131話 「白スレイブの中から影武者探し 前編」


「モヒカン、白スレイブを二人ばかり用意してもらうぞ」


「白スレイブってことは…子供のスレイブっすね」


「そうだ。少し裏でも動きたいからな。【影武者】として使おうと思っている」



(ホワイトとしてのオレは目立つ。素顔でも目立つみたいだけど、仮面を被っているからなおさらだ)



 今では白い馬車が通れば「ホワイトが乗っているに違いない」と思われるようにさえなった。


 こうなると下手なことはできない。どこにいても動きがバレてしまうからだ。


 だが、これは好都合でもある。



(ならば、それを逆手に取ればいいだけだ。仮面と白い馬車だけで、オレとサナだと誤認させることができる。これから裏で暗躍する必要があるから、影武者は必須だ)



 影武者がいれば秘密裏に行動できる機会も増える。リスクも軽減できるだろう。


 狙われても実力で排除できるが、その裏側を洗うのにも利用できるし、影武者の採用はメリットが大きい。


 あとは手間の問題だが、それくらいは必要経費だと割り切る。



「影武者となると、旦那のは男っすか?」


「…そうなるな。今回は男のスレイブに縁があるようだ。不本意極まりないがな。まあ、そのほうが死んでもいいから気楽か」


「ギアスはどうするっすか? まだ準備ができていないと言っていたっすが…」


「ギアスはかけない。だから素の状態で扱いやすそうなやつを選ぶ。仮面を被せればわからないから、顔より体格が似ているやつを優先して選ぶつもりだ」


「了解っす。案内するっす」


「ホロロさんも来る?」


「はい」



 ギアスの話をした時に目を光らせていたので、ホロロも誘うことにした。


 何をしても認めるだろうが、今までの貢献度を考えれば、ギアスをかける順番としてはホロロを先にしたほうがいいだろう。


 これも最低限の報酬というものだ。



(うーん、上に立つ人間も大変だな…。実際に一夫多妻制は大変だと聞くし、ギアスを付けるまでは苦労しそうだ)



 アンシュラオンは慎重な性格なので、ギアスを付けるまでは完全に安心することはできない。


 ならば、日頃から相手にメリットを与えて手懐けるべきだろう。


 ホロロが忠実だからと甘えていてはいけない。人間の不満は、いつどこで溜まるかわからないからだ。



(人間が一番扱いにくい…か。いつの時代も人を上手く操った人間が勝利するものだ。ただ、オレはそういうのは面倒だから、ギアスの精度を上げるほうに力を注ぎたいもんだな)



 この世でもっとも難しいことは、人間を掌握することである。大統領であれ社長であれ、常に部下には苦労するものだ。


 それを唯一解決する手段が―――ギアス。


 完璧ではないが、使いこなせば今までの問題点をすべて解決する最高の手段になるだろう。


 それまでは油断してはいけないと、改めて肝に銘ずるのであった。







 アンシュラオンは、久々に裏店の商品スペースに向かう。


 普段雑談しているのはスタッフルームなので、最初にサナを見た日以来、ここには入っていなかったのだ。


 そこは相変わらず薄暗く、微妙に危険な雰囲気を醸し出している。



(やはり酒場とは違う雰囲気だな。非合法な感じがすごくいい)



 久々に感じるスレイブ館の闇の部分の香りが、ひどく自分に馴染む。


 アンシュラオンも闇の濃い人間なので、裏社会の人間や組織と出会っても違和感を感じないが、ここまでしっくりくるものはここしかない。


 スレイブという存在こそ、自分の求めていたもの。絶対服従の自分の所有物。



(いいな。スレイブはいいぞぉ。素晴らしいものだ。いやはや、最高だな)



 必要だとわかっていても手間がかかるので、影武者探しには乗り気でなかったが、スレイブというものにはいつだって心が躍るものだ。


 再びスレイブ熱が盛り上がってきて、やる気が増大する。



「旦那と同じくらいというと…このあたりっすかね」



 モヒカンが案内したのは、十二~十五歳程度の男の子のスレイブが生活している部屋が居並ぶエリア。


 ここも最初に来た時にざっと見たくらいで、ほぼ素通りした場所であるので、初めて見るような感覚である。


 ペットショップでいつも猫ばかり見ていた人間が、たまには違う動物を見ようと思って、「こんなのもいたのか」と物珍しそうにする様子に似ている。



「ふむ。では、見てみようか」



 アンシュラオンが、各部屋の男の子を見定める。


 ざっと見回して、まず思ったことがこれ。



「数が少ないな」



 その場にいた白スレイブは、五人ほどしかいなかった。これだと選択肢がかなり限られる。



「しょうがないっすね。年齢的にギリギリっすから。普通はその前に買われていくっす」



 白スレイブとして成り立つのは、せいぜい十五歳くらいまでである。


 それ以上になると精神が発達してしまうので、契約をすり抜けることができなくなり、白として売ることはできなくなる。



「育ちすぎた場合はどうなる? ラブスレイブだったか?」


「そういう場合もあるっすが、男は普通のスレイブになるっすね。ただ、もともとの質がいいんで等級は高く設定するっすけど」


「…なるほどな。しかし…ううむ。男か…。ここまで育つと本当に男って感じだな…気色悪い」


「でも、影武者っすよ? しょうがないっすよ」


「それはそうなんだが…男かぁ」



 まだ少年の面影はあるが、この年頃になると男性的な側面が多く出てきて、顔立ちもだいぶ変わっている。


 いくらこの世界がアニメ調の容姿とはいえ、男は男である。そこに激しい嫌悪感を抱いてしまう。



「なあ、どうして男ってこんなに気持ち悪いんだ?」


「そんなこと言われても困るっす。それが性ってもんっすよ」


「そりゃそうなんだが…オレには理解できんな」



 これが生まれ持った性の違いというものである。


 女性から見れば男の子は「可愛い」、男は「格好いい」のかもしれないが、同性が見ればキモイだけだ。



 何度も我慢しようとするが―――限界。



 まったく抵抗するそぶりもなく屈服する。



「やっぱり駄目だ。受け付けない。生理的に無理」


「さすが旦那っすけど…男だって使えるっすよ。むしろ男のほうが役立つことも多いっす。それとも代理契約にするっすか?」


「そうしたいところだが、影武者となるとオレ個人が契約しないと安心はできない。しかし、男は駄目だ!! 男の娘でも駄目だ!!」



 その筋の世界では「男の娘」というジャンルもあるが、アンシュラオンはそれも駄目である。


 男である段階で駄目なのだ。性差別だろうとなんだろうと駄目なものは駄目である。


 というより、男は「娘」を付けても男だ。もともと付いているのだから、何をやっても変わらない。



「オレは男と契約するために生まれてきたんじゃない!! 女の子とイチャラブするために生まれてきたんだ!! 男なんて反吐が出る!!」


「はぁ…やっぱりそうなったっすか」


「なんだその溜息は」


「最初から無理だと思っていたっす。しょうがないっすから、女の子のほうにするっすよ。仮面を被せたらわからないっすし、胸はどうとでもなるっすからね」


「そう思っていたなら最初から案内しろ」


「男を見せろって言ったのは旦那っすけど…」


「うるさい。口答えするな! ばしっ!」


「いたっ!」



 横暴さ、極まれり。





 今度は女の子のスペースに向かう。


 向かったのは、同じく十二歳程度からのエリアだ。



「前はあまり気にならなかったが、年齢で分けているんだな」


「そうっすね。基本的にそうしているっす。客の大半は年齢を指定してくることが多いっすからね」


「たしかに重要な要素だな」



 ちらりと隣のサナを見る。


 サナはじっと周囲を見ているが、そこに感慨やら嫌悪といった感情はないらしい。


 単なる建造物であり、単なる生物としか見ていない。



(サナにとっては、ここは何の意味もない場所か。同属意識とかもないんだろうな。それはそれでいいことだが)



 サナはもうスレイブではない。アンシュラオンの妹だ。


 彼女の特異な性格のおかげで、「私は元白スレイブだ」という負い目がないことは非常にありがたい。


 ギアスがあったとしても、普通の精神ならばトラウマである。それを払拭するのは一生無理かもしれないのだから。



「ん? 前と少し配置が変わっているな」


「はいっす。何人か売れて、また新しく入ったっす」


「買ったのは領主…イタ嬢か?」


「お嬢さんはあれから来てないっすね。多いときは月一回のペースで来ていたものっすが…前のがトラウマになったっすかね。常連客を失ったっす」


「安心しろ。お前に渡した千五百万は、あいつからぶんどった金だ。売り上げは減っていないぞ」


「ぶっ!! どういう事情っすか!?」


「もらったんだ。友達のふりをして」



 微妙な言い回しである。たぶん世間一般の概念からして、もらったとは言わない。



「あとで揉めないでくださいっすよ…」


「今までの慰謝料だ。それより女の子を見せろ。オレと似た体格の子はいるのか?」


「そうっすね…。子供は女の子のほうが成長が早いっすから、旦那と同じくらいの背丈の子もいるっすよ。というか旦那は二十歳を超えているっすよね?」


「そうだ。たぶん二十三くらいだと思うが…お前の言いたいことはわかる。なぜか背は伸びないんだ」



 アンシュラオンの身長は、ある一定の時期から伸びていない。


 武人の血が強いと、身体がもっとも活発な状態で維持されるようになり、劣化という意味で歳を取らなくなる。


 つまるところ今の状態が、もっとも力を発揮できる体格なのだろう。



(べつに不便じゃないし、これでいいかな。大きいと私生活では邪魔だしね。ゼブ兄とかは大変そうだよ)



 ゼブラエスの身長は二メートル以上はあるので、普通のベッドでははみ出してしまうに違いない。ガチムチなので服だって大変そうだ。


 ただしビッグのように横にも太いわけではなく、全体的にすらりとしながらもガチムチで、スピードとパワーのバランスが最高に良い武人として完成された体格をしている。


 基本的に男が嫌いなアンシュラオンも、ゼブラエスには同じ男として惚れ惚れすることがある。


 男ならば、誰もが一度はああいう肉体を手に入れたいと思うだろう。顔もイケメンであるし。


 ただ、小回りが利く小さな体型も悪くない。戦気の扱いを覚えれば戦硬気で代用もできるので、そうなると大きさはデメリットにもなる。


 積極的に格闘攻撃をするタイプではないアンシュラオンにとって、今の体格は最高なのだ。無駄が一切ない理想形態である。


 なので、これ以上の身長増加はありえない。一生少年のままかもしれない。



(今はこの身体がありがたいかな。似た体格の子なら、いくらでもいるしね)



「とりあえず見て回るぞ」


「ご自由にどうぞっす」



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