84話 「サナのお風呂とトイレのお世話」


 アンシュラオンはある種、他人から見れば猟奇的ともいえる生活をしている。



 実はこれ、パミエルキがアンシュラオンにしていたことと、ほぼ同じである。



 咀嚼して食べさせることはしないが、サナにやっていることは同じ【軟禁】だ。


 ただ、当人がそれに気がついていない。


 姉と同じことをしているなどとは夢にも思っていない。それが恐ろしい。


 虐待された子供は虐待する親になるというのは、実際のところは迷信である。されど、それしか知らない者であれば、それが普通だと思ってしまうのも事実である


 アンシュラオンにとって、この世界は新しい世界。しかも赤子から再生したため、今の彼の大半はこの世界に来てから構成されたものだ。


 子供は周囲の影響を大きく受ける。


 それが親であり、親代わりである姉だったならば、いったいどれだけ強い影響力を持つだろう。



 よって彼は、【支配】することしか知らない。



 支配され続けたことで、誰かを支配する愛しか知らないのだ。


 これはもともと彼が、そういった人物であったことも大きい。前の人生でも、今とあまり変わりなかったのだ。


 さすがに軟禁はしないが、支配的な欲求を常に持っていたのである。



 だから、お風呂も一緒。



「お風呂に入ろうね~」


「…こくり」


「はい。万歳してー」



 万歳したサナのロリータ服を脱がしてあげる。


 冷静に考えれば、服の着せ替えもイタ嬢がやっていたことと大差ないが、アンシュラオンは「自分はイタ嬢とは違う」と思っている。このあたりもさすがである。



「こっちも脱ぎ脱ぎしようね」



 当然、下着も脱がしてあげる。


 一応述べておくが、この時のアンシュラオンにやましい気持ちはない。


 単に世話をしているだけなのだ。彼にとって女性の下着を脱がすのは当たり前のこと。奉仕の一つである。



 なぜならば、姉がそう教えたから。



 姉が「それが世間の常識なの」と言い、二十年近く弟にやらせていたので、アンシュラオンにとっては普通のことなのだ。


 奉仕をする彼は、ほぼ無我の境地にある。ただ女性に尽くすための存在になりきっている。これも訓練の賜物である。



 そして、全裸にしたサナと一緒にシャワーを浴びる。


 このホテルは高級ホテルということもあり、水が有料のグラス・ギースであっても水は使いたい放題である。


 とはいえ一定量以上は有料なのだが、面倒なのですでに諸経費として数千万を渡しているので、ホテル側は何も言わない。事実上の使いたい放題である。



「きれいきれいしようねー」



 その言葉に反応し、サナはアンシュラオンが洗いやすいように自ら手を上げる。


 その姿には「慣れ」が見受けられた。完全に慣れている。慣れてしまった。


 サナは習慣として身につけたことは忘れないし、状況を察して自ら率先して行うこともある。このお風呂の仕草も一ヶ月の間に完全に定着してしまった癖である。


 髪の毛も大切なところも、前も後ろも、全部洗う。それからサナもアンシュラオンを洗うので、兄妹が普通にお風呂に入っているだけの光景だ。


 ちなみにお風呂に入っているときも、ペンダントは外していない。原常環の術式は錆や劣化などにも効果を発揮するので、水に濡れたくらいではまったく影響がない。



「じゃあ、お風呂を張ろうな」



 水は使いたい放題だが、お風呂に張る水にはこだわる。



 それは―――命気風呂。



 命気をたっぷりと湯船に張り、少し温めて適温にする。二人が入ると、ぬるっとした独特のぬめりが肌に触れる。


 命気風呂は身体の汚れを分解し、傷みをすべて修復してくれるので、一家に一台あると便利である。


 といっても今現在、命気風呂を使っているのは世界中でアンシュラオンのみなので、これこそ最高級の贅沢なのかもしれない。(正確にいえば、パミエルキも使用しているので二人)



(サナってなんか、命気を気に入ったんだよな。事あるごとに命気を要求してくるしな。まあ、簡単に出せるからいいけどさ)



