204話 「ザ・ハン警備商隊との激闘 前編」


「攻撃開始!! ホワイト商会を殲滅しろ!」



 グランハムの掛け声とともに、一斉に敵が攻撃を仕掛けてきた。


 まず起こったのが銃撃。包囲した状態、四方八方から銃弾が飛んでくる。


 これはいつも通りの展開である。たいていの相手はまず銃撃を仕掛けてくるし、戦術としても飛び道具を使うのは定石だ。


 アンシュラオンに向かってきたものは戦気による防御ですべて破砕。跡形も残らず消え去る。


 しかし他の場所では、いつもと違うことが起きる。



 一発の弾丸が戦罪者に当たると―――爆発。



「ぎゃっ!」



 そのまま吹っ飛ばされて、ごろごろ転がる。



「ちくしょう、なんだぁ!? 防御したぞ! くそっ!」



 戦罪者は、肩付近が焼け焦げている。


 戦気で防御したはずだが、それが完全に機能していない。



(ほぉ、当たった瞬間に爆発したのか? 威力は大納魔射津ほどじゃないが、そこそこダメージは受けたようだな。普通の銃弾ではないようだが…火か? それとも爆破か? 何かしらのジュエルを飛ばしている可能性が高いな)



 これは『爆炎弾』と呼ばれる特殊銃弾で、弾頭尖端にジュエルが埋め込まれており、当たると術式が展開して爆炎を生み出すものだ。


 半分は術式に該当するものなので、仮に耐銃壁の術符を使っていても、弾丸そのものは防げても爆炎までは防げない術式弾である。


 戦罪者も戦気で防いだが、爆炎部分が戦気防御を貫通したというわけだ。これを防ぐには三倍防御の法則で、威力の三倍にあたる戦気を張らねばならない。



「なめてんじゃねえぞ!! こんなもん、防げないと思うのかよ!!」



 戦罪者はさらに戦気を放出して防御する。



 バンバンバンッ ブシューー



 銃弾を弾き、爆炎も届かない。戦罪者のレベルも高いので、これくらいは防ぐことができる。


 しかし、それだけ多くの戦気を消耗していることになる。相手もそれを見越しているのか、防がれても構わず弾丸を撃ち続ける。


 中には爆炎だけではなく、雷のようなものまで見えた。こちらは『雷撃弾』と呼ばれるもので、当たった瞬間に雷撃が迸りスタンガンのように衝撃を与えるものだ。


 雷属性の攻撃は直撃すると身体が感電して動けなくなるので、雷気を放出して無効化できるマタゾー以外は、回避か完全防御が望ましい。



 しかも相手の攻撃はこれにとどまらない。



 特殊弾と一緒に降り注いだのは―――術符。



 サナも使った水刃砲やら風鎌牙などの術が吹き荒れ、間合いを詰めようとしていた戦罪者たちを攻撃。


 まず風鎌牙を使って相手の動きを制限し、的確に水刃砲で射抜いていく。


 ズシャーー ボトッ



「ぐっ! 腕が!」



 戦罪者の一人が腕を切り落とされる。術は防御無視なので直撃を受ければ仕方のないことだ。


 だが、HPと体力が高めの荒くれ者集団に対してこれだけの威力を出すのだから、サナが使った時と同じ符とは思えない差を感じる。



(術符の使い方に慣れているな。当たり前のように相性を考えて放ってくる。しかも魔力が高いのだろう。威力もサナの数倍以上だ)



 サナは子供かつ一般レベルなので、ヤドイガニの足を切り落とすのが精一杯だったが、大人が使えばこうなるということだ。


 相手は熟練した戦闘集団。魔力の値も高いと思われる。そして、そういった者に優先して術符を与えているはずだ。


 この威力ならば、エジルジャガー程度は一撃で倒せるかもしれない。集団で一斉攻撃すれば大物だって倒せるだけの実力はあるだろう。



 ザ・ハン警備商会は、強い。



 何より今までの相手と違って対人戦闘にも慣れている。ハングラス最強戦力の名は伊達ではないらしい。



(遠距離からの術式弾と術符での攻撃を雨のように放ち続ける。なるほど、これならば肉体能力の高い戦罪者たちでも簡単には近づけない。考えたものだな)



 術は防御を貫通するので、ひたすら遠距離から使うだけでも相当な効果が見込める。


 体力はあるが頭が悪く、ただひたすら突っ込むことしかできない戦罪者たちに対するには、実に有効な戦術である。


 ただ、こちらに合わせたというよりは、遠距離の攻撃で終わるのならば誰だってやりたい戦術である。この攻撃を維持できることが脅威なのだ。



(この物量作戦を惜しげもなく続けられるのは、さすが物資のハングラスか。あの術式弾だって一発一発は相当な額だろう。術符だって十万だぞ。問屋だから卸値だとしても高級品であることには違いない。銃もどうやら衛士たちが使っているものよりも上等らしいな。南から仕入れているのか?)



