279話 「人馬一体 中編」


(へぇ、やるな。一気に三発も迎撃するとは。あれ一発でそこらの武人は即死だしな)



 連射性能を重視したため、一発一発の威力としてはそこまで強くはない。ガンプドルフも剣で斬ったので、これくらいならば特に驚くに値しないだろう。


 が、三発同時に切り払うのは、なかなかすごいことだ。


 遠隔操作で動いている戦弾の軌道を見切り、線の動きで捉えた。あの速度でそれをやるのは難しい。


 それが普通の状態ならばまだしも、馬を操りながら切り払うのは相当な業だ。まさに乗馬しながら戦う騎馬武者や中世の騎士を彷彿させる。


 実際、馬に乗りながら戦うのは非常に難しいものである。


 戦国時代でも騎馬武者は、追い討ち時に投入するなど限定的な使い方をしていたようなので、これもまた規格外の武人と魔獣の組み合わせだからできることだ。



 ただし、さすがに六発は多かった。



 彼女が捌き切れなかった戦弾三発が―――巨馬に直撃。



 ボンボンボンッ


 爆発を起こしながら肩口に命中。巨馬がわずかに揺れる。


 しかし、アンシュラオンの戦弾を受けても軽くよろけた程度である。すぐに風によって体勢は戻り、平然と立っている。


 プライリーラもさして気にした様子もない。最初から問題ないとわかっていたようだ。



「この程度じゃ通じないか。ご自慢の守護者だけのことはある」



 今の攻撃によるダメージは、ほとんどないだろう。


 それどころか攻撃を受けた箇所の術符が吹き飛び、さらに封印が解除される。


 肩口の体表も露わになり、そこから足と同じような緑がかった白い鱗が見えていた。




 彼女たちは―――強い。




 明らかに今まで戦った相手よりもランクが上である。




―――――――――――――――――――――――

名前 :プライリーラ・ジングラス


レベル:58/125

HP :3450/3450

BP :1270/1270


統率:C   体力: A

知力:D   精神: B

魔力:B   攻撃: B

魅力:A   防御: B

工作:E   命中: C

隠密:F   回避: C


【覚醒値】

戦士:5/8 剣士:2/5 術士:0/0


☆総合:第五階級 王竜級 戦士


異名:戦獣乙女、ブランシー・リーラ〈純潔の白常盤〉

種族:人間

属性:風、嵐、滅

異能:戦獣乙女、アイドル 、人馬一体、魔獣支配、空中戦闘技術、集団統率、中級槍術、騎士道精神、乙女心、変身願望、暴走せし暴風の獣

―――――――――――――――――――――――



 交渉が必要な要人と会う際は、その相手が本物かを確認するために情報を見る必要がある。


 プライリーラに対しても最初の面会で使っていたので、能力はすでにわかっていたことだ。


 ただ、改めて見ても優れた才覚を感じる。



(強いな…王竜級か。第五階級は初めて見たよ。スキルも強力なものが多いし、それを含めての評価っぽいな。しかも、これでもまだ成長途上というのがすごい。才能の塊というのはこういうことを言うんだな)



 現状でもプライリーラの能力は上級武人の域にあるが、これでもまだレベル限界には程遠い。


 因子の限界値も高いので、完全に覚醒したら歴史に名を残す逸材になるだろう。


 もちろんレベル50を超えてからが本番であり、因子も最大まで上げるためには地獄のような日々を過ごす必要がある。


 少なくとも街で暮らしていては不可能だろう。レベル100の限界を突破するためにも特殊な鍛練が不可欠である。


 アンシュラオンとて、あれだけ修練しても戦士因子は8で止まっている。そこからがなかなか上昇しないのだ。いかにハードルが高いかがわかる。


 しかし、彼女の本領は単体での戦闘ではない。この性能でもまだ「パーツ」にすぎないのだ。



 プライリーラは、守護者の巨馬と一緒に戦ってこそ真なる実力を発揮する【コンビタイプ】である。



 それゆえに、スキルもそれを想定したものになっている。


 『戦獣乙女』は守護者と一緒にいると能力補正がかかるもので、人馬一体は巨馬を自在に操るものだろう。


 『アイドル』はソブカも持っていた『カリスマ』の異性強化タイプであり、男性に対して魅力に補正がかかる効果がある。(同性にもかかるが、補正率がカリスマより少し下がる)