 最初は普通の水を使っていたが、サナの反応があまりよくなく、命気にしたら喜んだことが誕生のきっかけである。


 サナは命気をとても気に入ってしまったようだ。普通の水は飲みたがらなくても、命気を注入してあげるとちゅーちゅー飲み出す。


 どうやらガンプドルフとの戦いの際、命気で保護したあたりから【味】が気に入ってしまったようだ。


 命気は水と同じく無味無臭である。試しにアンシュラオンも舐めてみたが、味の違いはあまりわからなかった。


 しかし、生命のエネルギーが宿っているので、その観点からすれば栄養たっぷりであるし、もし水に【濃度】があるとすれば、それも相当なレベルで濃いのだと思われる。


 サナにとっては何かしら価値がある味なのかもしれない。彼女が気に入ったのならば、あげることには問題ないと考えているので、求められるだけ与えている状況である。


 アンシュラオンにとって、サナに好かれるということは大切なことなので、領主がイタ嬢に甘いように、嫌われたくないのでご機嫌を取っているようなものである。


 この意味でも領主のことはまったく責められないのだが、当然ながら「領主とは違う」と思っている。


 ただし、これがサナの人生に大きな影響を与えることをアンシュラオンはまだ知らない。



「いやー、幸せってこういうことを言うんだよなぁ~。サナちゃん、気持ちいい?」


「…こくり。ぶくぶくー」



 サナが顔の下半分を命気湯に埋め、ぶくぶくしている。相当気に入っている証である。



「幸せだなぁ~」



 アンシュラオンとサナが幸せなのだから、それでよいのだろう。


 こうしてお風呂を一緒に入るのは当たり前。すでに兄妹であり家族なのだから自然なことなのだ。





 そして、これでは終わらない。





―――トイレのお世話もする





 のである。



 他人が見れば、それはもう変質的行為。通報されても仕方のないレベルであるが、これも彼にとっては当然のお世話。



 女性(姉)の世話は、全部男(弟)がやる。



 そう教え込まれているからだ。


 サナが尿意を催すとアンシュラオンの肩を叩く。すると抱っこしてトイレまで連れていき、座らせ、下着を下ろして用を足させる。


 当然、その間はずっと見ている。この時にもやましい気持ちはない。


 アンシュラオンは(そういったタイプの)変態ではないので、少女のトイレを見て喜ぶ性癖はまったくない。


 単純に生理現象として見ているので何も感じないのだ。これもペットの糞尿の世話と同じである。いちいち何かを感じるわけがない。



 また、こうしてトイレに触れたことで、グラス・ギースのトイレ事情にも多少詳しくなった。


 まずこのあたりの地域には、上下水道設備がない。


 水道自体はこの世界には存在しているものの、配備されているのは西側の先進国ばかりであるため、水に乏しい東側は湾岸地域や大国を除けば、水道設備はあまり見られない。


 その代わり、ここでもアイテムやジュエルが役立っている。


 たとえば小さいほうならば、吸水石を細かく砕いたものが割安で売っており、それを散りばめることで尿を吸収する仕組みがある。


 定期的に取替えが必要であるものの、表面を軽く水で洗えば衛生面に問題はない。


 大きいほうをするときは、もう一つの専用トイレを使う。


 一般の家庭では、サンドシェーカーという砂状のアイテムを使い、猫のトイレのように排泄物を砂で包み、固める。


 それもまた処理する手間はあるが、ホテルでは消臭のために香りの強い花も置いているので、慣れてしまえばそこまで気になるものではない。


 ちなみに尻を綺麗にする手段は三つある。


 一つは水を使う方法。多少高くても綺麗に洗いたい人は水を常備する。二つ目は、熱された綺麗な砂を使う方法。殺菌されているので衛生上の問題はない。


 最後は日本でもよくある紙で拭く方法。ただ、紙自体の質はあまりよくないので、乱雑に拭くとダメージを負ってしまうこともある。


 アンシュラオンたちは、これまた命気で拭くので問題はない。


 水属性の修行をしている人が見たら、「あの伝説の最上位属性を尻拭きに使うなんて!」と、泣くかもしれないほどの安売り状況だ。




 そうした事情はさておき、この一ヶ月のアンシュラオンの自堕落っぷりは恐ろしい。


 彼にとっては修行のない火怨山の日常を再現しているだけだが、他人が見たら戦慄するに違いない。



 されど、もっと恐ろしいのは―――サナが慣れ始めていること。



 この状況に置かれれば、嫌でも慣れる。誰でも慣れてしまう。


 しかもサナは、けっして知能がないわけではない。言っていることは全部理解している節がある。


 アンシュラオンが「このときはこうしろ」と言えば、お風呂のやり方やトイレの合図のように、しっかりと学んでいる。



 それが―――怖い。



 サナは今、アンシュラオンの王気に触れたことで、生まれて初めて意識が強く顕現している状態にある。


 つまりは感受性の強い生まれたての子供と同じ。


 アンシュラオンの親代わりがパミエルキであったように、サナにとってはアンシュラオンが親代わりである。


 子供の吸収力は高い。このまま成長してしまえば、アンシュラオンの思想をたっぷりと吸った女性が生まれるだろう。


 将来、どんな人間になってしまうのか、見ている側としては心配でならない。


 ただ、当のアンシュラオンはあまり心配していない。



(サナはもっともっと美人になる。あの映像はきっと、オレの願望を強く反映したものだったのかもしれない。可愛い感じを残しながら美人になっていた。いいぞ、素晴らしい! あとはサナを強くして兄妹でハンターってもいいよな)



 契約時、映像で見たサナは美人だった。小百合のように可愛さを残した美人である。


 これはお互いに日本人風の顔立ちが影響しているのだろう。童顔だから成長しても可愛さを感じさせるのだ。



 あとは、【力】。



 あらゆるワガママを押し貫くための武力をいかにして与えるか。これは難問だが、当てがないわけではない。



(サナに才能はないかもしれないけど、師匠に聞いた話では才能を上げる武具やアイテムもあるって話だ。伝説級の武具を集めて、守護獣とかを大量に集めれば防衛力としてはそこそこになるかな。まあ、少しずつ集めていくか)



 アイテムの中には、因子の覚醒限界を上げるものが存在する。


 【覚醒タイプ】のジュエルなどがそれに該当し、潜在能力を一時的に上昇させることができる恐ろしいものである。


 あとは伝説級の武具。特殊な能力が付与された剣や鎧、あるいはアイテム。そうしたものを持てば、サナであっても強い力を持つことができる。



(そういえば、あの剣士のおっさんも怪しい剣を持っていたな。強い力を宿した聖剣とか魔剣とかがあるって聞いたことあるし…ああいう武器があればサナも安全かな? あの映像では、サナも刀を持っていた。ということは、実は剣士としての見込みがあるのかもしれない。数値上では0でも、鍛えればそこそこ強くなるやつもいるしな)



 因子は技を使うために必要な能力なので、あればよいに越したことはないが、なくても剣技の技量を上げることはできる。


 才能がなくても努力で強くなる人間がいるのは、これが理由である。


 戦士の因子はさりげなく重要だが、これこそアイテムで補完すればよい話である。そもそも剣士は肉体的にはあまり強くないので、装備で補うのが一般的だ。


 あとは、それ以外の要素。たとえば守護獣。守護獣というのは、文字通り守護する獣のことだ。


 魔獣と呼ばれるものは、人間にとって害を成す存在を指す。一方、聖獣と呼ばれる存在もおり、彼らは古くから人間と多くの接点を持ち、守護する側の存在となっている。


 単純に好意から一族の守り神になったり、取引して守ってもらったり、あるいは使役している場合もあるが、どちらにせよ強力な存在である。


 そうしたものを集めれば、素の力が弱くてもなんとかなる。



(まあ、おいおい考えていけばいいか。さて、そろそろ出よう)



 次はアンシュラオンの新しい仕事を紹介しよう。


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