127話 「他人の金でする買い物は最高だな! 後編」


 そして、邪魔者がいなくなったので、アンシュラオンも心晴れやかに動き出す。



「サナ、こっちはこっちで買い物をしような。サナの新しい服も欲しいし、オレもスーツが欲しい。これからいろいろと必要になるからな」


「…こくり」



 ホロロとシャイナを見送ったアンシュラオンは、サナの服を物色しようと動き出す。



「この店なんかよさそうだな…」



 この店舗内にもいくつかの服飾屋があるので、彼女たちとは違う方面のお店に入る。



 その店は子供服が多く展示してあり―――大半が【ロリータ服】。



「うわー、これは可愛いぞ! ほら、合わせてみよう!」


「…こくり」


「おおおおお! やっぱり似合うなー!! か、可愛い~~!」



 前にもこんな光景を見たような気がする。


 サナが子供ということもあり、見るものは基本的にロリータ服なのは前と変わらない。


 安物のロリータ服からイタ嬢が着るような高級ロリータ服になるだけだ。


 イタ嬢がこっち系の服にはまっているおかげで、高級街でも同じような服が売られている。



「不思議だ。イタ嬢が着ると全部が駄目に見えるのに、サナが着ると全部が可愛く見える。…やはり中身だな。うん」



 サナに合わせると全部が可愛く見える。


 うん、親馬鹿ならぬ兄馬鹿だから仕方ない。もともとサナ自体が好みなので、何を着せても可愛いのだ。



「これとこれと…これ!」



 そして、カゴに大量の服を投げ入れる。もう値段も見ない。


 ついでに可愛い下着もいくつか投げ入れて、ここは終了である。





「次はオレだな。えっと、紳士服売り場は…」



 次に向かったのは、スーツなどを取り扱う紳士服売り場。それは三階にあった。



「いらっしゃいませ」



 アンシュラオンたちを従業員のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。


 仮面をしているのに驚いた様子はない。金持ちには変わり者が多いのだろう。普段から接していれば慣れるものだ。



「スーツを見繕ってもらおうかな。一番高い生地のやつね。色は白で」


「かしこまりました。では、こちらにどうぞ」



 お姉さんに誘導され、いろいろなスーツがある場所に行く。


 そこには白いスーツもしっかりとあった。



「白もけっこうあるんだね」


「はい。結婚式でも使われますし、ホストの方々もいらっしゃいますから」


「ああ、歓楽街があるもんね。マフィアたちは?」


「白を好む人もいらっしゃいますが…最近ではあまり売れ筋ではありませんね」


「まったく、あいつらも腑抜けたもんだね。ヤクザは白スーツって決まっているのに」



 そんなことはまったくないが、アンシュラオンの知識では「ヤクザ = 白スーツ」である。


 加えて自分はホワイトなので、ここはやはり白を選ぶべきだろう。



「予備も含めて四着くらいもらおうかな」


「はい。サイズを測らせていただきますね」


「そうだね。モミモミ」


「あっ、お客様…!」


「うーん、83? モミモミ、モミモミ」


「あっ、その…あはぁっ…」


「ああ、気にしないで続けて。さわさわ、モミモミ」


「いえその…私のサイズでは…あはっ!!」



 もはや条件反射のように身体を触る。


 相手も金持ちであることがわかるので何も言えない。完全なパワハラ&セクハラである。


 それでもお姉さんはがんばって計測を続行。さすがプロである。この程度ではめげない。



「あっ…そこはっ…」


「モミモミ」


「くっ…ふっ……肩幅は……あっ」


「モミモミ」


「股下……あああ!」



 身体を触っていたこともあって、計測にけっこう時間がかかったが、無事服の注文が終わった。


 白スーツに合うように、赤白シャツ、紅白ネクタイも買っておいた。



(なんだか、おめでたい感じの色になっちゃったな。それはそれで目立つからいいか)



 白スーツに赤ネクタイなど、演歌歌手くらいでしかお目にかからないが、目立つという意味では最高の色合いだろう。


 実際におめでたいのは事実なので、自信を持って着ることにする。



「はぁはぁ…では…あっ……二時間後に…カウンターのほうにお届け……いたします」


「わかったよ。ありがとう」



 散々セクハラをしてアンシュラオンの買い物も終了。







 その三時間後、デパート内の喫茶店でサナを休ませていると、買い物を終えたニャンプルたちが戻ってきた。



「はー、楽しかったー」


「いっぱい買ったねー」


「まだ欲しかったー」



 袋とバッグを一杯にさせ、さらに包装された箱をいくつも持っている。


 アニメなどで見る光景だが、実際にやってくれると迫力のある光景だ。よくあんなに持てるものだと感心すらする。



「やあ、楽しんでくれたようだね」


「はーい♪ 最高でしたー」


「請求書はもらったかな?」


「はーい、こちらでーす」


「うむうむ、実にいいよ。これくらい使ってもらわないと困る」



 アンシュラオンは、女の子たちが持ってきた【請求書】に大満足である。


 歯止めを失った女性の力、ここにあり。


 合計金額は三百万ほど。容赦なく使ってくれたので、こっちも大助かりだ。



「あの、本当に大丈夫ですか?」


「オレを誰だと思っているのかな? 安いもんだよ」


「うわー、さすがホワイトさん! 憧れちゃうなー!」


「ほんと、ほんと。素敵です~」


「そうだろう、そうだろう。偉大なホワイト様を褒め称えなさい。さて、君たちはこれから出勤だろう。酒場までの馬車を表に停めてあるから、それで行くといい」


「何から何までありがとうございまーす!」


「いやいや、使いきれないくらい金があるからね。気にしないでいいよ。また店に行ったときはよろしく」


「はーい! たくさんサービスしちゃいますよ!!」


「ありがとう。じいさんにもよろしくね」



 ホステスの女の子たちが帰っていく。


 他人の金で思う存分買い物ができたので、非常にすっきりした顔だ。あの中の半分くらいは換金されそうだが、それはそれで彼女たちの自由である。



(下手に遠慮がないから気持ちいいよ。これが貢ぐって気分かな。普段から眉毛じいさんには迷惑をかけているから、従業員のストレスくらいはこっちで面倒をみないとな。おっと、じいさんに酒でも買っていくか)



