311話 「プライリーラとの別れ」


「サナは可愛いなぁ…うっとり。さわさわ、なでなで。お肌もつるつるだねぇ。はぁ、綺麗だねぇ…可愛い、可愛い」


「………」



 アンシュラオンは命気風呂に入っているサナを触りまくる。


 この三日間、ほとんどの時間で入っていたので、お肌はつるつるで非常に瑞々しい。


 まだ子供なので肌自体もぷにぷにかつ、さらさらだ。ずっと触っていても飽きない。



「やっぱりサナが一番可愛いよな。こんな可愛い子は世の中にいないよ」


「アンシュラオン、それを私の前で言うのかね?」


「だって、事実だからしょうがないんだよ。サナが一番だ。ちゅっ、ちゅっ、ぎゅっ」



 サナの頬にキスをしながら優しく抱きしめる。


 離れていた間はずっと焦燥感を感じていたので、こうして一緒にいられる時間がとても愛しいのだ。



「まったく…人にこんなことをさせておいて…子供とはいえ他の女性を可愛がるとは。んっ…んんっちゅっ。私に対して何か言うことはないのかね?」



 プライリーラは、アンシュラオンのマイボーイの奉仕をさせられている。


 簡単に言えば、お口でしている、ということだ。


 そんなときに他の女性に意識が向けられていれば嫉妬するのは当然だろう。



「うーん、そうだな…。プライリーラってさ、お尻の穴が綺麗だよね」


「っ…! さすがにそれはデリカシーがないとは思うがね」


「褒め言葉なんだけどなー。だって、うちの(シャイナとかいう)飼い犬なんてけっこう黒いしね。そのあたりは生活環境なのかもしれないけど…今度徹底的に洗おうかな?」



 べつに黒いから悪いというわけではなく、単なる色素の問題なのだが、それを気にする女性もいるにはいるだろう。


 これはグラス・ギースのトイレ事情が影響している部分もあるはずだ。


 水で洗えればよいのだが、質の悪い紙などで拭いていると色素沈着が起こる可能性も高くなる。


 要するに貧乏人は悪いものを、一方で金持ちのお嬢様は良いものを使っているので、そっちも綺麗だということだ。まさに格差社会が尻にまで表れた例である。



 そこで命気の出番だ。



 命気は細胞を分解構築できるので、その気になればいつでも尻周りを白くすることができる。



「オレはべつに気にしないけど、どうせなら完璧を目指したいな。スレイブの子たちには綺麗にするサービスも始めようかな。うん? これは商売になるんじゃないのか? 定期的に診察所で一般無料サービスを展開しながらスレイブ集めに利用する。スレイブにしない場合は有料にしてもいい。おお、これは良いアイデアだ! 女の子もゲットしつつ尻も綺麗にする。まさに女性への社会貢献じゃないか! こ、これはいけるぞ!! ん? 逆か? 尻を綺麗にしつつ女の子もゲットするのか?」



 どっちも同じである。


 一見すれば汚い話題でもあるが、そういう部分まで改善を目論むアンシュラオンは、ある意味ですごい男なのかもしれない。


 女性の問題に対しては常に真剣に挑むのだ。男とはえらい違いである。




 そんなことで悩むアンシュラオンに、プライリーラは首を振る。



「まったく、君って男は清々しいまでに女性のことしか考えていないんだな」


「そうだよ。男として生まれた以上はしょうがないね。オレは欲望に忠実なんだ。しかしまあ、プライリーラも随分と慣れてきたね。じゃあ、次はパイズリでもお願いしようかな?」


「またかい。そんなに気持ちいいのかな?」


「うん、とっても。プライリーラだって嫌いじゃないでしょう?」


「たしかに…自分でやるのは嫌いじゃないな。ふぅ、つい三日前まで処女だったのだが…全部君のせいだ」


「そういえばそうだったね。つまり君の中は、オレのマイボーイの形状にぴったりはまるように調教されたわけだ。実に素晴らしいよ。大満足だ」



 初めてがアンシュラオンであり、三日三晩どっぷりはめたので見事にJr色に染まったことだろう。


 男の支配的欲求がこれほど満たされることはない。感動である。



「負けた以上、喰われるのは仕方ない。受け入れるよ」


「そうそう、何事も諦めが肝心だよ。上手く立ち回れば挽回のチャンスもあるんだからさ」


「まだ君でよかったと言うべきかな。それにしても…綺麗な身体だよ。さわさわ、ちゅっちゅっ」



 プライリーラは、アンシュラオンの真っ白な身体を触り、キスをする。


 今ではそうした動作も手慣れたものになっていた。アンシュラオンも違和感なく受け入れる。



(最初は喚いて大変だったけど、だいぶ落ち着いてきたな。『険が取れた』って感じかな。男と女という生き物はシンプルなもんだ。肌と肌が触れ合えば、互いを簡単に受け入れることができるんだからさ)



 今のプライリーラは本来の落ち着きを取り戻していた。錯乱していた頃の彼女ではない。


 ただ、初めて会った時ともだいぶ違う。もっと穏やかで柔らかい感じがする。


 今までの彼女は戦獣乙女としての誇りが強く、ジングラス総裁として気を張って生きてきた。


 若くして社長になれば誰だって気負うし、性格がきつくなりがちになる。それと同じだ。


 彼女はまだまだ若いし、何より責任感が強かった。それが圧力になっていたのだ。




 が、アンシュラオンに負けたことで―――【解放】された。




 戦獣乙女という幻想と偶像は打ち砕かれ、ただのプライリーラになった。



 そのうえ処女と彼女の中に眠っていた―――【獣】を失った。



 獣は彼女そのものなので完全にいなくなることはないが、負け知らずだった御山の大将が負けてしおらしくなるように、暴風の獣の影響力もかなり落ちたようだ。


 結果として、より理知的に、より穏やかに、女性らしい側面が強調されてきた。


 荒々しい女性が好きな男ならば物足りないかもしれないが、従順な女性が好きなアンシュラオンからすれば、今の彼女のほうが綺麗で可愛く見える。



 むにゅんっ ぬるぬる



 肌を触れ合うことにも慣れ、こちらも手慣れた様子でアンシュラオンのものを胸で挟む。


 柔らかい感触で包み込まれたボーイは、とても満足そうだ。


 プライリーラはその体勢のままアンシュラオンを上目遣いで見る。



「これではもうお嫁にはいけない。こうなったら私と結婚する権利をあげよう」


「それってプライリーラが結婚したいだけじゃん。オレは結婚なんて無理だよ。サナとならいいけどね」


「君はシスコンでロリコンかね?」


「サナが特別なだけさ。自分が育てた子なら何歳でもいいよ。オレは自分のものを心から愛しているからね」



 アンシュラオンは姉も妹もどっちもOKである。それぞれ違う良さがある。


 そして、自分が育てるということに意味を見いだしている。そこに愛情を感じるのだ。


 だから仮にサナやラノアが何十年も経って年老いたとしても、自分が彼女たちに注ぐ愛情はまったく変わらない。そう断言できる。



「君という男は…不思議だな。ただの鬼畜にも思えるし、一方そういうところはとても懐と情が深い。判断に困る」


「無理に頭で考えるからさ。感覚や感情を大切にしたほうがいいよ。結局、最後に頼るのはそこだしね。どんなに金持ちの結婚相手だって、自分と相性が悪ければつまらない人生を送るだけさ」


「私が相手ではつまらないと?」


「今のままならね。君がジングラスを捨ててオレのスレイブになるなら、身内に入れてあげてもいいけど…どうせ捨てられないでしょう?」


「…それは……そうだな。戦獣乙女を失ってもジングラスは捨てられない。…家族だからね」


「そうか。…名残惜しいけど、そろそろ終わりにしようか。サナ、行こう」


「…こくり」



 ざぱんっ


 アンシュラオンとサナは風呂を出て、着替え始める。


 もう十分出したので満足した。交尾はもういいだろう。



「ほら、プライリーラも着替えなよ。予備の服しかないけどね」


「成人女性用の服を持ち歩いているのかい?」


「まあね。いつ何があるかわからないしね。下着もあるよ。突然パンツが破れるかもしれないし」



 謎の現象である。いきなり破けたら怖い。


 というのは冗談にしても、ここは未開発の地域なので何かの拍子で服が破ける可能性はある。



 アンシュラオンが出したのは極めて普通の白いワンピース。下着も白だ。



 もしサリータが戦闘で服が破けたら、これを着せてみようかと思って入手しておいたものだ。


 彼女は嫌がるだろうが、美人なので何でも似合うだろう。が、今のところ機会がないので倉庫に突っ込んであったものだ。



 ちなみにプライリーラのポケット倉庫は、アンシュラオンとの戦いで完全に消失してしまったらしい。


 ポケット倉庫が壊れると術式が崩壊し、基本的には中身がその場でぶちまけられるという。


 ただ、あまりに強い力が衝突すると術式事故を起こして、そのまま消失する可能性もゼロではない。


 今回はアンシュラオンの力が強すぎた結果、消失という自体になってしまったようだ。



(…案外怖い情報だよな。オレもポケット倉庫に頼りすぎないようにしよう。そう考えると金庫とかも必要かもな)



