224話 「オレは子供たちとちゅっちゅぺろぺろの楽園を作るからな!!」


 メイドの素晴らしさを堪能したところで、続いて武具の受け渡しに入る。


 ハングラスの倉庫襲撃の際、ザ・ハン警備商隊からいろいろと術具を奪ったので、それを渡すつもりでいる。


 これも大事な用事である。リスクを負ってまでここにやってきたのは、そのほうが身を守るうえでメリットがあると判断したからだ。


 重要そうなものはすでに速達便で送っているので、まずは具合について訊いてみた。




「渡した術具はどうかな? その腕輪は使える?」



 ホロロの腕には、グランハムから奪った『剛徹守護の腕輪』がはめられていた。


 赤いバングル状の腕輪で、中央のトップに赤いジュエルがはまっている。こうして見ると普通の腕輪でしかないが、『物理無効』を付与してくれる希少なAランク術具である。買えば数億は下らない。


 赤系のジュエルはデアンカ・ギースの原石が同じ赤であるように、物理系の術式と相性が良いようである。


 特性が合っていないと強い術式に耐えられないので、逆に言えばこのジュエルに強い物理系の術式がかかっていることが見た目でわかるということだ。


 これは重要なアイテムなので、ホロロには万一のために常時着用を命じておいたのだ。



「はい。数秒程度ならば問題ありません。最大で十秒くらいならば倒れることなく使えそうです」


「それはよかった。普通の相手はまず『物理無効』を貫けないからね。もし何かあったら、それを使って二人を守ってあげてね」


「お任せください」


「ただし、物理以外には気をつけるんだよ。術や爆発、直接的な炎とかは防げないからね。そっちは火炎防御系の術符を使ったほうがいい。別途持ってきたから、あとで見ておいてね」


「はい。注意いたします」


「鞭のほうはどう?」


「それが…やはり難しくて…」


「やっぱり駄目か。似合うとは思うんだけどなぁ」



 彼女にはグランハムの鞭、『断罪演軌の赤鞭』も渡してある。こちらもかなり強力な術具である。


 ホロロが持つと、その艶っぽさも相まって女王様のようになるのだが、やはり武人ではないので上手く扱えないようだ。



「サリータはどうだった? やらせてみた?」


「試させましたが…自分の顔にぶつけて悶えておりました」


「…彼女らしいといえばそうなんだけど…映像が目に浮かぶね」



 サリータにも振らせてみたが、彼女はもっと駄目だったらしい。


 素人にありがちな「ヌンチャクを回したら自分の頭に当たった」「釣竿の針が服に引っかかった」状態になったのだろう。


 慣れの問題もあるが、こちらは適性であろう。彼女には器用さというものがまるでない。ひたすら直進しかできない人間なので当然だろうか。



(うーん、どうやら武具には『装備条件』が付いているものがあるみたいだな。そりゃ戦士の武器を魔法使いが使えたらおかしいし、言われてみれば当たり前だよな。グランハムは器用そうだったしな。工作あたりの数値が必要なのかもしれない)



 武具には使用者のステータスが一定以上でないと装備できないものがある。


 この赤鞭もそういった部類の武器のようだ。事実、魔力がC以上、工作がC以上、攻撃がD以上でないと装備すらできない。



(オレは使うことはできるけれど…なんか違和感を感じるんだよな。今のセノアみたいに、初めて着た慣れない服みたいな感じでさ)



 アンシュラオンは数値を満たしているので装備すること自体は問題ない。


 が、しっくりこない。初めて着る服、新調したデスクチェアのように、まだ身体に馴染んでこないのだ。


 これは単純に熟練度の問題。やはり使い込まねば、いくら強い武器だからといっても力を発揮できないものである。


 アンシュラオンがガンプドルフ級の相手に包丁で戦わなかったのは、相手のほうが剣技では数段上だったからだ。慣れない剣同士での戦いなら遅れを取っていたかもしれない。それほど重要な要素である。



 さらに―――もう一つ。



(なんかこの鞭さ、オレが持つと変な感じなんだよな。妙に拒否されているような気がして…これだと愛着を持てないな。これも相性なのかな? まあ、グランハムが持っていた武器だしな。そのイメージもあるのかもしれないが…)



 アンシュラオンが鞭を持つと、武具から「触るなよ」みたいな雰囲気が感じられる。地味にショックだが、これもまた重要な要素の一つだ。



 情報公開には出てこないがデータの隠しパラメーターとして、RPGで言うところの「ロウ」「ニュートラル」「カオス」のようなものが存在している。



 この区分は善悪というより「論理的」か「直感的」かという分け方なので、そのままの意味でないことが重要だ。


 たとえばグランハムの動きを見ていると、常に全体の戦局を見極めながら論理的に動いていたので、ロウ側の人間であることがわかる。


 『断罪演軌の赤鞭』という名称からもわかるように、この鞭はロウ属性の人間が使ってこそ真価を発揮する武具のようだ。


 アンシュラオンは中間型、カオス寄りのニュートラル派なので微妙な違和感を感じるのだろう。この男は論理的だが気分重視でころころ動きを変えるので、結果的に中間に収まっているということだ。


 一方、ヤキチなどの動物的で直感的なカオス側の人間では、この鞭は一生使いこなすことはできないだろう。(サリータもこちらのタイプ)


 その代わり、カオス側の人間は相手を打ち倒すための凶悪な武具が多いので、それはそれでバランスが取れている。


 総合的に見れば、ロウ側は安定した力を出す武具が多く、カオス側は不安定だが強力な武具が多い、ということになるだろう。ニュートラルはその中間となる。



「うむ、さよならだな。ひとまずポケット倉庫行きだ」



 今のままではロープ代わりにしかならない。そのうち誰か使えるスレイブが手に入ることを祈って、赤鞭はしばらくお蔵入りである。




「じゃあ、ホロロさんにはこっちだね。調整が終わったから持っておいて」


「これは…銃ですか? 普段見かけるものとは形が違いますね」


「ハングラスの警備商隊が持っていた特注品だからね。しかも改造して六発撃てるようにしておいたから、そこらの銃よりは優れているはずだよ」


「銃の改造とは、すごいことなのではありませんか?」


「うーん、そうなのかな? でも、銃の機構って難しくはないんだ。こっちのは言ってしまえば強力な吹き矢みたいなもんだしね。あとは装填をどうするかだけど…それも案外シンプルだよ」


「さすがホワイト様です。何でもできるのですね」



 ホロロは感心しているが、これに関してはたいしたことはしていない。地球にあったものの丸パクリである。



(ずっと銃には不満があったんだよなぁ。地球の知識を使えばもっと良いものが作れるのはわかっていたしね。用意できたのは一丁だけだけど、それなりに使えるはずだ。やっぱり安全性と信頼性ではリボルバーが一番だよな)



 銃は誤装填を避けるためにリボルバータイプにして、六発撃てるようにしてみた。


 いわゆるシリンダー式のライフルである【リボルバーライフル】や【リボルビングライフル】というものだ。


 機構はとても簡単。撃ったあとに手動でレバーを引けばシリンダーが回転し、次の弾がすぐに撃てるようになる。


 自動回転式にしてもよかったが、そこまでやるのは面倒だったし誤射を防ぐために手動にしておいた。このほうが安全だろう。


 また、ハングラスの倉庫に鉄っぽい金属がいくつかあったので、それを包丁で切り、火気で溶接して細部を補強してある。耐久性も十分だ。


 ただし、改造できた試作品は一丁のみ。あとは警備商隊が使っていた三発式の銃をそのまま使うしかない。こちらも予備として何丁か渡しておくことにする。



「術式弾もけっこうあるし、どこかで試し撃ちをしてみてね。あとは適当に術具を置いていくから説明書を見ながら試してみて。こっちが術符ね。防御と回復系はロゼ姉妹にも渡しておいて」


「かしこまりました」


「うーん、こんなもんかな。…ん? サナ、どうした?」


「…じー」


「何を見ているんだ?」



 サナを見ると、何かをじっと見つめていた。



 その視線の先には―――ラノア。



「…じー」


「んー?」


「…じー」



 サナが見ていたのは、ラノアが持っていたクマのヌイグルミであるクマゾウだ。


 ラノアも見られていることに気付き、そこで初めてサナとの交流が始まった。



「さわる?」


「…こくり」



(へぇ、あんなものに興味を示すなんて珍しいな。今までは完全無視だったのに…。うむうむ、いい傾向だな! 女の子にヌイグルミは定番だもんな。いいぞ、サナ、がんばれ! はぁ、ドキドキするな! サナとラノアの初絡みだ。何も起こらないといいけど…何かないと進歩がないし…そわそわ。ああ、もどかしいな!)



 アンシュラオンがその様子をじっと観察。


 その姿は、公園で子供たちが遊ぶ様子を見つめる親に似ている。


 自分の子供の成長を見守りつつ、何かトラブルが起こらないか気が気でない状態。公園デビューを果たした親子の様相である。


 見ているだけでもドキドキする。心配になる。でも、成長は嬉しい。そんな葛藤を味わっている世の中のパパさんママさんには敬意を表したいものだ。



 そのストーカー(馬鹿兄)が見守る中、二人の交流が始まる。



「はい、どうぞー」


「…こくり、ぐいっ」



(えええええ!? そこっ!? そこを掴むの!? サナちゃん、そこ掴んじゃったよ!)



