251話 「パニックナイト〈狂乱の夜〉 後編」


「て、てめぇ…ホワイト! よくもやりやがったな!」


「思ったより頑丈だな。そのあたりは兄貴に似ているよ。しかし、やはりゼイシルの居場所を知らなかったか。下部組織の組長じゃそんなもんか。あーあ、グランハムを殺さなきゃよかったよ。でもさ、しょうがないよな。普通に雑魚として出てきたからさ。そんな重要なキャラだったなんてわからないって」


「先生だけでなく兄貴までコケにしおって! もう許さんわ!」


「最初から許してほしいなんて言ってないけどな。それより自分たちの状況を理解したほうがいいぞ。お前たちは報復をしくじった。そうなれば次はどうなると思う? 今度はこっちの番というわけだ」


「最初に仕掛けたんは、そっちじゃろうが!」


「無駄な議論だな。自然界において選別と淘汰は常時行われるものだ。今グラス・マンサーが力を持っていることも強いからだ。この大地を力によって開拓した結果だ。結局、強い者が最後に勝つんだよ。そして、そのほうがいいんだ。それくらい認識しろ」


「ここに来たのがお前の運の尽きじゃ! やっちまえ!」


「やれやれ、人の話を聞かないのはお互い様だが、相変わらず根拠のない自信だな。その点は敬服するよ」



 なぜこんな強気なのか不明だ。さすがゲロ吉。雑魚臭が半端ない。



 バタンッ ザザザザッ



 ゲロ吉の声にドアから八人の武装した組員が入ってきた。明らかに準備をしていたことを見ると、最初からこちらを怪しんでいたことがうかがえる。


 あんな鎧が堂々とやってきたら怪しむのが普通だ。何も疑わないゲロ吉がおかしい。下部組織とはいえ、よく組長をやっていられるものである。



(雑魚だな。あまりに雑魚すぎる。が、サナにはこれくらいでいい)



 鎧は分戦子で動かしている人形なので、ここに来たのはアンシュラオンとサナのみ。


 この組より強くて大きな組織は山ほどあるが、なぜわざわざアンシュラオンがここに来たのかといえば、「サナの練習」にちょうどいいからだ。


 昨日の夜襲を見て、一般戦闘員の質はキブカ商会と大差ないとわかった。さすがに狐面のような専門職では分が悪いので、これくらいの雑魚がサナの練習台にはベストだろう。


 まずは場数を踏ませる。これも大事なことだ。



「サナ、何人か引き出すから確実に倒していけよ。屋内戦闘にも慣れるチャンスだぞ。こういう場所では障害物を上手く使うんだ」


「…こくり」


「お面は大丈夫か?」


「…こくり」



 自分もサナも、今夜は仮面ではなく狐面を被っている。単純に変装のためだが、風通しも良く仮面より快適だ。


 その後、鑑定で調べた結果がこれである。



―――――――――――――――――――――――

名前 :黒狐神くろきつねがみのお面


種類 :お面

希少度:D

評価 :D


概要 :黒狐神をかたどったお面。被った者に黒き災いから身を守る加護を与えるという。本体自体は割れやすいので注意。白狐面(女性用)とセットで婚姻の儀にも使われる。


効果 :防御E、暗闇耐性、毒煙無効



【詳細】


耐久 :E/E

魔力 :E/E

伝導率:F/F

属性 :闇

適合型:精神

硬度 :E


備考 :

―――――――――――――――――――――――



 さりげなく道具のデータ初公開である。


 鑑定には二種類あり、詳細が載っていない簡易鑑定と、このように詳細まで表示される完全鑑定の二種類がある。


 簡易鑑定の術符は売っているが、完全鑑定を行うためには『鑑定』スキルを持った人間か、高度な解析の術を扱うしかないので、基本的には鑑定屋に持っていくほうが信頼性が高い。


