146話 「武器屋バランバランで、サナの装備を買おう 後編」


「そうそう、あれの胴体の部分ってまだある?」


「おっ、引き取ってくれるのか? もちろんあるぞ」



 アンシュラオンが使っている仮面の胴体部分である。頭とセットで売られていたのだが、ごねて頭部だけ売ってもらったのだ。


 客自体が少ないので、どうやら残っているようである。



「この子に装備させたいんだけど…大丈夫かな?」


「あー、ちっこいな。入るかな?」



 鎧は大人用なので、サイズ的にかなり大きい。サナだとブカブカだろう。



「…じー。ぎゅっ」



 が、サナが店主のズボンを握る。これは甘えているのではなく抗議の意を示したものだ。


 やはりサナは周囲の状況を理解しているようで、最近はこうして自ら意思表示をすることが増えてきた。



(劇の影響もありそうだな。うむうむ、いい傾向だ)



 サナは劇を通じて人間を学ぶ。



 この前の劇のテーマは―――【怒り】



 ビッグも激怒したし、アンシュラオンも怒り狂った。自分の激怒は予想外だったが、結果的に怒りがテーマになってしまった。


 それを見ていたサナは、怒るという感情をほんの一部だけでも獲得したのかもしれない。


 表情は相変わらず変わらないが、抗議をするくらいの怒りは彼女の中に蓄積されたのだろう。実によい傾向だ。



「妹が怒ってるよ。小さいって言ったからっぽいね」


「あー、そりゃすまないな。べつに小さいのは悪いことじゃないんだ。ただ、こいつはちょっと大きさがな…」


「…ぎゅっ」


「いや、だからな…サイズが……」


「…ぎゅっ」


「って、頑固だな、この子!?」


「オレの妹だからね。ワガママなんだ」



 サナは案外、頑固である。


 一度飲まないと決めると普通の水は絶対に飲まない。アンシュラオンが命気水を与えるまで我慢する。


 よく言えば自分の意思を貫いているのだが、ワガママであるともいえる。まさにアンシュラオンそっくりである。


 やはりすでにアンシュラオンの影響が出ているのかもしれない。



(でも、おっちゃんの言うことも確かだ。このままじゃサイズが合わない。何かないかな…?)



 アンシュラオンが店内を見回すと、魔獣の革で作った鎧を見つけた。


 よく傭兵が着ている一般的な革鎧で、斬撃にはあまり強くはないが衝撃にはそこそこ強いものだ。


 とりあえず着ていれば交通事故に遭っても致命傷は避けられるくらいの防御力はある。



「ねえ、あそこの革鎧ってさ、サイズを小さくできる?」


「あれか? そうだな…邪魔な部分を切ればなんとかなるかな」



 斬撃に強くないということは、切れるということだ。それを利用すればサイズの調整ができる。



「あれにこの鎧のパーツを引っ付けて強化すれば、そこそこの防御力にはなるんじゃないの?」


「ふむ、それは可能だな。ただ、鎧も革鎧も半端が出るぞ?」


「それはしょうがないね。予備のパーツとして買い取るよ。それならいいでしょう?」


「ったく、今回も変なことを言い出したな。うちは改造屋じゃなくて武器屋なんだが…」


「名は体を表すって言うじゃん。この店はバラバラで売る宿命なんだよ」


「人の宿命を勝手に決めるなって」



 そうこう言いながらも革鎧を持ってくる。気の好いおっちゃんである。



「サイズを測るから動くなよ」


「どさくさに紛れて胸とか尻を触るなよ!」


「俺はロリコンじゃねーよ!!」



 この時、遠くで馬車に揺られていたブシル村にいた元祖ロリコンは、誰かに呼ばれた気がして振り向いたという。





 サナがサイズを測っている間、周囲の武器を見て回る。



(サナに使えそうな武器か…。とりあえずダガーは必需品だな。このあたりがよさそうだ)



 ダガーは魔獣の牙を削って作られており、そこらの金属のものよりも硬くて鋭いのでよく切れそうだ。


 サナの体躯を考えると相手をこれで殺傷するのは難しいが、持っていて損にはならないだろう。



(あとはどうしようかな。重いものは無理だよな)



