133話 「普通という名の少女 前編」


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名前 :セノア・ロゼ


レベル:1/50

HP :50/50

BP :10/10


統率:F   体力:F

知力:F   精神:F

魔力:F   攻撃:F

魅力:C   防御:F

工作:F   命中:F

隠密:F   回避:F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/3


☆総合:評価外


異名:求められるままに生きる少女

種族:人間

属性:水

異能:念話、恭順姿勢

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(おおっ!! この子…術士の覚醒限界が3だぞ! 一瞬、0に見えちゃったけど、3だよな? あっぶねー、見落とすところだったじゃないか)



 人間の思い込みは怖いもので、「どうせ0だろう?」とか思っていると、3とか6、8、9などが0に見えてしまうことがある。


 目が悪くなった晩年などは、デジタル時計を見間違えることもあるくらいだ。


 しかも七人続けて0が続いていたので、うっかり見落とすところであった。注意しなくてはならない。


 今度は何度見ても3なので、これで間違いはないのだろう。そもそも情報公開は間違えない。間違えるのは自分である。



(3…か。覚醒限界だけがすべてじゃないが、仮に3まで覚醒したとすれば一流の術士になれるかもしれないレベルだ。間違いなく才能はあるな)



 戦士や剣士もそうだが、3もあれば一般的なレベルで一流と呼ばれる領域に入ることができる。


 それ以上となると、もう達人や武芸者の領域に入ってしまうので、数は激減することになる。


 ガンプドルフなどは因子レベル5の技を使っていたが、そこまでいけばまさに【英雄】、超一流の武人である。


 アンシュラオンのように8以上に至ると、もはや伝説級の使い手という扱いになる。世界で数えるほどしかいない超人だ。


 なので、3もあれば十分。


 アンシュラオンだって、普段使う技の多くは因子レベルが3以下のものばかりである。BP消費も少なく使い勝手がよく、発動時間も短いので便利なのだ。


 実力が上がれば技の威力も相乗して上がるので、下位の技でも常人の上位レベルの技となることも大きな理由だ。



「どうしたっすか?」



 じっと見ていたのでモヒカンが話しかけてきた。興味があると思ったのだろうし、実際に興味はある。



「この子は?」


「ああ、新しく入ってきた子っすね。気に入ったっすか?」


「まあな。どんな子だ?」


「おとなしい子っすね。特に問題がないから扱いやすいっす」


「だろうな」


「へ?」


「いや、こっちの話だ」



(『恭順姿勢』というスキルがある。当人と話せばすぐわかるだろうが、そういう性格なんだろうな。利口ともいうが。それより『念話』が気になる。文字通り、テレパシーというやつか?)



 精神感応とも呼ばれるものであるが、一般的に心の中で会話ができるものを指す。


 情報公開が中途半端なところは、推測はできるが詳細がわからないところだ。あくまで「たぶんそうだろう」としかわからない。



(気になる。距離はどうなんだ? 誰とでもできるのか? うん、この子がいいな。というか、この子しかいないんだが…)



 結局、気になったのは一人だけである。消去法でも一人しかいないし、自分から選ぶとしてもこの子しかいない。


 サナのように劇的ではないが、そこに迷いがなかったのは好材料である。


 何より「おとなしくて扱いやすい」というのが絶対的に気に入った。そういう人材を欲していたのだ。加えて能力もあるのならば願ったり叶ったりだ。



 改めてその少女、セノア・ロゼなる少女がいる部屋の前に立つ。



「会うぞ」


「了解っす。これがこの子の詳細資料っす」


「うむ、どれどれ……ん? 買取希望額が五百万だと? おい、サナより高いじゃないか。サナのほうが可愛いだろう。それに普通、子供のほうが高くなるんじゃないのか?」


「そ、それは…その……なんと言ったらいいっすかね。旦那の言う通り、年齢が低いほうが高いっすけど…この子はその……健康体なんで……申し訳ないっす!」



 サナは「言葉を話せない」という最大の欠陥があったので、あの容姿かつ子供であっても値が付かなかった。


 一方、セノアはサナより年上だが、極めて健康体である。その差は大きい。



「ふん、俗人にサナの価値などわかるわけがないか。お前たちが見た目だけで判断していることなど、当の昔にわかっていることだ。いちいち怯えるな」


「だって、下手なこと言ったら怒るっす」


「まあな」



 怒るのである。付き合うほうも命がけだ。


 モヒカンなら殺されはしないだろうが、尻の穴が増えることになるだろう。言葉を選ぶのは当然だ。



「まあいい。開けろ」


「了解っす」



 モヒカンが名札の場所に仕掛けられた術式を解除すると、少女の姿がさらにはっきり見えた。


 小豆あずき色の髪の毛に緋色の瞳をした、まだあどけない発育途上の少女である。



(体格は、ほぼ同じか。顔色もいい。健康状態がいいという話は嘘ではないようだな。モヒカンが言ったのは言葉を話せるという意味だろうが、健康なのはよいことだ)



 モヒカンから渡された資料によると、年齢は十二程度。小学六年生か中学一年生といったところ。


 一番重要な体格は、ほぼ同じ。小学生の頃、身長が男子より高い子はけっこういたもので、ああいったタイプである。


 顔立ちもそれくらいで、まだ大人になりきれていない少女特有の愛らしさを滲ませている。



 顔は、可愛い。



 大人になれば清楚な感じになりそうなスマートさも感じさせ、今後の成長を楽しみにさせる。


 さきほどの『男性魅了』を持っていたフェンティーヌよりは数段劣るが、一番のポイントは癖がない点だろう。


 すべてがすっきりしているので独特の癖が何もない。これも影武者向きである。



(目はオレに少し似た色だな。髪の毛は…全然違うな。色は最悪、脱色すればいいだろう)



 少女を観察。こうして見るとまったく自分と似ていないが、まだ何も手を加えていないので当然だろう。


 髪の毛はロングのストレート。これは切れば問題ない。



「………」



 アンシュラオンが眺めている間も、セノアは沈黙を保っていた。


 すでに術式は解除してあるので、気がついていないわけではない。単純に何を言っていいのかわからないので、こちらが動くのを待っているのだろう。


 その様子は、まるで命令を待っている犬にも見える。



「ふっ…」


「あっ…」



 アンシュラオンが軽く笑うと、少女がびくっと身体を震わせた。


 やはり緊張しているようだ。まずは緊張をほぐしたほうがいいだろう。



「ああ、いや、驚かせちゃったかな。べつに君を笑ったわけじゃない。ちょっと飼い犬のことを思い出しただけだよ」


「…は、はい」


「オレの名前はアンシュラオン。君の名前を訊いてもいいかな?」


「あ、はい。…セノア・ロゼといいます」


「セノア・ロゼか。いい名前だ。まるで花のようだ」


「あ、ありがとうございます」



(よかった。ちゃんと通じた。サナの時は無反応だったから、ちょっと怖かったんだよな…)



 再び隣にいるサナを見る。


 サナは何を言っても反応しなかったので、最初は自分の対応が悪かったのかと思ったくらいだ。


 一方、緊張はしているものの、セノアの受け答えはしっかりしている。



「犬は好きかな?」


「は、はい。犬…可愛いです。犬を飼っておられる…のですか?」


「ゴールデン・シャイーナっていう犬をね。世界で一頭しかいない珍しい犬なんだけど、これがワンワンうるさくてね。君とは大違いだ」


「初めて聞きました。ゴールデン…金色ですか?」


「そうだね。ちょっと薄めの金色かな。今度、君も触ってみるといい。噛まれないように注意は必要だけどね」


「噛むのは…怖いです」


「大丈夫。吠えたら尻でも引っぱたいてやればいいさ」


「それはその…かわいそうです」


「君は優しいんだね。まあ、女の子ってのは基本的にそういうものだしね。好意的だよ」


「…は、はい」



 アンシュラオンに好意的と言われたせいか、少しだけ恥ずかしそうに俯く。


 まだ十二歳なのだ。こうして面と向かって話すのは恥ずかしい年頃かもしれない。


 しかも自分は美形である。年上から見れば愛らしいのだろうが、年下から見れば「超イケてる年上男子」である。


 これが漫画なら、キラキラのスクリーントーンを貼られるくらいに輝いていることだろう。



(なんだか逆に新鮮だな。これが【普通】ってやつなのかな。…うんうん、悪くないぞ。セノアは普通のいい子だ)



 普通、とは難しい言葉だ。何をもって普通と言えばいいのか非常に難しい。



 しかし、少女から感じた印象はまさに―――普通。



 歳のわりに会話もこなせるようだが、この世界では結婚していてもおかしくない年齢なので、これくらい話せても不思議ではないだろう。


 あまり意識したことはなかったが、こうした普通の女の子と話すのは初めてである。


 ロリ子ちゃんはもう少ししっかりした印象があったので、彼女は独立した女性という感じだ。既婚者であるし。



 ちゃんと会話ができるようなので、もう少し切り込んでみる。



「さて、君は今の自分の状況を理解しているかな?」


「…はい。あなたが…ご主人様ですか?」


「話は聞いているようだね。助かるよ。一応、そのつもりでいる」


「どうぞよろしくお願いいたします」


「君はスレイブになることに違和感はないのかな?」


「ありません」


「即答だね。…普通は嫌だと思うけど」


「そのほうが…安全ですから」


「なるほど、模範的な回答だ」



(普通のスレイブはこんな感じなのか? それともスキルのせいか?)



 彼女からは反抗心というものをまったく感じない。自分の境遇もすべて受け入れているようだ。


 彼女の首にもギアスがはめられており、「この場所が快適」「買われることは幸せ」という認識が印象付けられているのだから、それ自体はそうおかしくはない。


 ただ、今までこうした年下女性のほうが少なかったので、逆にアンシュラオンが面食らうという奇妙なことになっていた。



「あ、あの…い、いけなかったでしょうか?」


「ん? 何が?」


「その…お気に召さなかったなら……申し訳ありません」



 セノアは、少しおどおどしながら答える。


 自分の受け答えが相手の気に障ったならば、買い取ってもらえない可能性があるのだ。


 一番最悪なのは、買い取ったあとに虐待されることである。それを怖れてのことだろうか。


 改めてスレイブの立場の低さを思い出す。



「君には絶対服従をしてもらう。オレの命令は絶対だ。しかし、君に自分の意見を強要しようとは思わない。その違いがわかるかな?」


「…その…私には……」


「オレのものには違いないが、自分なりの意見を持ってもいい、ということさ。それに対してオレが戒めることはしない。君は人形じゃないからね。命令によって望まないことが起こるかもしれないが、起こった事象に対してどうリアクションするかは、君の自由だ。ちょっと難しい言い方だったかな。要するに、命令以外は君にも自由が与えられるということだ。これならわかるかな?」


「は、はい。ありがとうございます」



 少しだけ緊張がほぐれたのがわかった。少なくとも自分を痛めつけて楽しむ趣味はない、ということが少女にとっては一番の安心材料だったのだろうから。



(張り合いはないな。シャイナに慣れすぎたかな?)



 シャイナはすぐに噛み付いてくるので、それと比べるとスカスカした印象を受けてしまうが、これが普通の子供の反応なのだ。




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