90話 「ホワイト先生は、暴力がお好き」


 ハッスルタイムを楽しんでいるアンシュラオンが、ふと隣を見て一言。



「シャイナ、どうした? お前もやりたいか?」


「どうしてその結論に至ったんですか!?」


「だって、すごく見てたから。やりたいのかなぁ~って。遠慮するな。この店はもうオレのもんだ」



 その言葉に一瞬、眉毛ジジイが「え? そうだっけ?」みたいな顔をしたが、気にしないことにする。



「いやあの…私は女の子なんですが…。それにこういうお店には初めて来るので…どうしたらいいか…」



 アンシュラオンの奇行に呆然としていたシャイナが、肩身を狭そうにして端っこで縮こまっていただけである。


 さきほどの視線は軽蔑のものであるが、その程度で動じるような男ではない。



(そっか。女が女の店に来ても楽しくないよな。そこは失念していたな)



 当然ながら、女性はあまりこういう店には来ないだろう。行くならホストクラブだ。


 シャイナはけっこう純朴なイメージがあるので、事実初めてなのだろう。その言葉に偽りはなさそうだ。



「姉ちゃんたち、連れの子らには適当に話し相手になってやってくれ。この子はシャイナで、黒髪の子はオレの妹の黒姫だ。妹はあまりしゃべらないから、カードゲームとかがいいかな。妹にはジュースと普通の食べ物もよろしくね」


「はーい♪ わかりましたー。シャイナちゃん、ほらほら一杯やろうよ」


「あっ、いや、お酒は…その…」


「お堅いこと言わないでさ。飲んでみれば楽しいから」


「ああ、そんなに入れたら…」


「一気! 一気!!」


「えええ!? 一気飲み!? そんなの危なっ―――んぐっ! んーー!」


「あははは! キャピットがシャイナちゃんの唇を奪ったー! もっとやれー!」



 シャイナが女の子に囲まれて、酒を強引に勧められている。


 しかもアンシュラオンの派手な行動に触発されたのか、少しおかしなテンションになっているようだ。


 女の子同士でキスをして楽しんでいる姿は微笑ましい。



「はーい、黒姫ちゃんはお姉ちゃんたちと遊ぼうねー」


「わー、仮面を被っているんだね。楽しそうだねー」


「…こくり」



 サナも他の二人の女の子とゲームを始めた。トークが売りの女性たちなので、子供相手でもしっかりと接客してくれるので安心だ。



「ならオレは、ニャンプル攻略といくか! ふんふんふんっ!!」


「あっ、あっ、あっ! そこはらめぇえーーー!」



(いやー、楽しいなー。来てよかったよ)



 ホワイト先生のハッスルダンスは続くのであった。







「もう…だめぇ……イキすぎて……死んじゃう……」


「うん、やっぱり敏感だな。しょうがない。胸を揉んでおこう」



 とどめとばかりに巨乳を揉む。相変わらずの鬼畜である。



(うーん、大きいのはいいけど、大きすぎるのも考えものだな。全体が太くなってしまう)



 ニャンプルは巨乳だが、全体的にふっくらしている。


 その点、マキは胸は大きいものの身体は引き締まっており、あれこそ本当の巨乳なのかもしれない。


 母性を求める男性も多く、こういった女性も特定の層に大人気なので悪いわけではない。


 ただ、アンシュラオンがスレイブにするのならば、もう少しバランスが取れているほうがいいとも考えていた。


 こんな時でもスレイブ構想を欠かさない真面目なアンシュラオンであった。


 結局のところ、理想の女性である『姉』という存在に照らし合わせて採点しているので、どんな女性でも彼女以外は満点にならないのが虚しいところだが。



「はぁはぁ…先生……もう限界……」



 隣では、すでに何杯も酒を飲まされてへたっているシャイナがいた。


 顔も真っ赤で目も虚ろ。完全に酔っている。



「なんだシャイナ、夜はこれからだぞ。がぶがぶがぶっ。うむ、酒の味だ」



 アンシュラオンはストレートで酒を飲んでいるが、まったく酔わない。


 いや、酔えないのだ。



(盲点だったな。武人の身体が強すぎてまったく酔わないぞ…。永遠にシラフなのか…)



 脳が麻痺する現象を酔いと呼ぶが、アルコール自体は【毒】である。


 分解されない有害物質が体内に蓄積することで、目眩や吐き気などが起こるのであるが、『毒無効』を持っているアンシュラオンにはまったく効かない。


 脳への麻痺もまったく起こらず、単純に味だけを楽しむものとなってしまっている。


 が、そうした代謝機能を持たない一般人のシャイナは、あっという間に毒に汚染されてダウンしているわけだ。



「こんなの…何が楽しいんですかぁ…ひっく」


「うーん、何が楽しいのか…か。改めて問われると困るな。強いて言えば、こんなふうに好き勝手することだな。モミモミ」


「あうっ!」



 酔ってぐだぐだになったシャイナの胸を揉む。


 なぜ揉むのかと言われれば、そこに胸があるから。そこに山があるから登るのだ。



「オレは好き勝手に生きることが大好きだ。誰の命令も受けない。オレが全部決めるから意味がある。それが楽しいんだ」


「先生は…ずっと好き勝手してるじゃないですかぁ…治療中も…ずっと…」


「オレは医者だからな」


「医者ってもっとこう…真面目で…愛想が良くて……人を助けるためにがんばる人のことでしょぉ~?」


「医者は病気を治療する存在であり、人を助けるための存在ではない。それは結果にすぎない」


「でも、人を助けることは……楽しくないですかぁ?」


「そうだな。人間の本質は愛だ。神という存在が生命を個性として分割したのは、互いに助け合うためだ。それに異論はないさ。よく出来たシステムだ。だが、そうであったとしてもオレは好きに生きる。人助けになったとしたら、それこそ単なるオマケの結果だ」


「…そう…ですか」


「どうしてそんなに気になる? オレにそんなに興味があるのか?」


「それは……」


「お前は時々、オレを見ているな。仮面が珍しいか?」


「………」



 シャイナは、酔ってとろんとした目を仮面に向ける。


 誰だって仮面を被っていれば怪しく見えるものだろう。加えてアンシュラオンは目立つ男だ。興味を抱かないほうがおかしい。



「先生は…どうして……」





「なんだ、この店は! 女のサービスが悪いぞ! 兄貴が退屈されているだろうが! どうしてくれるんじゃ!」





 シャイナが何かを言おうとした瞬間、店の入り口のほうから男の怒鳴り声が聴こえてきた。



「何の騒ぎじゃ?」


「あっ、オーナー。あっちのお客さんを普通に接客していたんですけど、こっちもハッスルしろって言われたので、断ったら怒り出して…」



 どうやらアンシュラオンが過剰なサービスを受けていたのを見て、自分たちもと思ったのだろう。


 だが、あくまで特別な人間に対する特別なサービスなのであって、ここはそういう店ではない。


 つまりは、アンシュラオンが元凶である。



「しょうがない。わしが行って…」


「待てよ、じいさん。オレが行こう。どうやらオレが元凶のようだし、そっちが筋だろう」


「大丈夫かの? 相手はかなり酔っておるぞ」


「荒事には慣れているさ。任せてくれ。この店の永久会員として、びしっと決めてくるつもりだ」


「先生…だ、大丈夫ですか?」


「シャイナはここで待っていろ。すぐ終わる」


「…はい」



 何も知らないとは恐ろしいことである。


 シャイナが心配している相手は、この世で二番目に敵に回してはいけない人間なのだ。(一番はパミエルキ)





 アンシュラオンは、怒鳴っている客のところに行く。


 そこでは女の子に絡んでいる男たちが二人いた。ガラの悪そうな男たちで、上級市民というイメージにそぐわない格好をしている。どう見てもチンピラだ。



(なるほど、そういうことか)



 アンシュラオンは男たちを何度か見て、改めて納得する。


 やはりこれは自分の【客】であるようだ。ならば遠慮はいらないだろう。



「おい、お前ら」


「あ? なんだぁ? 何見てんだ、コラァ! いてこますぞ、ガキが!」


「さっきから気になっていたが…お前ら、臭いんだよ。さっさと外に出て、その汚い尻を砂利で磨くんだな。血が出るほどにな」


「なんじゃと、このガキゃぁあ!!」


「兄貴、こいつ、あっちのテーブルで好き勝手していたやつですぜ」


「ん? ああ、そうじゃ。こいつじゃ!! おい、店員! こいつだけよくて、どうしてこっちは駄目なんじゃ! おかしいじゃろうが!!」


「おい、女の子に迷惑をかけるな」



 ブンッ ガスッ



「いってぇええーーーー!」



 近くにあったコースターを投げつける。軽いものだが、アンシュラオンが投げると石と変わらない。


 兄貴分だと思われるパンチパーマのグラサン男の額に命中し、思いきり赤くなっている。血も出ているようだ。ざまあみろ。



「兄貴に何さらすんじゃ! 死にたいんか、ワレ!」


「お前たちの選択肢は二つだ。有り金全部置いて逃げて血が出るまで尻を砂利で拭くか、有り金全部置いてボコられるか、どちらか選べ」



 どっちも身と有り金を失うシステム。



「なんじゃと、この仮面野郎が! 何様じゃ!」


「オレ様だ!! ここはオレ様の店だ!!」



 その言葉に、眉毛ジジイが「え? そうだっけ?」とまた首を傾げたが、気にしないことにする。



「ふざけやがって! 返り討ちじゃ!」


「くくく、そうか。それは楽しみだ。ぜひ楽しませてくれ」



 ニヤリとアンシュラオンが笑う。


 最近、あまり血を見ていなかったので退屈していたのだ。殺害衝動がアンシュラオンの中を駆け巡る。


 ただ、ハッスルダンスで多少満足していたこともあってか、少しは冷静に物事を考えた。



(この店でバラしたら掃除が大変だ。せっかく永久会員になったんだから、少し抑え目にしておくか。それに、こいつらが何を考えているかまだわからん。殺しはやめて半殺しにするか。…それならこれかな)



