205話 「ザ・ハン警備商隊との激闘 後編」


 バッゴンッ ドッゴンッ!!


 マサゴロウとメッターボルンと呼ばれた男の間で、激しい戦闘が繰り広げられている。


 メッターボルンは重装甲の全身鎧を着ており、最初グランハムの隣にいたことからも一目で実力者だとわかっていた武人だ。


 マサゴロウほどではないが巨漢で、大きな斧を振り回して互角に戦っている。



「ふんっ」



 マサゴロウの拳が迫る。張り手ではなく最初から相手を破壊しようとする拳の一撃だ。



「ぬんっ!」



 だが、メッターボルンが斧を構えると、そこから突風が噴出。一瞬だけマサゴロウの動きが止まる。


 そこに―――反撃の一撃。


 振りかぶった重い一撃が肩に打ち込まれる。


 この一撃にも戦気、しかも剣気による強化が行われているため防御の戦気を貫通。メキメキと刃が抉り込む。


 が、それに動じず、マサゴロウは戦気掌を繰り出してメッターボルンを弾く。吹っ飛ばすほどには至らず、数メートルほど後退させるにとどまった。


 すかさずメッターボルンの反撃。今度は斧の尖端に風を集めて放出すると、風鎌牙のようにカマイタチ状になりマサゴロウに激突。


 咄嗟に顔を庇ったが、腕には細かい傷が大量に生まれていた。



「…小細工ばかりをする」


「それも武人の強さであろう。貴様らのような裏スレイブは、ここで消えるがいい」


「やってみろ」



 バッゴンッ ドッゴンッ!!


 それからもメッターボルンは風斧を使った攻撃を繰り返し、マサゴロウと互角に打ち合っている。


 超接近戦を挑みたいマサゴロウに対し、風で接近を防いだりよろけさせたりして、少し離れた間合いから攻撃を繰り返す。


 これによって少しずつマサゴロウのHPを削ろうという算段だろう。あれがメッターボルンの得意とする距離だということだ。



(あの風…風気じゃないな。あの斧も術具か。それと鎧も挙動が少し気になるな。あれも術具かもしれんな)



 メッターボルンには風気を練っている様子がない。同時に他の戦気も一緒に扱っていることから、斧自体に込められた特殊能力なのだろう。


 さらに全身鎧も時々赤く光ることがあるので怪しい。何かしらの力、おそらくは腕力強化などの効果を与えていると思われる。そうでなければマサゴロウと打ち合うなど難しいだろう。


 基本が剣士タイプと思われるメッターボルンは、術式武具という手段によって自身の身体能力をカバーしている。これもまた武人の一つの選択肢である。




 一方、マタゾーも同様に、ウォナーと呼ばれた両手に盾を持っている男を攻めあぐねている。


 相手は完全に防御優先の盾役。攻撃を仕掛けず、ひたすら防御だけに回っている―――と思ったが、違うらしい。


 ウォナーが持っているのはバックラータイプのやや小型の盾で、それを使いながらマタゾーに接近戦を仕掛けていた。


 その距離は、まさにゼロ距離に等しい。盾を押し出しながら突撃し、槍の間合いを殺そうとしている。


 マタゾーは、華麗な槍捌きで石突を使って迎撃。石球がウォナーの顔面に迫る。


 だが、ウォナーが盾を絶妙な角度で潜り込ませ、下から石突を弾く。


 マタゾーは突進を受け流しながら後退するが、相手もその間に接近してくるため必殺の一撃を入れる間が作れない。


 実力としてはマタゾーのほうが上だろうが、その間も周囲から銃弾や術符によって猛攻を受けているので、なかなか攻撃に転じることができない。


 彼の防御力はさほど高くはない。術符の攻撃を受けると致命傷になりかねず、慎重な対応を続けるしかない。



(へぇ、周囲の援護があるとはいえ、マタゾーの間合いを消すとはやるな。あの盾は攻防一体の突撃を仕掛けるためか。なかなか面白い戦い方をする)



 ウォナーの盾は、攻撃のためにあるようだ。


 サリータの大盾とは違うので視界は確保され、行動の邪魔にもならない。その反面防御力は落ちるが、見事な身のこなしでカバーしている。


 さらにウォナーは、戦気の防御とは別に盾から放出した剣気の膜で覆われており、攻防において利用している。


 原理としては『剣気壁』と呼ばれるものであるが、盾を使って放出しているので性質が若干異なる。


 剣王技、戦盾いくさたて


 盾技の一つで、身体の周囲に攻撃にも防御にも使える剣気のフィールドを生み出すものだ。


 剣気はもともと攻撃的な気質なので、触れたものを破砕する性質を持っている。それを利用した技である。




(なかなか便利そうな技だな。今度サリータにも覚えさせよう。って、まずは戦気を覚えないと駄目か。まだまだ先になりそうだな。しかし、完全にこちらの動きを封じにきたようだ。回復が間に合わなくなってきたか)