 銃も衛士たちが使っているものよりは上等なようで、三発はリロードなく連続発射している。それを前列と後列が交互に撃つ二段撃ちで断続的に発射しているため、銃弾の雨が止むことはない。


 弾丸と術符の合計使用金額は、すでに軽く二千万は超えているだろう。現在のところまったく勢いが収まらないので、このままではいくらに達するのかわからない。


 ハングラスは物流を操るグラス・マンサーである。何億使おうが何十億になろうが問題ないのだろう。それだけ稼いでいるし、仮にホワイト商会を倒せばジングラスやマングラスに対する貸しになる。


 何よりラングラスに大きな貸しを作ることになり、結果的には後々大きな収益となって返ってくるのだ。これも投資だと思えば問題はない。




(ふむ、今のところは押され気味かな。さすがに防御無視の攻撃を続けられると厳しいだろうな。この雨のような弾丸の中だ。どうしても一発や二発はもらってしまうしな。…が、これくらいならば問題はないだろう)



 現在、ザ・ハン警備商会が圧倒的に有利な状況である。


 それでもアンシュラオンに動揺はない。これも想定内であり、何事にも例外や規格外は存在するものだ。



「ぬぉおおおお!!」



 その銃弾の雨の中を突っ切った者がいた。顔を大きな両手で防御しながら、その体躯に似合わない恐ろしい速さで突っ込んでいく。



「一人抜けてきたぞ! 術符で排除しろ!」


「ぬるい、ぬるい!」



 風鎌牙が吹き荒れようが、水刃砲が突き刺さろうが、完全に無視。



 そのままマサゴロウが術符の猛攻を―――突破。



 なんてことはない。単純にHPと体力が高いので、全部受けきったにすぎない。強力な武人にとって、この程度の銃弾や術符は脅威にはならないのだ。



 そして、敵と接触。



「死ね!」



 マサゴロウの張り手。その大きな手から放たれる一撃は、普通の人間ならば一発で粉々になる威力を秘めている。



 その一撃が―――直撃。



 ブーーンッ ボッゴーンッ



 敵の隊員が持っていた盾ごと吹き飛ばし、倉庫の壁にぶち当てた。


 盾がひしゃげるほどの威力で思いきり叩きつけられたので、そのまま即死もありえるパターンだ。



「…なんだぁ?」



 が、手に違和感。


 当たりはしたが、妙な感触が残っている。殺した時に感じる爽快感のようなものではなく、鈍い感覚だけがあった。


 マサゴロウが訝しげな表情で今殴った相手を見つめると、隊員が―――立ち上がる。



「…つっ、なんて馬鹿力だ…! 金属の盾が壊れちまったぞ!」


「無事か?」


「まだやれる。代わりの盾を出してくれ! 俺じゃ防ぐだけで精一杯だ!」



 多少のダメージは受けているようだが、まだ足腰はぴんぴんしており、すっと立ち上がった。


 マサゴロウの一撃は間違いなく直撃したはずだ。たしかに相手も戦気で防御しているが、今までの戦果を考えれば、まさに信じられない光景である。



「化け物の相手はほどほどにしておけ! 術符隊! 惜しむなよ、どんどん押し返せ!」


「…ちっ、雑魚が。群れやがる」



 マサゴロウに術攻撃が一斉に集まり、さすがに一時後退を余儀なくされる。再び戦線は元に戻った。




 その異変は、違う場所でも起きていた。




「おらぁあああ!!」



 ズバッ!


 ヤキチの一撃が敵を切り裂く。いつもなら鎧ごと切れる一撃であるが―――切れない。


 表面が損壊しているものの致命傷には程遠い。




「ぬんっ!」



 ガギィインッ


 マタゾーが放った槍が敵の鎧を―――貫かない。


 一点に特化した槍技ならば簡単に鎧など貫くはずなのだが、今回ばかりは貫けなかった。


 突かれた隊員は衝撃でダメージは受けているものの、一撃でノックアウトとまではいかない。



 これは明らかに異常事態。おかしい現象である。



 幹部クラスが奮戦して包囲網を突破したいところだが、相手がそうさせてくれない。


 これらの現象の答えは、極めて簡単。



―――術具



 である。


 ハングラスがもっとも得意とするものは、ジュエルであり、術具。


 彼らはその重要性をよく知っており、もっとも品質の良い物を警備隊の人間には惜しまずに提供しているのだ。


 マサゴロウの攻撃を防いだ盾も鎧も物理耐性が付与されているし、一定以下のダメージを無効化する障壁を展開しているものもある。そこに身代わり人形などの即死無効の術具も加え、生存率を高めている。


