152話 「サリータは体育会系だ!」


「はい、じっとしててね」



 模擬戦が終わったのでサリータを治してあげる。


 じっとしていろとは言ったもののすでに動けない状態なので、倒れたサリータに一方的に命気を放出する。


 欠損部分もないので治療はあっという間に終わった。



「こ、これは…? 怪我が治った…? 痛くない…」


「そう。命気って言うんだ。便利でしょ?」


「このようなものがあるとは…世の中は不思議が一杯です」



 サリータは怪我が治って驚愕している。


 その様子から察するに命気のことは知らないようだ。伝説の最上位属性なので、知っているガンプドルフのほうがレアな存在なのかもしれない。



「気は済んだ? もうわかったと思うけど、オレには絶対に勝てないよ」


「そう…ですね。わかって…いました。うう…やはり自分は…弱い!! だからいつもクビになるのです!! 今回のことだって…ううう」


「自分で言うのもなんだけど、今回は相手が悪かったと思うよ。それで、ソブカのところをクビになったのって、本当に実力がなかったからなの?」


「そうです。自分はそう思っています…。きっと一番弱かったんです。だから解雇に…」


「うーん、どうかな。あの大剣のお姉さんと比べても、そんなに差はなかったと思うけど…サリータさんだけってのが腑に落ちないな」


「でも、契約を解除されたのですから、自分に至らぬところがあったということです!」


「うん、たしかに弱いけどね」


「ガーーーンッ!!!」



 がっくりと、うな垂れてしまった。


 少しかわいそうだが、事実なのでしょうがない。



(こういうときに変に慰めてもしょうがないよな。それで勘違いして身の丈に合っていない場所に行っても、呆気なく死んじゃうだけだし…。綺麗なお姉さんだから、さすがに死んでもいいとは思わないし…)



 ソブカとの関係性を知っている人間なので、口封じという意味では死んでもらったほうが楽だ。


 だが、相手が美人のお姉さんならば話はまったくの別になる。




 相手の気も済んだようなので、さらに情報を引き出すことにする。



「それで、これはどういうことなの? この戦いに何の意味があったのか教えてもらえる?」


「…はい。あの時、あなたに負けて…悔しかったのです。だからもう一度戦いたいと思っていました。このままでは悔しくて夜も眠れず…」


「それだけ? ソブカから何か言われたとか?」


「??? いえ…特には…」



(本当にそれだけなのか? 嘘を言っているようにも見えないし…なんだ、心配して損をしたな。それならそれで模擬戦にも意味があったのかもしれない。あくまでこの人の気持ちの整理として、という意味でだけど)



 アンシュラオンにとってはまったく無意味だったが、サリータには価値があったのだろう。


 それならそれでOKである。



「それで、どうだった? 何か悟れた?」


「自分が弱いことがわかりました…」


「うん、そうだね」


「ガーーーンッ!!!」



 べつに傷を抉るつもりはまったくない。


 相手を肯定してあげただけだが、事実とは一番残酷なものである。



「うう、やはり自分は…駄目な女なんです…。もう傭兵なんて辞めたほうがいいのかもしれません…」


「いや、オレにそういうことを言っちゃうと危ないよ? 本当に罵っちゃうし」



 相手が自虐的になると自分の中の嗜虐心が刺激されて、もっと苛めたくなるのは人間の性だろうか。


 構ってアピールをしてくるやつを踏みにじるのは特に最高である。



 が、これもまたお姉さんなので躊躇していると、思ってもみないことを言い出した。



「いいんです…なじってください!! こんな自分なんて…なじってください!」


「…へ?」


「弱い自分がなさけない…! 自分なんて、もっと傷つくべきなんです!! だからなじってください!」


「…何言ってるの? まさかそういう趣味の人?」



 世の中には、そういった趣味を持つ人がいる。


 いわゆるMの人だが、あまりに度がいきすぎると、ただの変態になる。


 まさか今回も変態が出現したのかと疑うアンシュラオンに対し、サリータはただただ涙を流して訴える。



 それに困惑。



(…いったいどうしてほしいんだ? なじったほうがいいのか? たしかにMのお姉さんも嫌いではないが…いやいや、それはいかん。泥沼にはまるだけだ。事情がまったくわからないからな。…仕方ない。今回は慰める方向でいこう)