 他に使えそうな武器を探すが、どれも重そうなものばかりだ。


 武器とは本来、重いものだ。その質量自体が破壊力になるので、至って自然なことである。


 その中で子供が使えるものは限られる。


 そこで一つ、目に入ったものがある。



「このダガーと、あそこの【クロスボウ】もちょうだい」


「あいよ。勝手に取っていいぞ」



 アンシュラオンが発見したのは―――クロスボウ。



 同じような飛び道具に弓矢があるが、人類の叡智は弦を固定するクロスボウを開発した。


 連射性能としては弓に劣るものの、一度セットしてしまえば子供だろうが同じ威力で発射することができる優れものだ。


 このクロスボウは木製のセルフコッキング式のもので、レバーを引けばテコの原理で比較的楽にセットできるのも好印象である。



「おっちゃん、これの有効射程距離ってどれくらい?」


「そうだな…百メートル以上は飛ぶが、実質的には三十メートルってところかな。ただ、皮膚が硬い魔獣なら十メートル以内じゃないと満足に刺さらないと思うぞ」



(つまりは鎧を着込んだ人間も同じってことか。もともと急所に当てないと致命傷にはならないものだしな。しかし、戦闘力を削ぐことはできるはずだ)



 とりあえず当たれば相手は怯む。武人ならば難しいが、相手が一般人の範疇に入る場合はかなり有効だ。


 キブカ商会の一般構成員や、そこらの衛士くらいには十分使える武器である。


 サナの計測が終わったようなので、実際に見せてみる。



「サナ、これはクロスボウっていうんだぞ。遠くから矢で攻撃するんだ。これが矢で、この尖端から突き刺さるんだ」


「…じー」


「ちょっとやってみな。ここを引くんだ」


「…こくり。ぐいぐいっ…ぐい」


「おっ、サナでもなんとかできるかな。弦を引っ張ったら、ここに矢をセットするんだ」


「…こくり。かちゃ」



 一生懸命ぐいぐい引っ張り、矢尻を魔獣の素材で強化した木製矢を装填することができた。



「おっちゃん、試射していい?」


「おう、いいぞ。あっちでやりな」



 店の入り口と反対側の壁はくり抜かれており、そこから庭のスペースに向かって試射ができるように的が用意されていた。


 よくアーチェリーで見るような丸い的である。



「ほら、あそこに撃ってごらん。真ん中の色が付いているところを狙うんだぞ」


「…こくり」



 サナが構え、撃つ。


 バシュッ ドス


 試射用の的に十メートルの距離から撃たせてみると、ちょっと中心部からは外れたが的には当たった。


 あれを大人の胴体だと思えば、しっかりと脇腹には命中している。まずは当たることが重要なのだ。


 その結果にアンシュラオンは手を叩いて大喜びである。



「おお、意外といいぞ! 胴体を狙えば当たるな! すごいぞ、サナ!」


「…こくり」



 サナも褒められて、まんざらでもない様子だ。


 無表情でわかりにくいが、少し誇らしい表情をしていることが自分にはわかる。



「だが、これではパワーが足りないな。もっと大きいのにするか。あれはサナに持てるかな?」



 店には、さらに大きなクロスボウがある。これはアンシュラオンが持っても大きく感じるもので、サナの場合は持つというより抱えるに近い。


 実際に持たせてみると、動かずに固定すれば撃てることが判明する。



「弦はお兄ちゃんが引いてやるな。ほら、撃ってごらん」


「…こくり」



 バシュッ ドガッ!


 さきほどよりも強い音が響き、矢が勢いよく突き刺さる。


 大きくなれば威力も上がるので、これならば相手が武装していても十分使える。皮膚が薄いエジルジャガーなどの獣系魔獣にも効果的だろう。


 しかも命中率はさきほどより上がった。持ちながら動けないという致命的な弱点はあるが、固定すると割り切ればそこそこ使えそうだ。



「大丈夫そうかな? じゃあ、大きいのも買っておこう」


「おいおい、お嬢ちゃんが使うのかよ?」


「そうだよ。これなら遠くから楽に殺せるからね」


「物騒な世の中だねぇ」


「自衛は大切でしょう?」


「そりゃまあ、そうだな。うちの店はそのためにあるからな」


「女の子なら特に大切だよ。ここの都市は危機意識が足りないようだけどね」



 シャイナを見ていると、危なっかしくてヒヤヒヤするくらいだ。いつ襲われてもおかしくはない。これからは女性も武装するべきだと思う。



「それだけ平和ってことさ」


「それがいつまでも続くわけじゃない。もしかしたら明日、表通りでドンパチが始まるかもしれないじゃん。壁が破られて魔獣が入り込んだらどうするの?」


「そんなことは滅多にないけどな…。そこまでいったら末期だぞ」


「末期になってから気がついたんじゃ遅いよ。それじゃ、クロスボウは小さいのと大きいのを両方もらうね。ああ、全部ね」


「全部って…矢をか?」


「いや、本体を全部。あそこに飾ってあるのと他に在庫があれば、それも全部ちょうだい」


「全部…え? クロスボウを…全部か?」


「うん、全部」



 全部と言ったら全部。



「そんなにどうするんだ? 仲間がいるのか?」


「ううん、この子が全部使うだけ。クロスボウって連射できないのが弱点でしょう? それを解決するために全部買うんだ」


「もしかして、セットしておいたクロスボウを撃って回るのか?」


「まあ、似たようなものだね。それとも連射式のクロスボウってある?」


「じいさんが開発していたみたいだが、結局完成しなかったな。その前に銃が出てきちまったよ」



 地球の歴史上にも「連弩」という連続して発射できるクロスボウがあるが、威力があまりないのが弱点である。あと、微妙に格好悪い。


 ならばすでに装填したクロスボウをいくつも用意しておき、必要な際に撃つという手がある。


 ただし、これには大きな欠点があった。当然、持って歩くには邪魔だという点だ。


 しかし、それを解決する秘策がアンシュラオンにはある。



「ちょっと実験させてね。この大小のクロスボウに装填して…【ポケット倉庫】にしまって…と。もう一度出す」



 ポケット倉庫からクロスボウが出てくる。予想通り、装填されたままである。


 それを発射。ドスッと的に突き刺さる。


 それからクロスボウを投げ捨て、再びポケット倉庫からクロスボウが出てきた。こちらも装填済みである。


 発射。


 ヒュー ドスッ 命中。



「取り出すのに約一秒ってところか。余計なものを入れておかなければ、もっと縮められるかもしれないな」



 ポケット倉庫は入れたものの順番でリストが生成されるので、最後に入れたものが最初に表示される仕組みとなっている。


 直近にクロスボウだけを入れておけば、まず取り出しに失敗することはないだろう。


 ご丁寧に入れた時の向きで出てくるので、それも含めて工夫すれば時間はさらに短縮できそうだ。



「ほらね? すごいだろう? 天才的発想だと思わない?」


「すごいというかなんというか…豪快だな」


「金持ちだからね。こんなものは使い捨ての道具だよ」


「はっきり言うもんだ。だが、嫌いじゃないぜ。武器を武器だと割り切っているやつは好きだね。これが剣士だと面倒くさいんだよなぁ。『剣は命!』とか言って、愛着が半端ないしな」


「うーん、仕方ないよね。剣がないと剣気が出せないし…死活問題になるからね。オレはこだわりがないから、こうして使い捨てにしちゃうけど」



 これぞ百円ショップに慣れた日本人的発想だろうか。


 今のアンシュラオンにとってみれば、クロスボウなどは百円ショップで売っている玩具の武器に等しいものだ。


 あとで拾って回収という罰ゲームは残るやり方だが、最悪は使い捨てにしてもかまわないと思えば気が楽だ。


 何より装填している間に攻撃されては、サナでは身がもたない。積極的に使い捨てにするべきだろう。



「そういえば、ここに銃はあるの?」


「あるぞ。商会証明書があれば売れるな」


「ふーん、銃のほうがいいかな?」


「どうかな。正直、今のやり方ならクロスボウのほうがいいかもな。銃を使い捨てにするのは勿体ないし、どうせ効果もあまり変わらないさ」


「そうなんだ。初めてだし最初はこれでいいや。じゃ、とりあえず全部ね」


「おうよ、ちょっと在庫を見てくるわ」



 店にあったクロスボウの在庫は、全部で十三。大きいほうが七、小さいのが六であった。



「矢はサービスしてやる。好きなだけ持っていきな」


「おっ、サンキュー。気前がいいね」


「お前さんのほうが気前がいいからな。それと小さいほうのクロスボウのために矢筒も作ってやる。これもサービスでいい」


「助かるよ。鎧はいつ出来そう?」


「夕方までには仕上げといてやるよ」


「了解。それまで外をブラブラしてくるね」





 アンシュラオンとサナは、一度外に出る。



(案外すぐにサナを武装させることになったな。今はこれでいいけど、そのうち本格的に装備を整えてあげよう)



 今はまだ普通の武器で間に合うが、そのうちジュエルで強化した武具をそろえてあげないといけないだろう。


 そのためにデアンカ・ギースのジュエルも残してあるのだ。サナのためなら惜しむ理由はない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます