150話 「盾のお姉さんと再会」


 小百合が候補を探している間、椅子に座りながら、ぼけっと考える。



(うーん、護衛役だとするとホテルに滞在してもらうから、口が堅いのは絶対として…あまり癖が強いのも困るな。ホロロさんの負担も増えるし…。本当はマキさんが一番いいんだけど……と、マキさんにも会っておこう。ちゃんと結婚の意思を伝えないとね)



 小百合にも伝えたのだから、マキにも伝えておく予定だ。


 これは思いつきで言ったのではない。今回の騒動が終わったら本格的にスレイブを増やしていく予定なのだ。


 どうやらロゼ姉妹を手に入れたことで、自分の中で腹が決まったようである。



(ちゃんとスレイブにして管理しよう。オレだけの女の子の世界を創るんだ)



 それは当初からの【夢】でもあった。


 スレイブを増やして楽しいイチャラブ生活を過ごすことこそ、アンシュラオンの望み。現段階でも少しは叶っているが、まだまだ足りない。


 考えれば考えるほどやりたいことは浮かぶし、新しい子を手に入れるたびに楽しみは増えていく。



(オレの夢のために金が必要だ。女を養うには金がかかるからね。やつらの資金を丸々ぶんどらないと)



 働いて稼ぐという発想は、まるでない。


 サナを筆頭として、数多くの女性スレイブを手に入れて幸せに過ごすために、他者(主に悪党)には犠牲になってもらう必要があるのだ。



(くくく、最高だな、この世界は。悪党は山ほどいるし、そいつらが勝手に金を集めてくれる。オレはそれを丸ごと奪う。まるで蜂さんが一生懸命集めたハチミツを人間が搾取するのと同じだ。これは実に素晴らしいよ。いやー、悪党が好きになってきたな)



 最近、悪党を見ると楽しい気持ちになる。それが自分の糧になるからだ。


 しかも彼らはサナを強くするために役立ってくれる。彼女もハンターになったことだし、ますます楽しみになってきた。





「アンシュラオン様、一名だけいらっしゃいました」



 小百合がリストを持ってくる。



「一名か…。選択の余地がないね」


「はい。現在は立て込んでいますので…」


「何かあったの? そういえば、人の出入りが少ないみたいだけど…」


「ここ最近、周辺に魔獣が増えたみたいなんです。それでハンターが総出で狩りに出ているのです」


「へー、そんなことになっていたんだね。全然知らなかったよ」



 どうやら人が少ないのはいつものことではなく、そうした事情があったためであるようだ。


 しかし、その原因に関しては、この男にも責任があった。



「実はデアンカ・ギースがいなくなったことで、魔獣の生態系が変わったという噂があるんですよ。魔獣の狩場にいた魔獣がいなくなったこともあって、かなりの変化が起こっているようです」


「ああ、たしかに…酷い有様だったような…」



(あの時はサナのことしか考えていなかったからな…。思えば全滅していたような気がする)



 草原にいた草食魔獣、岩石地帯の肉食魔獣、砂地の大型魔獣。そのすべてがほぼ全滅し、生き残りも散り散りになって逃げたのだ。その空白地帯が及ぼす影響は大きい。


 何より大きな縄張りを持っていたデアンカ・ギースが移動し、さらに討伐されたことで生態系そのものが変わりつつある。


 言ってしまえば、あれは【エリアボス】である。その一帯を支配していた強大な魔獣なのだ。魔獣の狩場以上の影響力を持っているのは自然なことだろう。


 それによってグラス・ギース周辺にも、いつも以上に魔獣が出るようになり、ハンターが総出となっているらしい。


 ここ最近はずっと壁の中にいたので外のことはまるで無関心であったが、意外と大きな出来事が起こっていたようだ。



「噂ってことは調査は進んでないの?」


「はい。もともとあそこは強い魔獣も多かったですし、出向けるハンターも限られています」


「ところでラブヘイアは? あいつなら行けそうじゃない?」


「あの変態…彼は、あれから来ていませんね。少なくとも私が担当している範囲では、ですけど。報酬だけは口座に振り込みましたが、それっきり音沙汰がありません」


「え? そうなの? あいつは何をやっているんだ? まだ入院しているってことはないだろうけど…」



 見た目よりもタフな男なので、十数本やそこらの骨折ならば一週間もあれば治るはずである。


 普通に考えればすでに復帰しているはずだが、消息は不明とのこと。


 それはそれで平和で何よりだが、こういうときにいないと困る。むしろ、こういうときにいないと何の価値もない男である。



「使えないやつだな…。それじゃ、ほとんどろくなやつが残っていないんじゃないの? 大丈夫?」


「今のところは何とか…。アンシュラオン様の後にやってきたブラックハンターの方がお一人いまして、現在は彼の傭兵団が中心となって調査を行っています」


「へぇ、そんなやつがいたんだね。ブラックか。そこそこ強いのかな?」


「アンシュラオン様ほどではありません。特に大きな仕事もしていませんし…」


「そっか。優秀ならもっと調査も進んでいるはずだもんね。なんだ、ただのニートじゃん。はははは」



 自分だってニートに近いのだが、そこには触れない。


 ちなみにブラックハンターはガンプドルフのことである。もともと魔獣の狩場を調べていたので、他人の邪魔が入らないように率先して引き受けたにすぎない。


 彼には彼の目的があるため、意図的に情報を操作して西部に人を近づけないようにしていたりする。



「傭兵が少ない原因はもう一つありますね。食料や物資の補充がギリギリなので、そちらの護衛を優先してもらっています」


「え? まだ続いていたの?」


「はい。外からの人の流入も増えているので、食糧事情はギリギリらしいです」



 アンシュラオンがばら撒いた金によって、市場が混乱に陥った件だ。


 現在も完全には戻っておらず、食料品も一時的に高騰しており、下級街ではギリギリでやりくりしているという話である。



「それって領主たちの仕事じゃないの? あいつらが護衛すればいいじゃん」


「領主軍は外のことまで関わりませんからね…。各商会が独自に対応している状況なのです」



(食糧というと…ジングラスか。そっちの商会が別途傭兵を雇っているのかもしれないな。しかし、対応が遅い。この程度で供給不足になるって、どんだけ基盤が脆いんだよ。他のグラス・マンサーのところも末期なのかもしれないな)



 領主軍が動ければ楽なのだろうが、都市の防衛が最優先なので動けない事情もある。


 しかし、対応が遅すぎる。距離や魔獣の問題もあるので簡単にはいかないのは理解できるが、こんなノロノロでは何かあったら間に合わないに違いない。


 改めて都市の脆弱さが浮き彫りになった気がする。



(ソブカが不満に思うのも当然だな。まあ、ジングラスの利権はソブカも狙っているようなことを言っていたから、あいつが代わりに管理すればいいんだ。こういったことは優秀な人間に任せるのが一番だよ)



 ソブカの視野は広く、彼が見ている世界はラングラスだけではない。この都市のすべてを憂いている。


 現状で上手くいっていないのならば、さっさと代えてしまったほうがいいだろう。


 ただし、それはこちらの視点。相手から見れば簡単に渡すわけがないので、そこは力づくで奪い取らねばならない。


 ジングラスのことは念頭になかったので、そっちはソブカの計画待ちである。あの男のことだ。都市機能を維持したまま利権を奪う作戦を練ってくるだろう。それはそれで楽しみである。



「それはそうと、オレの気まぐれで迷惑をかけたみたいだね。ごめんね」


「経済が回るのはよいことですよ! 傭兵だって仕事がないと生きていけませんから、逆に感謝しているくらいです。アンシュラオン様のおかげで街も活気付いています。小さな都市では、なかなかこういった盛り上がりはありませんから」


「そういえば、お祭りってないの?」


「秋の感謝祭と、それとは別に冬に『金玉きんぎょく祭』というものがあります」


「二つ目は…ちょっと名前が問題じゃないかな? その卑猥な名前のやつは何の祭りなの?」


「こちらは、ベルロアナ・ディングラス様の誕生日です」


「はっ!? あのイタ嬢の?」


「はい。生まれた年に新しい祭として認定されました」


「どんだけ親馬鹿だよ。しかも金玉…。もうちょっと何かなかったのか」



 玉には、宝石、価値あるもの、美しいものという意味がある。


 金髪であるし、そこから取ったのだろうが、実に困った名称だ。人前では絶対に漢字で書けない。


 ただ、祭り自体は非常に綺麗なもので、金色の胞子を出すキノコを街中に飾って、一面が金世界になるという素晴らしいものだ。


 だが、これを聞けばきっとアンシュラオンはこう言うだろう。「玉とキノコなんて、どんだけ卑猥なんだ! イタ嬢らしい破廉恥な祭りだぜ!」と。



「事情はわかったよ。で、話は戻るけど、護衛の人は女の人なんだよね?」


「はい。もちろんです」


「ヤキモチ妬かない?」


「私はアンシュラオン様の妻になりますから、そんな小さなことは言いません」



 ↑ さっき散々喚いていた女性の発言。



「それならよかった。じゃあ、呼んできてもらえる?」


「はい。待合室におりますので、すぐに来られるはずです。少々お待ちください」



 小百合は女性を呼びに行く。



(どんな女性だろうな。美人だといいんだけど…女性であるだけで御の字かな。男だったら任せられないしね)



