230話 「性教育は大事だ! これより実践する! よく見ているように!」


 まさかの「殿、ご乱心」。


 アンシュラオンが突如発した「自慰禁止令」によって場は騒然とする。



「お前たちが勝手に性処理をしないようにオナニーを禁止にする。わかったな。そうすればオレのお世話欲求も満たされるはずだ」


「駄目駄目、駄目ですって!」



 そこで抵抗を始めたのは、やはりシャイナ。この犬はいつもうるさいのだ。



「何が駄目だ?」


「だ、だって…仮に先生が手伝ったら…その…そういう言葉にならないんじゃないですか?」


「オナニーか?」


「オブラートに包んでいるのに潰された!」


「看護士志望なんだから生理的欲求くらい受け入れろ。自慰は人間にとって自然なものだぞ」


「そ、そうですけど…やっぱりこれは何か違う気がします…」



 シャイナの言うことも一理ある。手伝ったら自慰ではない。違うプレイだ。


 がしかし、アンシュラオンにとってお世話とは「無になること」なので、黒子として援助することを意味する。


 あくまで主役は女性。自分は影に徹して快感を与える役目を果たす。それが長年、姉に教え込まれた愛情の示し方である。


 当人はまったく気付いていないが、これもまたパミエルキの呪縛の一つである。いまだ支配下から脱していないのだ。


 ただ、シャイナの様子もかなり怪しい。



「そんなに嫌がる理由がわからないな。…ははん、なるほどな」


「な、なんですか…そのイヤらしい目は…」


「その様子、お前…やってるな?」


「な、何がですか!?」


「この発言をした時、お前が最初に反応を示した。ということは、そういうことだ。このメス犬が! 盛りやがって! ここは毎日発情期か!? ああん!」


「きゃーー! 股に手を突っ込まないでください!!」


「じゃあ、顔を突っ込んでやる!」


「うぎゃーーー! もっと駄目ですよ!!!」



 殿、ご乱心!!




「サリータ、こちらに来なさい」


「はい、師匠!」



 シャイナでは話にならないので、サリータを呼び寄せる。



「お前はどうなんだ?」


「はっ、師匠の言葉は絶対だと考えております!」


「よし! では、オナニーの経験を教えろ」


「えっ!?」


「聴こえなかったのか? どのくらいの頻度でやっている?」


「それは…その……」



 さすがに恥ずかしい質問であるのでサリータも顔を赤らめる。


 完全なセクハラだが、ここはちゃんと訊いておく必要がある。けっして個人的興味ではない。けっしてない。断じて否!である。



「これは命令だぞ。ちゃんと答えろ。お前の主人兼師匠として知らねばならないことなのだ」


「め、命令…!」


「そうだ。嘘は許さんぞ」


「そ、その…それはその…たまに……」


「何日に一回だ? それとも毎日か?」


「そ、そこまで!?」


「そうだ。もっと詳しく! いつやるんだ!」


「…その…疲れた時とかに…やるくらいで…」


「もっと大きな声で! はっきりと!」


「はい! 鍛練で疲れた日などにしておりました!」


「毎日か!」


「三日に一回くらいです!!」



 湯船に浸かりながら、ビシッと答える。内容が内容なので、まったくもって締まらないが。



(ふむ、女性としては標準的かな。性欲が強ければ男みたいに毎日する人もいるが…そんなもんだろう。というか、なぜかこういうプレイになってしまうな)



 サリータと話すとついついこうなってしまう。もう諦めよう。出会い方が悪かったのだ。


 まるでロボット物の主人公と敵側ヒロインのように、「こんな出会い方さえしなければ、もっとわかりあえたのに!」という状況だ。


 しょうがない。そのまま割り切って続けたほうが気楽だろう。


 だが、追及はこれで終わらない。殿はとことん突き詰めるタイプなのだ!



