132話 「白スレイブの中から影武者探し 後編」


 アンシュラオンは、少女たちを見て回る。


 このエリアにいる少女の数は八人なので、さして時間がかかるわけではないが、自分の身代わりだと思うと迷ってしまう。


 ざっと外見だけを見た印象が、これ。



(うーん…あまりぱっとしないな。まあ、いたいけな女の子なんだからしょうがないか。戦闘用スレイブじゃないしな)



 あくまで遠くから見てホワイトだと思わせればいいので、細かいところはどうでもいい。



 問題は、雰囲気。



 当然ながら、アンシュラオンのような威圧感を放つ者はいない。そもそもそんな人物はこの街にいないので、求めるのは酷だろう。


 こんな男が山ほどいたら、そこはもう完全なる世紀末である。



(見た目は…もちろん可愛い。どの子もそれなりに可愛いが…サナには及ばないな。サナと比べるほうがかわいそうだけど…。さて、どうするか。どれも似たようなものなら能力を見て決めようか)



 見た目はどの子も大差ないので、今度は能力で判断することにした。


 どうせ手に入れるのならば、それなりに使えるほうがいいに決まっている。


 情報公開を使用して見て回る。



―――――――――――――――――――――――

名前 :アリア・ナ


レベル:1/30

HP :30/30

BP :0/0


統率:F   体力:F

知力:F   精神:F

魔力:F   攻撃:F

魅力:D   防御:F

工作:F   命中:F

隠密:F   回避:F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:

種族:人間

属性:

異能:

―――――――――――――――――――――――



(アリア・ナ…一般人だな)



 さすがに可愛いので魅力はDだが、特に異名もない一般人の少女である。


 取り立てて何かに長けているわけでもない。



(まあ、言ってしまえばサナもそうだから、その点に関して文句を言うのもかわいそうだな)



―――――――――――――――――――――――

名前 :エステル・ラト


レベル:1/40

HP :40/40

BP :0/0


統率:F   体力:F

知力:F   精神:F

魔力:F   攻撃:F

魅力:C   防御:F

工作:F   命中:F

隠密:F   回避:F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:

種族:人間

属性:

異能:信仰心

―――――――――――――――――――――――



(エステル・ラト…一般人か。『信仰心』というスキルがあるが…これは何だ? まあ、信心深いとかそういうことかな?)



 『信仰心』スキルは精神耐性の一種であり、特定の精神攻撃に対する防御機能を持っている。また、特定の環境下で精神の値にプラス補正が付くスキルである。


 ただし、信仰というものはある種の「精神汚染」でもあるので、何を信じているかによって新しい概念を許容しづらくなり、成長が遅くなる面もある。


 一般的にこの世界の人間は「女神信仰」が基本なので、特に表示がなければ女神に対する信仰心なのだろう。


 その場合、特にデメリットはない。単純に忍耐強くなるスキルとでも思っておけばいい。


 それを加味したとしても彼女は一般人だろう。アンシュラオンが言ったように、ただの信心深い少女だ。



(そういえば、名前についても少し調べたんだった。この二人は同じタイプ…【一体型】かな)