 下心があって貢ぐと見返りを求めてしまうが、アンシュラオンにはまったくないので楽しいだけだ。


 自分の目的も果たせて女の子も喜ぶ。実に素晴らしい。


 ついでに思い出したので、眉毛じいさんへのお土産として高級酒を何本か見繕っておいた。


 これでアンシュラオン自身の用事は終わりである。





 それからしばらくして、ようやくホロロとシャイナが戻ってくる。


 ホロロはホテルの制服のままだが、その手にはいくつか紙袋を持っている。ちゃんと買い物をしたようだ。



 で、肝心のシャイナであるが―――



「なんで胸元と股間を隠している」


「だ、だって! 短い! 見える!」


「お前のさっきのシャツだって相当なもんだったぞ」


「あれはああいうものなんです!」


「それだってそういうものだろうが」



 シャイナは、胸元が開いた丈の短めのカジュアルなワンピースを着ていたが、ここに売っているものが安いわけがない。


 素材自体が高いうえに、随所にジュエルが散りばめられている高級品だ。


 腕や足にもアクセサリーが付けられ、動きやすい服装ながらもオシャレ要素もある。日本の大学生ならば十分合格点をあげられる格好だ。


 ただ、彼女にとっては着慣れないものなので、さっきから胸元や下腹部を押さえている。



「へ、変ですよ、こんなの! ひ、ひらひらして…すーすーします!」


「そうやって隠していると逆に気になるぞ」


「うう、でも…!」


「似合っているじゃないか。もともと女としての素材はいいんだ。それなりの服を着れば、なかなか悪くないぞ」


「えっ? そ、そうです…か?」



 褒められたせいか、少し頬を赤くする。やはりシャイナも女の子である。興味はあったのだろう。



「犬としては上等になった。散歩をしていても、なんとかサナとは釣り合うな」


「犬!?」


「あっ、心の声が出た」



 うっかり本音が出てしまったが、似合っていることはたしかだ。問題ないだろう。



「請求書はもらってきた?」


「こちらに控えてあります」



 ホロロが手渡す。



「どれどれ…ふむ。服の予備も買ったし、下着も買った。ちゃんと生活用品も買ったか。よかった、よかった。これからはちゃんと臭いにも気をつけろよ」


「うう、わかりました…」


「お前も何か食べていけ。タダ飯だぞ」


「は、はい! やったー!」



 それから軽い食事を取らせるが―――



「はしたない。フォークの持ち方が違います! びしっ」


「いたーい! この人、怖いんですけど!?」


「犬食いするお前が悪い。せっかくだ。マナーを教えてもらえ」


「気になって味がわからない…」



 と、相変わらずの調子でホロロとじゃれあっていた。


 見ているほうはだんだん面白くなっていくので、それなりに楽しいものである。





 そして、請求書を持って入り口のカウンターまで行く。



 最終的に―――【八百万】という額に達した。



 ちなみにアンシュラオンとサナの服が四百万だったので、ホロロとシャイナが使った額は、たかだか百万にすぎなかった。


 しかしながらシャイナが必死に貯めた金額と同程度だったので、彼女にしてみれば驚愕の買い物体験であったのは間違いないだろう。


 その証拠に、大丈夫だと言っているのに常時怯えている。



「せ、先生、これって本当に自腹じゃないですよね? ねっ、ねっ? 本当ですよね!?」


「当たり前だ。お前に払える額じゃないだろうに」


「そ、そうですよね。うん、そうだわ。そうよね。うんうん。貧乏な私に払える額じゃないですもんね! 私、犬ですし、お金なんてないですから!」


「受け入れるのはいいが、自分で言っていて哀しくならないか? あっ、これよろしく」



 アンシュラオンが精算カウンターに請求書を出す。


 こうしたデパートでは、買い物の精算を入り口で一括で行うのだ。


 海外から来る客は、基本的に金を使うためにやってきている。その狂った金銭感覚を利用して、大量に買わせようとする魂胆である。


 クレジットカードのように、あとで払うと思うと金銭感覚が鈍りやすくなるのと同じだ。


 実際、旅行に行く人はケチケチしないものだ。これだけ使おうと思って貯めていることが多いので、五十万なら五十万と使い切ってしまうことが多い。


 しかし、アンシュラオンは、ただここに狂った買い物をしに来たわけではない。



 カウンターのお姉さんに、大切なことを伝える。



「これ、『ソイド商会』に送っておいて。利用者名は『ホワイト』で」


「はい、かしこまりました。市民証の確認をしてもよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」



 ホテルが発行している「ホワイト医師」としての市民証を出す。


 それを照合。磁気情報のように、ジュエルとジュエルを重ねるだけで一瞬で照合できるので非常に便利である。



「照合完了しました。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


「うん、ありがとさん。それじゃ、行くぞ」



 都市では、こうして市民証を利用した買い物も可能となっている。


 ただし、請求書が決済されるまでは東門から出ることはできなくなり、都市外には出られない。


 が、特に出る用事もないので問題はない。



「お客様のお帰り~~~」



 扉の前には従業員一同がお辞儀をしながら見送ってくれる。


 高い買い物をした客なので誰もが満面の笑顔である。


 仮面のホワイト医師の情報を知っている者もいるので、あれが噂のホワイトか、という視線すらも感じる。





「あー、金を使うってのは面白いもんだな」



 外に出て、ひと伸び。


 昼前から動き出したので、日が少しずつ落ち始めていた。


 その落ちゆく太陽をバックに、シャイナが慌てて近寄ってきた。顔は真っ青だ。



「せ、先生! さっきのって…!! そそそ、そいっ! そいっ、そいっ!!」


「新しいツッコミを開発するんじゃない」


「そいそいっ…ソイド商会って……!!」


「そうだ。そのために来たんだ。目的は達成されたな」


「だだだ、大丈夫なんですかぁあああ!?」



 なにやらシャイナのツッコミが新しくなってきている。


 単調なツッコミでは自分の立ち位置が危ういと思ったのかもしれない。彼女も日々精進している証拠だ。喜ばしいことである。



「大丈夫だよ。オレとやつらは協力関係にある。払ってくれるさ。いや、払うしかない」



 ビッグを服従させているのだ。経費として出してくれるだろう。


 せっかくホワイトと契約したばかりなのだ。その旨みを考えれば多少の無茶だって利く。



「他人の金で買い物ってのは最高だ。お前もそう思うだろう?」


「うっ、急に吐き気が! さっき食べたものが出そうです!」


「絶対に出すなよ。無料は無料だ。もらえるものは全部もらう。それがオレの流儀だ。お前も倣えよ」


「ううう…胃が小さくなりそう…おえっ」



 シャイナはまだ売人である。


 その組織の金で買い物をしたと思うと、なおさら不安に思うのは仕方がない。



「では、これで今日のお前の仕事は終わりだ。またな」


「これで!? お金を使っただけですよ!!」


「一応言っておくが、売人は続けろよ」


「そこは『もう続けなくていい』って言うところじゃないんですか!?」


「いきなりやめたら怪しいだろう。表向きオレは、お前が売人であることは知らないんだ。今日はたまたま他の女の子と一緒におごってやったにすぎない。それだけだ」



 下手に動いて予定が狂っては困る。


 動きがあるまでは、リンダも含めていつも通りに動いてもらう必要がある。



「私、耐えられるかな…。顔でバレちゃうんじゃないですか?」


「お前はいつも挙動不審だから問題ない。それでも疑われたら生理だとでも言っておけばいい。あっ、お前は歩いて帰れよ」


「さっきの子たちと扱いが違う!? 先生~、私にも優しくしてくださいよぉ~!」


「甘えるな。これ以上お前に付き合うと、価値を認めることになるしな。それと今後もし誰かに絡まれたら、『ソイド商会を敵に回す気か?』と逆に脅せ。それでチンピラも逃げる。もう一蓮托生なんだ。騒動が終わるまでやり通せ」

「げふぅっ! うう…また胃が痛くなってきました…」


「メンタルが弱い犬だな」


「先生が強すぎるんですよ…」




 上級街での買い物は、これで終了。



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