 今のところ重要なものは持っていないが、不安になるものだ。


 せいぜいハンター証くらいだが、あんなものはいつでも再発行できる。問題は金品の類だろう。


 金のためにいろいろとやっているのだ。その金を失ったら意味がない。


 ハローワークで預けてはいるものの、通帳がなくて緊急時にすぐに引き出せないと困る。



 そんなことを考えている間にプライリーラがワンピースに着替え終わる。



「こういう服はあまり着ないな。こんな普通の姿は他人に見せられないよ」


「そのほうが女の子らしいよ。人気が出るかもね」


「人気…か。いまさら、そんなものはどうでもいいよ。それで、これからどうするつもりだい? まだ我々から奪うつもりかな?」


「オレに敵対しないのならば、これ以上ジングラスと関わるつもりはないかな。君との交わりだって、あくまで契約の範囲内でやったものだ。あとは輸送船をもらって、君が雲隠れすれば終わりだ」


「そのあたりは義理堅いのだね」


「生粋の強盗稼業じゃないしね。本当にそうするなら誰も生かしてはおかないよ。全部もらうグマシカには死んでもらう予定だけどね」


「そうか…君と本格的な敵対関係でなくてよかったよ」


「そうだね。少なくとも君はオレに対して好意的に接した。それは英断だった。だから、できるだけのことはしよう。ついておいで。アーブスラットの様子を見に行こう」


「っ! 爺は…生きているのか!?」


「君があまりに泣き叫ぶから、かわいそうになってね。好きな女の子をいじめるのは嫌いじゃないけど、やりすぎるのも萎える。女の子は笑っているほうが可愛いだろう?」



 獣が消えた時の彼女の狼狽ぶりは相当なものだった。


 それはそれで興奮したものだが、そこまでやるのはかわいそうに思える。


 そのため彼女と交わっている間に遠隔操作で十字架の中身を確認していた。



 その結果―――まだ息があることが判明。



(そういえば、あいつのスキルを封じるために、オレの命気を張り付けておいたんだよな。あの凍結状態で、よく養分にできたもんだな。さすがにしぶといね)



 瀕死状態のアーブスラットはその命気を体内に取り込み、生存に必要な心臓と脳、血管などを重点的に保護したまま眠りに入っていた。


 いわゆるコールドスリープというものだ。


 なかなか現実では難しい話だが、精子の冷凍保存などが行われているように不可能ではない。


 武人という強靭な生命力を持つ者だからこそ成し得ることができたのだろう。そのあたりはさすがである。


 現在はアンシュラオンによって十字架内部は命気で満たされており、延命措置が図られている。さらに切断された箇所もつなげてある。


 まだ彼には死んでもらっては困るのだ。困る理由ができた。この三日間で。



(プライリーラにはアーブスラットが必要だ。オレがいない間、彼女を守ってもらわないとな)



 プライリーラのことは気に入っている。姉以外でここまで性的欲求を満たすことができる貴重な人材だ。


 単純に嫌いではないのだ。もともと魅力に溢れた素敵な女性であるし、肌を重ねた相手に情が移ったこともある。


 本当ならばスレイブにしたいところだが、さすがにジングラス当主という立場では難しい。今のアンシュラオンでは養えない、という意味でだ。



(まだシャイナ程度でてこずっている状況じゃな…。そのうち都市が落ち着いたら考えればいいや。それまでは守ってやらないとな)





