264話 「四大会議 終了」


「しかしプライリーラ嬢、さすがに災厄という扱いは過剰ではないのかな? やつらは凶悪だが、そこまでのものだとは思わないが…」


「そ、そうですな。安易にそう定義するのはどうかと…むしろ制裁以上に不安を与えかねませんし…」



 ゼイシルとムーバがプライリーラの打開策に難色を示す。その理由は簡単だ。



(何もかんでも災厄という名目を打ち立てて勝手に動かれると厄介だからな。今はいいが、そういった慣習ができるのを怖れてのことだろう)



 プライリーラがやったことは「言葉遊び」であり、所詮解釈の問題にすぎない。


 今までは戦獣乙女に関して、内部の争いには参加しない等の非常に厳しい制限があった。だからアンシュラオンが暴れていても彼女は傍観するしかなかったのだ。


 対処するにしても、あくまでジングラス総裁としてしか動けない。そうなると今度は当主としての責任があるので迂闊に前線に出られないのだ。なんとももどかしい限りである。


 だが、この提案を認める場合、今後は都市に損害を与えるのならばグレーゾーンの存在でも戦獣乙女が出動できることになる。


 今回を特例にしても前例を作ってしまえば、またいつか同じことが起こるだろう。



 そして、何度も続けば【慣習】になっていく。



 たとえば、ここに集まって会議を開くのも古くからの慣習だ。戦獣乙女やグラス・マンサー自体が慣習そのものといえる。


 慣習は作った世代だけならばまだしも、時代が経過すればするほど効果を発揮する厄介なものだ。新しい世代ほど過去の慣習に倣おうとするものだからだ。


 特に戦獣乙女は武力を背景にするものだから、より一層の注意が必要となる。常態化することはプライリーラを神格化することにもつながり、領主がいるグラス・ギースにおいてはあまりよろしくない結果になるだろう。


 マングラスも危険だが、彼らからすれば魔獣や守護者を操るジングラスも同じように怖ろしい存在なのだ。慎重になるのも頷ける。



「では、グマシカ氏から兵を借りて倒すのかな? 諸兄らがそれでよいのならば、ジングラスの総裁として私も従うことにしよう。まだ若輩の身だ。経験豊かなあなた方の意見を尊重したいと思う。私としても無駄にリスクを負う必要はないからね。他人がやってくれるのならば、これほど楽なものはない。まあ、タダより高いものはないとも言うがね」


「ぬうう…それは……」



 前門の虎を免れても、後門には狡猾な狼が待ち受けている。


 どちらを選んでも苦悩するに違いない。



「それ以前に、マングラスの武人で彼らを倒せればいいが…どうだろうね」


「プライリーラ嬢は、やつらにそこまでの評価をしているのか?」


「マングラス側の戦力がわからないからね。詳細な情報を得るまでは評価は難しい」


「たしかにそうだが…少し過敏ではないか?」


「そうかな。これでも過小評価かもしれない。私が【災厄】と言ったことは誇張ではないよ。相手は【殲滅級以上の魔獣】だと考えたほうがいい。デアンカ・ギースを倒せるくらいの戦力を用意すべきだ。それができないのならば安易に手を出さないほうが賢明だろうね」


「それは…あまりに難題だ。ハードルが高すぎはしないだろうか?」


「それくらいでないと災厄は乗り越えられない。グマシカ氏もそうは思わないだろうか?」


「そうじゃのぉ…まだあいつらは三体おるでな。そいつらに対抗できないと、どのみち都市は守れんちゅーことじゃな」



 ホワイト商会の脅威が去ろうとも、残りの四大悪獣は依然として存在する。あんな化け物がまだ三体もいるのだ。


 もし彼らが何かの気まぐれ、あるいは気候変動等で都市に近づけば、また災厄の再来が起きるかもしれない。


 ホワイトへの評価はともかく、この都市には最低でもそれくらいの戦力が必要だということだ。



「あっ…」


「どうしたのだ、ムーバ氏」


「少し前にホワイトハンターが加入したと聞いておりますが…あれは頼れないのでしょうか? たしかホワイトハンターというのは殲滅級以上の魔獣を倒せるハンターのランクでしたな。その人物の助力を得られれば災厄も防げるのでは? おお、そうだ。デアンカ・ギースを倒したのも、その人物との話ですしな! これは期待が持てますな!」



 ここでムーバが、さも「名案を思いついた」という顔で言い放つ。


 その彼に対し、他の三人は奇妙な顔をする。「こいつ、本気で言っているのか?」という顔だ。



(ムーバ氏は底知れないな。本気で気付いていないとすれば、もしかしたら一番怖ろしいのは彼かもしれん。…ともかく、これで確定だな。ゼイシル氏もグマシカ氏も、ホワイト氏の正体には気付いている。問題は、マングラス側がそれでもなんとかなると思っている点か)



