことである。


 一方のラングラスとて、ディングラスに対して不満がないわけではない。


 こうして攻撃を受ければ、四大市民の中で一番下に追いやられている彼らも大きな怒りを覚える。


 なぜかソイドファミリーだけを一方的に攻撃しているのだ。リトルのように怒らないほうがおかしいだろう。



「いくぞ! 俺が先に出て盾になるから、お前たちが砲台を叩け。組のために死ぬことは名誉だ。喜んで死のう!」


「…わかった。あとは任せろ」



 彼ら構成員も家族意識が強い面々である。ソイドファミリーに拾われた恩は忘れない。


 三人は死ぬ覚悟を決める。




 ドーーーンッ!




「今だ!」



 そして戦車が主砲を発射し終え、一瞬の隙が生まれた瞬間に飛び出す。



 ドォオーーーーーーーンッ!!



 だが、彼らが飛び出た瞬間に再び大きな音がしたため、思わず足が止まってしまう。


 このタイミングでは予想外のことだったからだ。誘いだったかと思い、防御を固めた。


 しかしながら砲弾が彼らに迫ることはなかった。




 むしろ―――逆。




 ドーーーンッ ドーーーーーンッ




「うわああああああ!!!」


「ぎゃああああああ!」



 音がするたびに衛士側の陣営で叫び声が響く。


 それと同時に大勢の衛士が、まるで紙ふぶきのように宙に舞っていくではないか。


 何かが衛士隊の間を移動しながら、彼らを吹き飛ばしているのだ。


 その状況をミエルアイブも把握する。



「なんだ! 何が起こった!!」


「わ、わかりません! なぜか急に空を飛んで…」


「馬鹿者! 人が空を飛ぶか!! しっかりと報告せんか!!」


「す、すみません!!」


「まったく、何が―――ぐぎゃっ!!」



 油断したミエルアイブが上から降ってきた衛士に押し潰される。


 絵本やアニメではないが、いつ空から豚が降ってくるかわからないものだ。人だって降ってくるかもしれない。注意を怠ったミエルアイブが悪い。



「ええい、どけ! 何があったのだ!」



 さすがミエルアイブ。身体だけは頑丈だ。下手をすれば骨折ものの衝突でもピンピンしている。


 そのミエルアイブが衛士を押しのけ、騒動が起こっている方向を見る。


 すると、衛士たちを蹴散らした者の姿が、ようやく確認できた。





「こんな玩具まで持ち出すとは…どういうつもりだ」





 そこにいたのは、ソイドビッグに似たソフトモヒカンの男。


 いや、逆だろう。ビッグが彼に似ているのだ。



 なにせ彼は―――






―――ソイドダディー






 なのだから。


 ソイドファミリーを怒らせればダディーがやってくる、とは有名な脅し文句だ。


 「熊の子供を襲うと親が仕返しにやってくる」のような言葉だが、まさにその通りのことが起きたのだ。


 子供の喧嘩に、ついに親が参戦である。



「げ、げぇえええ!! ソイドダディー!!!」


「てめぇ…その髭、たしかミエルアイブだったな。俺の組に手を出すとは、どういうつもりだぁああああああああああああああああああああああああああ!!」


「ぬぐうううっ!!」



 ビイイイイイインッ!!


 その恫喝に思わずミエルアイブが耳を塞ぐ。


 大きな声以上に威圧感が凄まじい。声で殴られたような気分である。


 怖い。非常に怖い。ビッグとは比べ物にならない存在感だ。これが成長した親というものだろうか。


 だが、ミエルアイブも遊びでここにいるわけではない。



「ええい! 怖れるな!! ソイドダディーもひっ捕らえろ!!」


「ああ? てめぇ、面白いこと言ったな、こら。やってみろ!!」


「う、撃て!! 戦車でも速射砲でもいい! 撃て撃て!!」


「りょ、了解です!」



 ウィーンッ


 速射砲がダディーを狙う。


 が、彼はそれを棒立ちで黙って見ている。よくドラマである「撃つなら撃ってみろ」状態である。


 ただし、彼の場合はハッタリではない。



 ドンッ ドンッ!!



 速射砲が発射。二発の砲弾がダディーに向かう。


 命中率が悪いので一発はダディーから逸れていくが、彼はあえてそれを―――殴る。



 グシャッ ドンッ



 飛んでいる砲弾を殴り、破壊。粉々になって消滅。



 続けて二発目の砲弾が迫る。今度は身体を捉えている。



 それに対しては―――掴む。



 バシッ ボンッ



 彼に掴まれただけで砲弾は跡形もなく消えていた。ビッグのように手の平も黒くなっていない。


 身体を覆う戦気が強すぎて砲弾のほうが消失してしまったのだ。さきほど速射砲の一撃で肩が抉れた構成員とは、明らかに格が違う。


 ダディーは手をパンパンとはたきながら、ミエルアイブを睨みつける。



「なんだよ、この玩具は? まさかこんなもんで調子に乗っているわけじゃないだろうな? ええ、おい!!」


「ひ、ひぃいい! 撃て、もっと撃て!」



 ドンドンッ ボンボンッ


 何度撃っても結果は変わらない。


 ダディーは迫り来る砲弾をすべて軽々と破壊し、ゆっくりと速射砲に近寄る。



 そして間合いに入ると拳を握り、虎破。



 グシャッ



 拳が大納魔射津にさえ耐えた装甲に入り込むと―――



 ボォオオオオオンッ



 力が砲台を突き抜け、殴った逆側が大きく破裂。速射砲は傾き崩れ、一瞬にして再びスクラップに成り下がった。





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