 これも鑑定屋に調べさせたものである。結果、問題はなし。そのまま使うことができる。


 数値に関しても情報公開のデータと同じく「SSS]が最高値なので、「E~F」が普通にありふれたもので、「D」ならば少しだけ珍しいもの、という解釈でいいだろう。


 効果の『防御E』は、そのまま装備した部位の防御力にプラス補正が入る、という意味だ。お面なので、顔の部分だけ防御が100~199上昇する、というわけだ。


 ただ、『耐久』の値がなくなれば壊れてしまうのが最大のデメリットだろうか。これは武具全般にいえることである。



(ふむ、結婚式にも使われるくらいだ。案外縁起が良いものかもしれないな。効果もなかなかいいし、ちょっと目立つことだけを除けば悪いものではないな)



 被ってみると意外と視界も塞がれず、スキルも良い。彼らが毒を防いだ理由も、このお面の力で間違いないだろう。


 ただ、さすがにこれを被って外を歩く勇気はない。これならば自分の仮面のほうがましだ。




「行け、ベンケイ先生」



 アンシュラオンの制御下でベンケイ先生が動き出す。


 手始めに目の前にいた組員たちにダブルラリアット。



 グルングルンッ ドガドガドガッ!



「ぎゃーーー!」



 ただ両手を広げて体当たりではなく、格闘ゲームのキャラのように回転を加えてみる。


 それによって四人の組員が巻き添えになり、弾き飛ばされて動かなくなる。二人は首が折れていたので死んだものと思われる。



(おっ、これけっこう面白いな。次は違うのでやってみるか)



 思えば格闘ゲームを久しくやっていない。自分自身がその中に入ったようなことばかりやっているので、プロレス技というものをあまり意識しなかった。



 ぜひ試してみたいと思い、近くにいた組員を掴み―――背後に投げる。



 いわゆるバックドロップであるが、身体を固定して逃げられなくしつつ、遠慮なく頭から落下させる。



 ドガンッ ボギイイッ



「ぶぎゃっ!?」



 馬鹿力で強引に持ち上げられ、さらに頭から叩きつけられた組員は首を骨折。



 それだけにとどまらず―――



 ドゴーンッ!! ぐちゃっ!



