137話 「ロゼ姉妹 後編」


「モヒカン、白髪のウィッグはあるか? それと黒髪ロングのやつもだ」


「両方あるっす」


「用意がいいな。さすがスレイブ館か」


「白髪ウィッグは、旦那と出会ってから用意したっす。こんなこともあろうかと黒髪のを脱色して作ったっす」



 モヒカンは得意げに白いウィッグを持ってくる。まさにアンシュラオンの髪型を模したものだ。


 「こんなこともあろうかと思って」は、一度は言ってみたい台詞だ。


 ただし、それを期待して何かを用意しているときに限って、そういった事態が発生しないのが世の常だが。



「今の服はセノアたちに着させるから、オレたちが着る代わりの服を頼む。何でもいい」


「前に使った白いのがあるっすが…」


「あれは目立つ。普通に黒っぽいのでいい。あとは身体をすっぽり覆えるような外套もな」


「それだと完全に暗殺者っすよ?」


「闇に紛れるには一番効率がいいんだから仕方ない」


「了解したっす」



 アンシュラオンとサナは今着ている服を脱いで、代わりに用意された衣装に着替える。


 以前とは違って黒くて地味な服だ。サナもロリータ服ではなく、普通のシャツと長ズボンの服装になる。



「ズボンも似合うな…可愛いぞ、サナ!! 見せて、もっと見せて!」


「…こくり」



 一回転するサナを観賞。



「あぁ…やっぱりサナちゃんが一番可愛いなぁ。最高だよ」


「幸せそうで何よりっす。売っている側っすが、旦那にもらわれてよかったと心底思うっすよ」


「そうだろう、そうだろう。オレだけがサナを幸せにできるからな」



 モヒカンの言葉に嘘はない。


 ペットショップと同じく、商品とはいえ情が湧くものだ。できれば幸せになってもらいたいとは思うものである。


 イタ嬢のところにいても衣食住には困らなかっただろうが、一生部屋の中で飼い殺しになっていたかもしれない。


 成長すればまた事情も変わってくるだろうから、最悪は【飽きられたイタ嬢】に売られる可能性もある。


 声が出ない少女ならば好都合と、虐待して楽しむ者たちもいる。それを考えれば、アンシュラオンに買われたことは幸せだろう。


 そして、もう二人ばかり、その幸せな少女が増えることになる。





「お待たせいたしました」



 ホロロがやってきた。その背後には二人の少女が付き従っている。



「やぁ、待ってたよ。落ち着いた?」


「まだ十分ではありませんが、話ができるくらいには」



 あれから一時間あまり、二人にはゆっくりとしてもらっていた。


 常時念話で話していたので特段話すことはないようだが、実際に会えるとなると嬉しさは何倍にもなる。


 その証拠にセノアは、しっかりとラノアの手を握っていた。



「おー、いいね。これはいい。完璧じゃないか。オレもサナと常時手をつないでいるからね。さまになっているよ。まあ、姉妹だから当然だけどね。手間が省けて何よりじゃないか」



 見ず知らずの二人に「兄妹ごっこ」をさせるより、本物の姉妹のほうが、より自然に振舞うことができるだろう。


 これは思った以上にお買い得であった。


 ちなみに二人合わせての金額は千二百万円。セノアが五百、ラノアが七百万である。


 小さい子供のほうが高いので、これは妥当な金額だろう。ただし、もし念話の存在が明るみに出ていれば、この十倍になっていたかもしれないほどの人材だ。



(サナともども、オレはついているな。いやいや、これも実力か。情報公開を持っていなかったらわからなかったし、自分の功績だよな。うむ、やはりオレ自身のおかげだな)