 アンシュラオンとサナ、プライリーラの三人は、氷の十字架に向かう。


 今は夜であるが、月明かりに照らされて今でも十字架は美しく輝いていた。



「じゃあ、解放するよ」



 ぱちんっ ボロボロボロッ



 アンシュラオンが指を鳴らすと、十字架が崩れる。



「爺っ!!」



 どさっ


 一緒に落ちてきたアーブスラットをプライリーラがキャッチする。



「ううっ…」



 ふらふら どすんっ


 その衝撃でプライリーラも倒れてしまった。


 彼女は命気水に浸かっていたとはいえ、暴れると困るので中身まで回復させてはいない。


 まだ身体はアンシュラオンにボロクソにされた状態のままなのだ。常時気だるい疲労状態である。こうなるのも仕方がない。


 それでもアーブスラットを大切そうに抱きしめ、頬に手を当てる。


 氷から解放されたばかりの老執事はまだ冷たく、意識が戻らない。



「爺っ! 爺っ!! しっかりしろ!! ああ、こんなになってしまって…」



 アーブスラットは一気に老化が進み、もともと初老といった様相だったものが、八十歳くらいの見た目になっていた。


 これもユニークスキルを限界まで使った代償だ。


 しかし以前のような張りはないものの、その中に強さと気高さが宿っていることには変わらない。



「大丈夫。傷は塞いだし、まだまだ生きているよ。そのじいさんは強い。それは君が一番よくわかっていることだろう?」


「ああ、ああ、そうだ! 爺は…強い。ずっと私を守ってくれていたのだからな! 爺、ありがとう…本当に…ありがとう…」



 プライリーラは涙を流して老執事を抱きしめる。


 そこには家族に対する愛情だけがあった。こうして見ると普通の女性と変わらない。



「君にそこまで慕われるんだ。じいさんも幸せだ。それじゃ、ここでお別れだね。あとのことは自分たちで何とかしなよ。一緒に戻ったらおかしいしね」


「別れるのか? 私をあんなに犯しておいて? 結婚もせずにか?」


「いやいや、ソブカを狙っていたんじゃないの?」


「こんなにされたら…好きになってもおかしくはないさ。身体は君を求めているしね。アンシュラオンだってそうじゃないのかな?」


「たいした女性だ。それくらい図太いほうが君らしいよ。ただ、そういう重い話は落ち着いてからにしよう。それより都市には戻らないほうがいいね。このままどこか安全な場所に雲隠れすることを勧めるよ」


「いきなり当主がいなくなればグループが動揺する。…一度は戻らねばならない」


「総裁ってのは大変だね。そうするにしても、できるだけ目立たない方法を選ぶべきだ。今の君は力を大きく失っている。武具も失くし、守護者はもういない。アーブスラットだって、すぐに戦える状態には戻らない。十分気をつけることだね。一応、万一のために術具は少し置いていくよ。魔獣にやられたら困るし」


「…優しいな。アンシュラオンは」


「好きな相手にだけはね」


「これが輸送船のキーだ。持っていくといい」



 プライリーラがアーブスラットのポケット倉庫からキーを取り出す。


 彼のものは無事だったようだ。凍結させたことが幸いしたらしい。



「輸送船くらい、べつにいいよ。むしろ君たちのほうが必要だろう?」


「いや、これはケジメだ。約束した以上、もらってくれ。それにジングラスの輸送船はまだある。君だって見ただろう?」


「…そっか。わかった。もらっておくよ。じゃあ…名残惜しいけど…またね」


「ああ…また…会おう」




 そっと手を触れ合わせてから―――離れる。




 まるで恋人同士のワンシーンのようだが、この三日三晩ずっと交じり合っていたのだ。


 初めて自分と普通に交わることができた女性である。サナとは違う愛情を感じてもおかしくはない。


 プライリーラも獣を宿していたほどの女性だ。自分より強い獣を持つアンシュラオンに惹かれるのも無理はない。



 しかし、二人の道は―――交わらない。



(誰かを好きになる…か。今までそんなことを考えたことはなかったよ。オレの中にあったのは姉ちゃんくらいだったし。だが、オレにはサナがいる。二人も背負えないな)



 今までの経験から、本当に好きなものは二つは作らないようにしている。


 二兎を追う者は一兎も得ず、とはいうが、それは真実である。


 いざというときに自分が守れるのは一つしかない。漫画のように二つ同時に守れるなんてことはないのだ。



 ならば―――サナを守る。



 一度愛した存在に対しては、自分からは絶対に裏切らない。


 それもまた自分自身に課した誓約である。



「サナ、行こう」


「…こくり」



 とことことこっ


 アンシュラオンはサナの手を引きながら、夜の荒野に消えていった。


 サナの温もりを噛み締めながら。



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