 殲滅級以上、デアンカ・ギースという単語は、ホワイトハンターを暗示するものである。



 この段階でプライリーラは、相手が「アンシュラオン」であることを提示したのだ。



 敵が凄まじい実力者であることをアピールして自分の意見を通りやすくしつつ、マングラス側の様子をうかがうためにだ。


 が、それを聞いてもグマシカに変化はない。彼に対抗する手段があることを示している。



(ホワイトハンターに対抗する手段か。早い話、単純にホワイトハンター級の武人がいればいいわけだ。それも対人戦闘に特化した者を。…やはりセイリュウ氏あたりが怪しいか)



 セイリュウが非公式のホワイトハンターならば、仮に同じホワイトハンターが相手でも大きな不利にはならない。


 しかもセイリュウがその実力だとすれば、双子のコウリュウもそうだと思ったほうがいいだろう。ならばその自信も頷ける。


 しかしながら二人は護衛に徹すると公言している。彼ら以外にも戦力を保持している可能性が極めて高い。



「ちなみにじゃが、お嬢ちゃんは倒せる自信があるのかの?」


「なければ宣言はしないさ」


「ほっほ、なるほどなるほど。若いもんはええのぉ。力と自信が漲っておってのぉ。わしも見習わにゃーとのぉ。わしはどっちでもえーよ。お嬢ちゃんがやりたいというなら、やってみればいいさ」


「そちらの戦力を具体的に教えていただければ、私も納得するかもしれないよ。人生の先達者がどのような手を打っているのか、ぜひ伺いたいものだ」


「うーん、どうじゃったかのぉ。そういうもんは全部任せてあるからの…セイリュウ、どうじゃったかな?」


「ご心配には及びません。お任せいただければ、万事抜かりなく処理してみせましょう」


「たいした自信だな、セイリュウ氏」


「いえいえ、我々は単に数が多いだけです。質では戦獣乙女様に到底及びません」


「それはあなたに匹敵する武人が相当数いる、という意味かな?」


「ご想像にお任せいたします。主からお預かりしているものですから、安易に口には出せません」


「では、主に伺おうか」


「はてさて、俗事のことはよくわからんのぉ…」



 絶対嘘である。主も部下もこの調子では、永遠に真実は出てこないだろう。



(ちょっと任せてみたい気もするな。それで相手側の戦力を知ることも一つの手だが…こちらにしても手を見せすぎている。口惜しいが、これ以上は引き出すカードがない)



 本来ならば力を公開すべきではないので、彼らのほうが正しい対処だといえるだろう。


 ただ、こうでもしなければ流れはマングラスのものであった。プライリーラとしてもリスクを負うのは致し方ないところだ。



「それでゼイシル氏、どうするのかな? 私に任せてもらってかまわないだろうか?」


「もしプライリーラ嬢の言葉が正しいのならば、この状況ではそれしか方法がないと思える。一番確実で安全な方法だ。くどいようだが再度確認させてもらう。殲滅級以上の魔獣相手にも対応できるのだね?」


「できる。複数同時は無理だが、相手が一体ならば最低でも撃退は可能だ。痛めつければ相手は逃げ出す可能性も高いからね。そこは安心してほしい。ただ、ホワイト氏が死をも厭わない狂人だった場合は相打ちになるかもしれない。リスクはある。が、今持っている情報ではその可能性はゼロに近い。おそらくは大丈夫だろう」


「…そうか。ならば仕方ないな」



 この段階でゼイシルも、薄々気付いていた事実を受け入れることにした。


 相手はホワイトハンターであるという事実を。


 ゼイシルとて馬鹿ではない。ハングラスには密偵もいるので彼らに相手側の素性を調べさせるだろう。そこである程度の情報は掴んでいるはずだ。


 それを公言しないのはハローワークとの関係がこじれるのを憂慮してのことだ。


 相手は世界的な機関である。この辺境都市が正常に機能しているのも彼らの援助があってこそだ。この関係を崩すわけにはいかない。


 もとよりハローワークはあくまで斡旋を行うだけなので、仮に登録した傭兵やハンターが犯罪行為を行っても責任は負わない。なればこそあえてハンターであることを強調する必要もない。


 あくまで相手はホワイト商会。アンシュラオンとは別の存在だ。そのほうが都合がいいのだ。



「ただし、ジングラスだけに大きな負担がかかることは変わらない。それでいいのかね? あまりメリットがあるようには思えないが…損害を受けてから苦情を出されても困るのだがね」


