338話 「衛士隊 VS ソイドファミリー 中編」


「貴様ら、ソイドファミリーに喧嘩を売って、ただで済むと思うな!!」



 バッジョーが『押入れ君』を起動。拳まで覆った手甲と、頭や胸などをガードするための軽鎧が出現する。


 その姿をたとえるならば、某漫画の『聖衣クロス』のようなものだろうか。


 ごちゃごちゃしたものではなく、ブロンズな方々が着るようなシンプルなデザインだ。


 バッジョーはべつにコスプレをしているわけではない。これは戦士にとっては一般的な武装である。


 こういった鎧は重要な箇所だけを守るので可動域を阻害せず、戦場を軽快に動き回る戦士に最適な装備となる。


 特殊な能力が付与されていれば、それだけで戦闘力も上昇するので、むしろ何も装備しないアンシュラオンのほうが珍しいのだ。


 バッジョーが装備した手甲には攻撃力上昇効果があるため、これで彼の拳がさらに強化されることとなるだろう。



「おおおっ!!」



 武装したバッジョーが衛士隊に飛びかかる。



 ドガドガッ バチバチバチッ



「ぎゃっ!!」


「ぐええっ!!」



 再び雷猖拳を放って、次々と重装備の上級衛士たちを叩きのめしていく。



(衛士隊の主力は重装甲のやつらだ。どこで仕入れたか知らんが、これがやつらの強気につながっているはずだ。馬鹿なやつらめ。いくら装備を仕入れても、普通の人間が武人にかなうものか!)



 弱い人間でも装備すれば強くなるのが武器や防具である。


 衛士たちも今までになかった高性能品を手に入れて舞い上がっているのだろう。


 その気持ちはわかる。誰であれ銃を持てば自分が強くなった気がするものだ。


 しかしながら、この世界には『武人』と呼ばれる【武の権化】たちがいる。


 彼らは戦うために力を覚醒させた存在である。そんな彼らにとってみれば、武器はあくまで道具にすぎない。


 もともとが強いのだ。風龍馬のギロードのように魔獣が武器を持ったと思えばいいだろう。



 そうなれば―――鎧など役立たず!!!




「ぬんっ!! はっ!!」



 ドガッ バキンッ



「ぐえっ!!!」


「ぐあああ!」



 たった一人の武人の出現によって、重装備の衛士隊が押し返されていく。


 気絶したリトルから遠ざけるためにも派手に暴れ、衛士たちを引き付ける。



「武人には一人で向かうな!! 銃で対応しろ! 貫通弾を使え!」



 衛士隊も即座にこれに対応。DBDから仕入れた『貫通弾』を装填する。


 ザ・ハン警備商隊が『爆炎弾』や『雷撃弾』などの術式弾を使っていたが、こちらの『貫通弾』は文字通り回転速度を上げた重金属製で、鋼鉄の盾や装甲ごと相手をぶち破るという物理重視の弾丸となっている。


 西側では軍用として一般的に使われるものであり、何十発も撃ち込めば戦車の装甲さえ破壊できる威力がある。


 その貫通弾を装填した、こちらもDBDから仕入れた金属製のライフルを持った部隊がバッジョーを狙う。


 普通の人間相手ならば躊躇するところだが、相手が武人ならば遠慮する余裕はないのだ。



「撃て!!」



 バンバンッ


 DBD製は、発砲音が違う。明らかに炸裂音がしている。


 その理由は風のジュエルと一緒に【火薬】も使っているからだ。


 ジュエルだけだと威力に偏りが生まれるし、重い弾丸を撃ち出すことには向いていない。そういう場合は地球と同じように火薬をもちいるのである。


 これも地球から持ち込まれた技術が使われているので、機構が似るのは当然のことだろう。



「ぬんっ!!」



 バッジョーは戦気を展開してガード。


 ガンガンガンッ ガンガンガンッ


 重い金属同士が衝突するような音が響く。


 見ると、バッジョーは手甲と鎧ですべての貫通弾を防いでいた。多少鎧に凹みがある程度で貫通はしていない。



「な、なにっ!! なんてやつだ!! 演習では岩も貫通したのに!」


「岩ごときと一緒にするな!! 消えろ!」


「ぐあっ!」



 バッジョーが修殺を放つと、その衝撃波でライフルを持った衛士たちが吹っ飛ぶ。



(戦気が込められていない弾丸など、怖れるものではない!)



 そう、いくら貫通弾が強いとはいえ、普通の弾丸では武人に通用しない。


 これでなぜ軍隊の大半が武人で構成されているかがわかっただろう。


 アンシュラオンがやったように戦気で強化すれば脅威となるが、一般人が使っても効果は限定的なのだ。相手が同じ一般人でないと効果は薄い。



 かつての覇王の名言に『武人に対抗できるものは武人のみ』というものがある。



 武人そのものが究極の兵器である。覇王ともなれば戦術核でも傷一つつかないこともある。精神エネルギーが強すぎて物質の領域を凌駕するからだ。


 ならば、そんな化け物に対抗できるのは、同じ化け物の武人だけなのだ。まさにその至言を思い知る瞬間である。


 なおかつ彼は、ソイドファミリー全体の中でも上位クラスの実力者だ。


 資質はそこまで高くはないが、経験値も含めればソイドビッグより上だろう。


 戦闘力のないリトルのために、ダディーがわざわざ指名して側近にさせたくらいだ。強いのは当然である。




 バッジョーの奮闘によって、だいぶ工場側が盛り返す。



 ただし、この戦場には彼を超越する【悪魔】がいることを忘れてはいけない。




「うふふふ」


「っ―――!!!」



 スパンッ


 バッジョーが背後に気配を感じた瞬間、喉に強烈な違和感が走った。


 ピピピピッ


 皮膚が切れる音が彼自身にも聴こえた。しかし、それは切れた部分のごくごく一部だけが強調されたものにすぎない。


 そのまま『赤い線』に沿って喉がぱっくりと割れ―――



 ブシャーーーーーッ



 大量出血。


 ドバドバと地面が赤に染まっていく。



「ごっ…ごっ…!! きざま……」


「うふふ、闇の中では真後ろにお気をつけください。どこに暴漢が潜んでいるかわかりません。ああ、怖い、怖い」



 振り返ると、そこには暗殺用のナイフを持ったファテロナがいた。


 ナイフには、べっとりと赤い血が付いている。



「こ…のっ!!」



 バッジョーはそれでも反撃しようと動くのだが―――



「ひーーー、暴漢だーー! 暴漢がいるぞーーー! ウヒーーー!! 逃げろー!」



 ブスッ


 ファテロナが奇声を発しながら、背中からずっぷりとナイフを心臓に突き立てた。



「うぐっ―――! リトル様…申し訳……」



 ばたん


 なすすべもなくバッジョーが死亡。


 あれだけ強かった武人が一瞬にして殺される。




―――武人に対抗できるのは武人のみ




 バッジョーよりもファテロナのほうが強い。それだけのことであった。


 これだけの相手の背後をいとも簡単に取り、戦気で防御されているはずの喉や背中をあっさりと貫く。並大抵の腕ではない。


 ファテロナや狐面など、アンシュラオンと戦った暗殺者はあっさりと敗北しているが、実際はこれほど怖ろしい存在なのだ。


 ただただアンシュラオンが強すぎるだけである。あの男と戦うと誰もが雑魚に見えてしまうから困る。



「お役目とはいえ、つまらないものです。お嬢様を見ているほうが何百倍も面白いのですが…仕方ありませんね。クビにされては堂々と遊ぶこともできませんし。もっと強い御仁が来るまで、静かにお待ちするといたしましょう」



