149話 「サナのハンター登録とパーティー編成」


「さきほどは失礼いたしました」



 小百合が謝る。これも以前、どこかで見たような光景である。



「大丈夫だよ。嬉しかったし」


「アンシュラオン様が見えたので興奮してしまって…最近、自分でも抑えられないんです。はぁはぁ、アンシュラオン様と接していないと…はぁはぁ……に、匂いを…どうか匂いを…」


「ど、どうぞ」


「すーはー、すーーーはーーー」



 小百合がアンシュラオンの髪に顔を埋め、匂いを嗅ぐ。


 男にやられると最低の行為でも、女性ならばまったく気にならないのが不思議だ。



「ふー、楽になりました。ありがとうございます!」



(なんかオレ自身が麻薬みたいになってるな…。魅了って怖い)



 小百合は完全にアンシュラオン中毒のようだ。パミエルキも同じ症状だったので、改めて魅了効果の怖ろしさを痛感する。


 ちなみにアンシュラオンもサナ中毒なので、彼女がいないと発狂してしまうかもしれない。一日平均五回は吸わないと満足できない身体になってしまった。


 なんだか最近、周囲が変態だらけになってきた気がしないでもない。



(そろそろ責任を取らないといけないな。ホロロさんをスレイブにする前に、小百合さんにも筋を通すべきだろう)



 小百合の貢献度はかなり高い。自分のことをこうして待っていてくれたことからも信頼度はマックスである。


 ならば、今が決断の時であろう。



「小百合さん、この戦いが終わったら結婚しよう」


「キターーーーーーーーー!! します、します! ぜひします! 不束者ですが、よろしくお願いいたします! 職場辞めます!! 寿退社します!」


「ま、待って! まだ早いから!? さっきも言ったけど、結婚後も小百合さんにはハローワークにいてほしいんだよ」


「わかりました。この身分を利用して横領でも何でもします!」


「いやまあ、単純に勤めていてくれるだけでいいんだ。便宜を図ってほしいのは本音だけどさ…金はあるから横領の必要もないし」


「そうですか? そんなことでいいなら問題ないですが…アンシュラオン様と会えないことが一番つらいです」


「でもさ、結婚すれば一緒に住めるわけだからさ。それで我慢してよ」


「我慢します!!」



 椅子の上で正座した。相当嬉しいようだ。



(せっかく組織の内部に入り込んでいるんだ。そのまま使ったほうが便利だもんな)



 ハローワークは簡単に入れる組織ではない。清掃要員とかならともかく、職員でいられるのは西側出身の小百合だからこそだ。


 その証拠にハローワークは職員の募集をしていない。機密情報だらけなので、職員の選定も内密に行われているのだろう。


 そんな組織に入っているだけでステータスである。小百合には、ぜひこのまま勤めていてもらいたい。



「でも、オレ…スレイブしか信用できないんだ。小百合さん、オレのスレイブになってくれる? もちろん妻としてだけど」


「もちろんです!」



 即答だった。正直に言うほうも問題だが、即答するほうも問題だ。


 小百合は大丈夫そうに見えていたが、ホロロ同様に病んでいる可能性がある。もう末期かもしれない。



「スレイブになっても勤められるの?」


「規定には駄目とは書いていません。何か言われたら部長の弱味を握って脅します」


「さすが小百合さんだ。そういうところは大好きだよ。まあ、オレのスレイブは普通じゃないから大丈夫だろうけどね。ギアスも目立たないようにするし」


「アンシュラオン様に支配されるのならば、それはもうご褒美ですよ! つ、ついに私の夢が叶います! 年下の美少年に支配されるなんて、さ、小百合はもう!! うひー! 飛びそうー!」



 喜んでくれているのならば何よりである。





 小百合との確約も済んだことだし、本題に移る。



「そうそう、サナもハンター登録したいんだけど…大丈夫?」


「はい、問題ございません。以前も申し上げたように年齢制限はありませんから」


「そっか、それなら安心だ」


「もしやサナ様も、アンシュラオン様のように強大な力をお持ちなのですか?」


「いやいや、そんなことはないよ。見た目通りかな? 精神的には相当タフだと思うけど、肉体的には普通の子供くらいだね」


「しかし、聡明なサナ様のことです。ぜひとも立派なハンターになられるでしょうね」


「そう? やっぱりそう思う? 小百合さんはわかってるなー」


「妻ですからね!」



 サナを褒められてご機嫌である。小百合は、さりげなくこういう気遣いができるので好きだ。



「では、こちらにお名前をどうぞ」


「サナ、ここに名前を書くんだぞ。文字は教えただろう?」


「…こくり」



 身長が少し足りないサナを持ち上げ、ペンを渡してあげる。



「…かきかき」



 すると迷いなく書き始めた。初めてでも動じない精神力はさすがである。



「おっ、ちゃんと書けたな! すごいぞ、サナ!」


「…こくり」



 多少形が崩れているが、「サナ・パム」という文字がしっかりと書かれていた。


 サナには自分の名前を書けるように文字を教えてある。医者の仕事がない時は、最低限の教育をしていたのだ。



 その姿はまるで―――教育熱心な父親。



 サナが文字を書くたびに「この子は天才だ!」と叫び、喜びで転がり回る姿は完全なる親馬鹿である。恥ずかしくて目も当てられない。


 しかし、おかげで文字は書けるようになったのだ。一応、努力の成果は出ている。



「それではパッチテストを行いますね」


「ああ、そうだったね。これって一番下だった場合はどうなるの? 無足むそく級狩人になるの?」


「一定量以下の場合は、パッチにバツ印が出るんですよ。それだとノンカラーにもならなくて、普段は登録をお断りしています。危ないですからね」



 ハンターの最下層は、無足むそく級狩人。通称ノンカラーハンターである。


 しかし最下層だからといって馬鹿にしてはいけない。相手が魔獣である以上、それでも一般人よりは優れた人材であることを示している。


 本当に一般人の場合は赤いバツ印が浮き出て、よほど装備などが良くなければ「死ぬ可能性が高いから登録は無理です」と断っているのだ。


 どうしてもという場合は自己責任で認めているが、あまり歓迎はされないらしい。



「サナはそうなる可能性が高いよね……大丈夫かな?」


「ホワイトハンターのアンシュラオン様がおられるのならば大丈夫です。パーティーを組めば解決できます」


「あっ、そうか。パーティーがあるんだ」


「はい。パーティーはリーダーのランクが重要視されますので、ホワイトハンターがリーダーの場合、何人かバツ印がいても大丈夫です」



 パーティーにも【総合ランク】があり、それぞれのハンターランクに割り当てられたポイントの合計によって決まる仕組みになっている。


 ホワイトハンターのポイントは一人で500あるので、仮にサナが0であってもパーティー平均は250になる。


 全体でノンカラーの10を割らない限り、ハンターとしての活動は普通にできるというわけである。


 ただこれは最低値なので、できれば30~50以上が望ましいとされている。



「サナ様、チクってしますよ。我慢してくださいね」


「…こくり、じー」



 小百合がサナにパッチを押し込む。


 子供は注射を嫌がる子もいるが、サナは表情一つ変えずに見ていた。



(泣き叫ぶ子をあやす体験もしたかったけど…これはこれで楽でいいかな。面倒なのは嫌いだしね。それは違う子でやればいいや。ラノアは泣くかな?)



 サナは実にアンシュラオンに向いている子だと、つくづく思う。これほど自分好みの子がいるだろうかと思うほどにだ。




(さて、サナは何色かな? やっぱりバツかな?)