 ラノアがクマゾウを差し出すと、サナがむんずとクマの顔面を握った。まさに鷲掴みである。


 なぜそこを選んだのか問いただしたい気分だ。ほかにも手とか足とか胴体とか、持つところはいくらでもあるだろうに。


 だが、サナが選んだのは顔面。アイアンクローである。


 さすがサナ。センスが他人とはまったく違う。これが狙ったものならば寒いが、彼女に関しては素でそこを選んだのは間違いない。



 容赦なく握られ―――クマゾウの顔が、ぐにゃっと歪む。



(クマゾーーーーウッ!!! クマゾウが!! サナ、強い、強い。強いって! クマゾウの顔が潰れているじゃないか! 目が、目が取れそうだ!! っと、ラノアは大丈夫か!? 泣かないか? 喧嘩とかしないよな!? やばい。こうしたときってどうすればいいんだろう!?)



 サナもラノアも子供であり、二人とも自分の大切な所有物だ。仮に他人が彼女たちに害をなそうものならば、全力をもって排除するだろう。


 では、当事者同士が争ったらどうなるのか?


 そこは非常に悩ましいところだ。



(サナは妹だから当然ながらラノアより上にいるけど…ラノアだって大切な子供だしな…。さっき抱っこしたら超可愛かったし、サナと一緒に抱っこしてもいいくらい気に入ったし、オレとしては両方可愛いんだよ! うう、これは大変だなぁ。怒るのも好きじゃないしな。なんとか穏便に済ませられないものか。両方が傷つかないように収めないとな)



 ルアンが聞いたら仰天する内容である。


 少年にはあんなに厳しかったが、身内の女の子には超絶に優しい。それがアンシュラオンスタイルだ。


 もし二人が争ったら介入できるか怪しいものだ。二人とも可愛いので怒るに怒れない。



(仕方ない。最悪はホロロさんに頼もう)



「ひぅっ…」



 と、アンシュラオンが卑劣な逃げ道を考え出した時、姉のセノアも二人の様子を青ざめながら見守っていた。


 彼女の場合は、ラノアがサナに失礼な真似をしないか気が気ではないようだ。



 が、それは杞憂。



「…なでなで、さわさわ」



 掴みこそ顔面だったが、サナは普通にヌイグルミを撫で始める。


 ミスター・ハローへの対応のように最初さえクリアできれば観察モードに入るので、それ以後は手荒な真似はしなかった。


 耳を撫でてみたり、抱っこしてみたり、振ってみたり、遊ぶというよりはやはり観察であるが、極めて穏便な取り扱いである。



「サナさま、クマゾウ、すき?」


「…こくり」


「えへへ、ラーちゃんも好き。おんなじ」


「…なでなで」


「なでなでー」



 特に言い争うこともなく、二人でクマゾウを撫であっている。


 ラノアもサナのことを上だと理解しているようで『さま付け』である。



「ふひぃ…」



 その瞬間、セノアは魂が抜けたようにがっくりと崩れながら安堵。


 しかしまあ、普通の子は大変である。いろんなところで気を遣う。この調子が続けばイタ嬢のスレイブのように、そのうち胃腸検査が必要になるかもしれない。



(これだ。これを求めていたんだ! うう、やった、やったよ! 感動だなぁ…幸せだよ!! 子供同士の触れあいって、どうしてこんなに素晴らしいんだ! うう…うおおお! やばいって! これやばいって! 写真を取らないと!!)



 セノアが崩れ落ちる一方、アンシュラオンはポケット倉庫からカメラを取り出して記録を始める。


 これもハングラスの倉庫にあったものだが、領主城の衛士が写真を持っていたように、カメラ自体は市販の術具として普通に売っている。


 機能としては、カードに使われている『保存ジュエル』に映像情報を記録するらしい。


 映像系に適した保存ジュエルは希少なため、数が少なく比較的高額である。さらに現像には鑑定に似た術式を使うので、これまた金がかかる。昔のインスタントカメラを思い出す仕組みだ。



 だが、惜しみなく激写。



 自分が管理している子供たちが平和的に触れ合うなんて、なんと微笑ましい光景だろう。これだけでもスレイブを手に入れた価値があるというものだ。


 自分が作る箱庭で幸せそうに暮らすスレイブたち。自分が近寄れば「わーい♪」「お兄ちゃんー♪」「パパー♪」という感じで笑顔で群れてくる。


 そして、それを抱きしめ、頬ずりし、香りを堪能し、触りまくり、膝抱っこしたり、ちゅっちゅぺろぺろしたりするわけだ。



(し、至福だ。これぞ天国だ!! 素晴らしい!! オレの箱庭だけは絶対に作らねばならない! その第一歩がこれなのだ!!!)



 パシャパシャパシャパシャ パシャパシャパシャパシャ



 それこそアンシュラオンが求めていた自分だけの世界であった。


 だが、子供たちを見てニヤついている顔はあまりに酷い。少しは自重してもらいたいものである。



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