「さて、君たちには…ん? セノア、どうした? まだ顔色が悪いようだが?」


「あっ…い、いえ。そんなことは…ないです…ございません!」


「なんだ? 妙に硬いぞ。まだ警戒されているのか? まあ、知らない人だからな…オレは…。どうせ知らない人だしな…子供に警戒されるのはショックだなぁ……」



 さっきのラノアの台詞が、若干まだ心に突き刺さっていたりする。


 よく心配して声をかけたら犯罪者扱いされて少女に逃げられた、という話を聞くが、その気持ちがよくわかる。


 子供の一言は残酷だ。すごい痛い。



「おにーたん、すごいひと?」



 そのラノアが、突然アンシュラオンに質問してきた。知らない人からおにーたんに格上げだ。すごく嬉しい。



「改めて訊かれると言葉に困るが…そうだ。オレは偉人だ」



 まったく言葉に困っていない。



「こ、こら、ラーちゃん。失礼でしょう!」


「だってー、おばちゃんがすごいひとだって…」


「ひっ! ほ、ホロロさんでしょう!」


「………」


「ご、ごめんなさい! あっ、申し訳ありません! ど、どうかお許しを…」



 ホロロは、おばちゃんと言われてもまったく動じない。


 ただ、セノアにはその様子が怒っているように見えたのか、必死で謝る。



「ホロロさん、二人の様子が変だけど…何か言った?」


「ホワイト様の偉大さを少々述べただけです」


「そ、そうなんだ。なんか誤解されている気がするけど…詳しくは訊かないほうがいいかな…」



 明らかにホロロに何かを吹き込まれたとしか思えない反応だ。


 あらゆる病を治す名医であり、ホテルの最上階を借り切る金持ちであり、自分の正義を成すために人質ビジネスまがいの悪逆非道も辞さない偉大なる人物。


 うん、よくわからないし、子供が聞いたら「ただの怖い人」である。


 とりあえず子供ながらに、金持ちの段階で怒らせたらまずいという発想はあるのだろう。自分の雇い主なのだから、セノアの対応は極めて普通のものである。


 が、アンシュラオンは普通の金持ちではない。二人を卑しめて楽しむ趣味はない。



「セノア、そんなに畏まらなくてもいいよ。オレはたしかにすごい男だけどさ、君たち二人はオレのものになったんだ。そうだな。うーん、何だろうな……あえて言うなら…ううむ…」



 サナは愛情をたっぷり注いで育てる妹であり、特別な存在だ。


 では、彼女たちは何になるのかと問われると、ちょっと返答に困る。何も考えていないからだ。



(お前たちは影武者だ! とか直接言うのはかわいそうだしな。それだと悪い意味に捉えるかもしれないし…。この子たちの年齢を考えると『サナの友達』のほうがしっくりくるが、正直ちょっと合わない気はするな)



 いつかサナにも友達を作ろうと考えているが、それは【相応しい存在】でなければならない。サナの傍に置くだけの価値がある人材がいいだろう。


 二人の能力は代えがたいものだが、サナと釣り合うとは思えない。


 イタ嬢のように軽々しく友達とか言って、わざわざサナの価値を下げるのも愚かである。


 よって、これに落ち着く。



「君たちは【メイド】として、オレやこの子の周りの世話をするんだ。そう、そこのお姉さんのようにな。どうだ、それならば怖くないだろう?」


「は、はい! そ、粗相がないように…気をつけます」


「まだまだ硬いなぁ。ほら、もっとリラックスして」


「あっ…!」


「ちょっとじっとしててね」


「あっ…んっ……」



 セノアの肩に手を置きつつ、身体の様子もチェックしておく。


 脇の下や胸、お腹周りなどを触ってサイズを確かめる。



「ううっ…ぁっ…」


「大丈夫。サイズを見ているだけだから。知っているかもしれないけど医者でもあるんだ。安心していいよ」


「は、はい」



 実際、その手付きにいやらしい点はない。実に清廉なものである。


 子供は嫌いではないが、普段からサナで堪能しているので、あえてセノアで楽しもうという感情は起きない。


 それはセノアにもわかっているのだろう。顔を赤らめながらも、じっと我慢している。



(患者とかなら少しは楽しんだりするけど…自分のものだとわかっていると、案外そんな気分にはならないもんだな…)



 患者にセクハラするのは趣味である。ただし、あくまで患者だからいいのだ。軽くちょっかいを出して楽しむ感じである。


 一方、すでに自分のものであるセノアは、どちらかというと【入手した可愛い有用な人材】というイメージが強い。役に立ってくれればそれで十分だ。


 なので淡々と調べていく。



(女の子だから全体的に柔らかいけど、骨格もオレに近いかな。胸は…うん、ほぼ無いな。女の子は後からいくらでも成長するから、このあたりは様子見かな。今は無いほうがありがたいけど)



 セノアの胸は、とてもとても小さい。ぶっちゃけ、あるのかないのかわからないほどだ。


 まだ小学六年生だと思えば、それも不思議ではない。高校生あたりから一気に成長する子もいるのだ。未来に期待しよう。


 それに彼女に求めているのは、そういった性的な面ではない。



「うん、大丈夫そうだね。セノア、君に最初の仕事を与えよう。もう少し経ったら、オレの代わりに馬車でホテルにまで戻ること。戻ったあとはホテルの部屋で休んでいるといい。ルームサービスも好きに取っていいからね。そのあたりはホロロさんに一任するから、わからないことがあったら彼女に訊くこと。ただし部屋からは出ないように。これは君たちの身の安全のためだよ」


「は、はい。い、妹は…?」


「ラノアには、オレの妹…サナの代わりになってもらう。つまりは君たちは基本的に一緒だ。約束通りだろう?」


「は、はい」


「なに、心配することはない。オレは有名人だからね。どこに行っても目立ってしまうんだ。それだと外で遊ぶこともできない。だから少しばかり、オレの代理で馬車に乗ってもらいたいだけなんだ。それが最初の仕事だ。わかったかい?」


