83話 「ホワイト先生のただれた生活の一部」


 屋上での準備運動と、ホロロの股間を楽しむという朝の日課を終えたアンシュラオンたちは、部屋に戻り朝食をとる。


 朝食は高級ホテルの性質上、多少高価になってしまうこともあるが、できるだけ一般の食生活に合わせてくれとお願いしている。



 その理由は、グラス・ギースの生活習慣を理解するためである。



 生活習慣というものは、その地域に流通する物資によって形成される。その土地の気候、風土によって特産が決まり、他地域との貿易の度合いによって多様性が生まれる。


 日本の食生活が欧米化したのも他の文化が入ってきたからであり、同時にそれが実現可能な物資の流通が始まったからである。


 その国、地域の特色はさまざまなものに表れるが、如実に見てとれるのが食生活である。


 何がよく食べられ、何を食べないか。なぜ食べないのか。無いから食べないのか、それとも風土的な問題か、思想的な問題か、単に知らないだけか。


 毎日違うものを食べていれば、それだけ流通がある証拠であるし、他の文化を受け入れる多様性と寛容さを持っていることを示すだろう。


 このように、食事を見ればその国のことがよくわかるものなのだ。



 アンシュラオンにとって、この大地は未知の土地。何をやるにも生活事情を知らねばならない。


 スレイブを得るにしても地元の人間から選ぶだろうから、その管理にも多大な影響を及ぼす問題である。



 では、グラス・ギースの食事はどのようなものか。



 まず、主食は二種類ある。


 ライ麦パンのようなものとタイ米のようなもので、パンを「タムタモ」、米を「ランスン」と呼ぶ。


 基本的にはぱさついているので、パンはスープに浸して食べたり、米は炒めたりするのが一般的だ。


 これらの原料は、七割を輸入、三割を自前でまかなっているようだ。砦のある第三城壁内部は土地が余っているので、そこで耕作を行っている。


 これは、もともと耕作をしていた場所が、災厄時に魔獣の被害に遭ったために城壁を新たに建造した、と言ったほうが正しい。


 よって、農家などは第三城壁内部に家を建てて暮らしている。アンシュラオンがグラス・ギースにやってきた時にちらほら見た家屋の大半が、こうした農家の家である。


 また、公募で選ばれて砦に配属されている衛士は、大半を農家として過ごしているようだ。


 戦国時代にあった「農兵」というやつである。平時は農業に勤しみ、いざ戦いになったら兵士にもなるのだ。


 グラス・ギースではハンターが外の魔獣を狩るので、基本的に衛士の仕事は壁内部の治安維持となる。それでも数が余るので、農業をやらせているようだ。


 自給自足という意味合いもあるが、それだけ職がないのである。新しい商売が起こらないと雇用も生まれず、最終的にあって損はない食糧に人手が回るのだろう。



 魚介類は、海から遠いグラス・ギースでは貴重品である。


 グラス・ギース内部にも森や川があり、多少の魚は住んでいるが食用にするには数が少ないのが現状だ。


 大半は、ここから南東に行った港湾都市であるハピ・クジュネから輸入しており、距離があるため新鮮なものは少なく、主に乾物類が中心となっている。


 その他、周辺の集落や街から仕入れられるものを除くと、グラス・ギースの食糧自給率は四割弱といったところだろうか。


 不作になれば一気に収穫も減るので、流通が滞れば飢餓が発生する可能性もある。



(食糧は大切だ。オレはどうにでもなるが、サナにはちゃんとした食事が必要になる。スレイブが増えれば、それだけ養ってやらないといけないし、この都市の物資が枯渇してもらっては困る)