 『集団統率』も持っていることから、他の魔獣を操っても優れた力を発揮するだろう。単体ではなく、巨馬と他の魔獣たちで相手を蹴散らす存在。それが軍にも匹敵する戦獣乙女である。


 たしかにジングラス最高戦力と呼ばれても不思議ではない実力を持っている。十分都市を代表してよい実力だ。



(強い。…強いが、だからこそ君を野放しにはできない。オレは才能がある女性が大好きだから、そんな原石を誰かに渡すなんて嫌なのさ。これでもグマシカたちには勝てない。君に『騎士道精神』がある限りね)



 これだけの才覚をもってしても、まだマングラスと対峙するには不合格である。その評価は変わらない。


 仮に『騎士道精神』が『邪道精神』だったら即座にOKなのだが、それでは彼女の美しさが半減してしまうに違いない。ままならないものである。




「っっっ!!」



 攻撃された巨馬が、アンシュラオンを睨む。


 包帯で目は見えないはずだが、こちらを認識しているようだ。おそらく風の流れで周囲の状況を認識できるのだろう。


 ドガッ ドガドガドガッ ガシガシガシッ


 それから苛立ったように前足で大地を小突く。


 これは攻撃されたことに怒ったのではなく、守護者もまたアンシュラオンを強者と認めた証であった。



「なんだギロード、お前も我慢できないのか? そうだ。ホワイト氏は強いぞ! 今まで戦った誰よりも強い!」


「グウウウッ…ゥウウウウウウ…」



 魔獣の本能がアンシュラオンを激しく警戒する。今の攻撃もまだまだ様子見だとわかるのだろう。



「ならば、さらに力を出すぞ! 戦獣乙女が命じる! 封印術『弐式』解除!!」



 バリバリバリッ


 肩から腰にかけての術符が吹き飛び、第二の封印が解除される。



 ブオオオオオオオオオオオオオッ



 それによって周囲の風が一気に強まり、ついに竜巻が発生。


 大地にも螺旋状の激しい傷痕が生まれ、弱い地盤が強引に土ごと持ち上げられて空に巻き上がっていく。


 土も石も、岩でさえも、その力にはあらがえない。


 気付けば視界はすでに半ば潰れており、十メートル先もよく見えないほどの【大嵐】が生まれていた。


 ツブテが強風に乗ってアンシュラオンにも襲いかかるが、戦気によってガード。消失する。


 普通の人間ならば風を受けただけで切り刻まれ、竜巻の中に入れば高速で襲いかかるツブテによってぐちゃぐちゃになって死ぬだろう。



 プライリーラが守護者を【災害】と言った意味が、ここに込められている。



 この魔獣が都市内部で力を解放したら、あたり一帯の建物や人間を簡単に巻き込んでしまうだろう。それだけで都市は壊滅的なダメージを受ける。


 守護者を見た者が残っていないことも、これが理由だ。全力で訓練すると周囲が壊滅的なダメージを受けるので、覗いていた人間がいれば巻き添えをくらって死ぬ。


 また、この巨馬の特性上、素早い動きを生かすには広い地形のほうがいい。障害物があれば、敵がそこに隠れたり飛び乗る足場になったりするので、性能を完全に発揮できない。


 それを含めて、プライリーラはここを選択したのだ。



(広域破壊型の魔獣か? 周囲を巻き込むタイプだな。火怨山でもたまにいたな…ああいう迷惑なやつ)



 姉が一撃で倒していた撃滅級魔獣の『グラビガーロン〈たゆたいし超重力の虚龍〉』も、生理現象で周囲一帯に重力波を形成するので、当人が意識せずとも周りを破壊してしまう迷惑な魔獣である。


 火怨山のような人がいない場所だから問題ないものの、彼らが人里に現れたら終わりなので、人間からすれば『災害魔獣』と呼ぶべき存在であろうか。


 ジングラスの守護者もそのタイプのようで、この竜巻の規模からすれば広域破壊型だと思っていいだろう。


 もしこの魔獣が敵だったならば、四大悪獣に一匹追加されて五大悪獣になっていたかもしれない。それだけ危険な存在であろう。




「いくぞ、ギロード! 駆け抜けろ!」



 力を解放した巨馬が、竜巻をまといながら突っ込んできた。


 ボンッ!!



 速度の質が―――変わった。



 今までとは明らかに異なる音が発生し、一瞬で巨馬がアンシュラオンのもとにまで到達する。


 その背後には、音速の壁を超えた証拠であるソニックブームが発生していた。


 円形状の煙のようなものが生まれたと同時に、周囲に衝撃波が奔る。



 ブオオオオッ ドドドドドドッ ドバーーーーンッ



 巨馬はただ走っているだけだ。それだけで周囲の物は、綺麗に消え去っていく。


 この状態で戦場を駆け抜けるだけで、普通の軍隊ならば壊滅しかねないだろう。歩兵部隊など簡単に巻き上げられ、空中で分解されてしまうに違いない。


 しかし、アンシュラオンにとっては、これくらいの速度は日常的なもの。規模は大きいが弾丸をかわすのと大差はない。


 再び跳躍して回避。



 ドッバーーーンッ



 音が遅れてやってくるほどの突撃を、あっさりとかわす。


 直撃すればわからないが、衝撃波も戦気のガードを打ち破るほどではない。



 その光景にプライリーラは―――震える。



「すごい、すごい! これをかわせるなんて!! 君は本当にすごいな!!! 興奮してきたぞ!! もっともっと! もっと速くいくぞ!!」



 再度転進したプライリーラが、巨馬とともに突っ込んでくる。


 その動きは、お嬢様の乗馬のように品性がありながらも、荒々しい戦場の気配をまとっており、見る者を夢中にさせるだろう。


 今回も音速を超えたソニックブームで、アンシュラオンに襲いかかる。



 アンシュラオンは回避。



 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。

 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。

 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。

 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。

 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。

 巨馬は再び転進して突撃。アンシュラオンは回避。



 速度はさらに増し、転進も淀みなくスムーズに行われるようになっていく。


 風の力が強まったおかげか、もはや転進と呼ぶよりピンボールゲームのように、一気に角度を変えて跳ね返るように突っ込んでくるようになった。


 それでもアンシュラオンには当たらない。直線的な動きなので読みやすいのだ。


 しかし、プライリーラはそれも承知の上。ひたすら加速させる。



「はははは!!! そうだ、もっと飛ばせ!! もっともっとだ!! 私に風を感じさせてくれ! いや、風になるんだ! このまま貫け!!」



 スピード中毒者のような危ない言葉を発し、さらにさらに速度が上がっていく。


 あれでよく目が回らないものだと感心するが、フィギュアスケートの選手も三半規管が強くなっているためスピンで目を回さないらしいので、それもまた戦獣乙女の資質なのかもしれない。