 この間にグランハムが戦罪者の数を減らしていく。アンシュラオンも定期的に回復をしているが、今のところ状況に変化はない。


 何よりも相手がこちらの情報を得ていることが大きい。ヤキチたちの名前を知っていたことからも、裏スレイブの情報が漏れたのは間違いないだろう。


 戦い方をある程度知っていれば対策も練りやすい。この布陣は明らかに計算して配置してある。



(狭い世界だ。それも仕方ない。スレイブ商はマングラスの管轄だし、情報くらいは調べられるよな。モヒカンはともかく、あっちの地下の店のほうはオレの管理下にないしな。いいね、これでこそ戦いだ。面白いよ)



 苦戦はしているが、戦罪者も今まで以上に生き生きとしている。


 戦いの中でしか生きられない駄目人間が求めるのは、こうした激しい戦いなのだ。わざわざ強い相手を呼び寄せた価値がある。



「だが、これではゲームが進まないな。メジャーリーグの延長戦じゃないんだ。そんなに長く観ているわけにもいかないだろう。少し手助けしてやろうか」



 アンシュラオンが手に戦気を集め、拳圧と一緒に弾き出す。


 覇王技、修殺。これに回転を加えると修殺・旋となる。デアンカ・ギースにも使った技だ。


 あの時は相手の防御力が高くてたいしたダメージにはならなかったが、これを人間相手に使うとどうなるかが、この直後にわかる。


 放たれた拳圧は一気に数メートルの大きさになり、石畳を抉りながらドリルのように敵に向かっていく。



 その回転に巻き込まれた敵三名が―――爆散。



 そんな存在など最初からいなかったといわんばかりに、一瞬で掻き消えてしまった。地面に残った激しい暴虐の痕跡がなければ、何が起こったのかさえわからなかったに違いない。



「ひっ!! な、なんだ…今のは!?」


「た、盾を…盾を前に―――ひぎゃっぶっ」



 次に放った修殺・旋で、さらに二人が粉々に砕け散った。


 物理耐性がかかっている盾? それがいったい何になるのだろうか。


 身代わり人形の即死無効? そんなものは強大な攻撃の前に意味はない。


 物理耐性で威力を半減させたところで、それ以上の力が加われば死ぬ。即死無効も一撃死系統の攻撃には有用だが、最大HPを遥かに上回るダメージを受ければ庇いきれない。



 そもそもの規模が違う。



 虫が盾を構えたところで、人間が踏みつければ潰れるのと同じ。まったく意味を成さない。


 そう、この均衡はあくまでアンシュラオンが作っているもの。意図的に操作してそうしているものだ。


 蟻と蟻の戦いを見ている人間が、ちょっとどちらかに味方して、熱湯をかけてやれば簡単に一方の勢力は全滅するだろう。絶対観測者のその時の気分、さじ加減によって生まれている状況にすぎない。



「ほらほら、相手が浮き足立っているぞ。さっさと打開してこい」


「うす、オヤジ!」


「まったく、使えないクズどもだ。ちょっと強い相手が現れたら、このざまか。気張れ、気張れ、腕が落ちても足がなくなっても気にするな。その前に相手を殺せ」


「うす!!」



 アンシュラオンの言葉で、戦罪者たちが突貫を開始。


 オヤジの命令は絶対である。まさに腕が落ちようが足が潰されようが、おかまいなしに突っ込んでいく。



「な、なんだ、こいつら!! 死ぬのが怖くないのか!!」


「てめぇが先に死ねやぁあああ!!」


「ぐああ! この狂人どもが!!」


「おらおらおらおらおらおらっ!!」


「がっ、ぎゃっ、ぎゃ!!」



 相手ともつれ合い、反撃されながらもひたすら頭を殴りつけ、殴りつけ、殴りつけ、動かなくなるまで攻撃を続ける。


 他の敵に銃で撃たれるが、それでも怯まない。さらに撃った相手に向かっていき、鬼の形相で攻撃を開始。


 その姿に、さすがの相手も怯む。



「ははは、いいぞ、いいぞ。それでこそ裏スレイブだ。後のことなんて気にするな。オレがいくらでも治してやる」



 戦罪者たちに命気がまとわりつき、徐々に傷が回復していく。


 この命気の遠隔同時操作が極めて厄介。いくら撃っても傷つけても、半ば即死に近いダメージを与えても回復していく。


 そのせいで、ただでさえ凶暴な戦罪者が玉砕覚悟で突っ込んでくるのだ。受ける側はたまったものではない。



「ホワイトを狙え!! あいつを倒すんだ!」


「くそっ! ただの医者じゃねえのか! またあの攻撃がくるぞ! 接近して倒せ!」



 相手もアンシュラオンの脅威に気付く。


 今まで戦闘の大半を戦罪者に任せていたので、アンシュラオンに対しての評価に多大なる勘違いが発生していたようだ。


 修殺の攻撃も危険だし、何よりも命気がある限り永遠に戦罪者が向かってくることになる。まず倒すべきは回復役のホワイトであると悟ったわけだ。


 それによって攻撃対象がアンシュラオンとサナに変更され、包囲を崩してまで敵が雪崩れ込んできた。



「おいおい、あまり簡単に包囲を解くなよ。お前たちの優位性がなくなるぞ。ったく、少しやられたくらいで慌てやがって。こうなったらちょうどいい。あれを試しておくか。黒姫、やってごらん」


