273話 「選択と答え 前編」


「つらいよな。人間社会にいると猫を被らないといけないからさ。本当は暴れたいんじゃないのか? すべてを壊したい欲求が胸の中にあるはずだ」


「待て…ホワイト氏! それ以上は…刺激しないでくれ!」


「苦しいのか? こんな大きな胸をしていればそうだろうね。もみもみ」


「あっ…くふっ!!」



 アンシュラオンがプライリーラの胸を揉む。


 それなりに大きな胸なので、少年の手の平では持て余すほどだ。



(やはり素晴らしい胸だ。…うーむ、ホロロさんとシャイナのいいとこ取りといったところだ。総合評価で4以上は堅いな。それに肌の質もいい。お嬢様で生活環境が良いのと、武人として因子が覚醒していることが要因だろう。因子によって肉体が活性化しているんだ。こうなると武人の『因子覚醒率=肉体の質の良さ』説が信憑性を帯びてきたな)



 柔らかくありながらもずっしりと重みがあり、ちょうどよい感じに膨らんだ餅のように弾力がある。


 胸の形もふっくらしており、まるで大福のようだ。いくらでも揉んでいたくなる。


 ここで一つの説を提唱したい。



 「武人の女性はすごく気持ちいいんじゃないか説」である。



 マキの胸も素晴らしかったし、プライリーラの胸も良かった。


 こうなると肉体全体の張り艶も良いだろうから、あんなことやこんなことをすると一般人よりも気持ちいいと思われる。



(姉ちゃんがあんなに気持ちよかったことにも説明がつく。全部の因子が完全に覚醒しているんだもんな。肉体が完全な状態になっているってことだ。気持ちいいに決まっている)



 一般人であるホロロやシャイナと、最低限の武人であるサリータの間にも多少の差異があった。


 アンシュラオンが武人だからかもしれないが、肉体が活性化している者は、同じく肉体が活性化している異性でないと満足できない可能性もある。


 お風呂場での一件のように手加減しながら交わるのは、なかなかにしんどいものだ。


 支配欲求を満たすという意味であれはあれでよいが、本気で交わるには同等の相手が望ましいのだろう。



(こう考えるとプライリーラはいい素材だよな。ただでさえ女性の武人は少ないのに、これだけ覚醒している者は珍しい。この都市ではダントツかもしれないな)



 プライリーラの覚醒因子は、戦士が5、剣士が2である。


 マキが3であることを思えば、戦士因子がこれだけ覚醒していれば相当なものだ。すべてが一般人とは違うに決まっている。


 ちなみに今回はアーブスラットの邪魔は入らなかった。内容が内容ゆえに流れに任せたと思われる。


 ソブカの獣にも気付くくらいだ。自分の主人であるプライリーラの獣性にも気付いていただろう。


 その解決あるいは制御に何かプラスになるのならば、多少のことには目を瞑るというスタンスかもしれない。


 同じ獣であるアンシュラオンとの接触は、マイナスになるおそれもありながら、一方で反面教師になる可能性もある。その点で我慢していると思われた。



「じゃあ、もうちょっと触ろうかな」


「くふっ、そこは…っ!」


「こほん」



 が、調子に乗って股間に手を伸ばしたらアーブスラットから威嚇が飛んできた。


 残念。惜しい。ぜひもっと触りたかった。



「はぁはぁ…さりげなく淑女の股間にまで手を伸ばすとは…怖ろしいな、ホワイト氏は」


「ごめんごめん、癖で」


「癖になるほど触っていたのか! たしかに女好きらしいね…はぁはぁ」


「でも、気持ちよかったでしょ?」


「…くっ、それは認めよう。テクニシャンだな。だが、それ以上やられたら…収まりがつかなくなっていたところだよ」


「オレは総裁なんてやつより、そっちの顔のほうが好きだけどね」



 プライリーラの顔はすでに真っ赤になっており、呼吸も荒い。


 今の愛撫で興奮したというより、自分の中にある獣性が表に出ないように抑えていて苦しいのだろう。



(そりゃ苦しいよな。欲求の制御なんて修行僧でもしんどいくらいだ。オレも前の人生で瞑想や自己統御をやっていたが…加齢による減衰がなければ無理だっただろうし)