 ズブブブッ


 再びファテロナが影に消えていった。





 工場側の最大戦力だったバッジョーが殺され、形勢は徐々に数で上回る衛士隊に傾いていく。


 さきほどは武人の重要性を説いたが、お互いに武人を擁しないとなれば、物を言うのが数と装備の質である。


 剣道三倍段ではないが、素人でも武器を持てば有段者に勝つことができる。それだけ武器は有用なのだ。


 また、数の暴力と呼ばれるだけあって、人数差は極めて重要だ。どんな力持ちでも、相手が三人もいれば綱引きで負けてしまうだろう。


 それほど露骨なのだ。数で勝る衛士隊が一気に押し込むのは当然の結末だろう。



 ドドドドドドドッ



「行け!! 工場内に突入しろ!」


「ちくしょうっ! 支えきれねぇえ!! こいつはやばいぞ!!」



 リトルとバッジョーの退場も響き、次々と衛士たちが工場内に突入を開始する。


 この流れはもう止められない。



「動くな!! この場は衛士隊が制圧する!!」


「ひっ、う、撃たないで!!」


「手を頭の後ろに置いて並べ! 動いたら撃つぞ!」


「は、はい!」



 まずは製造ラインを制圧。その場にいた女性の作業員たちを拘束する。


 彼女たちはシャイナ同様、借金のカタでこの工場で働かされている者たちである。


 売人は襲われる危険が付きまとうので、工場内作業を希望する者もいるわけだ。多少のセクハラに我慢できれば、その選択肢も悪くはないだろう。


 それは衛士たちもわかっているので乱暴な真似はしない。拘束して終わりだ。



「奥に行くぞ! 在庫があるはずだ!」



 さらに麻薬の在庫分を確保するため、四名の衛士たちが銃を持って奥に進んでいく。



「倉庫を発見! 敵はいません!」


「二人は増援が来るまで、ここで待機! 向こうは我々が調べる!」



 そのままの勢いで在庫がある倉庫を発見。コシノシンや劣等麻薬を押さえる。



 二人を監視として倉庫に残し、隊長を含めた二人はさらに奥に進む。


 すると、そこには施錠された怪しい鉄製のドアがあった。



「なんだここは? 頑丈な造りな扉だな」


「隊長、中に何か…人の気配が」


「むっ! 敵か?」


「わかりませんが、人の呻き声がします」


「バールで開ける。注意しろ!!」


「はっ!」



 部隊長が慎重にバールで扉をこじ開けていく。


 メキメキメキィッ バゴンッ


 扉の鍵が壊され、やや重い金属製の扉が開いた。




 注意深く覗くと、そこには―――【例の芋虫】がいた。




「女性です! 縛られています!」


「なにぃい! あいつら、人身売買にまで手を染めてやがったのか! なんたる悪党どもだ! 解放してやれ!」


「お嬢さん、大丈夫ですか!!」


「…むぐっ…むぐぐうっ!」


「大丈夫。今助けますよ!」


「ぷはっ、はーーはーー! ぢ、ぢぬがどおぼっただぁぁ…」


「かわいそうに。こんな汚れた顔になって。まるで野良犬みたいじゃないか」



 衛士が縛られているシャイナを解放する。


 猿轡さるぐつわを外してもらったシャイナの顔は、涙とよだれでぐしゃぐしゃで、まさに野良犬といった様相である。


 ただし、顔の汚れは昼間乞食をしていたからであり、特に同情する必要性はない。



 ここまではいい。



 衛士隊が突入したのだから彼女が見つかるのは自然なことだ。


 しかし、ここからマドカの末路を含めて『奇妙なこと』が起こる。



「大丈夫ですか? お名前は?」


「え、えど…えーど、なばえは……じゃびなでず…です」



 長時間、臭い手ぬぐいで口を塞がれていたためか舌が半分麻痺しており、もう感覚がほとんどなかった。


 そのため非常に滑舌が悪くなっている。自分の名前も正確に発音できないでいた。


 だが、そうした事情を知らない衛士は、そのままの意味で受け取る。



「ジャビナデズさんですか? ちょっと意外な…男性的なお名前ですね。どうしてここに?」


「売人のおどごに…づがまって……売られそうになって…」


「むっ、隊長! やはり被害者でした! お名前はジャビナデズさんです!」


「マングラスの領分にまで手を染めるとは、ソイドファミリーも危ない真似をするもんだな。おおかた外から来た難民か移民だろう。その娘はお前が保護して詰め所まで連れていけ」


「了解です! もう大丈夫ですよ。我々が護衛しますから」


「はー、はーーー、あれ? なんか…よくわからないけど……助かるの? よ、よどじぐおねがいじまずーー! だずけてー!」



 なんたる奇跡だろうか。


 マドカの計画がなければシャイナが衛士隊に捕縛されていただろうし、こうして閉じ込められねば被害者と思われることもなかった。


 身分証もないので正確な名前はわからない。こんな施錠された部屋にいたのだから、難民の女でもさらってきたと思っても仕方ないだろう。


 シャイナの普段の行いが良いとは思わないが、こうした幸運が重なって無事保護されることになる。


 彼女はその後、この争いの混乱に乗じて事情聴取が行われる前に抜け出し、ホロロがいるホテルに逃げ込むことになるのである。




 と、それは置いておき、この騒動の続きである。




 工場がほぼ制圧され、シャイナが連れ出されたタイミングで、ようやくソイドファミリー側の援軍が到着する。




「なんだこりゃ! どうなってやがる!!」



 そこに現れたのは―――ソイドビッグ。



 麻薬の原材料であるコシシケの第二期の刈り入れ調整のために戻っていた彼は、バッジョーの救助要請に応えて駆けつけたのだ。


 実家の倉庫区も近いので、たいした時間もかけずにやってくることができた。


 だが、さすがの光景にわが目を疑っているようだ。



「衛士隊がどうして…何が起こってやがる!」


「若頭、工場が! もうかなりヤバイことになっているようです!」


「ちぃっ! 考えている暇はねぇ! リトルたちの救助が先だ! いくぞっ!!」


「おおおおおおお!!」



 ビッグと配下の中級構成員六名が衛士隊に雪崩れ込む。


 ちなみに側近のジェイは現場管理のために第三城壁内の畑にいるので、ここにいるメンバーはダディー直轄の面子である。


 だから、とても強い。



「どけええええ!!」



 バキィイッ! ドゴンッ!!


 ビッグたちは立ち塞がる衛士たちを殴り飛ばす。


 装甲服を着ていてもその勢いは止められず、次々とふっ飛ばされていく。



「おらおら! ソイドファミリーのお通りだああああ!」



 中級構成員たちも元レッドハンターたちなので、遠慮なく戦気を出して衛士隊を蹴散らしていく。


 バッジョーに近いレベルの者が、ビッグを含めて一気に七人増えるのだ。これでは衛士隊はたまらない。


 しかも緊急事態ということは伝わっているので、すでに武装済みである。


 ある者は手甲で殴り、ある者は剣で切り裂き、大きな棍棒でまとめて吹っ飛ばす者もいる。


 使っているものは原始的な近接武器だが、武人が使えば恐るべき兵器となる。


 そして、このレベル帯となればビッグも活躍できる。



「ソイドファミリーの戦闘構成員が来たぞ!! 数を増やせ!」


「てめぇらなんぞに止められるかよおおお!!」



 ビッグが肩から体当たり。


 バッゴーーーンッ ドガシャッ



「ぐえっ!」



 交通事故かと思うような衝撃に吹き飛ばされ、衛士が置いてあった速射砲に当たって気を失う。




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