 できれば美人がいいが、あくまで目的はロゼ姉妹とホロロの護衛である。最低限の実力があれば我慢しようと思っていた。





 そして、その女性がやってくる。



「失礼します。アンシュラオン様…ですか?」


「うん、そうだよ」




 様付けして呼ぶ女性に悪い人間はいないと、笑顔で後ろを振り返ると―――




「…え?」


「…あっ」



 アンシュラオンと女性の目が合う。


 真っ赤な瞳と赤紫の瞳が、両者を見つめ合う。



 そして、一言。





「あっ、あの時の【盾のお姉さん】だ」





 やってきた傭兵は、ソブカの護衛をやっていた盾使いの女性であった。まさかの出来事である。



「え? あれ? どういうこと?」


「あっ…あぁっ!!」



 予想外のことに相手も驚いているようだ。というか、すごく驚いている。



(そりゃそうだよな。キブカ商会に殴り込みをかけるようなやつだ。危ないやつだと思われていそうだな。それに顔も見られていたようだし、その点は不覚だったかな。ともかく少し探りを入れてみようか)



「えーっと、傭兵…だよね?」


「は、はい! 申し遅れました! サリータ・ケサセリアと申します!」


「この前、会ったよね?」


「は、はい。その節はどうも…お世話になりました」



(サリータ…間違いない。大剣のお姉さんが去り際に言っていた名前と同じだ。オレも名前を知られちゃったから、もう隠してもしょうがないな)



「まあ、座りなよ」


「失礼いたします」



 出会ってしまったものは仕方ない。割り切って話すしかないようだ。



「ソブカは元気?」


「ソブカ…キブカランさんのことでしょうか?」


「そう、あいつ。元気にしてる?」


「わかりません…」


「え? どうして? つい先日、護衛していたじゃん。まだ護衛は続けているんでしょう?」


「いえ、それが……契約は…満了になりました」


「えええええ!?」



 その言葉には、さすがのアンシュラオンもびっくりである。



「あいつの護衛は…終わったってこと?」


「はい…そうなんです…」



 サリータもがっくりと肩を落とす。



「じゃあ、今はフリーなの?」


「はい。現在は、どことも契約はしておりません」


「え、えと…辞めるときに何か言われた?」


「ご苦労様…と」


「それ以外は?」


「特には」


「そ、そうなんだ。それはなんというか…お疲れ様」


「はい…疲れていれば…まだよかったのですが……」



 はっきり言えば解雇なので、「ご苦労様」か「お疲れ様」しか言えない状態である。


 だが、ソブカの「ご苦労様」には何かしらの意図があるように思えた。



(…おかしい。何かが引っかかる。このお姉さんを解雇した理由があるはずだ。もう少し訊いてみるか)



「お姉さん以外に解雇された人っていた?」


「解雇…!!」


「あっ、いや…契約満了した人っていた?」


「わかりません。明け方には通告されましたので…あの時に見た朝焼けは心に染みました…悪い意味で」


「そ、そう。ところで契約に守秘義務ってある? その案件に関しては、辞めてからも口外しないとかいうやつなんだけど…。あるよね? 普通はあるでしょ? そのへん、大丈夫だよね?」


「え? ああ…そういえば…今回は特には言われておりません。普通はあるのですが…」


「えええええ!? なにやってんの、あいつ!?」



(ソブカのやつ、危ない真似をしやがって! オレの顔を知っているやつを簡単に野放しにするなよ! 普通は脅すとかして一蓮托生に持っていくだろうが!)



 傭兵である以上、いろいろなところに雇われるだろう。敵対勢力に雇われる可能性もあるのだ。守秘義務はあってしかるべきだ。


 それ以前に、日雇いのように一回限りというのが問題だ。この件に関わった以上、最低でも事が終わるまでは簡単に放してはいけないはずである。



 それをあっさりと放出。完全に野放しである。



 アンシュラオンならば絶対にそんな危険な真似はしない。だが、そこにこそ自分とソブカの違いがあるのだ。



(何かしらの計画があると思いたいが、デメリットしか感じないぞ。となると…あいつが【遊んでいる】可能性がある。危ないやつだと思ってはいたが、ここまで遊ぶとはな…危険なやつめ。大丈夫か、あいつは?)



 おそらくソブカは遊んでいる。



 それは―――【火遊び】



 自分で自分の運を試すような遊びだ。運がなければ不利になるし最悪は死ぬかもしれないが、運があればすべてが上手くいくという、スリリングで最高に楽しく、それでいて実に危険な綱渡りである。


 よほど鬱屈した人生を送っていたに違いない。今回のことで思いきり楽しむ気である。


 同時に、ソブカが命をかけることを承諾した、という意味でもあるので、皮肉なことに逆に信用できることを示している。


 それはかまわないし、そういう人間だからこそ選んだのだが、あまりにも無用心である。


 当然、このままにしてはおけない。



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