241話 「おめぇ、それ絶対パチもん掴まされてるぜ!」


「よぉ、ゲロ吉。また吐けよ。ゲロゲロしろよー、ほーれ、ほーれ」



 ヒョーーン ガスッ ヒョーーン ガスッ



「いてて! 石を投げるな!」


「また吐いたら許してやるぞ。ほーれ」


「いたた! イジメじゃろうがそれは! イジメはいかんと習わなかったんかい!」


「オレはイジメ推奨派だ」


「なんてやつじゃ! 人間として終わっとる!」


「その代わり、苛められたやつには竹槍を持って夜襲する権利がある。さあ、こい!」


「どういうルール!?」



 アンシュラオンが考案する「戦国小学校」では、イジメが推奨されている。


 苛められた人間は復讐のために竹槍を持って突撃。対する苛めた側は拠点(家)で防衛作戦を展開。命を奪われなければ勝ちである。


 傍観している側が一番楽しいという嫌な学校だ。


 と、戯言はともかく、パミエルキに育てられたアンシュラオンは、むしろ「自分たち以外は家畜」と教えられているので、習った通りにするととんでもないことになる。


 まだ戦国小学校のほうがましに思えてくるから不思議だ。




「しかしまあ、本当にグランハムとは似ていないな。才能の欠片も感じないぞ」



 どう見てもゲロ吉は弱い。少しはやるのだろうが、ビッグより弱いのは間違いない。


 グランハムは相手が悪かっただけであり、実力的には都市内でトップクラスの武人である。それと比べるとお粗末なものだ。



「兄弟だからって似ているとは限らんわ!」


「はいはい、兄弟なのは認めてやるよ。世の中にはデコボコ兄弟もいるしな。それで、そのゲロ吉が何の用?」


「ゲロ吉はやめんかい!」


「死ね、ゲロ左衛門! ほーれ!」


「いてっ! もっと悪くなったじゃろうが!! わしの名前は…いててっ! やめんかい! 地味にイラつくわ!」


「ありがとう」


「なんで礼を言われたんじゃ!?」


「イラつかせるために投げたから、イラついてくれてありがとう」


「全文言われると、もっとイラつくわ!」



 特に名前を知る必要性を感じないので、再度石を投げて妨害。


 よって、名前はゲロ吉で固定される。



「名前なんてどうだっていい。わざわざこうしてオレに時間を取らせるんだ。それなりの用事だろうな?」


「この状態でふざけたことを言いおるのぉ! ここでお前らもおしまいじゃ!! 死にさらせや!!」


「何がお前をそこまで強気にさせるのかわからんが…もう半分以上は倒れたんじゃないのか? 毒でやられただろう?」


「うるさい! あれはうちの組のもんであって、雇った連中ではない! だから問題ないんじゃ!」


「その理論で大丈夫か?」



 ハンベエの毒で数十人が倒れている。毒耐性を施しても貫通するので長時間吸えば危ない。そろそろ死んだ頃だろう。


 この段階で敵の数は激減。三割程度になってしまっている。自信満々で襲ってきたわりには、なんともなさけない。



(うーん、こいつはあまり強そうじゃないが…一応武闘派なのかなぁ。グランハムの弟にしてはまったく張り合いがないし、完全にハズレだな)



 ハングラスの武闘派が弱いというより、グランハムたちが突出して強かっただけなのだろう。彼らならばソイドファミリーにも勝てたかもしれない。


 しかし、今は裏スレイブに頼っているくらいだ。最大戦力を失ったハングラスは、すでに自前で戦力を調達できないほど弱っているといえる。


 正直、期待はずれであった。



「もっとやってくれると思っていたが、これじゃ命日というか【縁日】だぞ。キャンプファイアーと狐のお面と牛の丸焼き(ゲロ吉焼き)だもんな。愉快なパーティーじゃないか」


「じゃかあしい! お前のせいで兄貴たちが死んで、こっちはガタガタなんじゃ! 簡単に兵隊が集まるもんかい! 外で雇うので精一杯なんじゃ!!」


「かなり簡単に内部情報を漏らしているが、大丈夫か?」


「どうせ死ぬんだ! 教えておいてやるわい!」


「やめろ! 死亡フラグだぞ!! ただでさえ雑魚なんだから、心配になるじゃないか!」


「そんな口が叩けるのも今のうちだ! 皆さん、お願いしやす!」



 狐面の男たちが、じりじりと間合いを詰めてくる。その動きに隙はない。



(暗殺者集団というだけあって少しはやりそうだな。だが、グランハムたちには及ばないか。ハングラスも急ぎすぎたな。かといってこれ以上待ってやる義理はないし、しょうがない。さくっと潰すか。あとはサナの強化に役立ってくれればいいや)



 正直、第一警備商隊と比べたら小粒感が否めない。個人個人では到底グランハムには及ばないだろうし、副将にいたメッターボルンにも及ばない可能性が高い。


 この段階でアンシュラオンの興味は消失。あとでお面を奪うくらいしか楽しみが思いつかない。



「ハンベエ、適当にやっていいぞ」


「了解です」


「馬鹿め! そいつの毒はもう使えまい! こっちの勝ちじゃ、ボケが!」


「やめろ! それ以上の雑魚臭を醸し出したら、ただじゃおかんぞ! お前はフラグを立てすぎだ!」



 さきほどから本気で死亡フラグを立ててくるから違う意味で怖ろしい。


 ゲロ吉はなかなか侮れない。新しいタイプの雑魚である。



「お前なぁ、兄貴があれだけ強くて負けたんだぞ。こいつらがグランハム以上に見えるのか? 無策にも程があるぞ」


「くーはははは! んなことは言われんでもわかっとるわい!」


「うわ、びっくりした! お前、変な笑い方するのな。きもっ」


「イジメじゃぞ、それ!!」


「オレは嘘は言えない主義なんだ。ごめんな。反省してる。デブでキモいなんて終わってるな、お前」


「謝罪ですらないぞ!? さらに抉っとる! ぐぬぬ、安心せいや! お前にはとっておきの相手を用意しとるわ!」


「おおっ、本当か! どんなやつだ! 見せろ! 早く出せ!!」


「ええい、少しは動揺しろ! まあいいだろう。はしゃいでいられるのも今のうちじゃ。先生、お願いします!」



 ゲロ吉が腰を折り、よくヤクザ系の邦画で見るような「お控えなすって」のポーズを取る。


 このポーズ、正式には「仁義を切る」と呼ばれるもので、昔の挨拶や素性確認に使われたものだという。


 中国の武術家にも似たような文化があるので、その業界の人間にだけ通じる挨拶のやり方がそれぞれにあるのだろう。



 そして、森から一人の初老の男が歩いてきた。



 背丈はアンシュラオンと同じ程度であるが、その容姿が驚きだ。


 髪の毛は三つ編み。いわゆる弁髪と呼ばれるもので、昔の中国やモンゴルなどでは一般的な髪型として親しまれていたものだ。


 日本だと漫画で中国拳法家を示す際によく使われるので、いろいろな漫画でお目にかかるだろう。代表例は、額に「中」の文字が刻まれたラーメンの人である。


 その初老の男も、まさにイメージ通り。本当に拳法着のようなものまで身にまとっている。



(ううむ、中国文化も入り込んでいるな。この世界はますますカオスだ。どこまでいってしまうのだろう…)



 と、アンシュラオンが転生者らしく文化の考察をしていると―――



「あいつがホワイトです。先生の力でさくっとお願いしやす!」


「うむ、任せるアル」


「―――ぶっ!!」



 不意打ちの―――「語尾にアル」



 期待を通り越して、やっちまった感すら醸し出していた。


 これには思わずアンシュラオンも吹き出す。



「ぶはははは! お前、それ絶対パチもんだぞ! 偽者を掴まされたな!! ゲラゲラゲラゲラ!」


「何が可笑しいアル!」


「やめろ! アルとか言うな!!! 腹が…腹が痛いじゃないか!! ゲラゲラゲラゲラッ!! アルはやめろよぉおお!! ひー、腹いてーーー!!」



 その格好も相まって偽者感が半端ない。


 今までのフラグといい、こんな人物を連れてくるあたり、ゲロ吉は笑いのセンスがあるのかもしれない。



「ゲロ吉、お前…面白いよ! わかった、わかったから。お前はお笑い担当として殺さないでおいてやろう! ひー、ひー、腹が引きつる…! もしやこれが狙いか!? やるな! たしかに笑い死にしそうだぞ!」


「くうう! どこまでも余裕をぶっこきおってからに! 先生は武術の達人なんじゃぞ!」


「ひーひー、そうだろうな。だって、拳法着を着てるし。拳法着…アル!! ぶはははは!!!」


「ちくしょう! あんなやつ、さっさとやっちまってください!」


「うむ、わかったアル」



 アル先生(勝手にそう名付けた)が、両手を後ろ手に回しながら近づいてくる。


 スススッーー


 歩く速度が速いながらも足音がまったくしない。まさに滑るように移動してきた。


 完璧な体重移動もそうだが、戦気を足裏に集中させて音を発しないようにしているのだ。アンシュラオンがやった命気をクッションにするのと同じ発想である。


 これ自体はそれほど難しい技ではない。戦気術を学ぶ過程で誰でもそれなりに使えるようになる。



 ただし、アル先生はそれを無意識でやっている。



 これが一番重要だ。


 意識せずともやれるレベルにまで達するには相当な鍛練が必要である。少なくとも武術の達人という触れ込みは偽りではないようだ。



(ほぉ、たしかに少しは強いやつを連れてきたようだな。だが、この程度の相手にオレが出る必要もないな。かといってサナじゃまだ無理だし…そうだ。少し違う形で遊んでやるか)



 ここでふと思いついたことがある。


 せっかくなのでそれで遊んでみることにした。



「まあ、待て。焦るなよ」


「なんじゃ? びびったんか? いまさら命乞いしても遅いぞ!」


「いやいや、奇遇だと思ってな。実はな、オレも『とある先生』を雇ったんだ。お前たちが来ると思って隠し玉を用意しているんだ。どうせなら助っ人同士で戦うってのも面白くないか?」


「な、なにぃ! 助っ人じゃと! 汚いぞ!! 正々堂々勝負しろ!」


「いきなり奇襲を仕掛けるやつの台詞かよ。それにお前だって連れてきただろうが」


「そ、そうだが…卑怯者め! その先生はどこにいる!?」


「うむ、呼んでくるから、ちょっと待ってろ」


「わかった、待ってやるわい! 早くせいや!」



 なぜか待ってくれるそうなので遠慮なく準備を始める。やはり空気が読めるやつだ。見所がある。



 アンシュラオンは馬車の後ろに隠れ、ポケット倉庫から「黒い布」と余っていた「全身鎧」を出す。


 全身鎧は第一警備商隊のメッターボルンが着ていたものだ。


 この鎧は術具らしいので直せば使えないかと思って剥ぎ取ったが、接着剤でくっつけたもののまったく直らず、仕方ないのでそのまま放置しておいたものである。


 逆になぜ直ると思ったのか問いただしたいくらいだ。一度術式が壊れたものが、たかが接着剤で直るわけがない。


 だが、使い道はある。


 アンシュラオンが相手から見えない位置に素材を積み重ね、そこに戦気を注入。



 すると、戦気が鎧の中に入り込み―――人型になる。



 あとは黒い布で隙間を隠せば、見た目は完全な鎧人間だ。



 そう、ルアンにも使った『鎧人形』である。



 彼に使った鎧は一般隊員のものだったが、こちらはメッターボルンのものなので二回り以上は大きい。


 さらに戦気で自由に大きさは変化できるので、実際のメッターボルンよりも大きくしてみた。



(うむ、これでいいだろう。まず見た目ではわからないだろうし、あいつの相手には十分だ。こいつの性能もチェックしたかったしな。本家の【アレ】は疲れるから、こっちで代用できれば便利だよな)



 分戦子の質を高めると「闘人操術」という奥義になり、さらに極めると「闘神操術」という【至高技】に進化する。


 奥義の中の奥義を至高技と呼び、最低でも因子レベルが6以上はないと使えないものばかりだ。しかも闘神操術は遠隔操作系しか修得できないので、至高技の中でもレアな技である。


 この段階にまで至ると自動操縦に切り替えることができ、命令を与えて放置すれば勝手に敵を倒してくれる。


 さらに特定の闘神を模することで、特殊な能力を付与することもできるので、威力の面でも相当な強さを誇る。


 が、アンシュラオンでも疲れる技なので普段は滅多に使わない。陽禅公の実分身に対抗するために仕方なく使う程度だ。


 それを使うと完全にオーバーキルなので、下界の雑魚相手には分戦子で生み出した鎧人形で十分だろう。


 ルアンでは相当な手加減をしたため、これがどれだけ有用かがまだわからない。どうせ戦うのならば実験をして有意義に過ごしたいものである。



「先生、お願いします」


「ウム、マカセロ(演:声音を低く変えたアンシュラオン)」


「な、なんだこいつ! どこから現れた! しかも…でかい!」



 巨大な鎧人形が、馬車の背後から突如出現。謎の鎧人間にゲロ吉もびっくりだ。



「この御方の名前はベンケイ先生だ。気をつけろ、天下一の乱暴者だぞ!」


「ウム、天下無双トハ、ワレノコトダ。ヒレフセ、愚民メ」


「な、なんだと! やたら尊大じゃぞ!?」


「ベンケイ先生は赤子の頃、学校の先生を張り手で倒して学級崩壊を起こさせたほどの猛者だ。ひれ伏せ! 命乞いをしろ!」


「赤子の頃!?」


「ちなみにベンケイ先生は、まだ三歳だ」


「どういうことなの!?」



 謎の情報にゲロ吉はパニックだ。見ていて楽しいやつである。



「気をつけるネ。こいつ、只者じゃないアルよ! 凄まじい戦気の波動を感じるアル! しかもそれを隠すだけの実力者ネ!!」


「ぶっ―――! やめろよ、そのしゃべり方! 吹くだろう!」



 こうして互いの先生同士の戦いが始まる。


 申し訳ないが、こっちは完全に遊びモードである。



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