 アンシュラオンがテーブルにあったカクテルを握ると、中の液体を男たちに投げつける。


 それはいわゆる、よく荒れた場面で見られる水をぶっかける的なシーンである。



「へっ、そんなものが何に―――」



 男たちも、たかだか飲み物が怖いわけがない。せいぜい濡れる程度だと思って油断していた。


 しかし、前に芸人が水滴を強くぶっかけあって肌を真っ赤にさせていた番組があったが、高速で放たれる水は非常に痛いものなのである。



 それをアンシュラオンがやれば―――弾丸と化す。



 ショットガンのように扇形に飛び散った水滴は、凄まじい勢いで男たちに襲いかかり―――激突。



「ぎゃーーーーー!!」


「いってぇええええええ!!」



 当たった箇所の皮膚はもちろん、肉まで抉れていく。


 手加減したので大きな出血箇所はないが、これは痛い。見ている絡まれていた女の子が、その結果に唖然として声も出ないほどだ。



 だが、それを楽しそうに見つめるのは、当然ながらドSのアンシュラオンである。



 こんなに楽しいことはない、という満面の笑顔で男たちを見ていた。仮面なので彼らにはわからないが、それは逆に幸いだったかもしれない。


 人を傷つけて楽しむやつが敵だと知れば、さらに自分たちの未来に絶望してしまうだろうから。



「まだまだいくぞ! ほーれ!」


「ぎゃーーーーーー!! マジ死ぬ!!」


「ほらほら、どうした。目を守らないと潰れるぞ!」


「くっ、目はやらせん!」


「からの―――股間!!!」




 ドバババババッ




 グッチャーーーー ボンッ(玉の破裂音)




「うっぎゃーーーーーーーー!!! 玉がーーーーー!!」


「ゲラゲラゲラゲラ!! 玉が潰れてやがるぜ、こいつ!! あはははははは!!! ほらほら、こいよ。オレを殴るんじゃないのか? なんだその歩き方は! オカマか、お前は! ゲラゲラゲラ! こいつは笑えるぜ!!」



 男は玉を潰されたショックで、泣きたいのか怒りたいのか、よくわからない表情を浮かべていた。


 その顔と、ふらふら歩く姿がツボだったのか、アンシュラオンは大笑いである。



「あ、兄貴ぃいい!」


「ほら、お前は目だ!!」



 弟分のグラサンをぶち破って、水が目に突き刺さる。ついでに飛散したグラサンの欠片も刺さる。ダブルショックだ。



「ぎゃーーー! 目がぁあーーー!」


「次はお前らの汚い尻の穴を広げて洗浄してやろう。尻から水を叩きつけて、口まで貫通させてやるぞ!! 何回目で貫通するかな? まあ、小腸とか突き破ってまっすぐ進むから、内臓はボロボロになるけどな」


「やめろ! 死んじまう!!!」


「ほぉ? そんなにヤワじゃないだろう? 腕に自信があったんじゃないのか? それとも想定外だったか?」


「お、お前…まさか」


「それ以前に、お前のようなクズは死んで当然だ!! くらえーい!」


「ぎゃっーーーーー! ―――がくっ!」



 この水攻撃で、男たちはついに失神。


 目も玉も潰れ、見るも無残な光景であるが、アンシュラオンは物足りない。



「なんだ、なさけないやつらめ。玉の一個や目の一つ、尻の穴一つで倒れおって。えーと、財布はどこかな……ちっ、しけてやがるぜ。たった一万ちょいか。こんなはした金で店に遊びに来るとは…田舎者だな、こいつら。これは慰謝料としてもらっておくからな。あとは簀巻すまきにして放り出そう」



 男二人をぐるぐると簀巻きにして、外に出て遠投。


 ヒューーーンッと軽快な音を立てながら空を飛んでいく。


 とりあえず領主城に向かって投げておいたので、運がよければ助けてもらえるだろう。落下で死ななければだが。


 すでに領主城のことをゴミ捨て場だと勘違いしている節があるが、それは気にしないでおく。



 処理が終わり、再びアンシュラオンがテーブルに戻ってきた。


 多少物足りないが、オカマ男の歩き方が笑えたので少しは満足したようだ。



「はい、終わったよ。これで気分よく飲み直せる」


「わー、ホワイトさんって強いのね!」


「ほんと、ほんと! すごーい!」


「そうだろう、そうだろう。ほら、膝に乗りなさい!」


「もう、エッチ~~!」


「ゲラゲラゲラ、愉快、愉快!! いいかい、何かあったらオレに言うんだぞ! またボコボコにしてやるからさ! 次は素行の悪い商人とかがいいな。たくさん金を持っていそうだからな!!」



(先生って…あんなに強かったんだ。でも、性格はやっぱり…最低。ほんと、先生って何なんだろう…)



 その光景を酔って揺れる視界の中に収めながら、シャイナの意識は闇に落ちていくのだった。


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