「わ、わかりました。あっ、かしこまりました…!」


「はは、無理に面倒な言葉を使わなくてもいいよ。子供は子供らしくが一番だ。ただ、オレの代理をしている間はしゃべらないように。ラノアちゃんもね。念話があるから不自由はしないでしょう?」


「…はい。大丈夫です」


「多少心苦しいけど、セノアには少し髪を切ってもらうことになる。今のままだとウィッグより長いからね。ホロロさん、調整をお願いね」


「かしこまりました。ではセノア、こちらに。髪を切りましょう」


「はい」



 指示を受けたホロロは、セノアの髪の毛を切っていく。


 女の子にとって髪の毛は命だとも言うが、そんなことはお構いなしに容赦なく切る。


 アンシュラオンの命令は絶対なのだ。「切るけど大丈夫?」などと言った緩衝材もまったくない。


 ホロロは意図的にそうした立場を取っているのだろう。自分が厳しく接すれば、アンシュラオンの気遣いが際立つことになる。


 これもまた主人を高めるためのメイドの嗜みである。



「あっ、そうだった。ついでに健康診断をしておこう。ラノアちゃん、少しじっとしていてね」


「んー? なにー?」


「大丈夫。痛いことじゃないからさ」



 アンシュラオンは命気を発動。粘着性のないサラサラの気質にしたため、服に触れても濡れないバージョンである。


 命気がラノアの全身を覆い、健康状態をチェックしていく。



「っ!?」


「ホワイト様に任せなさい」



 その様子に髪の毛を切られているセノアは驚いたが、ホロロが肩に手を置いたので動けなかったようだ。


 たしかに何も知らない素人から見れば、一瞬で青い粘膜に包まれるのは異様な光景でしかない。



「外傷は特になし。中は…と。うーん、異常はないね。極めて健康体だ。はい、終わりだよ」


「ふにゃ?」



 命気が引くと、ラノアがきょとんとした顔で首を傾げていた。その仕草はなかなか愛らしい。



「さて、そっちは終わったかな?」


「はい。このような感じになりましたが、いかがでしょう?」


「うん、ショートカットも可愛いね」


「…あ、ありがとうございます」


「じゃあ、お風呂ついでにそのままでいいや」


「きゃっ」



 次はセノアを命気で包む。


 切られた細かい髪の毛がついているが、それも一緒に命気で巻き込む。こうした不純物は、身体の汚れと一緒に蒸発させればいいだけだ。



「外傷はなし…と。中は…ふむ。ちょっと胃腸が弱っている。ストレスだね。イタ嬢のところのスレイブと同じかな。おい、モヒカン、もっと女の子たちの待遇を良くしろ。これじゃかわいそうだろう」


「そんなこと言われても…現状で手一杯っす」


「なさけないやつめ。オレがもう少しこの街で権力を手にしたら、このあたりの土地を買い占めてスレイブ館は大改築だな。もっと広くして、女の子たちが快適に過ごせるようにしよう」



 ちなみに男のことには触れていない。


 男は現状でも十分である。むしろそっちを狭くして、女の子のほうを充実させようとも考えているくらいだ。



 そうこうしている間に、セノアの治療が完了。



「これでよし。身体も綺麗にしたし、さっぱりしただろう」


「…は、はい。…す、すごい…です」


「これも君が怖がっている力だよ。どうだい? 力は便利だろう?」


「はい」


「いい返事だ。力ある者は特別だ。オレと一緒にいれば、君はこれからもっとすごいことを体験するだろう。楽しみにしていてくれ。それじゃ、着てみて」



 二人にウィッグと服を着せる。


 セノアは思った通りにぴったり。ラノアは体格で選んだわけではないので多少合わないところはありそうだが、サナは背が小さいのでサイズに大きな差はないようだ。



「おおっ、この段階でもなかなかいいじゃないか。知らない人間が見たらわからないな。じゃあ、仮面も被ってみて」



 セノアはこわごわと、ラノアは何の躊躇いもなく仮面を被る。



 その姿は―――ホワイトと黒姫。



「おおおおお! 思ったより似ているぞ! というか見た目だけだったら完璧だな!! ホロロさん、どうかな?」


「良いと思います。中身の神々しさまで求めるのは不可能ですから、このあたりが限界かと思われます」


「うん、まあ…そうだね。二人には極力優しくしてあげてね。まだ慣れていないしさ」


「かしこまりました」



 若干心配になるが、こう言っておけば自分の責任にはならないので大丈夫だろう。


 これでひとまず準備完了である。



(さて、準備は整った。【やつ】に会いに行くとしようか)




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