 アンシュラオンが優雅に暮らせるのも、都市が安定してこそである。


 都市が安定すれば領主も安定することになるので若干不快だが、サナのためだと思えば気にならない。


 ただ、今すぐに食糧が枯渇する可能性は低いだろう。今のところ流通は滞っていないし、定期的に輸入できているようだ。


 しかも、グラス・ギースには特産物もある。



 それは―――【魔獣】



 魔獣が多いということは、魔獣という資源を持っていることになるのだ。


 魔獣の中には食用のものも存在しているので、単純に食肉として利用もできるし、珍しい素材が手に入れば売ることもできる。


 北には広大な大森林が存在し、普通サイズの森なら近くにもたくさんあるので、ブシル村に限らず、他の開拓村からも常時森の恵みが届けられている。


 グラス・ギースは都市拠点として、北側の集落に援助を施す代わりに、魔獣の肉や素材を提供させているので、それらは自国の売り上げになっていく。


 集落側にしても単独で暮らすことは不可能なため、流通の基盤であるグラス・ギースと提携するのは悪い話ではない。


 こうして両者が共存することで、厳しい環境の大地においても細々と暮らすことができているのである。


 今日の朝食も魔獣の肉がメインであり、それに野菜スープ付きの米のランスンを主食に選んでいる。飲み物は、果物のジュースである。



「サナちゃん、あーん」


「…ぱく。もぐもぐ。ごくん」



 野菜スープをサナに食べさせてあげる。もぐもぐと口一杯に芋を頬張り、ごっくんと飲み干す。


 その姿に感激。



「ん~~、可愛い~~!!! サナは可愛いなー。次はお兄ちゃんにも、お兄ちゃんにも!」


「…ひょい」



 今度はサナがスプーンでよそい、アンシュラオンに食べさせる。



「あ~~ん、ぱくっ。美味しい。でも、サナちゃんのほうが美味しいな。ぺろっ」


「………」



 アンシュラオンが頬を舐めるも、サナは特に表情を変えない。



「はい、あーん」


「…ぱく。もぐもぐ。ごっくん」


「お兄ちゃんにもちょうだい」


「…ひょい」


「ぱくっ。美味しいなー。サナはもっと美味しいけどね! ぺろん!」


「………」



 時たまキスらしき愛撫を交えながら、食べさせっこをしている。



 そう、これが日常の食事風景。



 朝食に限らない。夜もだいたいこんな感じである。サナとホテルに来た日から、これが一ヶ月間ずっと続いているのだ。


 しかし、ホワイト先生の行動はこれにとどまらない。誰も邪魔しないので、毎日好き勝手暮らしているのである。





 朝食が終わり、少し落ち着くと何をするのか。



 そう、【着替え抱っこ】のお時間である。



 覚えているだろうか、サナのために買ったロリータ服のことを。



「サナ、サナ! これ着よう!! これがいい!」



 サナの肌の色とは正反対の、白いロリータ服を着させる。サナは自分で着ようとしないので、アンシュラオンが着させてあげる。


 これがまた楽しい。



(姉ちゃんの着替えも楽しかったけど、小さい子はまた違うなー。可愛いよ!! サナちゃん、最高!)



 姉の場合は豊満な身体を堪能しながら、その色っぽさを楽しんでいたものだが、サナの場合は単純に可愛さ爆発である。しかもそれが憧れのロリータ服ならば、もう最高の気分だ。


 着せ終えたサナを、惚けた顔でじっくりと観察。


 いろいろな角度から見たり、服の上から触ってみたりして感触も楽しむ。



 すべてが―――ふわふわ。



 子供特有の柔らかい身体は、大人の女性とはまた違う楽しみを与えてくれる。それが自分のものだと思うと、さらに興奮と感動は増す。



「サナ、おいで、おいで! 膝においで!!」


「…こくり」



 サナがベッドに腰掛けるアンシュラオンの膝に座る。柔らかくて温かいものが膝の上に乗る感触も最高である。



「あーん、可愛いーーー! すりすりすり! ナデナデナデ! サナは最高に可愛いねぇ~」



 サナを抱きしめながら、ベッドにごろごろ転がる。


 ベッドは、高価な装飾が施されたキングサイズかつ、ピンクの天蓋付きのお姫様ベッドである。


 サナの身体は小さく、アンシュラオンもまだ子供といった背丈なので、二人が抱き合っていてもベッドにはまだまだ余裕がある。



「すーはー、すーはー。ああ、いい匂いだー」



 サナをぎゅっと抱きしめ、その匂いを堪能する。猫吸いならぬ、サナ吸いである。


 サナの匂いは、柑橘系のような爽やかなものというよりは、深みがあって落ち着くものである。甘くて軽い葉巻のような、癖がないのにコクがあって豊かな味わいを与えてくれる。



「あ~、可愛いね。可愛いね。綺麗な髪の毛だね~。ちゅっちゅっ」


「………」


「んふふ、なーに? ぎゅっ」



 サナが動くと、アンシュラオンもさらに抱きつく。


 髪の毛に口付けをして、優しく撫で、骨盤あたりをぎゅっと抱きしめて固定する。サナもまた無表情でそれに従っている。



 ホテルのベッドの上で男女がすること。



 それを聞くと、いろいろなことを想像するだろう。


 しかしこの一ヶ月、アンシュラオンはただただこうしているだけである。ただ抱きつき、撫で、愛で続ける。それだけを繰り返す。


 匂いを嗅ぎ、抱きしめ、恍惚とする。


 実際、やっていることはラブヘイアとあまり変わらないが、当人はそのことに気がついていないし、けっして認めようとはしないだろう。



「サナちゃん、『にーに』って言ってみて。にーに! お兄ちゃんって意味だよ」


「………」


「まだ駄目か~。でも、可愛いねぇ~」


「…じー」



 サナは、じっとアンシュラオンを見つめるだけである。反論もしないし主張もあまりしない。


 そう、この光景はまさに飼い主が猫を溺愛するものと同じである。


 もともとアンシュラオンは、サナをこうして可愛がるつもりであったので、無事願いが成就したといえるだろう。今が人生において一番幸せだと思えるほど充実している。



「それじゃ、またお着替えしようか」


「…こくり」



 再びサナを着替えさせ―――悶絶。



「うひょおお! 可愛い!! サナは何を着ても可愛いよ! かーいい、かーいい!」



 そしてまたベッドでごろごろし、抱きしめながら匂いを堪能する。


 これが午前中の彼の日課。昼食までだらだらとサナを抱きしめ続けるのである。





―――戦慄





 モヒカンが見たら、背筋が凍るような戦慄を覚えたことだろう。


 一泊、およそ二十万円のスイートルームで、彼は日々この行為に耽っている。誰もが汗水流して働いている中、悠々自適な生活をしているのだ。


 これを非難するのはたやすいが、彼の行動によってグラス・ギースが潤っていることも事実である。


 このホテル街は、アンシュラオンがやってくるまで閑散としており、近年では常時赤字経営となっている【お荷物事業】であった。


 当然、生活が苦しい地元の人間はまず使わないし、せいぜい一ヶ月前の馬鹿騒ぎで、金を持て余した何名かがお泊りしに来たくらいである。


 それも仕方ない。ここは本来、外国から来たブルジョワが泊まるホテルだからだ。値段も外の人間向けに設定されている。


 しかし、南での入植が本格的に始まり、治安の悪化もあるせいか、今は外国からの来客も少ない状況である。


 これには領主も頭を悩ませており、いろいろと誘致を行っているものの、たいした成果は挙がっていなかった。



 そんなところにやってきたのが―――謎の少年と少女。



 やたらと羽振りがよく、しかも一ヶ月の間、部屋からあまり出ないという奇行から、従業員の間ではどこぞの【王子と姫】なのではないかとの噂もあるくらいである。


 だが、お付きもいないのは不自然なので、一部の若い女性は駆け落ちした若い貴族説を唱えている。


 そう勝手に勘違いしてか、アンシュラオンに対しては、ホロロ以外の従業員の態度も非常に恭しいものとなっている。


 男の従業員に対しても餌付け(買収)はしっかりとしているので、このホテルでアンシュラオンを悪く言う人間は一人もいない。


 彼は、このホテルに繁栄をもたらす唯一の客なのだから当然である。




 そして、昼食を食べ終えると、おもむろに服を脱ぐ。



「じゃあ、お風呂に入ろうねー」



 次はお風呂の時間だ。


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