「…こくり」



 アンシュラオンは、サナを前に立たせる。


 サナはクロスボウを構え、向かってきた敵に発射。



「こんなもん!」



 当然、警備商隊の隊員にそんなものは通じない。あっさりと破壊される。



 そして、一気に間合いを詰めてくる。



 このままではサナが危ない。彼女自身は賦気で強化されているとはいえ一般人のレベルなのだ。


 だが、アンシュラオンが何の策もなく彼女を危険に晒すわけがない。



 敵の隊員がサナに敵意を持って近寄ろうとした瞬間―――



 シュバ ボトッ



「…はへ?」



 視界が急に反転し、落下。


 真上が地面になったと思った次の瞬間には、空を見上げていた。



「あ…れ? なんで…おれ……あっ―――」



 ブツンっとブラウン管のテレビが壊れた時のような音が聴こえ、意識を失う。


 彼はそのまま二度と目覚めることはなかった。


 ブシャーー


 直後、首を失った胴体から大量の出血が起こった。周囲が一気に血に染まる。



「気をつけろ! 何かやってきたぞ!!」


「ちぃいいっ!! こいつも化け物なのか!?」



 サナの周囲にぽっかりとスペースが生まれる。迂闊に踏み込めば、自分も同じようになってしまうだろう。



「銃で撃て!」



 バスバスバスバスバスッ


 攻撃を銃に変更し、十メートルという距離からの一斉射撃がサナに降りかかる。



 直後、サナの背中からニョロニョロと何か細長いものが出てきて―――迎撃。



 ババババババババッ


 空中に放たれた銃弾がすべて破砕。完全に消失した。


 そこでようやく、さきほど起こったことが理解できる。



 それは―――水足。



 サナの背中から水色のタコ足のようなものが八本生えており、うねうねと周囲で蠢いている。


 それが最初に飛びかかってきた隊員の首を刎ね、銃弾を叩き落したのだ。



「うむ、上手く発動したようだな。自動制御だから少し怖かったが、ちゃんと使えるようで安心したよ」



 これはサナを守るために彼女の背中に這わせておいた命気の攻撃態勢である。


 彼女に害を及ぼすものが接近した際、停滞反応発動を使って自動的に発動するように設定してある。


 サリータを試した際にもサナに設置しておいたものだが、あの時は発動する機会がなかったので今回試してみたというわけだ。



「自動防御用の四本以外は自分の意思でも操れるはずだ。やってごらん」


「…こくり」



 命気タコ足が、ぶわっと相手を威嚇するように鎌首をもたげると、直後に急加速して敵の隊員に襲いかかる。


 ブスブスブスッ



「がはっ!!」


「ぎゃっ!」



 一気に間合いを伸ばしたタコ足が、隊員二人を串刺しにする。これも鎧などまったく意味を成さない。



「水を飛ばすこともできるぞ」


「…こくり」



 今度はタコ足の尖端を相手に向け、発射。


 弾丸となった水滴が無数に散らばり、相手の集団にぶつかっていく。


 バンバンバンッ



「ぎゃーー!」



 その水滴も鎧を簡単に穿ち、当たった隊員が衝撃で宙に浮かぶほどの威力を持っている。一瞬で穴だらけになった隊員は、そのまま死亡。



(さすが攻撃形態だな。この程度の相手ならば問題ないか。だが、普段はなかなか使えないのが欠点かな。サナを守るほうが優先だし)



 サナが次々とタコ足を操って敵を蹴散らしていく。


 その光景は爽快だが、普段は滅多にこの状態にはならない。サナの生存を最優先にしているため、負傷した際の治療に大半の力を残しておくからだ。


 しかし、これは非常に高度な技である。アンシュラオン自身もあまり気付いていないが、遠隔操作の極みとも呼べるほどのことをさらりとやっているのだ。


 彼にしてみれば「姉や師匠のほうがえげつない」と思っているので、どれだけ凄いことかをあまり理解していない。


 その実験台にされる相手が、あまりに哀れである。



(ひとまず実験は成功だな。これでサナと距離を置いても少しは安心だ。稼働時間に難があるが…その間に合流すればいいしな。と、面倒そうなのが来たか)



「離れろ! そいつは私がやる!!! お前たちは戦罪者を攻撃しろ!」



 状況の変化に対応するため、グランハムがやってきた。


 あのレベルとなると命気タコ足でも簡単な相手ではない。アンシュラオンが相手をしたほうが早いだろう。




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