154話 「マキさんと結婚の確約」


「サリータ、オレはこれからサナの実戦訓練のために外で魔獣を狩る。雑魚を相手にする予定だから、お前でも大丈夫だろう。一緒に来い」


「はい! 師匠!」


「やっぱり師匠は…やめないか? せめて呼び方だけでも」


「では、教官!!」


「それは駄目だ!!」



 世の中には「教官プレイ」というものもあり、そっちが好きな人もいるが、アンシュラオンはまったく萌えない。むしろ萎える。



(完全に羞恥プレイだよな。よく師匠は耐えていたな。あれも人生経験なんだろうか。師匠は何百年も生きているって話だしな…)



 武人の血が強いと身体の劣化が遅くなるので、陽禅公は三百年くらいは普通に生きているらしい。


 それだけの人生経験があれば「師匠」と呼ばれても耐えられるのだろうか。



「わかった。師匠でいいよ。変に名前で呼ばれるよりいいし…受け入れるよ」


「はい、師匠!」



 サリータの性格上、アンシュラオンとホワイトの区別ができないおそれがあったため、下手に名前で呼ばせないほうがよいと判断。


 結局、師匠で落ち着くことになる。




(なんだか変なものを拾ってしまったなぁ…。人生ってのはままならないもんだよ…)



 こうしてサリータは、白き魔人とともに人生を歩むことになる。


 これも宿命。すべては螺旋に囚われたものである。





「…ぐいぐい」


「あっ、サナ様…お待ちください」


「…ぐいぐい」


「はい。今行きますから!」



 サナに引っ張られてサリータが歩いている。


 シャイナを散歩するときとは違い、強引に引っ張るというよりは、しっかりと行きたい方向を示してついてこさせる感じだ。


 サナは師匠であるアンシュラオンの妹であり、同じく絶対服従の相手でもあるため、サリータもそれにおとなしく付き合う。


 その姿は下手をすると母親と娘なのだが、サリータの恐縮した雰囲気からすれば「姫とお付きの従者」である。


 イタ嬢とファテロナの本来の姿、といえばわかりやすいだろうか。こちらは向こうと違って、なかなか微笑ましい。



(うーん、妙に気に入ったな。サナの好みの基準がいまいちわからないが、自分で選んだのならば見守るのも兄の役目か。…ちょっと寂しいけど、いつまでも一緒におててつないでじゃ成長しないもんな。こういうのも悪くはないかな)



 基本的に外に出る際は、サナと手をつないでいた。そのほうが安全であるし、可愛く柔らかい手に触れているのが心地よかったからだ。


 しかしながら、ずっとそれでは片手が塞がれるので不便なことも多い。このほうが楽なのは間違いない。


 よほどの手練れでもない限りは遅れを取らないので、視界の範囲内にいればサナの安全は確保できる。


 どのみち今回の戦闘訓練では、サナが単独で動くシーンも増える。今のうちに慣らしたほうがいいだろう。


 ちょっと寂しい…いや、かなり寂しいが、ぐっと我慢である。




 そして再び、ハローワークの受付にまでやってきた。



「小百合さん、サリータをパーティーに入れたいんだけど」


「まあ! いきなり呼び捨てですか!? いったいこの短期間に何があったのですか!!!」


「こ、これにはいろいろと事情が…」


「それで、契約条件はまとまったのですか?」


「それがその…傭兵として雇うんじゃなくて、なんとなく身内になる感じなんだけど…」


「アンシュラオン様の手が早すぎる! 私の時はもっと遅かったのに! 酷いです!!」


「ち、違うんだ! これは何かの間違いなんだよ! ほんと彼女の気の迷いなんだ…」


「むっーー!」



(まずい。小百合さんの機嫌が悪くなっちゃったかな? 面倒にならないといいけど…)



