110話 「ソイドビッグの接待奮闘記 前編」


 そして翌日、診察が終わって人がいなくなった頃、迎えの馬車がやってきた。


 かなりの高級馬車のようで、逞しい四頭の馬が個室付きの荷台を引っ張っていた。



 ソイドファミリーが所有する【接待用馬車】だ。



 個室の扉には彼らの家紋であるジャガーが描かれているので、一目でそれがどこの組織のものかがわかる。


 場合によっては素性がバレては困ることもあるので、普段は何も描かれていない馬車を使うことが多い。襲撃されては困るからだ。


 が、あえてこれを使うということは、その組が威信をかけて客を接待し、最後まで守り抜くという覚悟を示す意味もある。


 その証拠に、馬車の周囲には明らかに堅気ではない者たちが四名ほどおり、その誰もがレッドハンター級の猛者である。



 それを確認したアンシュラオンが笑う。



(くくく、楽しみだ。どうやら本気で接待してくれるようだな。しかし、シャイナがいるとまた面倒だ。こいつは倫理がどうとかうるさいし、一緒にいたらお姉さんと楽しめない。置いていこう)



 こちらに向けられるシャイナの視線を感じ、即座に決断。


 きゃんきゃん吠えるだけの犬など、接待の場に連れていけるわけがない。



「シャイナ、お前は家に帰っていろ。オレはこの子と一緒に行ってくる」


「先生はいいですけど、サナちゃんまで悪の道に引っ張り込まないでください!」


「サナにはいろいろな経験が必要だ。それに、常時近くに置いておかないと危ないからな。離れるつもりはない」


「まだ子供ですよ! 歪む! サナちゃんが歪んじゃう!」


「この子は、お前とは出来が違うのだよ。ワンコロめ! サナに軟弱な思想を与えるな!! しっ、しっ! オレはこの子を最高の女に育てる! 最高の力と財と権力を与えるのだ!! すべてはそのための【餌】だ!!」


「ほんと…先生って最低の人ですよね」


「ありがとう」


「褒めてないですから!!」


「だが、いろいろな経験が必要なのは事実だ。悪を知らなければ正義を知ることもできないからな」


「その本心は?」


「くれると言うのだ。もらえるものは全部もらう。当然だろう」



 清々しいまでの言い分。


 一円でも得になるのならば、アンシュラオンは躊躇うことはないだろう。



「それじゃ、またな。戸締りはちゃんとしておけよ」


「本当に置いていく気ですね…」


「オレがお姉さんと楽しんでいる姿を見て、お前は楽しいか?」


「楽しくないですよ」


「じゃあ、帰れ。あっ、そうそう。孤独でかわいそうなお前にチップをやろう。ほら、ズボンを脱いで股を広げろ」


「どういうチップの渡し方ですか!?」


「股間に入れるのが礼節だ。父親に習わなかったのか?」


「習いませんでした!!」


「常識を知らないと困るぞ」


「そんな常識必要ありません! って、常識じゃないです!」



 アンシュラオンにとっては、パンティーに万札を捻じ込むのが礼儀。常識である。



「もうお前にはやらん! やるもんか! 欲しかったら穴を出せ!! 捻じ込んでやる!」


「嫌ですよ! 早く行ってください!」


「冗談の通じないやつだな。…まあ、本気だったけど。それじゃサナ、こんなつまらないやつは置いて、さっさと行こうな」


「…こくり」



 仮面のサナの手を取って高級馬車に乗り込むと、まったく後ろを振り返らずに行ってしまった。


 その光景に再び呆れるシャイナ。



「どこまで堕落するんだろう…あの人。もうっ!」



 石を蹴り飛ばして、寂しく帰宅するのであった。


 ただ、シャイナは帰ったほうがいいだろう。もともと呼ばれていないし、これから先は相当に真っ黒な世界だ。


 アンシュラオンのような悪党でなければ、行かないほうが身のためである。







 アンシュラオンを乗せた馬車は、上級街の大きな店に止まる。


 高級酒場であるパックンドックンのさらに先かつ、ランクもさらに上がった最高級クラブが居並ぶエリアだ。


 普段はクラブとして経営しているが、裏の組織が特別な客を接待するための場所としても有名である。


 その場合、普通の客は入れず完全に貸切の密室状態となる。非合法な取引なども行われるので、それを知っている人間は誰も寄り付かない。



 目印が、店の前に陣取っている【完全武装】の男たち。



 まるでハンターが魔獣相手に装備するような頑強な鎧を全身に着込み、衛士が使う銃を持って武装しているので、一目でヤバイ連中だとわかる。


 顔は見えないので誰かわからないが、アンシュラオンが情報公開で調べた結果、ソイドファミリーの下級構成員であることがわかった。


 彼らには三段階の序列が存在し、組長のダディーを含めた幹部四人をトップに、レッドハンター級の戦闘構成員が続き、次にまだ若くて実績も少ない者、という構成になっている。


 目の前にいるのは、その一番下の下級構成員である。名前もリンダの情報と一致している。こうした現場に出すことで経験を積ませているのだろう。



(周囲には衛士もいるか。やはりグルだな。まったくもって病んだ都市だよ)



 店の周囲には衛士たちもいるようで、半径五十メートル以内に一般人が入らないように交通整理をしている姿が見える。



 これは領主も公認なのである。



 当然、いちいち組織のやり方に口出しなどはしないだろうが、衛士と裏の組織は持ちつ持たれつの関係にあることがうかがえる。


 仮に招待客が逃げ出しても、周辺で確保されるようになっているのだ。


 そう、たしかに接待は接待であるが、「断ることができない強制接待」なのである。


 一度裏側の連中に目を付けられると抜け出せないという、よい見本であろうか。



 しかし、準備万端であるのは彼らだけではない。



(プレゼントの用意もできている。こちらも準備は万端だ)



 実はアンシュラオンが、今日という日を指定したのには理由がある。


 そうでなければ、わざわざ連日で仕事をしたりはしないだろう。



 それは【プレゼント】を用意するため。



 せっかく長い付き合いになるのだから、こちらからも相手に贈り物をするのは礼儀だろう。それでこそ良い関係が築けるのだ。



(麻薬を楽しむようなクズなら、きっと喜んでくれるだろう。うんうん、相手の喜ぶ顔が待っていると思うとサプライズも楽しいもんだな)



 当然、その内容はまだ秘密だが、ぜひ期待してもらいたい。





 アンシュラオンが馬車から降りると、昨日菓子折りを持ってきた男、ジェイがやってくる。



「先生、今日は我々の主宰するパーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます。本日はぜひとも…」


「前置きはいい。さっさと案内しろ。女はどこだ! 酒はどこだ! 早く接待しろ!!」


「は、はい。君たち、先生のお相手をして!」


「はい、喜んで」



 店の前で出迎えたのは、アンシュラオンの要求通りの三十歳前後の女性。どの女性も色気のある美人である。



「先生、どうぞこちらへ」



 優雅な手つきで腕を取る。その仕草も自然で無駄がない。



「うむ。もっと胸を押し付けなさい」


「うふふ、先生ったら。これでどうですか?」


「もっと! 潰れるほどに!!」


「こうですか? ぎゅっ」


「うむ、満足だ!! さあ、行こう!」



(やっぱりギャルより、こっちのほうがいいな。若い子は可愛いけど、まだまだ熟れていないしな。妹とかならいいけどさ)



 若い子は肌にハリがあっていいが、その代わり柔らかさが足りないことがある。これはやはり年齢を重ねてこそ生まれるものなのだ。


 ただ、嫌いというわけではないので、サナのように妹枠として楽しむのが一番よいだろう。



(ホステスたちは、密偵や忍者とかじゃないみたいだな)



 こういう場合、万一にそなえて女の中に忍者か暗殺者を紛れ込ませるものである。リンダを使ったのだ。女がいないとは思えない。


 ファミリーの中だけでは難しくとも、組織で雇っている者たちもいるだろう。そうした人間から選べば、三十前後の美女という制約はあっても、なんとか見つけられるはずである。


 が、そうした様子はない。足運びは優雅だが、武人や忍びのものではない。



(とりあえず店の中で襲うということはないようだ。一度ボコッたから懲りたかな?)