 もし本当にMの人だった場合にそなえて、柔らかく対応することにした。


 いきなり罵って、それが相手の「どストライク」だった場合、危険なことになると判断したからだ。


 よって、慰めつつ戦闘指南という方向に話を流すことに決定。


 話題や論点をずらして相手の関心を誘導する手法だ。頭が良いようには見えないので、この方法でも通じるだろう。



「お姉さんが弱いわけじゃないと思うんだ。相当手加減はしたけど、オレの水撃を受けても耐えられたわけだからね。耐久力は並以上だと思うよ」


「そんなことは…単に盾の扱いに慣れているだけで…むしろ盾しか使えないんです。耐えることしかできませんでした」


「耐えてどうするつもりだったの? あのあと何か打開策があったの?」


「…いえ、特には」



(えー、なかったの!? すごい問題発言だよ。それって単なる自殺行為と同じだもんな。この人、危ないって。ちょっと本気で指南しないと駄目かも)



「最初に会った時は、あんなに思いきりのいい突撃をしたわけだよね。あれはどういうこと?」


「敵だと思ったので、自分の全力をぶつけようと思いました」


「なるほどね。それは悪いことじゃないし、正しい時もあるけど…問題もあるな。お姉さんは自分のことばかりで周りを見ていないんだ。敵のことをよく観察していないでしょ?」


「…え?」


「オレと戦ったやつは、まず最初にオレの強さを怖れるよ。あるいは見た目に騙されて侮るか。結果は正反対だけど、一応相手を見ていることには変わらない。普通は自分が誰と戦っているのかを見て、どんな状況かを判断するんだ。それって当たり前のことでしょ? 自分の状態と相手の状態を確認しないと、何を基準に動いていいのかわからないからね」



 アンシュラオンと対峙すれば、多くの敵が「こいつは危険だ」と思うだろう。ガンプドルフが良い例で、あれだけの武人でも戦いを避けようとするほどだ。


 このように、よほど戦闘中毒でもない限り、普通は相手を見て行動を決めるに違いない。


 だが、サリータは自分が全力を出すことばかり考えている。それを基準に考えている。


 それは悪いことではないが、一時期の日本代表サッカーで流行った「自分の戦い」に集中しすぎて、相手をまったく考慮していない状態に似ている。



「戦いは相手があってこそだよ。自分がどうこうってのはわかるけど、相手に合わせて戦術だって変わる。自分と相性が悪ければ戦わないという選択肢だってあるはずだからね。まずは相手を見る。そこから始めないと戦いには勝てない」


「………」



 サリータは、まじまじとアンシュラオンを見つめる。


 どうやら本当に気がついていなかったようだ。



(この人、今までどうやって生きてきたんだ? ああ、こうやって生きてきたのか…。きっと耐えて生きてきたんだな。悪いことじゃないよ。悪いことじゃないけど…【不器用】だなぁ。それが性癖でなければ、だけどね)



 アンシュラオンは、昔から要領がいいと言われてきた。


 学校のテストで百点を取るときも、当然教科書を丸々一冊暗記するが、まずは教師の人間性や行動パターンを把握してから挑む。


 相手の性格を知っていれば出る問題の傾向がわかるので、満点を取るのは難しいことではない。


 よほどいやらしい性格の相手でなければ、九十点以上は普通に取れるだろう。


 だがきっとこの女性は、こつこつと黙々と勉強を続けるタイプなのだろう。おそらく、1ページ目から順番に。


 それは素晴らしいことだが、仮に出題範囲が広い場合、ある程度的を絞らないと効率よく点数は取れない。



 これは戦いでも同じである。



 相手を見て戦い方を変えるのは戦闘の基本だ。


 皮膚の分厚い魔獣に普通の打撃ダメージは入らない。硬いやつに斬撃は効かない。水の中に暮らす魔獣に水は効かない。


 極めて当たり前の理屈である。それを見極めたうえで動くのだ。


 あくまで印象だが、サリータはそうした見極めが苦手なのだろう。ガードが得意なのかもしれないが、ラーバンサーのように特異なスキルがなければ単なる的である。


 戦闘能力以前に戦い方そのものがなっていない。まったく計画性がないともいえる。



「はっきり言えば、お姉さんは戦いのセンスがないね。何も考えていないし。いや、いいんだよ。それに見合う実力があれば許されるからね。でも、弱いんだったら、ちゃんと考えないとすぐに死んじゃうよ」


「っ!! うう…」


「ところで護衛の話なんだけど…やる気はあるの?」


「は、はい! やる気は…やる気だけは…あります!」


「そうか…どうしようかな…。やる気があるのはいいんだけど、お姉さんに任せるのは心配だなぁ。大切な子たちだからな…」


「うううっ…!!」



 さらに心を抉られるサリータを観察しながら、アンシュラオンは思案する。



(今のところ変な様子はないな。ラブヘイアのようにいきなり豹変することもないし…ファテロナさんのように快感に身悶えることもない)



 多少いじってみるが、それによって彼女が興奮している様子はない。


 うな垂れて泣きそうな顔をしているだけだ。


 だが、まだ油断はできない。耐えるのが好きなM属性の可能性もあるのだ。



(と、いろいろと考える前に情報を見るか。これも立派な能力だしね。さっさと使おう)



―――――――――――――――――――――――

名前 :サリータ・ケサセリア


レベル:18/50

HP :250/250

BP :90/90


統率:E   体力: F

知力:E   精神: E

魔力:F   攻撃: F

魅力:E   防御: E

工作:E   命中: F

隠密:E   回避: F


【覚醒値】

戦士:0/1 剣士:0/1 術士:0/0


☆総合:第十階級 下扇級 戦士


異名:今日も耐え抜く体育会系の盾女

種族:人間

属性:

異能:熱血、護衛、低級盾技術、物理耐性、体育会系

―――――――――――――――――――――――



(…どうしよう。弱すぎてわからない)



 はっきり言って弱い。何がそう思わせるかといえば、特徴がなさすぎる。


 レベルのわりにHPも低く、能力値も伸びているわけではない。ビッグのようにHPや体力に期待が持てるならばともかく、そちらの伸びも悪い。


 かといって覚醒限界は戦士と剣士が1あるので、武人としての伸びしろはまだある。



(スキルは面白いな。『護衛』と『低級盾技術』、『物理耐性』は優秀な防御スキルだ。これはプラス材料だな。が、『熱血』? 『体育会系』? なにやら暑苦しいものを持っているようだけど…それ以外に怪しいスキルはないか)



 『護衛』は、護衛対象者のHPと防御を上昇させるスキルであるので、非常に有用なスキルだ。これはファテロナも持っていたものである。


 『低級盾技術』と『物理耐性』は、単純に防御に関して有用なので、これがあったからこそ少ないHPでも今まで耐えてこられたのだろう。


 アンシュラオンが疑問に思った『熱血』は、ダメージを受けると体力が上昇していくスキルであるが、知力が落ちて行動が単調になるという欠点もある。もともと頭脳的な戦いをしない彼女にはプラスかもしれないが。



 そして、最後の『体育会系』が気になる。



(体育会系…か。普通に考えれば、あの暑苦しい感じのやつだよな。オレの中のイメージは体罰だが…上下関係がやたら強いイメージもある。まあ、おそらくは後者だろうな。マインドコントロールの手法にもあるが、体罰によって上下関係をしっかり植え付けるのが体育会系の目的だ。愛情という意味もあるんだろうが…。ともかく上下関係というのが一つのヒントだろう)



 『体育会系』スキルは、上下関係に影響するスキルだと思われる。


 上には従順、下には高圧的というのが一般的なイメージだ。ただ、仮にこれが戦闘に影響してしまう場合は問題だ。相手が格上であると萎縮してしまう可能性がある。


 彼女の戦い方がやたら消極的なのが気になっていたのだ。一回目はあんなに積極的だったのに、二回目は何もせずに終わってしまった。


 最初に駄目だと次の動きが急に悪くなるわけだ。スポーツでもよく見られるが、格上との試合で雰囲気に呑まれてしまい、実力が発揮できずに負けるパターンである。


 ここにこそサリータの本質が眠っているように思われた。



(仮にオレのスキル考察が正しいとしてだ、彼女の場合は弱いから常に相手から威圧効果を受けているんじゃないのか? それだと完全にマイナススキル化しちゃうな。それが常態化すると自信もなくなるだろうし…さっきのはマゾじゃなくて、やはり単純に落ち込んで自暴自棄になっていただけか? これは演技ではないのか? 特に裏はないのか?)



 リンダのような密偵などの怪しい相手の場合、それに見合ったスキルを持っているものである。捕えた他の四人の密偵も似たようなものだった。


 それを考えれば、ここに怪しいスキルが表示されていないのは、単にそういう人間の可能性が高い。


 つまりは落ち込んでいるだけ、というもの。



(もしそうだったら…普通にかわいそうかな。弱い人間に弱いって言っても何も変わらないしね。しかし、せっかく相手が威圧されていて受身なんだ。これを利用して上手く操れないかな?)



 どのみち口止めは必要である。現状を利用して上手く扱ったほうが得策だろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます