86話 「ホワイト先生の診察 母と娘編」


「それじゃ、順番に入れて」


「はい。最初の方、どうぞー」


「し、失礼します」



 シャイナに誘導され、子供連れの母親が入ってきた。


 子供はサナよりも小さな五歳くらいの女の子。母親もまだ若く、三十路にはなっていない年頃だろう。


 肌に艶があり、まだまだ現役…というより、アンシュラオンにとってはお姉さん枠のストライクゾーンである。



 それを確認した瞬間、アンシュラオンの顔が優しくなる。



 女性には笑顔。これが信条だ。



「なるほど、胸の大きさに悩んでいると。わかります! モミモミ!」


「あっ!」



 いきなり母親の胸を揉む。



「けしからん胸ですな! 許されませんよ、これは!」


「あっ、その…私ではなく…あっ!!」


「先生!! セクハラですよ!」


「これは触診だ!!」


「ええ!?」



 言い切る。その迫力にシャイナもびっくりだ。



「…じー」


「ん? 違うって? なんだ、お母さんのほうじゃないのか」



 サナがじっと子供のほうを見ていた。その視線を追うと、女の子は少し気だるそうに身体をふらふらさせている。


 どうやら異常があるのは女の子のほうらしい。



「…じー」


「そこまで言うならしょうがないな。真面目にやるよ」


「最初から真面目にやってください! って、いつも思いますが、それでよく妹さんと意思疎通できますね」


「当然だ。兄妹だからな」



 最近になってアンシュラオンは、サナの言いたいことをさらに理解できるようになっている。これも長く一緒にいるおかげだろう。


 そのサナは子供を見ている。そちらに関心があるということだ。


 ならばアンシュラオンも女の子の相手をするべきだろう。



「はい、今日はどうしたのかなー」


「んー」


「どこか痛いのかな?」


「んー、わからない」


「そっか。わからないかー。でも、先生に任せておけば大丈夫だからね」



 女の子の頭を撫で、それから母親を見る。



「それで、どのような状態ですか?」


「あの、娘がここ最近、ずっと身体の調子が悪くて…たまに寝込んだりしてしまって…原因はわからないのですが…すごくつらそうなときがあって…」


「なるほど。では、本格的に診察をしましょうか。まずは服を脱いでくださいね。あっ、シャイナはちゃんと外をガードしててね」


「はい! 任せてください!」



 女性の患者が裸になる都合上、周囲から見られては困るので、しっかりとカーテンを閉めてガードする。


 以前、覗こうとした男がいたので、目に大量の砂利を投げつけて追い返したことがあった。そういう輩を防ぐためである。


 その男は後日、患者としてやってきたので、目薬と偽ってトウガラシをすり潰した液体を与えておいた。ぜひ反省していただきたい。


 ちなみにそいつの治療費は五万円である。



「ほら、脱ごうねー。脱げるかな?」


「…うん」


「あっ、お母さんも脱いでください」


「え!? 私もですか!?」


「ええ、何か関係があるかもしれませんし」


「そ、そうですか。わかりました…」


「下着もですよ」


「は、はい!」



 母親も服を脱がせる。


 それを見てシャイナは思った。



(絶対嘘だ…)



 いったい何が関係あるというのだろう。嘘に決まっている。


 患者の不安な精神状態を利用したセクハラである。


 だが、診察をするのは本当なので、シャイナはぐっと我慢する。



「それじゃ、二人とも横になってくださいね」



 部屋のわりにベッドだけは良い物にしてあるので、二人が楽々横たわる。


 むしろこのベッドのせいで部屋が狭くなった気がするが、大切なものなので仕方ない。


 それから命気を放出して触診を開始。女の子はお腹だが、お母さんは再び思いきり胸を揉む。



「ふむふむ、うむうむ。もみもみ」


「んっ…んふっ」


「なるほどなるほど、もみもみ」


「くっ…ふぅうんっ……」


「お母さん、我慢してください。娘さんのためですよ」


「は、はい! すみません! 声が出ちゃって」


「いいことです。健康である証拠です」



 だったら胸を揉むのをやめてもいいのに、手の動きは止めない。


 そして、そのまま診察を継続。



(うーん、あれ? んん?)



 アンシュラオンの手が、女の子のお腹から少しずつ下に下がっていく。


 下腹部へと至り、さらに下に向かう。


 断っておくが、これはそういった目的からではない。命気の振動に異変があるからだ。


 しかし、わざわざ断らないといけないほどアンシュラオンに信用がないのは困りものである。普段の行いが悪すぎる



「ねえ、このあたり、痛い?」


「…うん」


「そっか。なるほど」



 アンシュラオンが女の子の太ももを触ると、少し嫌そうな顔をする。そこに鈍い痛みが走ったからだ。


 それで確信。



(オレは医療に詳しくはないが…骨が少し変だ。おそらく骨肉腫というやつだな)



 簡単に言ってしまえば、骨に出来るガン細胞のことである。子供にも多く見られるガンであるが、最近では治癒率も高いらしい。


 どうやら調子が悪い原因はこれのようだが、他の可能性もあるので全身を調べてみる。


 命気が身体の隅々まで染み渡り、状態をチェック。このあたりの手際は、領主城でやった時よりも数段腕が上がっている。


 医者になってからは必須のスキルになってしまったので、知らずのうちに命気の扱い方もレベルアップしているのだ。


 今ではどんな病気でもすぐに見つけてしまえるようになった。もはや達人の腕前である。



(これ以外は大丈夫そうだね。ただ、お母さんはちょっと子宮にダメージが残っているな。出産の後遺症かな? 完全に治っていないから、こっちも治しておこうか)



 アンシュラオンが命気に命令を発すると、自動的に修復を開始。


 骨に染み渡り、ガン細胞や変形した骨を壊しながら再生し、DNAに沿った設計図通りに治していく。


 この命気の性質があるからこそ、アンシュラオンのような偽物の医者でも医療行為ができるわけである。もう万能すぎて手放せない属性だ。


 むしろ、これこそが本来の使い方なのかもしれない。



 そして―――完治。



 ものの一分程度で綺麗さっぱり治ってしまった。



「はい。治療が終わりましたよ。もう大丈夫です」


「も、もうですか!?」


「はい。お子さんは足に病気がありましたが治しておきました。よかったですね。放っておけば危険でしたよ。お母さんは身体の調子を整えておいたので、夜のほうもばっちりのはずです。ぜひもう一人、元気なお子さんを産んでください。できれば可愛い女の子を産んでくださいね」


「あ、ありがとうございます!! ほら、先生にお礼を言って!」


「せんせい、ありがとー」


「はい、どういたしましてー」



 女の子は、まだ自分の身体がどうなったのかは理解していないだろうが、最初に来た時より明らかに動きがよくなっていた。



「あ、あの、治療費のほうですが…おいくらに?」



 お母さんが恐る恐る訊く。


 あまり裕福ではないのだろう。着ているものも上等ではない。心配になるのは当然だ。


 だが、そんな彼女にアンシュラオンは笑いかける。



「いえいえ、そんなのはいりませんよ」


「え? で、ですが…」


「もう報酬はいただきましたから。私はもう満足です」


「しかし、それではあまりにも…」


「あー、本当に大丈夫ですよ。この人、すっかり満足していますから」


「おい、シャイナ。勝手に人の心を判断するな。満足していなかったらどうする」


「満足したって言ったじゃないですか。お金もたくさん持っていますから、気にしないでください」


「ぶわっ、私たちの幸せが報酬だなんて、なんて素晴らしい御方でしょう! さすがホワイト先生です!」


「うん、まあ…そうなんだけどね…」



(ちっ、シャイナのやつ、勝手に決めやがって! ここはあれだろう。一度謙遜しておいて『そんなに言うなら…』とか言って最後にもう一回胸を揉むパターンだろう!)



 申し訳ないが、何を言っているかよくわからない。


 だが、満足したのは事実だ。


 単純に女の子の笑顔を見るのは気持ちいいし、個人的にも楽しめたからだ。



(お母さんの胸はなかなか楽しめた。女の子のお腹や太ももも触れたから、これはこれでいいかな。毎日サナで楽しんでいるけど、こうして違う刺激を得ると、ますますサナを楽しめるから最高だよね)



 サナは素晴らしい。極上のステーキであり、最高級ワインである。


 が、たまには安酒も飲みたくなるし、駄菓子も食べたくなる。これはそういう欲求を満たすための行為だ。


 毎日豪華な食事では飽きてしまうが、こうしてたまに安物の味を思い出せば、さらに最高級品の価値を再認識するというわけだ。



「ありがとうございました! ありがとうございました!」



 そんなこととは夢にも思わず、何度も感謝しながら親子は出ていった。


 結果的に彼女たちが助かったのだから問題ないだろう。


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