「こちらにも事情がある。仕方ない出費だ」


「ほぉ、どのような事情かな?」


「婚期に関わることだ。明言は避けたいものだね」


「婚期…!? まさか結婚するのか?」


「おや、意外かな? 私はすでに二十二歳だ。もう結婚していてもおかしくはないだろう?」


「そ、それはそうだな。そうか…結婚か…」


「なんだゼイシル氏、私のことが気になっていたのか? お互いに独身同士だ。お似合いと言われればそうかもしれないね」


「ば、馬鹿を言うものではない! 父親と娘くらいの歳の差があろう!」


「そんなことにこだわっていると永遠に結婚できないよ。まあ、すでにこの歳まで結婚を逃している私が言うことではないがね」



(ゼイシル氏か…当主同士だから無理だろうが、時代が時代ならそういう可能性もあるにはあったな。真面目すぎる点が困りものだが悪い男ではない。むしろ経済的な観点からは完璧な人物ともいえる。…ただ、精力が弱いかもしれないな…)



 プライリーラとゼイシルの結婚。それはそれで面白そうではある。


 少なくとも安定した収入は約束してくれるだろうし、面倒でやりたくもない事務処理も全部やってくれるのだ。旦那としては最高である。


 ただし、自分が一番求めているのは「活力」や「精力」といったもの。やはり「子作り」を重視したいものである。


 自分が武人ということもあり、その点だけは若干不安だ。それはソブカも同じであるが、若いので大丈夫だと思いたい。



「ムーバ氏もそれでいいかな?」


「…それはその…プライリーラ殿がそれでよろしければ…グマシカ様もそうおっしゃっておられますし…」


「ならば問題はないね」




 流れはプライリーラに傾きつつある。


 だが、それに不満を抱く者もいる。



「お待ちください。うちがやる話はどうなったんでしょう?」



 ソイドダディーが口を挟む。


 いきなり場を奪われたので、怒りを表に出すことはないが不満は感じているだろう。



「残念だが、聞いていた通りだ。私が対処することになるだろう」


「うちはみそぎも許されないってことですか」


「ホワイト氏が外敵となったからには内部勢力は行動を控えてもらう。そう言ったはずだよ」


「せめて自分も参加させてください」


「それは駄目だ」


「なぜでしょう?」


「守護者を見せるわけにはいかない。一応あれは秘宝扱いなんでね、できるだけ秘匿しておきたいんだ。それに、今まで見た人間がいないのは不思議だと思わないか?」


「…? 何の話です?」


「いくら秘宝とはいえ守護者というご大層な名前の代物だ。噂話ではなく実際に見た人間がいてもいいとは思わないかい? 見えないのに守護者だなんて、まるで詐欺みたいじゃないか」



 守護者の噂は多くの者が知っている。ジングラスの末端ドライバーでさえ知っているくらいだ。


 だが、その姿を見た者はいない。


 プライリーラの発言から、人目のつかない場所で訓練しているようだが、それにしても一人くらいは見ていてもいいはずだ。しかし、そういった者もいない。



「もしかして…いないのですか?」


「いるよ。ただ、守護者を見た人間は、まず間違いなく死ぬだけさ」


「…殺したって意味でしょうか?」


「ははは、さすがにそこまで残酷ではないさ。べつに見られたってかまわない。だが、『見せられない』んだ。そして、近寄れない。私以外の人間が【彼女】を見ることはできないのさ」


「頭が悪いんでよくわかりませんが…つまりは足手まといってことですか?」


「そういうことだね。君が悪いんじゃない。『そういうもの』なんだと捉えてほしい。普通の人間からすれば、あれは災害のようなものだからね。災厄から身を守るものが災害とは、これまた皮肉なのかもしれないがね。…これ以上の説明はできない。納得してくれとは言わないが、今は受け入れて任せてほしい」


「…わかりました。ご武運を祈っております」



 内心はかなり悔しいだろう。その顔には、ありありと落胆の色が浮かんでいた。


 たとえるならば切腹を途中で止められた武士のような顔であろうか。心底悔しそうだ。



(戦いたいのに戦えない気持ちは理解できる。武人にとって戦うことは自己表現だ。彼も相当ストレスが溜まっているのだろうから、いっそのこと一気に爆発したかったのだろう。だが、死なれると困る。これ以上ラングラスが弱ってもグマシカ氏の思う壺だ。耐えてもらうしかないな)




 その後、ホワイト商会以外の細かい話し合いをしてから会議は終了した。


 一番の難題がこのことだったので、他の問題は軽く流す程度であった。





 こうして―――決定。




 ひとまずプライリーラが対処することが正式に決まる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます