159話 「サナとサリータと三人でお風呂」


「どうした? 嫌になったか? 今からでも師弟関係をなくしてもいいんだぞ。そのほうが幸せかもしれないしな」


「…いいえ。むしろ…感激しています。あなたこそ…自分の求めていたものです」


「こんな目に遭ってもか?」


「だからこそ…です。厳しさを教えてくれます。自分は…もっと熱く生きたいのです。何か自分が生きている証が欲しいのです」


「なるほど。軽い戦闘狂のオレが言うことではないのかもしれないけど、君もある意味で狂っているのかもしれないな。どんなに傷つこうとも、生きていることを実感できる戦いの快楽からは逃れられない。それも立派な武人の資質だよ」



 アンシュラオンも戦っている時にだけ生命を実感できる。それが武人の宿命なのだ。


 サリータもまた同じように生命が輝く瞬間を求めているのだろう。


 言い換えれば、生き甲斐を欲している。


 人は誰もが自分がもっとも輝ける居場所を探すものである。サリータにとっては、それがアンシュラオンが与える場所なのかもしれない。


 しかし、もし本当に彼女が共に生きることを望むのならば、絶対に守ってもらわねばならないことがある。



「オレについてくるというのならば、命をかけてもらうぞ。誓え。サナのために―――死ぬと」



 赤い目がサリータを射抜く。


 その言葉に偽りはないだろう。いざとなったらアンシュラオンはサリータを見捨てる。彼女よりサナを優先する。それは当然の選択だ。



「お前はサナのために死ぬんだ。サナを助けるために自分の命を軽んじろ。この世界でもっとも重要なことは、サナが生き残ることだ。それ以上の生き甲斐はない。…それを誓えるか?」


「はい…誓います。もし自分が…死んでも、サナ様だけは絶対に…お守りいたします。そこに…生きるための…炎があるのならば…証があるのならば…」



 それは誓約。スレイブが主と交わす契約にも等しいものであった。


 この時この瞬間、サリータ・ケサセリアはアンシュラオンのスレイブとなったのだ。まだギアスはないが、この誓いこそが証である。



 誓いを確認したアンシュラオンは、今までとは違う、少しだけ優しい目でサリータを見た。



「そうか…。そう望むのならば、オレも全力でお前を手助けしよう。オレたちは一緒に生きる存在となったのだからな」



 それを何と呼ぶのかは、まだわからない。


 身内、家族、集団、組織、団体、なんと呼んでも中身は変わらないだろう。


 少なくともアンシュラオンは、それを見捨てるようなことはしないに違いない。自分のものは大切にするのだ。



「怪我を治してやる。じっとしていろ。…それにしても弱いな」


「申し訳…ありません」


「しょうがない。それが実力だ。大事なことは常に全力で挑むこと。それがお前の中から力を引き出してくれるだろう。この痛みも糧になる」



 武人の資質が彼女にはある。それを引き出すためには闘争を繰り返すしかない。


 しかも、血反吐を吐くような厳しい戦いを続けるのだ。その狂気に満ちた競争の先に進化が待っている。


 だからこれは始まりにすぎないのだ。



(改めて弱いやつらのことがわかったよ。こんな雑魚魔獣でも普通の人間には脅威なんだ。いろいろと勉強になったな)



 自身が強すぎるので、弱い人間のことはなかなか理解できないものだ。


 ただ、こうしてデータを集めることで少しばかり感覚が掴めてきた。サナを育成するうえでも貴重な参考材料になるだろう。



「しかし…ずいぶんと汚れたな。サナはまだしもサリータが酷い。ついでだ、風呂に入ろうか」


「え!? お、お風呂ですか? このような場所で…?」



 多少の岩場はあるが、周囲は完全に荒野である。


 しかも、いつ魔獣と遭遇するかわからない危険な場所でもあるのだ。普通ならば風呂に入っている余裕はない。そもそも風呂など、ここにはない。


 だが、アンシュラオンにとっては風呂の用意など、どこでも朝飯前である。



「ふむ、あの岩でいいかな」



 包丁を取り出して剣硬気で間合いを伸ばし、適当な岩をずばっと四角いブロック状に切り出した。


 ちょうど縦横三メートル程度。一般的な家にある浴槽の四倍くらいの大きさである。



「えええ!? い、岩を…斬ったのですか!?」


「こんなことくらいで驚くな。職人はここからこだわるんだ」



 こともなげにそう言うと、内部をくり抜き、さらに水気を放出して角ばったところを綺麗に削っていく。



(姉ちゃんによく作らされたからな。腕は錆付いていないようだ)



 火怨山で遠出をする際は、こうしてパミエルキのために岩風呂を用意したものだ。


 今はただの四角い浴槽だが、姉のために用意するものは意匠を凝らしたものでないといけないので、製作に数時間はかかっていたものである。


 ただ、最初は面倒だと思っていたものの、娯楽が少ない火怨山では貴重な遊びの一つとなり、途中からは熱中できる楽しい作業に成り代わっていた。


 最高傑作は亀型魔獣を模した丸型のもので、どこぞの王城にでもありそうな巨大浴槽以上の逸品となっている。


 今でも火怨山の奥地に残っているはずなので、見つけた人間がいたらぜひ入ってもらいたいものである。



「簡素だが…こんなもんでいいだろう。ここに命気水を入れて…温めてと」


「…じー」



 風呂の支度をしている間、サナがじっと見つめていた。彼女が大好きな命気風呂である。



「よし、できたぞ。と、サリータはまだ脱いでいないのか。ああ、怪我がまだ治ってなかったか。しょうがないな。脱がしてやろう」


「あっ、し、師匠…ちょっ……」


「遠慮するな。オレたちはもう身内だ」


「あっ、あーーーれーーー!」



 あっさりと身包みを剥がされて素っ裸になる。


 治療が途中だったので、まだ身体には痛々しい傷痕、主に打撲痕が残っている。足もまだ完全に治っていないので少し曲がっているだろうか。


 だが、安心してほしい。この命気風呂ならば、そんな怪我も治ってしまうのだ。




 アンシュラオンがサリータを掴み―――放り投げる。




 ドッボーンッ



「つ、冷たっ…じゃなくて、熱っ!!」



 サリータが浴槽に入った瞬間、バタバタと暴れ出した。



「ん? そんなに熱かったか? けっこうぬるめなんだけどな」


「あっ、いえ…その、温かいの…ですね」


「もしかして、温かい風呂にはあまり入らないのか?」


「はい。普通は水風呂が多いです」


「へー、そうなんだ。小百合さんのところも温かい風呂だったし、ホテルでも普通にこうしていたからな…知らなかったよ。あれは西側の風習なのであって、東側は違うのかな?」



 今まで見た風呂は、すべて日本で入っていたような温かい湯だったが、それは特別な部類に入るようだ。


 普通は水で身体を洗ったり、そのまま水風呂に入るのが一般的だという。


 火を出すジュエル機器が高級品であるし、水そのものが有料の場所である。そんな余裕はないのだろう。


 たしかにすべての国で温かい風呂に入るわけではない。前にテレビでやっていたが、アフリカの人々に温かい風呂を提供したら驚いていた、というものがあった。


 シャイナもあの時に初めて温かい風呂に入ったのだが、それ以前にいろいろとパニックだったので、そこにつっこむ余裕がなかったと思われる。



「温かい風呂もいいだろう?」


「…はい。初めて入りましたが…いいですね。身体が…ぽかぽかします」


「汚れも取れて怪我も治る。まさに完璧だ。じゃあ、サナも入ろうな」


「…こくり」



 サナの服も脱がしてあげる。今は色々と装備があるので多少手間だが、脱がしてあげる行為は好きなので、なかなか楽しい作業である。


 それから自分も脱ぐ。



「うぇっ!? し、師匠も…入るのですか!?」


「当然だ。嫌なのか?」


「い、嫌なわけはありません! むしろその……うう」


「師弟で風呂に入ることくらい珍しくはないだろう」


「そ、そうですね…。これはそういうものですよね」


「うむ、そうだ。ぽろん」


「うひっ!!」



 相手の承諾も出たので、遠慮なくゾウさんを出す。


 周囲はすでに闇が広がっているが、目はすでに慣れているのではっきりと見えた。


 サリータの顔が真っ赤になる。



「どうした? やっぱり熱いか?」


「い、いえ、大丈夫です!」


「そうか。うーん、暗闇ってのもあれだな。ちょっとライトアップしようか」



 ボボボッ


 火気を生み出して周囲を覆うと、岩風呂がライトアップされる。


 荒野に突如現れた輝く謎の風呂の完成である。魔獣も不思議がって近寄らないに違いない。


 仮に近寄っても即座に焼かれて終わりだろうが。





 そして、三人で仲良く風呂に入る。



「…ぶくぶくぶくー」



 サナは相変わらず顔を埋めるのが好きなので、ぶくぶくさせて遊んでいる。


 いつもと変わらないように見えるが、やはりどこか興奮が冷めやらぬ様子である。


 たまに水面をばしゃばしゃ叩いているので、いまだ獲物を仕留めたことが嬉しいのかもしれない。



「はは、サナは嬉しそうだな。いい経験をさせてあげられてよかったよ」


「サナ様は…お強いのですね。…精神的には…自分より遥かに…」


「たしかにな。だが、それもまだ本当の力じゃない」



 サナは攻撃に迷いがない。相手を殺すことにも躊躇しない。それは一見すれば強いのかもしれない。


 だが、それだけが人間の真なる力ではないのだ。



「恐怖や迷いはマイナスの感情だが、それをプラスに転換できるのが人間だ。だから強くなれる。いざというとき、本当に危険なときにこそ、そうした振り幅がないと底力が出ないものだ。サリータ、さっきの踏ん張りは悪くなかったよ。君は恐怖を乗り越えて力を出したのだから」


「師匠…」



(師匠は、しっかりと自分を見ていてくれた。なんだろう、この気持ちは。温かいような…包まれるような…とても心強くて…優しい感じだ。こんなことを感じるのは、いつ以来だろう…)



 アンシュラオンは修行には厳しいが、しっかりと自分のことを見ていてくれる。


 ただの使い捨てではなく、自分の中から力を引き出そうとしてくれている。


 まだ出会ったばかりだが、目の前の少年に対して妙に惹き付けられる自分を感じていた。



「あっ、そうだ。せっかく弟子ができたんだ。身体を洗ってもらおう」


「はい! 喜んで! あっ、ですがその…タオルはまだ洗っておらず…」


「そうか。じゃあ、サリータの身体で洗ってもらおうかな。それならタオルはいらないし」


「か、身体で…ですか!?」


「うむ、ほかに道具もあるまい。サリータの身体をオレの身体に密着させて、ごしごししてもらおうか。喜んでやってくれるんだよね? 師匠に尽くすのは弟子の役目だもんね」


「…は、はい…! も、もちろんです!」



 セクハラの開始である。



(体育会系って、そういうイメージがあるよな。それに弟子が師匠の身体を洗うのは当然のことだ。うむうむ、問題ないな)



 アンシュラオンの脳裏にあるのは、弟子が師匠の背中を流す光景。よくギャルゲーであるようなシチュエーションだ。


 サナはまだ幼いので、お世話をして楽しむだけだが、せっかくサリータという新しい要素が手に入ったのだ。たまには自分がしてもらう側でもいいだろう。



(シャイナは…やってくれないだろうな。あいつは素直じゃないしな。だが、サリータならばやってくれるだろう)



「で、では、洗わせていただきます!」



 思った通り、彼女は逆らうことなく言うことを聞く。


 そこに若干の快感を覚えた。素直な女性はいつだって可愛いものである。



 しかし、サリータがアンシュラオンの背中に近寄ろうとした時―――



「違う違う。前だ」


「ま、前といいますと…」


「前は前だ。ほら、遠慮なく抱きつきなさい」


「うひっ!」



 ゾウさんが丸見えの前を突き出す。



 そう、前である。



 前と前を合わせて、ごしごしするのだ。これが師弟の通常のスタイルとなる。



「ほら、早く。師匠はお待ちかねだぞ」


「は、はい! し、失礼します」



 ぷにゅんっ、とサリータの身体がアンシュラオンと触れ合う。


 鍛えていても女性である。しなやかで柔らかい。


 彼女のほうが背が高いので若干被さるようになるが、それもまた新鮮でいい感じだ。



「身体を動かして。胸を押し付けるように!!」


「はい、師匠! うっ…うはっ…ううっ…」


「股もこすりつけるように!」


「は、はひぃっ!」


「弱い! もっと強くだ!」


「はぃっ!!」



 ごしごし ぬるぬる


 ローションのような粘度なので、実に滑らかに身体が擦り合わさっていく。


 ごしごし ぬるぬる

 ごしごし ぬるぬる

 ごしごし ぬるぬる



「はぁはぁ…はぁはぁ」


「どうした? もしかして感じているのか?」


「か、感じるなどと…そのような!」


「ここは感じていい場面だぞ。いつも緊張していたら、いざというときに力が出なくなる」


「そ、そうです…ね。ですが、その…は、恥ずかしくて…」



 顔を真っ赤にしつつ、ついでに身体も真っ赤になっていく。


 アンシュラオンほどではないが、もともと色白の肌なので桜色に染まるとすぐにわかってしまう。



「オレに従う者には快楽もプレゼントする。それもまた師匠の役目だ」


「あっ、し、師匠! そこは…」



 アンシュラオンが、サリータの両胸を掴み、さらに下腹部も押し付ける。



 そこからの―――命気振動。




 ブルブルブルブルッ ブルブルブルブルッ


 ブルブルブルブルッ ブルブルブルブルッ


 ブルブルブルブルッ ブルブルブルブルッ




「あっ、あっ、ああああああ!!!! ふ、ふひぃっ!! し、師匠、あっ! あああ!!」


「師匠プレイじゃ盛り上がらないな。こういうときだけは名前で呼んでくれ」


「はああぁぁいいいっ…あ、アンシュラオン……様ぁあああああ! あっ、あはぁあああ!! じ、自分は…もう…あっ!! うううう、あああああああ!」



 ガクガクガクッ



 あっという間にサリータも達してしまった。


 びくびくと身体を痙攣させながら、ぐたっ~~とアンシュラオンにもたれかかる。



「サリータも簡単にイッちゃったな。まあ、楽しいからいいけどね」


「…ぶくぶくー、つんつん」



 サナが痙攣しているサリータをつついて遊んでいる。


 だが、口からよだれを出して快楽に打ち震えているので、しばらくは動けないに違いない。




「あー、いい湯だなぁー。こうして遊べるなら弟子も悪くないかな」




 こうして親睦を深める三人であった。


 今日も空の海が綺麗だ。



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