 ホロロにもさりげなく訊いたので、この世界の名前の作り方も知ることができた。



 まず、姓名が分かれているタイプの【分離型】。


 小百合・ミナミノも、マキ・キシィルナもそのタイプで、地球でも一般的にあった名前の表記である。


 ミドルネームがあれば、何かしらの身分を表すものという点も似ているので、さほど困惑せずに見ることができるだろう。


 ベルロアナ・ディングラスのように、長く続く家の出身者に多い名前である。普通の家柄でも、長く続いていれば姓が独立してくっついてくる。


 一番多いタイプなので、六割から七割の人間が、この分離型だと思っていいだろう。



 次に【単一型】。


 アンシュラオンやゼブラエスのように、名前しか表示されないタイプである。この場合、これ一つで姓名を兼ねているので、それ以上言いようがない。


 名前自体に大きな意味がある場合、単一型になることが多いらしい。


 たとえば、歴史に名前を遺す英雄は単一型が多い傾向にあるらしく、特殊な人間に多いとされている。


 また、姓名がありふれていて一族間で区別が付きにくい場合、統合して一つにしてしまうらしい。


 これも一例だが、日本人で一番多い苗字である「佐藤」かつ、名前がありふれている「太郎」などの場合、自分でリメイクして「サタロウ」と名乗ってしまうことがあるようだ。


 べつにそれは何でもよく「サロウ」でもいいし、「サロー」でもいい。思いきって「サ・ロウ」にしたっていい。


 つまりは名前が気に入らないから変えちゃった、という感じである。その名前が定着すれば、情報公開でもそれしか表示されないようになる。



 最後に【一体型】である。


 一見すると分離型に見えるが、その二つで一つの名前になっているタイプだ。アリア・ナもエステル・ラトも、「ナ」と「ラト」は苗字ではなく、名前の一部である。


 これはサナもそうで、サナ・パムで一つの名前になっている。面倒なので、普段はサナと呼んでいるにすぎない。


 よって、単一型の亜種みたいな感じだが、こうした名前になっている人間は【地方部族】に多いようだ。


 その地域だけに伝わっている特殊な文字や読み方を組み込み、独特の韻を作って意味を成しているという。


 だから馴染みのない印象を受けるし、最初は苗字なのかなと思ってしまうこともしばしばある。



(見分け方は難しいんだよな…。これも地球と大差ないな)



 地球でも名前に関しては各国各地方で違うので、この世界でも事情は同じようだ。


 こうなると単一型のほうが楽なので、自分がそうであってよかったと思う。呼ぶ側も、いちいち名前で呼ぼうか苗字で呼ぼうかと迷わずに済む。


 唯一の欠点は、同じ名前の人間がいた場合、非常に紛らわしいという点。それはどうしようもないので、改名するのが嫌ならば一号二号と呼ぶしかないだろう。



 と、完全に意識が離れてしまったので、改めて見て回る。



―――――――――――――――――――――――

名前 :ジェニファー・フロックマイ


レベル:1/30

HP :30/30

BP :0/0


統率:F   体力:F

知力:F   精神:F

魔力:F   攻撃:F

魅力:D   防御:F

工作:F   命中:F

隠密:F   回避:F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:心に傷を負った愛多き少女

種族:人間

属性:

異能:慈愛、傷心

―――――――――――――――――――――――



(ふむ…やはり心に傷を負った子もいるんだな。そりゃそうだよなぁ)



 さまざまな事情でここにやってくるので、彼女たちの中にはつらい記憶を持っている子もいる。


 幼少期に受けた傷は簡単には癒えず、下手をすれば人格形成に大きな悪影響を与えてしまうだろう。


 その意味でも、サナが特殊でよかったと思う。



(ただ、この子は『慈愛』というスキルがある。優しい子だということかな。幸せになれることを祈っているよ)



 男と違って女には最大限の優しさを持つので、こうしたことを思ったりもする。


 『慈愛』は加護系スキルで、与えた愛情の分だけ一定期間魅力が上昇し、周囲から守られやすくなるというスキルだ。


 彼女が傷心に負けず他者に愛を与え続ければ、きっと素晴らしい人生が待っていることだろう。



 そして、中にはこんな少女もいた。



―――――――――――――――――――――――

名前 :フェンティーヌ


レベル:1/40

HP :40/40

BP :0/0


統率:F   体力:F

知力:F   精神:F

魔力:F   攻撃:F

魅力:C   防御:F

工作:F   命中:F

隠密:F   回避:F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:男性不信の美しき愛玩少女

種族:人間

属性:

異能:男性魅了、男性不信、復讐心

―――――――――――――――――――――――



(ほぉ、この子は美しいな。見た瞬間、違うことがわかる)