 床すら粉砕して上半身の大部分を骨折して、死亡。


 頭がもう見えないほど埋まっているので、ほぼ即死だろう。



 あまりに綺麗に決まったので―――快感。



 非常に爽快な気分を味わえることに気付く。雑魚は雑魚なりに倒しても楽しいというわけだ。



「おおお、やべえーー! 超楽しい!! プロレス技ってすごいのな! おい、どんどん出せ! オレに楽しい時間を提供しろ!」


「な、なんちゅーやつじゃ!! 投げるときは頭から落とさないようにと習わなかったんかい!」


「柔道の授業かよ。ずっと疑問だったが、お前はいったい誰に習っているんだ?」



 なぜか教養のあるゲロ吉。見た目とのギャップが酷い。



「次はキン肉バスターを試して…っと、そうだった。これじゃ黒姫の練習にならないな。お前とお前はあっちだ」


「ぐえっ!」



 ぐいっ ポイポイッ



 適当な組員を掴み、サナのほうに投げ飛ばす。


 そこには―――



「…ぎゅっ」



 蛇双を構えたサナが待っていた。


 放り投げられて体勢が崩れた相手を迎え撃つ。



「うおっ!」



 それに気付いた組員は持っていた棍棒でガードするが、もう遅い。


 ザクッ


 万全の態勢で待ち構えていたサナの蛇双が、腹に突き刺さる。



「ぐえっ!!」


「…ぽいっ、ぎゅっ」



 革鎧を貫いて刺さった蛇双を、あっさりと手放す。


 相手が覆い被さってきていたし、抜いている暇に身動きが取れなくなると判断したのだろう。即座に一本を捨てる。


 そして、もう一本を前屈みになった組員の顔面に向かって振り抜いた。



 ズバッ ぶしゃっ



「ぎゃーーーー!! 目がぁあああ!」



 横に振り抜いた一撃は目を切り裂く。左目だけはかすかに直撃を免れたが、大きく抉れているので目を開けられる状態ではないだろう。


 普通の人間は行動の大半を視覚に頼っている。戦技結界術が使えない組員は、ほぼ無力化されたと考えていいはずだ。



「ちくしょう! やりやがったな!」



 もう一人の組員がサナに向かっていく。


 が、サナは目を斬られて悶えている相手の後ろ側に隠れる。



「くそっ、おい、どけ!」


「目がぁああ! 目がぁああああ!」


「…すたた、ずぶっ」


「ぎゃっ!!」



 二人がもたついている間に、低い態勢から組員の足に蛇双を突き刺した。


 今度は手を離さず、刺さったまま切り下ろす。



 ザクザクッ ごりごりっ



「ぎゃああああ! 足がぁああ!」



 体重をかけて下ろした蛇双は、骨に沿って肉を削ぎ落とす。


 さすが『切れ味強化』がかかっている蛇双だ。戦気で防御しているわけでもないので、サナの力でも簡単に切り裂くことができる。



「…ぽいっ、かちゃかちゃ」



 今度はその蛇双を捨て、【銃】を取り出した。


 パスパスッ


 乾いた音を立てて銃を発射。弾丸は二発とも組員の胸に命中。



「ごぶっ…この…やろう……」


「…どん」



 パスパスッ パスパスッ



「ごごっ…ぶはっ」



 さらに続けて四発。


 その銃弾が胸と喉に命中し、ごぼっと血を吐いて組員は倒れた。



(おっ、普通に使っているな。やはり銃は銃で楽だな)



 サナに渡したのは、ホロロに渡したものと同じリボルバー型のライフルだ。


 今夜のために急造したが、問題なく使えているようで何よりである。


 サナは銃を撃ち終わると、それもまた無造作に捨て、目が潰れたほうの相手にとどめを刺している。


 彼女は武器に対する愛着があまりないので、こうして次々と武器を変えて戦うほうが合っているようだ。


 ただ、それは逆に一つの武器に特化していないことを意味するので、そのうち何かしらの鍛練が必要になるだろうか。



(とはいえ、オレも剣士は専門外だしな。そもそもオレ自身がもっと剣を使ったほうがいいんだよね。意識して使わないとすぐに忘れちゃうしな…)



 元が戦士なので、剣を使うより素手のほうが簡単に思える。


 それもまた剣を使わねばならないような強敵がいないせいでもある。


 目の前ではベンケイ先生によって危険なプロレス技実験が行われている。この程度で破壊されるような相手だ。それも仕方ない。




「く、くそっ! 好き勝手やりおって!!」


「突然のドラゴンスクリューッ!」



 ボキボキボキッ



「ぎゃーーーー! 足がーーー!」



 油断していたゲロ吉に、いきなりのドラゴンスクリューが炸裂。


 ゲロ吉は足を押さえて悶絶する。よくよく見ると膝元から足が捻じ曲がっていた。これは痛い。



「あれ? 折れたの?」


「そんなんされたら折れるわ!!」


「おかしいな。プロレスだと折れていなかったんだが…最後まで足を持っていたからかな? いやー、めんごめんご」


「全然誠意が見えてこないぞい!!」


「ニヤニヤ、ねえ、痛い? 痛いの? もう一本いってみる? がしがしっ」


「いったーーー!! 折ったうえに蹴りおるとは、なんてやつじゃ!! 悪魔のようなやつじゃな!!」


「なあ、もっと出せよ。もう組員はいないのか?」


「何だと! …って、うえええ! もう全滅しとる!!!」



 気が付くと、武装した組員はすでに全滅している。増援部隊も完全にノックアウト。プロレス技の犠牲になっていた。


 ほぼ奇襲に近い形だったので相手の準備も整っておらず、さらに本職の戦闘要員でなければこんなものだろう。



「わ、わしも殺すんかい! いいじゃろう! さっさとこいや!」


「ゲロ吉は貴重なお笑い要因だから生かしておいてやるよ。どうせゼイシルの居場所も知らないような小物だしな」


「な、なめおってからに! こんなことをして、ただで済むと思っているんかい!」


「うん、済んでないよね。おたくらがさ。ぎゅううう」


「ぎゃーーーー! 足を踏むな!!!」


「んじゃ、ゼイシルさんによろしく。いつでも襲ってきていいからね。ただ、次は本人が出てきてくれると嬉しいな。鬼ごっこも疲れるからさ」


「オヤジは戦闘専門じゃねえ! 出てくるわけがなかろう!」


「そういえば商人が本職だったっけ? じゃあ、しょうがないな。黒姫、帰ろうか」


「…こくり」



 アンシュラオンとサナは出口に向かって歩き出す。


 トコトコトコ ぴたっ


 が、途中で止まる。



「な、何じゃ? まだ何か用かい!!」


「いや、お前じゃない。黒姫、わかるか? これが殺気だ。どんなに相手を油断させても殺気を出したら気付かれる。常に注意して周囲の様子を探るんだ。いつも後ろには気を配っておくんだぞ」


「…こくり」


「どこかわかるかい?」


「…じー」



 サナが後ろを振り返り、壁の一点を凝視する。


 黒い壁なので一見するとよく見えないが―――【穴】がある。


 そこから銃口がこちらに向けられていた。



「ちっ!!」



 パスンッ


 その視線に気付いた男、若頭のザメスが銃を発射。


 慌てて撃ったので狙いが定まらず、銃弾はアンシュラオンを逸れてサナに向かう。


 サナは音が鳴った瞬間には反射的に顔を背けていた。


 ガジュンッ


 銃弾はサナのお面を掠って逸れ、倒れたテーブルに突き刺さる。


 お面には大きな傷ができていた。もし生身だったら頬が傷ついていたかもしれない。やはり顔の保護は重要である。



「悪い反応じゃないが、まだ遅かったな。胴体を狙われたらよけられなかったかもしれない。次は気をつけるんだよ」


「…こくり」


「やられたら次はどうする?」


「…こくり、ごそごそ」



 サナが水刃砲の術符を取り出すと、術が発動。



 鋭い水流が壁に向かっていき―――貫通。



 ズシャーーー ザクッ



「ごぼっ…ごふっ…くぞっ…こんなところ…ぶばっ」



 ごとり


 上半身を切り落とされたザメスが崩れ落ち、そのまま死亡。



(ふー、ちょっと危なかったけど、なんとか回避はできたか。サナにもしっかりと防御を学ばせてやりたいし、多少危なくてもどんどん体験させるようにしないとな)



 アンシュラオンは当然、ザメスの行動に気付いていた。


 ただし、サナに経験を与えるために泳がせていたのだ。結果は見ての通り。良い体験になった。


 狐面の戦いで改めて思ったが防御は最重要である。傷つかねば何度だってやり直せる。


 それで消極的になっては困るが、大怪我をして動けなくなるよりましだ。武器をそろえれば挽回のチャンスもあるので、攻撃と同時に防御面も強化しなければならない。



「んじゃ、またな。今夜は忙しいんだ。これから何軒も回らないといけないからな」


「なんじゃと! どういうことじゃ!」


「ははは、焦るなよ。明日になればわかるさ」




 アンシュラオンとサナは、今度こそ出ていった。


 組長だけ生き残っても組織としての実体はなくなる。これでハン・スザン商会も終わりだろう。


 ただ、下部組織を潰してもあまり意味がないし、これは序の口。今夜はさらに数多くの組を回って叩き潰す予定である。


 今頃、戦罪者たちが各組、ラングラス一派以外の組織を一斉に襲撃しているはずだ。


 ヤキチやマサゴロウ、マタゾーたちは正面から堂々と、ハンベエは不意打ちで毒を投げ込めばその段階で終わりだ。


 電撃作戦なのだから対応できる組は少ないだろう。少ない戦力でも十分こなせる。



(次はマングラスの組にでも行ってみるかな。オレの狙いはあくまでマングラスだしね。あっと、そうそう、最初に出会ったあいつにも挨拶しないとな。今晩は楽しくなりそうだよ)



 グラス・ギースの夜に狂乱が舞い降りる。



 所々で火の手が上がり、多くの組員が死んでいく。


 こうして今夜だけで、十八もの組が潰されることになるのであった。




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