「で、何を使ってだ?」


「な、何を!? 何をとは何でしょう!?」


「道具を使うこともあるだろう? 手でやっているのか? 何か道具を使っているのか? どっちだ?」


「それは…うう…」


「先生! セクハラですよ! あまりに酷い!」


「だからどうした!!!」


「えーーー!?」


「お前らはセクハラだのパワハラだの、あれこれうるさいが、そんな資格はない!! この犬どもが! オレは神だぞ!! 黙って言うことを聞け!!」



 完全序列社会では神こそがすべて。神の言葉は絶対である。ましてや犬が逆らうなど、あってはならない。


 世間では、やれセクハラだの、やれパワハラだのとうるさいが、強い者が力を振るうのは当然である。それが正しい社会のあり方だ。



「サリータ、答えなさい」


「は、はい。…その…特に道具というものはないのですが……下着がこすれたりするときは……そのまま…」


「んん? よく聴こえんなぁ? ここに何がこすれたりしたときだって? ぐいっ」


「あっ!! そ、そこは…!」


「ここに何を押し当てるんだ? 言いなさい」


「し、下着の…布などが…あ、当たって…」


「当たるとどうなる?」


「き、気持ちいい…です」


「これより気持ちいいのか? さわさわ、ぬるぬる」


「ううっ…はぁっ! こ、こっちのほうが…気持ちいいです!」



(あれ? 何か違う方向に…)



 またもや違う方向に話がいってしまった。殿、困惑である。




「おなにーってなに?」


「え!?」


「ねえ、おなにーってなに?」



 アンシュラオンとサリータが泥沼にはまってしまっている間、ラノアがシャイナに素朴な疑問を投げかけていた。


 当然、幼いラノアは自慰の意味を知らない。実年齢以上に精神は幼いので性的なことにも無知に違いない。



 これは―――困る。



 子供の質問で一番困るのが性に関する話題だ。大切なことなのでしっかりと教えねばならないが、教えすぎるのもまずい。その按配が難しい。



「ねえ、なに?」



 子供の探求心は凄まじい。答えを言うまでけっして許してはくれない。



「そ、それは…その…」



 あどけない瞳がシャイナに向けられる。


 まだ穢れを知らないまっさらな輝きが、穢れてしまった自分を射抜くように。


 そして、過去を思い出す。



(ああ、私にもこんな目をしている時があった。あれはそう、もっと遠い遥か昔…。麻薬のことも知らず、キラキラとした大切な清い宝物を胸に抱いていた時期。あの頃は幸せだった…穢れていなかった。そうよ。そうだわ! だから子供は守らなくちゃ! 汚しちゃいけない!)



「昔の人はね、言葉を丁寧にするために頭に『御(お)』を付けたのよ。『あの人』のことを『あの御方』とか言うでしょう? だから『御何(おなに)』っていうのは、質問するって意味ね。『何』の丁寧な言い方なの」



 とんでもないことを言い出した。苦しいにも程がある。


 だが、これで突き通すつもりのようだ。必死にラノアを言いくるめようとする。



「ふーん。えと、それがだめってことは…んと…きいたらだめなの?」


「そうそう、『御何禁止』ってのは、先生の言葉には逆らっちゃいけないって意味なの。わかった?」


「わかったー」


「そう! わかってくれたのね! ラノアちゃんはいい子ねー」


「じゃああのね、もう一つきいていい?」


「なぁに?」


「あっ、ちがった。おねーたんは大人だから、ていねいに言わないといけないから…んと、じゃあオナニーしていい?」


「それは駄目ぇえええええええ!!」



 もっと泥沼。


 そりゃそうなるだろう。むしろ「先生、オナニー(質問)です!」とか言う羽目になるので怖ろしいことになる。


 「俺こないだ、先生にオナニーしたんだけどさ」という言葉が飛び交う学校になど行きたくない。




「この馬鹿犬がぁあああああ! 嘘を教えるな!!」


「きゃっーーーー!」



 ドッパーン


 お風呂で恒例の手を使った水鉄砲が炸裂。


 だが、アンシュラオンがやると凄まじい圧力の水が放出され、くらったシャイナが吹っ飛ぶ。



「げほげほっ! なにするんですかー!」



 顔面から風呂に突っ込んだため、大量の水を吐き出しながらシャイナが喚いている。



「子供に嘘を教えた罰だ。何を馬鹿なことを言っている。その設定は無理がありすぎるだろう! 最初に気付け!」


「だって、こう言うしかないじゃないですかー! ショックが強すぎますよ!」


「後で嘘だと知ったら、もっとショックじゃないか。ここいらは安全じゃないんだ。正しい知識がないと逆に危ないぞ」


「それはそうですけど…」



 日本の街だって夜は危険なのに、こんな未開の地では何があるかわからない。特に女性は常に危険に晒されているのだ。


 性犯罪に巻き込まれないように、あらかじめ知識を得るのは重要である。最初はショックかもしれないが、一般人には金的攻撃も有効であるので、後々大きな利益となるだろう。


 子供だからといって知らないでいるのは逆に危険なのだ。



「ホロロさん、この都市って学校はないの?」


「近所の年長者が教えることはありますが、基本的には親が子を教育いたします」


「専門の教育機関は? 領主は何かやってない? 他の派閥でもいいけど」


「そうですね…時々領主城から臨時教師が派遣されることはありますが、常時教えている環境ではありません。ただ、家庭教師業はありますので、有料ですが学ぶことは可能です」


「ふむ…有料か。何でも金だな。金がないうえに親が死んだら、それっきり無教育の可能性もあるわけか。これはまずいな」



 ある程度身分のある者たちは、他の地域から流れてきた識者などを抱え込むので、高い教養を身につけることができる。グラス・マンサーの系統などがこれに該当する。


 しかし、それ以外の者たちは教育を受ける場所が極めて少ない。


 なにせ寝床を確保するだけでも精一杯の人間も多い。今日を生き抜くだけで必死なのだ。そんな余裕はないだろう。


 領主の妻のキャロアニーセが元気な頃は、よく下級街の子供たちに「寺子屋」のようなものを開いていたが、病に臥せってからは頻度も下がっていき、今ではほとんどやっていない。


 これでは性教育どころか普通の知的教育すらままならない。子供にとって良い環境とはいえないだろう。



(最近は小学校でも、かなり詳しい性教育をしていると聞く。射精シーンの映像を見せるところもあるという。…ふむ、それと比べてこちらは遅れているな。性教育どころか普通の教育すら怪しい。これは危険だ。都市全体のことはともかく、もしオレの目の届かないところで女の子たちが襲われたらどうなる? 傷つけられた当人のショックは癒えないし、オレのスレイブ候補も減っていく。そういえば、白スレイブにもそんな子がいたな…)



 ロゼ姉妹を見つける途中、白スレイブの少女の中にも心に傷を負った子を見かけたものだ。


 他人事ではない。もしかしたらセノアやラノアが被害者になっていた可能性もある。そんなことは絶対に許せない。あってはいけない。


 自分のものになった以上、彼女たちにはしっかりと教育を施すべきだ。知識は力なり、である。



 そして―――決断。



「これより性教育を行う!! オナニーを実践するから、よく見ておくように!」


「あっ、し、師匠…!」



 ここで普通の教育にいかないのがアンシュラオンという男。性教育を重点的に教えることにする。


 ちょうどサリータが目の前にいるので実験台として確保。


 再びおっぱいの妖精となり、背後からがっしりと胸を触る。



「サナ、セノア、ラノア、こっちに寄りなさい」


「…こくり」


「は、はい!」


「あーい」



 三人の子供を呼び寄せる。


 姉のセノアは知っていそうだが経験としては浅いはずだ。ついでに教えておこう。



「し、師匠。これはその…は、恥ずかしいです!」


「そうか。じゃあ、続けるぞ」



 無視である。サリータが恥ずかしいことは理解したので問題はないだろう。



「いいか、オナニーとは自分で性的な欲求を満たすことだ。頭のおかしい団体連中がたまに噛み付いてくるが、性的なことはとても大切なことだ。けっして恥ずかしいことではない。これも女神が与えたシステムだからな。しっかりと学ぶように!」



 性を否定することは、それを生み出した存在を否定することである。つまりは星を生み出した神を否定することであり、自分自身を否定することにつながる。


 生命は増えることを想定して作られている。永遠に増え続けるように出来ている。それによって無限の可能性を示すためだ。



「世の中には男と女がいるが、これは『完全なる存在』をよりよく理解するためだ。完全なるものを二つに分け、別々にし、それを再統合することによって構造を知るためにある。つまりは、機械を分解してもう一度組み立てると仕組みがよくわかるようなものだ。まあ、難しい話になったが、必要だから二つに分かれているわけだな。そして、両者が結合することは神聖なことなのだ。まずはそれを理解してほしい」



 霊が成長していくと最終的に性は統合され、男でも女でもなくなっていくのだが、『統一的存在』を理解しやすくするために最初は二つに分かれている。


 結婚が儀式になっているのは、とても神聖なことだからだ。二つの要素の結合によって、人は「神」に至るわけだ。だから古来より神聖な儀式とされている。


 そして、性行為は生命の器を生み出す重要な行為。絶対神が宇宙を創ったように、女神が愛を生み出し肉体を与えるように、物質創造という偉大な仕事の一部を代行するから大事なのだ。


 これは世界のシステムが決めたこと。人間の進化のために用意された道筋。


 だから、欲求があるのは自然なことである。これを我慢してはいけない。無理に我慢すると、あとで必ず反動が起こり、激しい衝動で身を焼くことになる。


 それがきっかけで性犯罪が起きてしまうのならば普段から積極的に発散すべきだ。結果的に世界平和に役立っているので、恥ずかしがらずにやればいい。



「性的な欲求を抱くことは自然なことだ。むしろ、そうでなくてはいけない。そして、適度に発散させてこそ人は健全に生きることができる。大事なことは強くやりすぎないこと。身体を傷つけず、労わるようにやることだ。これがまた難しい。だからオレのようなプロフェッショナルが必要なのだ! まずはゆっくりと触るから見ていなさい。さわさわ」


「うひっ…!」


「こら、サリータ。動くな」


「は、はい!」


「では、改めて実践だ。さわさわ、さわーり、さわーり」


「うふっ…うふううっ!」



 ゆっくりと胸の輪郭に沿って手を動かす。手には命気が塗られているので、ローションのようにぬるぬる滑る。


 にゅるり にゅるり


 手が周囲を這うたびに、サリータの背筋にぞわぞわした快感が走る。



(なんだこれは!? 師匠の手が…吸い付くように絡み付いて…うはっ!! じ、自分でやるのとは全然違うぅううう!!)



 普通、相手の性感帯を理解するまでは、愛撫で感じさせるのは難しい。


 誰もが同じ場所が気持ちいいわけではない。場合によってはまったく違うこともあるのだ。


 しかし、アンシュラオンは武人の能力を使い、相手の肉体オーラを実際に見ている。肉体のオーラには肉体の情報が含まれているので、これを感知するだけでどこが弱いのかがすぐにわかるのだ。


 そこを的確に攻めてくるため、自分でやるのと比べて五十倍は気持ちいい。



「おふぅううう!」



 思わず動こうとするが、おっぱいの妖精はしっかりと胸をキープ。動きに合わせて手も這いずるので、まったく逃げられない。


 ただし、強引ではない。女体を無理に圧迫せず労わりながらも、それでいて快感を与え続ける。


 女性の身体は神聖なるものだ。傷つけてはいけない。それを熟知したテクニックが冴える。これも姉に教え込まれたものである。



「まずはおっぱいだ! 女性が持つ至高のアイテム! ここは大きいとか小さいは関係ないからな! おっぱいはすべて素晴らしい! それを忘れないように! もみもみ」


「ううっ…ふひっ…ふうう!!」


「にゅるり、にゅるり。ここで乳首が立つのはいいことだ。興奮している証拠だな。だが、慌てるな。じっくり周りから攻めて…」


「あくっ!! あっ!!! あふっ―――!!」



 ビクンビクンッ


 サリータが痙攣して―――達する。



「こら、サリータ! なんでイッた!! まだこれからだろう!?」


「はひっはひっ…す、すびばせ…はっ…はぅっ…!!」



 簡単な愛撫なのに、何十段という段階を吹っ飛ばして一気に達してしまった。


 命気に加えてアンシュラオンのテクニックがあるのだ。これは仕方ない。





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