129話 「スレイブ館へ、ダイナミック討ち入り訪問を敢行してみた」


 イタ嬢に白い粉を渡し、さらに軍資金をぶんどった後、西門に到着。


 市民証を見せると衛兵がチェック。



「確認いたしました。では、どうぞ。まだ東門からは出られないのでお気をつけください」



 ジュエルが緑っぽく光っているのが「決済中」の状態を示しているので、これが青になるまでは外に出られないが、それだけを言われただけで、ほぼ素通りである。



(オレが最初に来た時とは、えらい違いだな。やはり上級街の客ってのはすごいんだな)



 サナを助けに初めて訪れた時は、ガンプドルフたちが来ていたこともあって警備が厳重だった。


 いくら中級市民とて簡単に入れるような状態ではなかったが、今はこんなにもあっさりである。


 ただし、もともと外に出る人間に対しては、警備が甘いことも考慮する必要があるだろう。


 西門は簡単でも、窃盗や傷害などの犯罪を犯した人間が外に出ないために、東門ではそれなりにチェックがあるからだ。


 そのためにマキのような強い武人が配置されている。彼女の前では一般人であれ武人であれ、強行突破するのは難しいに違いない。





 西門を抜けて中級街に出ると、そのまま下級街に向かって移動。


 すでに日は落ちており、街並みは夜のものに変化しつつある。


 仕事を早く切り上げた人々が酒場に繰り出す姿も見受けられた。その光景に懐かしさを感じる。



(上級街の店ばかりでは飽きる。安い店も恋しいな)



 高いバーもいいが、安い居酒屋が恋しくなる感覚だ。


 今はホワイトという目立つ容姿なので、気軽に下級街にある酒場には行けない。


 行ってもいいのだが、ハローワーク関係の人間と出会う可能性がある。彼らならば仮面ありでも正体を見破ってしまうかもしれない。


 特にラブヘイアは危険だ。彼ならば髪の毛の匂いだけで人物を特定できる。


 それを思えば、実はなかなかレアなスキルなのかもしれない。当人はまったくその有用性に気がつかないだろうが。


 あんな変態に出会うのも嫌だし、この計画を邪魔をされるのも嫌である。安い居酒屋に行くのは、この仕事が終わるまではお預けだ。



(それにしても、ラブヘイアを見かけないな。オレは上級街に住んでいるし、久しくハローワークにも行っていない。あいつはあまり金持ちではなかったようだし、上級街に用事があるわけもないだろう。会わないのが当然だな。まあ、会いたくないわけだが)



 一応ポイントを山分けしたので、彼も中級市民になっている可能性がある。もし以前から貯めていれば、上級市民になることもできるかもしれない。


 ただ、あれ以来一度も出会っていないので、ちゃんとブラックハンターに昇格したのかも謎である。


 彼のことを思い出したのは懐かしいからではない。今アンシュラオンが求めているものが、あれくらい腕の立つ人間である、ということだ。


 ビッグからの情報提供を受け、当初の予定とは少しばかり違ってきたところがある。最初は誰の手も借りないつもりだったが、それだけでは幾多の組織と渡り合えない。


 事はすでにソイドファミリーだけにとどまらないのだ。


 そのために今進めている計画があり、それには人材が必要であった。



(今回の計画に必要な人材は、そこそこ腕が立つ必要がある。しかし、内容が内容だから傭兵に頼むわけにはいかないし、強すぎてもいけない。ラブヘイアだとビッグに勝っちゃうし…それは困る。ギリギリ負けるくらいの中途半端な実力者が欲しいんだが…逆に難しいな)



 ラブヘイアならば、ソイドビッグにも軽々勝てるだろう。


 アンシュラオンとガンプドルフは桁違いなので例外だとしても、あの男が公式ハンターで一番強いというのは間違いない事実だ。


 経験値の差、技量の差で、間違いなくラブヘイアのほうが上だ。素質も彼のほうが数段上である。


 多少長引くだろうが、終わってみればラブヘイアの圧勝、という形になっているに違いない。あの男に人が斬れれば、であるが。


 しかし、そこまで強いと今度は違う問題が出てきてしまう。それ以前に、ラブヘイアには適さない仕事だ。



(オレが欲しいのは、もっと闇側の人間だ。そういうときは、やはりここが役立つ)




 着いた場所は―――スレイブ館「八百人」。



 表社会も裏社会も、人材が欲しいときに役立つスレイブ商会である。



「ホロロさんはここで待っててね。また呼ぶから」


「はい」



 サナを連れて馬車から出る。


 しかし、入ろうとした時に、ふと止まる。



(ふむ…普通に入るのはつまらんな。どうせあの男のことだ。だらけているに違いない)



 前々から思っていたが、モヒカンはアクシデントに弱い気がする。少し脅されただけで屈すのも気になるところだ。


 よって、普通に入るのはやめた。



(あいつの対応を見るために抜き打ちテストをやるか)



 学校でやらされる抜き打ちテストや、職場で行われる抜き打ち査察などなど、世の中には突然起こることがたくさんある。


 いつもやられる側で不満が溜まっていたのだ。そう、一度自分がやる側になりたいと思っていた。


 やるなら今しかない。主人として下々の生活を正すのは、もはや責務であるのだから。



「くらえ、モヒカン!!」



 おもむろにアンシュラオンが石を拾い―――投げつける。



 ヒューーンッ バリンッ


 石が窓ガラスに当たって割れた。



「わっ!? 何事っすか!?」



 モヒカンの驚いた声が聴こえる。どうやら中にいるようだ。


 しかし、それ以後何も起こらない。



(おっ、外に出てこないな。警戒しているってことか? たしかに敵意を持った相手が外にいるのは確実だ。悪い判断ではないが…そのまま留まるのは危険だぞ)



 じっと様子をうかがっているようだが、その場からは動いていない。


 アンシュラオンはモヒカンの位置を波動円で確認すると、今度は指からマシンガンのように小さな戦気弾を発射。


 覇王技、空点衝くうてんしょう


 指から戦気をレーザーのように放出する基礎中の基礎の技で、他の放出技を学ぶ前に必ず修得するものである。


 普通の武人ではさしたる威力にもならないが、アンシュラオンが使えばマシンガン以上の威力になる。当たれば人体くらい簡単に貫通するだろう。


 しかも両手の十本の指から同時に発射するのは、まさに達人の技である。



 バンバンバンバンバンッ ドガドガドガドガドガッ



 何十発の弾丸が扉やら窓やらを破壊していく。



「ぎゃーーー! 銃撃っす!!! 助けてくれっすーーー!」



 モヒカンはひたすら逃げ惑う。


 こちらも意図的に当たらないようにしているが、まったく対応できていない様子が、ありありと伝わってくる。ただ怯えるだけだ。



(さっさと逃げないからだ。これはマイナス査定だな)



「討ち入りじゃーーーーー!!」



 アンシュラオンが扉を蹴破って入り、再び戦弾を乱射。



 バンバンバンバンバンッ ドガドガドガドガドガッ

 バンバンバンバンバンッ ドガドガドガドガドガッ

 バンバンバンバンバンッ ドガドガドガドガドガッ



「ぎゃっーーー!! 殺されるっすーーー!」



 モヒカンは本当に討ち入りが始まったのかと思い、身体を丸めて必死に戦弾から身を守る。


 しかし、無防備な背中が丸見えである。甲羅を背負っているわけではないので、まったく防御になっていない。



(うーむ、身を丸めるより大の字になって寝たほうが安全かもしれんな。…まあ、怖いだろうけど)