 武人は肉体が活性化されるので、その意味においては性欲も常人より強く長く続くことになる。


 肉体制御と闘争本能による発散があるので性欲も制御が可能だが、心の奥底にある欲求となるとなかなか難しい。


 もともと「好き者」の人間は、どんなに修行しても好きなまま、ということだ。自分の好みは簡単に変えられないし、変えるべきでもない。


 彼女の中には性への強い欲求と武人の破壊衝動が眠っている。武人の因子が強く覚醒していれば仕方がないことだ。



 しかもプライリーラは普段から必要以上に抑制をしている。



 立場上、上品に振る舞っていないといけないし、戦うことに対して制限が設けられている。ましてや喰らうような行為などできない。


 弾けたい欲求と、それではいけないという理性の闘いで精神はかなり磨耗しているに違いない。



 つまりは―――欲求不満だ。



 一時期のシャイナや小百合に近い状況であるが、戦獣乙女ともなれば規模が違う。苦しみも何十倍だろう。



「ふぅ…ふぅ」


「そうやって抑えるのが癖になっているね。だから変に肩肘が張ったようになっているんだ。オフィスで慣れない管理職をやっている女性役員とかにありがちな状況だね。ジングラスのトップだから責任感を抱くのは仕方ないけど、ストレスの捌け口を設けないとどこかで爆発しちゃうよ」


「君は整体師かね? よくわかるものだ」


「女性に関してはそうだよ。あっ、そうだ。マッサージをしてあげようか? オレのは好評なんだ。常人なら数秒でイッちゃうけど、プライリーラなら数分はもつかも」



 ワキワキと手を動かす。実に卑猥な動きだ。


 それを見たプライリーラの下半身が危険を感じる。



「ま、待て…それをやられたら…駄目だ! 絶対に漏らす!」


「こんな美人が漏らすなんて…ちょっとそそるな。一瞬だけど、ぐっときちゃったよ。ぐへへ!」


「こほん。それ以上はご自重ください。さすがに黙ってはいられませんぞ」


「ちぇっ、ちょっとした冗談じゃないか。まあ、半分本気だったけど」



 アーブスラットの目が少しマジになったのでやめた。


 戦っても負けないだろうが、命がけの武人というのは怖ろしいものだ。飢えてもいないのに安易な勝負はしないのが幸せに生きる秘訣である。




 それから時間をかけてプライリーラが復活。




 しばらくは疼きが残るだろうが、普段から抑えている癖がついているので短時間で収まる。


 ただし、あくまで抑えているだけ。欲求不満は募る一方だ。



「もう大丈夫?」


「ああ、問題ない。…話を戻してもいいだろうか? 改めて提案するが、我々と手を組もう。ホワイト氏はジングラスグループの財力と労力を使えるし、我々はホワイト氏の力を当てにできる。悪くない関係だと思うが?」


「オレがソブカを裏切って、君に明け渡せば契約完了か。ただ、言った通り、オレは他人の命令を聞くのが嫌いだ。いくら取引でも迷うな」


「ソブカ氏とはどういう契約をしているのだね?」


「厳密な取り決めをしているわけじゃないよ。オレはあいつを利用するし、あいつもオレを利用する。そういう関係さ。だから互いに教えていないこともある。最悪どちらかが本当に危なくなったら切る選択肢もあるしね」


「敵の敵は味方のような関係だね。シビアだ」


「そんなもんさ。だが、そのほうが気楽だ」


「ホワイト氏の性格ならば、その形態のほうが合うのかもしれないな。しかし、それではこちらが不安だ」


「ジングラスは比較的まともな商会だからね。それも当然だね」


「一つ訊くが、仮に都市が外敵に襲われたらホワイト氏は助けてくれるのかな? たとえば四大悪獣のうちのどれかがやってきたら、迎撃する気はあるかね?」


「そういえば四大悪獣だもんね。あと三体いるんだっけ?」


「君が倒したデアンカ・ギース〈草原悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ〉の他に、ゼゼント・ギース〈火山悪獣の食蟻虎アリクイトラ〉、バッデル・ギース〈雷谷悪獣の大猩亀オオザルカメ〉、ラメナン・ギース〈雪海悪獣の豹蜻蛉ヒョウトンボ〉、この三体だ」


「変な名前のやつらばかりだね。またデアンカ・ギースのようにキモいのかな?」


「彼らの生態は謎に包まれていてね。正直なところ、その容姿も完全にはわかっていない。なにせグラス・ギースが襲われたのは三百年以上も前だ。情報が少ないのは仕方ない。わかっているのは名前と簡単な特徴だけだよ。あとは大雑把な生息域かな。やつらは東西南北それぞれの地に散っているようだね。デアンカ・ギースは西に生息していた悪獣だよ。ただ、魔獣の狩場にいきなり出現したように、それもまた目安にすぎないがね。実際の居場所はよくわからないんだ」


「情報が少ないわりにラブヘイアはデアンカ・ギースをすぐに見抜いたけど?」


「ブルーハンターのラブヘイアか? 彼はハンター暦が長いから危険に対して敏感なはずだ。遭遇してもすぐに逃げられるように資料をよく読んでいたのだろう。悪獣の大きさが五十メートル以上あることはわかっているから、だいたいの想像はつくはずだ。それにやつらの生体磁気の情報は記録されて残っている。特定のパターンを記録しておけば、それと同じ波長を感じた際に光るジュエルもある。ハンター証のジュエルがそうだ。四大悪獣が近づくと点滅する警戒色になると聞いている」


「そうなんだ。いちいち見ながら戦っているわけじゃないし…すっかり忘れていたな」



 アンシュラオンのハンター証は、ポケット倉庫に投げ入れられて完全にお蔵入りになっている。


 あの当時も革袋に入れたまま放置だったので、そんな機能のことはまったく知らなかった。


 小百合もまさかデアンカ・ギースを倒すとは思っていなかっただろう。教える必要性を感じなかったに違いない。(待合室の『今日からあなたもハンター』という指南パンフレットには書いてあるが、ラブヘイアに邪魔されて途中で読むのをやめていた)


 そもそも普通のハンターなら、あんなどでかい魔獣が出現したら逃げるに決まっているのだ。



「でもさ、どこにいるかもよくわからないなら襲ってくる可能性だって低いんじゃないの? 名前からすると…火山と谷と海にいるんだろうし。住んでいる場所はバラバラじゃない?」


「それが災厄時は四体同時に襲ってきたのだ。そう思うと、いつ何があるかわからない。もしかしたらグラス・ギースには彼らを惹き付ける何かがあるのかもしれないし、定期的に人間を捕食する習性がある可能性も捨てきれない」


「海のやつも来たの? 陸に上がれるの?」


「トンボとあるだろう? 文献では空を飛んできたらしい」


「ミミズの地中、トンボの空、あとの二匹は地上かな? 猿は城壁くらい軽々登りそうだし…虎は名前からして凶悪そうだ。どっちにしてもヤバイね。倒せないんだったら逃げ場なんてないじゃん」


「その通りだ。君がミミズを駆除してくれたから助かっている。さすがの私も地中で戦うことは難しいからね。だが、空中なら何とかなる。むしろ得意だ。さて、質問を戻すが、やつらがもしやってきたら…君はどうする?」


「あの程度の魔獣に逃げる理由はないかな。かといって戦う理由もないし…わからないな。そのときの気分で決めるよ。金がなかったら倒すかも。懸賞金が出るし、素材もちょっと興味がある。それ以外だと、もしオレの物に手を出したら確実に殺すけどね。単純にムカつくし」


「ふむ…難しいな」


「言っておくけど、オレを制御しようと思わないほうがいいよ。自分にだって制御できないんだ。他人がどうこうできるわけもないさ」


「自分のことはよくわかっているのだね。ただ、金が出るのならば戦う可能性はあるのだね?」


「女を養うにも金がかかるしね。今回の騒動の発端も金が原因さ」


「君は清々しいほどシンプルだね。盗賊だってもう少し詭弁を弄するものだ。ならば、その金についてはジングラスが追加で報奨金を出そう。ハローワークとは別にだ」


「まあ、それならそれでいいんだけどさ、一つ気になっていることがあるんだよね」


「何かな?」


「なんかそういう方向で話を進めようとしているけど、そもそもジングラスがそんなことをやっていいの? 四大会議はどうなったの? オレに対して制裁案が出されたと思っていたけどね。それがいきなりこうだから、ちょっと予想外って感じだよ」


「そこまで知っているか」


「あれだけ派手にやったからね。ゼイシルってやつにはかなり恨まれているはずだけど…」


「そうだね。相当怒っていたね。ハングラス側は最初から制裁案を出すつもりで動いていたようだ。そうでもしないと組織の結束が瓦解しかねないからだろう」


「それってジングラスもそうじゃない? オレも一人殺している。プライリーラは怒ってないの?」


「…うむ、総裁としては割り切れない思いもある。彼も家族の一人だからね。しかし私とゼイシル氏には決定的に違う面が存在する。それは私が『武人』だということだ。武人である以上、純粋な力がどれだけ価値があるかを理解しているつもりだ」


「一人程度ならば、オレとの取引のほうが上ってことだね。当然の計算だけど、他の面々はそれで納得するのかな?」


「この大地では毎年多くの人が魔獣や食糧、衛生面の問題で亡くなっている。それこそ四大悪獣が来れば一瞬で数万の人間が犠牲になるだろう。それと比べれば微々たる犠牲…と言いたいが、不思議なことに人間は人間に対して恨みを抱くもののようだ。ゼイシル氏を見ていると特にそう思う。それでもジングラス全体の利益を考えて動くのが総裁の責務だ。納得させるさ」


「ふーん、それができるならいいけどね。うーん、どうしようかなー」


「まだ押しが足りないようだね。ならば、もう一つ情報を提供しよう。四大会議にはグマシカ氏も参加していたよ」


「代理じゃなくて?」


「当人だ。それは間違いない」


「…へぇ、穴倉から出てきたってことか」


「少しは興味が湧いたようで何よりだ。君の狙いはマングラスだ。違うかな?」





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