 アンシュラオンでも、その美しさに目を見張る。


 さきほどは「威圧感」や「風格」といった要素で少女を見ていたので、あまり大差はないと思ったが、単純に少女として見て回ると美しさが際立っていた。


 サナとはまた違う独特の美貌を持っており、将来は間違いなく美女になることがわかる容姿だ。


 人形のような美しさ、と言えばわかるだろうか。一瞬、作り物かと思うほどの美を持っている。


 しかも、どことなく妙に人を惹きつける力を感じる。その理由はすでにわかっていた。



(『男性魅了』…か。オレの『姉魅了』に近いスキルのようだな。なるほど、こういう感じか)



 スキルの力によって男性を魅了してしまうようだ。さきほどの感覚もこれによるものだろう。


 ただし、アンシュラオンに対しての効果はさほどではない。おそらく魅力の数値が関係しているのだろう。


 彼女はC。Aの自分にはまったく及ばない。だから効果があまりないのだ。



(だが、大人になって魅力が上がれば魔女になるかもな。それが幸せかどうかはわからない。すでに幸せではないようだしな)



 最初は「なぜこんなに美しい少女が売れ残っているのか?」と疑問を抱いたものだ。


 しかし、その美しい外見に反して、心は怒りや憎しみに染まっていることが雰囲気から察せられた。



(幼いうちに能力が出ると不幸になるな。特に武力がなければ、大人の男に襲われることもあるだろう。ここにいるのだから処女なのだろうが…女性を傷つけるのは性行為だけではない。痛々しいものだな)



 何があったのかはわからないが、今のアンシュラオンに彼女は魅力的には映らない。


 魅力がCにとどまっているのは、彼女が持っているマイナススキルも影響しているのだろう。せっかくの美貌が台無しである。



(オレだったら癒してあげられるか? いや、傲慢だな。シャイナ一人救うのにも苦労しているやつが、他人の人生を背負えるわけがない。せいぜい目的に沿った利益のある女性でないと、オレには背負えないだろうな…)



 その少女に価値があると思えるから、何とか付き合うことができる。デメリットにも耐えられる。


 しかし、ただの偽善からでは長続きはしない。そんな偽物の愛では少女の傷を抉るだけだ。それこそ最低である。


 そもそも影武者を探しているのだ。あまり女性としての魅力が高くないほうがいい。どちらかというと中性的なほうがいいだろう。





(この子は…平凡だな。この子もそうだ。こっちも一般人…か)



 それから三人を続けて見るが、誰もが一般人であった。目を引くような子はいない。


 さすがに焦ったので、モヒカンに訊いてみる。



「なぁ、能力測定ってのはどうやっているんだ? 力を持った子は特別扱いしているんだろう?」


「そうっすね。明らかにそうとわかれば違う場所に入れているっすが…白スレイブの中で特別な子は、今のところ見当たらないっすね」


「調べる装置はないのか? ほれ、ハローワークのハンター測定で血液検査があったじゃないか。あんな感じのはあるだろう?」


「それは使っているっす」


「…なるほど。使ってもいなかった、ということか」


「残念ながら、その通りっす」



(調べていたのは血液中の生体磁気だったか? だとすれば、わかるのは【現状】での力にすぎない。子供なんだ。この歳で力を発揮している人間のほうが少ないだろうな)



 子供の頃から因子が覚醒している人間は、そう多くはない。いくら才能があっても、あのパッチテストだけで調べられるとは思えない。


 ただ、こうして情報公開で見ても、どれもぱっとしないので、あながち間違っているとは言えないが。



 そして、何気なく最後の少女を、ふと見た時である。



「なんだ、やっぱり駄目か…どうしようかな……」



 最後も凡人であった。どうやらここにいるのは、特筆すべき能力を持たない少女だったようだ。



 が―――何かが引っかかった。



 脳裏に少しだけ何か違和感が残ったので、再び最後の少女を見る。



(ん? ちょっと待てよ…ん? 気のせいか? いやいや、ちゃんと見よう。見るだけならタダだしな)




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