 「どうせバツなんだろうなー」という気分で覗いてみる。もともと期待はしていないので気楽だ。



 サナのパッチをじっと見つめる。




 血が吸われ、その色が―――変わらない。




 赤にも白にもならず、そのまま無色のまま時間が経過していく。ほんの少し赤みが差したが、やはり無色のままだ。



「あれ? これってどうなの? 駄目ってこと?」


「いえ、サナ様は無足むそく級狩人だということです。ノンカラーは、その名の通りに色がないのです」



 サナは、ノンカラーであることが判明。


 一番下の階級であるが、ハンターとして認められるだけの資質があるということだ。



「ふーん、そんなもんなんだ。ノンカラーか。バツじゃないならよかったよ。サナ、お前はノンカラーハンターだってさ。ブラックだったらオレのホワイトと合ってよかったけど…こればかりはしょうがないよな」


「…こくり」


「お兄ちゃんがいれば大丈夫だからな。安心するんだぞ」


「…こくり」



 そのことに対して、アンシュラオンの反応は薄かった。


 もともとランクに固執していたわけでもないし、一緒に動けるのならば問題ないと思っていたからだ。


 サナは一般人なので、バツかノンカラーのどちらかと算段をつけていたこともあり、特に驚くこともなかった。


 だからこそ、彼はまだ気がついていない。



 サナに起こりつつある【異変】について。



「では、ハンター証をご用意いたしますね。サナ様はご一緒のパーティーでよろしいですか?」


「そうしてくれると助かるよ」


「パーティー名はいかがいたしましょう?」


「そんなの決められるの?」


「はい。ご自由に決めることができますよ」


「うーん、名前ねぇ…苦手だな。適当にアンシュラオン団…」



 言いかけて、やめる。



(いや、駄目だ。姉ちゃんのことを忘れていた。あまり目立つ名前は困るぞ。それにホワイトはもう使っているから駄目だ。くそっ…何も浮かばない)



 安易にアンシュラオン団とか名付けてしまうと、姉に見つかる可能性が高くなる。


 しかし、名前を付けるのが苦手な男である。ネーミングセンスにはまったく自信がない。


 ホワイトを使った以上、もうボキャブラリーは枯渇していた。



「うーん、うーん、…うーん。やっぱり保留で。そのうち付けるよ」


「はい。では、仮の番号を付けておきますね。お好きな数字はありますか? 何桁でもかまいませんよ」


「27かな。なんとなく」



 地球時代の誕生日、二月七日を指定してみる。覚えやすいという以外に意味はない数字だ。



「『白の27』で登録しておきました。白はホワイトハンターという意味ですね」


「おっ、案外いい感じだね。ホワイトトゥエンティーセブン。コードネームか何かでありそうだ。まあ、区別がつけばなんでもいいや」



 この時は何気なくつけた数字であるが、いずれ『白の27番隊』が最強の部隊を示す名になることをアンシュラオンは知らない。




 サナをハンターにするという用事は終わった。あとはもう一つの用事である。



「あっ、それとさ、護衛役の傭兵っているかな?」


「護衛…ですか? サナ様のですか?」


「そっちじゃないんだけど…うーん、なんて言えばいいのか難しいな…。裏の案件でも受けてくれる口の堅い人…とか? いや、内容は普通の護衛なんだけど、そういう勢力に狙われる可能性があるというか…」


「護衛でしたら、そういうことも普通にあるのでは? そのための護衛ですし」


「ああ、そういえばそうだね。誰かから狙われるから護衛を頼むんだもんね。ただ、案件が案件だから信頼できる女性がいればいいんだけど」



 女性であることは確定している。


 これはアンシュラオンの趣味でもあるし、ロゼ姉妹のことを考えれば当然の措置でもある。いきなり知らない男に守られたら怖いだろう。


 姉のセノアは若干、スレイブになったことに抵抗感があるようだし、できるだけストレスは与えたくないものだ。


 そのうち周囲の状況が理解できる年頃になれば、自分がいかに恵まれているかがわかるだろう。そういった変化も楽しみの一つである。


 そのためにはまず安全の確保が重要だ。



「子供の女の子と大人の女性の護衛をさせたいんだ。そういうのに適した人はいるかな? ボディーガードってやつ?」


「はい。探してみますね」


「うん、頼むよ」



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