 女性同士とは怖いものである。女性間に友達などは存在しない。絶対にない。野生丸出しの獣同士だと思ったほうがいい。


 そして、両者が出会った時、それが特にオスを取り合うものの場合、壮絶な闘いが繰り広げられるのだ。


 その証拠に、小百合がサリータを睨んでいる。



「サリータさん!」


「は、はい!」



 小百合が先に仕掛ける。


 まずい。このままでは死闘が始まってしまう。こんな場所で騒がれるのは最悪だ。確実に噂になる。



「待って、小百合さん! これはオレが悪いんだ! オレはどっちも嫌いじゃないんだよ! 仲良くして!!」



 アンシュラオンが思わず、二股をかけていた男のような発言をするが、小百合はすでに動いていた。



 某拳法のように両手を水鳥のように広げ、サリータに向かい―――








「可愛い!!」








―――抱きしめた。







「ええーーーーーー!?」




 ズシャーーーー ゴンッ



「ぎゃーーっ!」



 止めようとしたアンシュラオンがズッコケて床を滑り、十メートル移動した果てに、たまたまロビーを歩いていた男に衝突。


 男は吹っ飛び、壁に頭を強打して泡を吹いて気絶した。


 が、そんなことにかまっている暇はないので、即座に戻る。



「あの…だ、大丈夫なの?」


「はい! サリータさんもアンシュラオン様の身内になったのですよね?」


「うん、仕方なくだけど…サナが気に入ったから」


「それならば問題ありません。私たちは家族のようなものです。ところで彼女の扱いはどのようなものなのですか?」


「一応…弟子って感じみたい。とても不本意だけど…これもしょうがなく…」


「私は妻の一人ですから、それこそ問題ありません! 仲良くしましょうね! サリータさん!」


「は、はい! よろしくお願いします! 小百合先輩!」


「うはっ! せ、先輩って、いい響きですね! なんか、こそばゆいです!」


「小百合さんも後輩くらいはいるんじゃないの?」


「新規で雇わないので、あまりいないんですよ。私は下のほうですね」


「そうなんだ。ところサリータは何歳なの?」


「二十六歳です」


「ならば、私の一つ下です! 問題ありません! 私は先輩です!!」



 ということで、特に問題なく話は進んだ。


 サリータが体育会系であることに加え、小百合の性格の明るさのおかげである。



(問題はマキさんのほうかな? 真面目そうだしな…。だが、秘策はある。得意の話術で説得しよう)



 詐欺師的な発想である。



 それからサリータをメンバー登録する。ちなみに彼女はサナと同じく「ノンカラーハンター」であった。


 アンシュラオンがホワイトハンターなので、総合パーティー数値は三人で520であり、平均値は173(小数点は切り捨て)である。


 これによってパーティーの扱いは、100~199未満のブルーハンターということになる。


 他人に伝える際は、「『白の27』はブルーハンター級傭兵団」と説明するわけだ。



「申し訳ありません。自分のせいで師匠の名に傷が!!」


「べつに関係ないって。オレ一人いれば問題ないし、階級なんて飾りと一緒だよ」


「さすが師匠…深いです!」



 現在のリングを外したアンシュラオンの場合、軽くゴールドハンターを超えるので、何人ノンカラーがいようとまったく問題がない。


 他人からの評価などもまったく気にしないので、アンシュラオンは今日もわが道を行くのである。







 それから東門に到着。


 サリータは市民証を持っていないため、アンシュラオンも一緒に持っていないほうの入り口に移動する。



 そこには、マキがいた。



「マキさん!!」


「アンシュラオン君!? 久しぶりじゃない!!」


「会いたかった!」


「私もよっ!」



 マキさんの胸に飛び込み、胸を堪能する。



(あー、やっぱりマキさんが一番だな。この胸は素晴らしい。一番姉ちゃんに近いよ。シャイナはまだまだ青いってのがよくわかるな)



 シャイナは生乳モンスターだが、それだけではマキに勝てない。柔らかいだけでは駄目なのだ。


 大きさ、形、弾力、モチっと感等々、審査項目は山ほどある。特に顔を埋めた時の感触が重要である。


 姉が100点なのは致し方ないが、マキは80点は超えているだろう。60点が及第点だとすれば、実に素晴らしい数値である。



「本当に久しぶりねー。今までどうしていたの? 寂しかったわ」


「ずっと上級街のホテルにいたんだよ」


「あら、そうなの? やっぱりすごいお金持ちなのね」


「そうなんだ。それでね、今日はマキさんにお話があるんだ」


「お話って?」



 マキが興味深そうに顔を見つめてくる。


 赤い髪の毛に山吹色の瞳が実によく映える。



「マキさん、この戦いが終わったら結婚しようね!」


「えっ!? …ほ、本気なの?」


「前に言ったじゃないか。マキさんはオレのもんだって。だからね、その約束を果たそうと思うんだ」


「そ、そんな…でも…いきなり言われても心の準備が…。ああ、そんな! 私…ついに君のものになっちゃうのね!!」



 顔を赤らめて、くねくねする。


 普段は凛とした女性なので、その様子が珍しいのか、周りの衛士たちが奇妙な面持ちで様子をうかがっている。



「でもね、マキさん以外にも結婚する人がいるんだ。ううん、オレはもっといろいろな人と結婚しないといけないんだ」


「えっ!? そ、そうなの…それはその…なんというか……」


「マキさん!!!」


「ひゃっ! な、なに?」


「そろそろオレの正体を明かすよ。オレは実はね…【王子】なんだ!」


「え!? ど、どういうこと!? 王子様!??」


「この大陸じゃないんだけど、極東のほうに小さな島国があってさ。オレはそこの王子だったんだ。だから妹のサナは王女なんだ。ほら、どことなく気品とかあるでしょ?」


「う、うん。初めて会ったときからずっと思っていたわ。君は何か違うって。たしかに妹さんも不思議な魅力があるわ」


「でも、違う国から攻められて王都は陥落。父さんも母さんも殺されたんだ。姉さんが囮になってくれて命からがら逃げたんだけど、そのショックでサナは声が出なくなって…感情も乏しくなってさ。今じゃ、にこりとも笑えなくなって…」


「そ、そんな事情があったなんて!! うう、なんてかわいそうに…ぎゅっ!!」



 マキは涙を流しながら二人を抱きしめる。



「大丈夫。希望はまだあるんだ。ほら、あそこに女の人がいるでしょう?」


「ええ、私も気になっていたわ。彼女は誰なの?」


「彼女はオレの国の騎士の生き残りで、ついさっきようやく合流できたんだ。今は傭兵のふりをして素性も偽っているから、オレのことを『師匠』とか呼んだりするけど、演技だから気にしないであげてね」


「…そうだったの。わかったわ。彼女も審査なしで普通に通れるようにしておくわね」


「ありがとう、マキさん!!」


「いいのよ。当然のことよ」



(マキさんは、いい人だな。話が早くて助かるよ)



 騙していることへの罪悪感は、まるでない。


 納得してくれるのならば問題はないのだ。




 それより本題である。



「それでね、うちの国では一夫多妻制が普通なんだ。これは昔からの慣習だから絶対なんだ」


「ああ、なるほど。そういう国もあるっていうわね」


「だからマキさんもその一人になってほしいんだ。マキさんが【第一后】としてね!!」


「ええーーー! 私が一番なの!?」


「そうだよ! マキさんが一番なんだよ! それでいいかな? 納得してくれる?」


「そ、それは…嬉しいけど……私に務まるかしら?」


「大丈夫だよ。うちは女性が主力になる国だから、なんならマキさんが后でありながら騎士団長になってもいいんだし」


「そうなのね。そのほうが向いているかもしれないわ。でも、どちらにしても務まるかしら?」


「大丈夫、大丈夫。問題ないって。国の再興とかはすぐに考えていないし…もっと気楽に考えてよ」


「わかったわ。がんばってみるわね」


「うん、ありがとう!! それとね…オレってスレイブしか信用できないんだ。マキさんもスレイブになってくれる?」


「え? スレイブ…? ど、どうして?」


「酷い目に遭って国を追われて、人間を信じられなくなっちゃったんだ。だから、またいつ裏切られるか怖くて…自分を絶対に裏切らない女の人としか結婚できないんだ」


「そっか…そうよね。私がいくら信じてって言っても、そんな簡単に信じられないわよね。心に傷があるんだものね…。わかったわ! 私、君のスレイブになるわ!!」


「いいの? 本当に?」


「ええ、それで君が人を信じられるようになるなら…私は本望よ」


「ありがとう、マキさん!! 大好き!」


「私もよ!」



 こうしてマキへの説得も成功。アンシュラオンの妻になる確約を取り付けたのであった。



(ギアスは付けるけど、スレイブって結局のところ【同意】みたいなものだし、妻にするお姉さんに対してはあまり気にしないでいいかな)



 ロゼ姉妹やサリータのように、明らかに自分の下に位置する者たちにはスレイブという立場を強く意識させるが、マキや小百合に対しては魅了効果もあるので、そこまで強調する必要はないと考えていた。


 どのみちマキは、アンシュラオンには逆らえないのだ。


 その証拠が、これ。



「マキさん、もしかしたら領主軍と揉めるかもしれないんだけど…その場合、オレの味方になってくれる?」


「ええ!? どういう状況なの?」


「詳しくは言えないけど…マキさんはオレと領主、どっちを取る?」


「もちろん、アンシュラオン君よ!!!」


「領主はいいの?」


「あんなオヤジなんてどうでもいいわ! 夫である君のほうが大切だもの!」



 この前までは領主様とか言っていた気がしたが、今やオヤジ呼ばわりである。



「うん、安心したよ。マキさんさえ大丈夫なら、本当に安心だ」


「私、いつでも軍を辞める覚悟はできているわ!」


「ああ、まだ大丈夫だよ。マキさんはここにいてくれると助かるんだ。オレのために働いてくれる?」


「もちろんよ。いつでも何でも言ってちょうだいね」


「ありがとう、マキさん!!!」



(マキさんとさえ敵にならなければ、領主軍と揉めようがどうでもいい。うむ、これでまた一つ懸念材料が減ったな。実に順調だ。素晴らしい!)



 マキは軍部、小百合は行政、モヒカンは裏組織。それにリンダやビッグ、ソブカを加えれば、着々と街に対する【白の支配力】が増してきている。


 あとは、すでに既得権益を得ている者たちを排除していけばいい。順調すぎて楽しくてしょうがない。



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