 よく「身を丸めろ!」と言うが、銃弾の場合は寝転がったほうが当たりにくいかもしれない。


 跳弾して当たったら涙目であるが。



「金を出せ! 女を出せ!! 今すぐ出さないと殺すぞ!」


「ひー、命だけはお助けっすー!!」


「このモヒカン野郎が!」


「ぎゃっ!」



 モヒカンを蹴っぱぐリ、それから近くにあったホウキの棒で尻をつついて、それを銃身だと思わせる。



「変な真似をしたら、お前の尻の穴が増えるぞ! わかったな!」


「ひ、ひぃっ! 撃たないでくださいっす!!」


「お前のところにいる【白スレイブ】を全部よこせ!」


「はひっ!? な、何のことっすか!?」


「しらばっくれるな。ネタは上がっているんだぞ!」



 バンッ


 壁に戦弾で穴をあける。



「ひっ、ひぃっ! わ、わかったっす! 渡すっす!」


「それと、お前の背後にいる人物についても吐いてもらおうか。誰の支配下にいる?」


「っ!! そ、そんな男はいないっす!!」


「おや? オレは男なんて一言も言っていないぞ。どうやら男のようだな」


「ひぁっ!? し、しまったっす! こ、これ以上は絶対に言えないっす!」


「ここで殺されたいのか! 吐け!!」


「い、いやっす!! もっと酷い目に遭うっす!」


「ここで死んだら終わりだろう!」


「ち、違うっす! もっと酷くなるっす! ガクガクガクッ! 絶対に逆らったらいけないっす!! ブルブルブル!」


「吐け!」


「それだけは無理っす!! そんなことしたら都市全部が消えるっす!!」


「おい」


「ぎゃっ」



 丸まっているモヒカンを、足で押してひっくり返す。



「撃たないでほしいっす! その情報以外ならば、何でも渡すっす!!!」


「おい、こら」


「ぎゃっ、踏まれたっす!」


「そろそろ気がつけ。オレだ」


「ひー、ひー……って、え? だ、旦那!?」



 そして、ようやく相手がアンシュラオンであると気がつく。



「だ、旦那…これはいったい…え? 何がどうなっているっすか!?」


「退屈していると思ってな。ダイナミック討ち入り訪問をしてみた」


「なんすか、それ?」


「討ち入りを装ったドッキリみたいなものだ」


「じゃあ…今のは…」


「うむ、余興だ」


「ひ、酷いっす! 本気で焦ったっす!!! あー、扉も窓も壁も滅茶苦茶っすよーーー! なんでこんなことするっすか!!」


「理由はない」



 理由などない!!


 強いて言えば面白そうだったからである。



「それよりモヒカン、討ち入りに対して弱すぎるぞ。こんなんじゃ、あっという間に制圧されてしまうだろうが。どうして屈強な兵士を扉の前におかない!! この馬鹿者が! ばしっ」


「いたっ! そんな…! 表通りで討ち入りなんて普通はありえないっすよ!」


「敵がどこに潜んでいるかわからないだろうが。常に最大限の警戒をしておけ!」


「うう、それじゃ客が寄り付かなくなるっす…」


「お前みたいなモヒカンより接客用のスレイブでも使えばいいだろうが。わざわざ店に出る必要はないだろうに。女のほうが人当たりがいいんじゃないのか?」


「それだと相手に甘く見られるっす」


「それも一理あるか。…と、そうじゃない。オレのことを吐かなかったのは立派だが、白スレイブを渡すな。あれはオレの財産でもある」


「でも、渡さなかったら殺されていたっす…」


「ふん、まあいいだろう。白スレイブはまた集めればいいしな。今回は許してやろう。だが、自衛のことは考えておけよ」


「うう…わかったっす…」


「ここは物が散乱していて、ゆっくり話もできない。裏に行くぞ」


「壊したのは旦那っすけど……ああ、また直さないと…」



 その後、通報を受けた衛士が見に来たが、「モヒカンが世紀末ごっこをやっていた」で済ませた。


 モヒカンの受難は続く。


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