 いくらマサゴロウたちが強いとはいえ、相手の力量も高く、さらに高級な武具や術具まで用意されれば苦戦は必至だ。



 特に隊長のグランハムは別格。



「小物は消えろ!!」



 グランハムが赤い鞭を振り払うと、まるで生きているかのように動き、一撃で二人の戦罪者を吹き飛ばす。


 その際、明らかに普通とは違う衝撃波が発生しているので、おそらくはあれも術具に違いない。



「ぐあっ…!!」



 ドバンッ ズシャーーッ


 鞭の直撃を受けた戦罪者の腹が吹き飛んで、血と臓物の一部がこぼれ出ていた。凄まじい威力である。


 ちょうどアンシュラオンの足元に転がってきたので治療してやる。


 命気を放出すると即座に腹の傷が治っていった。一部の内臓は完全に修復していないが、応急処置としては問題ないだろう。



「なさけないぞ。もっと気合を入れろ」


「す、すいやせん、オヤジぃ!」


「ほら、もう一度行ってこい。欲しいものは力で奪い取れ」


「おうっ!!」



 そう言って突っ込んでいくが、またグランハムにやられている。


 何も考えずに再び力押しをする戦罪者も相当な頭の悪さであるが、これは純粋に相手の実力を褒めるべきだろう。



(あの男、言うだけはあるな。被弾しない中衛に下がって鞭で味方を援護している。攻撃タイプのサポーターだな)



 あの赤い鞭の射程は長く、戦気の放出も利用して数十メートルの射程を持っているようだ。


 攻撃力は見た通り。戦罪者の防御の戦気すら簡単に穿つので、中衛からでも十分な攻撃が可能である。


 さらにグランハムは軽装であるが、その身軽さを利用して戦場の至る所に顔を出しては包囲網を維持している。



(攻撃力、技量、素早さ、統率力、どれも高いレベルにある。この都市でも最高レベルに近い実力を持っているようだな。単体ではマキさんとファテロナさんの中間といった感じかな。ただ、統率も高いから部隊指揮ではこいつのほうが数段上だ)



 タイプこそ違えど、彼もまたマキやファテロナ級の武人であろう。しかも指揮官としてはグランハムのほうが明らかに上である。


 こちらの幹部連中が包囲網を突破できないのは当然だ。単純な力押しだけでは、待ち伏せかつ五倍の戦力を持っている相手のほうが勝るのは自明の理である。


 そして、彼らの戦力はグランハムだけではない。



「強い武人には各部隊長があたれ!! モズはヤキチ、メッターボルンはマサゴロウ、ウォナーはマタゾーを押さえろ!」



 グランハムの命令で、ヤキチの前に双剣を持った男、マサゴロウの前に斧を持った男、マタゾーの前に両盾を持った男が立ち塞がる。


 彼らは第二、第三、第四警備隊の隊長を務めている者たちで、三人ともグランハムと同じく強力な武人である。




「こんなひょろいやつで、おらぁに勝てるかよ!!」



 ヤキチが暗衝波を放ち、黒い刃の波動がモズに迫る。



「っ!」



 モズは剣衝で迎撃。両手の刃を振り払い、十字となった剣衝が暗衝波と激突し、相殺。一撃の攻撃力に劣る双剣の弱さをカバーした十字剣衝の技は見事である。


 しかし、ヤキチの狙いは別のところにある。



 周囲が暗闇に包まれ視界が黒に染まる。



 そこから急速に変化する刃による必殺のパターン。アンシュラオンにも使ったヤキチの得意技の卑転である。初見でこれをかわすことは非常に難しい。



(死ねや、こらぁあああ!!)



 闇の中、下から振り上げるように強引に刃が押し上げられていく。


 その変則的な軌道で迫る刃が―――



 スカッ



―――空を斬った。



「なにっ!」



 モズは夜よりも深い闇の中でも動揺せずに、同じく身体を回転させて回避すると、そのままの状態で双剣を振り払った。


 まるでプロペラのように回転した双剣の刃がヤキチの腹をかすめ―――切り裂く。


 ズバッ じわり


 巻いていたサラシに、じわりと血が滲んだ。



 ヤキチは一旦下がり、モズを睨みつける。



「てめぇ!! やってくれるじゃねぇかあああああ!」


「………」



 ヤキチは激怒するが、相手は冷静に様子をうかがっている。


 手練れである彼に手傷を負わせるほどの相手だ。ヤキチも簡単には突っ込めない。そのままこう着状態に陥る。


 その様子をアンシュラオンも興味深そうに観察していた。



(ヤキチの暗衝波は、オレでも視覚が封じられるものだ。それを普通にかわすとなると…あのゴーグルが怪しいか。というかヤキチは何か着ろよな。裸だから斬られて当然だぞ)



 モズは完全に目を覆う大きなゴーグルをはめているが、あれはファッションではなく、何かしら目を保護あるいは強化する術具だと思われる。


 さらに範囲は狭いながらも、モズの周囲には無限抱擁に近い戦技結界術が展開されているので、もともとがかなりの腕前の武人なのだろう。


 しかも自分から無闇に仕掛けない防御型。あの双剣は攻撃にも使うが、どんな攻撃にも即座に対応できる速度を重視して選んだようである。奇襲や変則技で先手を取り続けるヤキチには、多少やりにくいタイプの敵であろう。


 それ以前の問題として、ヤキチは防御が苦手うんぬんの前に何か着たほうがいいだろう。戦気の防御を貫くほどの腕前の武人が相手だと、サラシではまったく意味を成さない。


 が、鎧を着てしまうと彼の速度と気概が削がれてしまうので、これまた難儀なものである。



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