 どうやらソイドファミリーは、ホワイト医師を本当に客として迎え入れるようだ。


 相手としては、チンピラの一件は自分たちとは関係ないことになっているので、その対応に不自然な点はまったくない。


 あくまでホワイトが自ら接触し、相手が応えた形である。そこで襲っては面子が潰れることになるだろう。


 それならばそれで楽しめばよいことである。




 ホステスたちに引かれて、店に入る。


 店は高級クラブらしく、実に豪華な造りをしている。壁も床もソファーも全体的に黒で統一されており、非常に優雅で落ち着きがある。


 パックンドックンも悪くないが、あちらはやはり酒場の印象が強く、酒を楽しむ場所という感じだ。


 一方のこちらは、雰囲気を味わいながら女性を楽しむことをメインにしている。なかなか男心をくすぐるものだ。



 案内されたのは、完全個室の大きな部屋。



 一般の客が入ることができる場所とは完全に区切られているVIPルームである。


 ひときわ立派なソファーに案内されて座ると、ホステスたちが優雅な動きで、アンシュラオンとサナを取り囲む。



「お飲み物はどういたします?」


「うむ、オレには一番強い酒を。この子にはジュースを頼む」



 飲み物が用意され、ここでようやくくつろぐことができる。


 まずは用意された酒を一気飲みである。



「がぶがぶがぶっ! うん、美味い! おかわりだ」


「あら、先生ってお強いのね。それにそのお歳でお医者さんなんて、とてもすごいですわ」


「うむ、そうだろう、そうだろう。君も診察してあげよう。モミモミ」


「あっ、そこは…」



 当然のように乳を揉む。



「んん? 私は医者だよ。安心したまえ。下心などないのだ。これは診察だよ。さあみんな、胸を出しなさい! ポロンと! 遠慮なく!」


「んふふ。じゃあ、先生に診てもらおうかしら」


「先生、これでよろしいですか?」


「うむ、いいよ! 実にいい!!」



 高級ホステスたちは、少し恥じらいながらも胸を出す。


 その素直な態度に大満足である。



「では、じっとして、けっして動かないように。どれどれ…うむ! これはいい乳だ! まだハリを残しながら熟しつつある。こっちは…うむ! 君もいい乳だ! この柔らかさは相当な鍛練を積まねば得ることはできないな。では君は…ほぅ、これはいい。とてももっちりしていて、吸い付きながらも手に後味が残らない。これは名乳だよ、ちみぃ」



 おっぱい博士の診断によって、どれも一級品の乳であることが判明。



(くっ、さすがにレベルが高いな。これではマキさんはともかく、小百合さんは危ないかもしれん。ホロロさんとシャイナというライバルが出てきた以上、乳の強化が必要だ。今度、たくさん揉んで鍛えておこう)



 あくまで乳の話である。


 それ以外の要素では小百合は十二分に合格点なので、そこだけで判断したくないと思いつつ、やはり強化指定箇所に認定する。


 最近はあまり会えない状況が続いているが、今度たっぷりと揉むことに決めたのである。



「では、次は股間のチェックかな。ああ、安心しなさい。これは全部医療だよ、ちみぃ。女性にとって大切な部分だからね。綿密に調べないといけないんだ。だから動いてはいけないよ。ぐいっ」


「あんっ」


「こらこら、声が出てはいけないなぁ。我慢するように」


「はい、申し訳ありません。うふふ」



 当然、相手も理解しているので、その声には柔らかい笑みが含まれている。


 騒ぎすぎず、しかし男心をくすぐる反応はする。これぞ高級ホステスのテクニックである。



(いいね、いいね!! これだよ、これ。こういう感じで楽しみたいんだ! いやー、最高! 接待って最高!!)



 それが楽しくて、アンシュラオンは夢中になる。演技ではない。本気で楽しむ。


 イタ嬢がカードゲームでクイナの接待を受けていた際、「イタ嬢は接待で楽しむような程度の低いやつだ」と罵っていた気がするが、そんなことはすっかり忘れているに違いない。


 最高の接待を受けて楽しんでいる姿は、完全に同類。いや、内容を考えれば、それ以下である。



「ここは? ここはどうかな?」


「んふっ…んっ…はっ……」


「こっちはどうかな?」


「あはっ…んん…あっ、先生、だめぇ…」


「おっと、指が入りそうだ。いかんなぁ、少し濡れているなぁ。これは中も調べないといけないかな? ぐへへへ。今度は入り口のチェックを行う!!」


「あっ、入り口は…あっ!!」


「なんたる感度だ!! これはいかんよ、ちみぃ!! くっ、久々にオレのマイボーイも疼いてきたじゃないか! さすがだ! さすがの色気だ!! 素晴らしい!!」



 美と色に特化した女性たちなので、シャイナではまったく反応しなかったボーイが若干疼く。



(これは何人かお持ち帰りしたいな。いいよね? いいよな? うん、いいはずだ。だって、接待だもんな!!! オレが主役で王様なんだ! 王様の命令は絶対だもんな!!)



「ビバッ! 素晴らしい!!!」



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