「どうしたの? そんなもの? これじゃ永遠に当たらないよ」



 アンシュラオンが、手をくいくいと動かして挑発する。この速度では言葉がもう届かないので、すれ違いざまにジェスチャーで余裕を見せ付けたのだ。


 それを見て、プライリーラが笑う。



「ははは! 退屈かね!? では、そろそろ人馬一体の力をお見せしよう!! ここからが我々の本領だ!」




 本当の意味で―――『準備運動』が終わる。




 守護者が突っ込んでくる。アンシュラオンは回避。


 ここまでは前回と同じだ。


 しかしアンシュラオンが回避する寸前、プライリーラが手綱を離して馬上から飛び降りた。


 この竜巻の中に身を投じたのだ。


 常人ならば、当然ながら自殺行為。こんなことをしたら一瞬で上空に巻き上げられるか、身体が引き裂かれて死んでしまうだろう。


 フワリッ ブワッ


 だがプライリーラは、その暴風の中でもまったく影響を受けていない。


 それどころか風の中を泳ぐように空を飛び、アンシュラオンに向かってくる。



(むっ、空を飛んでいるのか? 噂では聞いていたが…本当に飛べるんだな。あの鎧から何か出ている。あれは…【風】か? だが、風気じゃないな。本物の風だ)



 術士の因子があるアンシュラオンには、鎧から風が粒子になって飛び出ているのが見えた。それは風気ではなく、正真正銘の『風』である。


 戦気と神の粒子の化合物である風気は、風の性質を帯びてはいるが戦気であることに違いはない。


 重要な点は、それを使って飛ぶことはできないことだ。


 仮にいくらアンシュラオンが風気を練ったところで、それを集めて浮遊はできないのだ。短時間なら浮かぶかもしれないが、それは単なる力の爆発によるものだ。


 一方、プライリーラのものは【自然現象】ゆえに、鳥のように自由に空を飛ぶことができる。


 落下もしないし速度が緩まることがない。上昇下降、加速減速も自由自在だ。



(ふふ、驚いているようだね。この武具は【精霊武具】なのだよ。だから女神の制約を受けないで済む。しかもギロードと共にいれば、風の加護はさらに強まるのだ! ここは私の独壇場だよ!)



 驚いているアンシュラオンを見て、プライリーラはほくそ笑む。


 『暴風の戦乙女』は武具単体でも優れているが、もっとも価値ある点は【精霊の加護】を受けているところだ。


 人間が駄目でも鳥や虫が空を飛ぶことが許されているように、大自然の精霊の守護や加護があれば法則に違反することはない。


 これは精霊界出身の神機と同じだと思えばわかりやすい。彼らも精霊の力を借りているので、加護を受けた属性を自由に扱うことができる。


 魔王城のマスターが空を飛べるのも、これと同じ理由だ。自然を守護する彼らには規制はかからない。


 そもそも女神の空への規制が始まったのは、旧文明の人間が空を飛ぶ戦闘兵器を生み出し、自然を破壊したからである。


 文明が破壊されるほどの戦いが起こった結果、人類が滅びては困るということで、致し方なく規制を施したというわけだ。


 人類が未熟ゆえに起こった特別措置である。だからこの法則は、人間と人間が造った物だけに作用するように設定されている。



 しかし、例外も存在する。



 自然界を守護する精霊に「この人間ならば大丈夫」と認められた存在ならば空を飛ぶこともできる。


 初代ジングラスも守護者たる風の魔獣を従えたことで、彼らの生息域にある特殊な浮遊鉱石の入手に成功。


 それを錬金術で加工して強固にし、さらに風の精霊と契約して作ったのがこの鎧と槍である。


 ある意味で、この武具すべてが上質の風のジュエルで作られているようなものだ。そこに風の精霊の加護が発動して無尽蔵の動力になっている。


 稼動制限などはあるが、鎧の各所からバーニアのように風が噴き出ることで飛行移動が可能になる特殊な武具である。




「空は私の世界だ!! 誰にも負けない!!」



 これを使ってプライリーラは、守護者が作り出した風の中を飛んでいく。


 そして、回避したばかりのアンシュラオンを捕捉。



「うおおおおおおおおお!」



 プライリーラが突進。


 獲物を見つけた大空を飛ぶ猛禽類のように、ランスを下に向けて急降下していく。


 ランスは斬るものではない。突くものだ。切っ先を中心にして大気を貫き、それさえ加速の力となって襲いかかってくる。


 ブゥウウウウンッ ボンッ


 彼女の背中にも音速を超えたソニックブームが発生。人間大の弾丸として突っ込んできた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます