74話 「サナと買い物 後編」


 サナの教育をしながらさらに進むと、次はアクセサリーを売っている露店があった。



「ここにも寄ろうな」


「…こくり」



 サナと一緒にアクセサリーを見る。


 これだけならば妹のために立ち寄った光景に見えるだろう。だが、実はアンシュラオンにも用がある店である。



(スレイブ・ギアスをはめるものが欲しいな)



 サナに付けるギアス用のアクセサリーが欲しいのである。


 多くのスレイブは標準の首輪、チョーカーなどにジュエルをぶら下げている。


 あれでは一目見てスレイブだとわかるし、男も女も同じように付けているので面白みがまったくない。


 サナもスレイブには違いないが、すでにアンシュラオンの妹になったのである。それはもうスレイブを超えた存在だ。



(もともと白スレイブは、秘密裏に跡取りにされる用途にも使われる。その意味で、すでにサナはスレイブじゃない。オレの妹になったんだ。ただ、ジュエルを付けることは保険にもなる)



 今のところサナは、アンシュラオンに逆らう様子はない。可愛がるだけならば、このままでも問題はなさそうだ。


 しかしながら野良猫がそうであるように、首輪をしていないと連れさられる危険性がある。それが善意か悪意かはともかく、身分を証明する必要があるのだ。


 仮にあのままイタ嬢のスレイブになっていれば、それだけで身分証明となり、周りの人間は不用意に手を出さなくなるだろう。


 手を出せば、領主の娘という地位と権力に対して喧嘩を売ることになる。それが抑止力になるのだ。


 サナにギアスを付ければ、アンシュラオンの所有物であることを外部に示すことになる。サナに手を出せば即座にアンシュラオンが敵になる。


 これは表の人間にではなく、モヒカンのような裏の人間に対しての圧力である。


 裏の業界ではすでに情報が出回っているだろうから、デアンカ・ギースの一件も含めて、そんな危険な人間を敵に回す者はごくごく少数である。


 また、強いジュエルを付けておけば探知もしやすくなる。さらわれても追跡して救出も容易になるだろう。


 その意味を含めてギアスは必要なのだ。サナを守るため、誰かに奪われないために。



(しかし、あからさまにスレイブ用のものを付けるのは嫌だ。サナは特別だから、特別なものでないといけない。女の子だし、おしゃれもしたいだろうしな)



 守るためにギアスは付けるが、あくまでファッションにもこだわりたいし、普通のスレイブだと思われるのも嫌なのだ。


 そこで何かないかを探しているというわけだ。



(腕輪や足輪もいいけど、万一手足が切れたら取れちゃうし…あまり取れないところがいいな。…そうするとやっぱり首か。スレイブ・ギアスも多少は考えられているんだな)



 一番安全な場所が首付近。ここに何かあれば人間としては致命的なので、必然的にダメージを避けようと身体が勝手に動く。


 ちゃんとした意味があって首になっているわけだ。



(首にしてもせめて違うものがあれば…)



「…じー」


「サナ? 何か欲しいのがあったか?」


「…じー」



 サナが何かをじっと見ている。



 それは【ペンダント】。



 紐に吊るされているのは、中央に穴があいた形状の銀色のペンダントトップ。素材は何かはわからないが、それなりに頑丈そうだ。


 穴にジュエルをはめこめば、かなり綺麗なペンダントになるだろう。銀色もサナの肌の色によく似合う。



(これはちょうどいいかもしれないな。ただ、強度という点に関しては弱いが…サナが見ているってことは気に入ったということだろう。こういったものは好みが大切だ。ひとまずこれをキープしておこうか)



「おじさん、これちょうだい」


「おう、いいもんを見つけたな。そいつは掘り出しもんだぞ」


「良い物なの? 金属だから?」


「それもあるが、どっかの遺跡から見つかったもんらしいんだ。だから文字通り、掘り出しもんだ。がははは!」


「遺跡なんてあるの?」


「おうよ。このあたりにはゴロゴロあるぞ。西側よりも東側のほうが遺跡は多いからな。トレジャーハンターとかがお宝を見つけてくるんだわ。まあ、考古学の先生とかも見つけるけど、あっちは自分で管理しちまうからな。両者の争奪戦ってわけだ」


「へー、発掘品なんだね」


「実際のところはトップの部分だけがそうだ。紐はこっちが勝手につけたんだよ。見つけた時には壊れていたみたいでな。真ん中にも、もしかしたらジュエルがはまっていたんじゃないかって話だが…ないものはしょうがないよな」


「じゃあ、もともとジュエルをはめるタイプだったんだね。これは都合がいいや。いくら?」


「そいつは三千円だな」


「よし、買った!」


「まいどあり!」



(アクセサリーと思えば適当な値段かな?)



 物価はまだよくわかっていないが、まったく問題ない値段なので購入を決める。



(これだけだと不安だな。一応、他のものも買ってみるか)



 それからサナに似合いそうなブレスレットや指輪なども買い、その店を後にした。







「そうそう、サナの服を買おうな。下着もないんだよな」



 少し歩くと、今度は服の店が並んでいた。


 サナの服は優先度が高い買い物だ。一番高いのは下着だろうか。まったく替えがないので早めに買わねばならない。


 店の中から女性物を専門に扱うところを選ぶ。やはり男性より女性のほうが服に興味があるらしく、店も多くあるようだ。


 大きめなテントのような店舗に入って周囲を見回すと、子供用のものもそれなりに置いているようだった。



「おや、いらっしゃい」



 出てきたのは、多少お年を召したご婦人…正直に言うと還暦は過ぎているだろうと思われる女性である。


 さすが服の店をやっているだけあって、それなりに小奇麗な格好をしていた。



「この子の服を適当に見繕ってよ」


「あらま、可愛い子だわね。こんな綺麗な子はあまり見たことないわ」


「そうでしょうとも。オレの妹だからね! 当然だよ!」


「あらま、あんたも可愛い顔をしているね。こりゃ、気合を入れないとね」


「気合入れてよろしく! 下着もないから、十着くらいちょうだい!」


「はいはい、任せてちょうだいな」



 営業トークだろうが、サナを褒められて嬉しくないわけがない。アンシュラオンは気分良く服を見て回る。


 何もしなくても普段着は店主が選んでくれるだろうから、自分が見るものはお出かけ用とか、そういった特別なものである。


 今まで子供服売り場に行ったことなどないので、目新しいものばかりで少し気分が高揚してくる。


 自分の服を選ぶのとはまったく違う楽しい体験だ。



(サナは何でも似合いそうだけどな。今の着物なんて日本人っぽくてすごくいいけど…借り物だし、それだけというわけにもいかない。ほかにもいろいろと買おうっと)



 そうして子供服を見ていくわけだが、なぜかふらふらと一つの場所に吸い寄せられていた。



 そこは―――フリフリ系の服がある場所。



 可愛い服、特にフリルが付いたような少女らしい服がある。もっと限定してしまえば【ロリータ服】がある場所である。


 グラス・ギースの衣料店には、けっこうこうした衣装が存在している。その理由は、イタ嬢の趣味だからである。


 サナが着ていた寝巻きにしてもフリルが付いていたし、ベルロアナは可愛い系の服が大好きなのである。


 それに影響を受けて全体的に増加傾向にあるのだ。



(どうしてオレはこんな場所に…!! だ、駄目だ! 身体が言うことを聞かない!! 手が、手が伸びる!!!)



 そして、白いフリルの服を手に取った。スカートもヒラヒラがたくさん付いており、アンシュラオンの心の奥底をくすぐってくる。



「サナ、これなんかどうだ?」


「………」



 サナの上から合わせてみる。


 するとそこには、とろけそうなほど可愛い子がいた。かつて夢見たフリフリ姿である。


 地球時代の休日、外を出歩くと必ず親子連れに出会った。その時、誰の趣味なのかロリータ服を着ている子供をよく見かけた。


 それが可愛くて、自分に娘ができたらぜひ着させようと画策していたものだが、結局夢半ばで終わった哀しい経験がある。


 その反動が―――爆発!



「か、可愛い!! 凶悪なまでの可愛さだ!! サナは天使なのか、それとも悪魔なのか!! くううぉおおお!! 可愛すぎる!! これは買うぞ! 絶対買うぞ!!!」



 領主がスレイブをメイドにしたり、イタ嬢が友達にすることを散々罵倒していた男なのだが、すでにそんなことはすっかり忘れている。


 すでにサナの意見を聞いていないのが、その証拠。


 自分の趣味でロリータ服を大量に買い漁っている謎の少年の姿は、端から見るとかなり怪しい。


 顔が女の子のように可愛いのでまだ許されるが、これがおっさんだったら即逮捕レベルである。







「はぁ、幸せ…」



 結局、サナの服を二十着以上買ってしまった。


 ちなみに十五着はロリータ服であるので、ほぼアンシュラオンが選んだものだ。


 だが、そこに後悔はまったくない。



(この充実感は何だ? これをサナに着せることを想像すると…オレはもう感動と興奮で倒れてしまいそうだ。ああ、最高だ! サナちゃん、超可愛い!!)



 徐々にラブヘイア大先生側の人間になりつつあることを、彼はまだ知らない。


 変態とばかり接していると、自分も同じようになっていくよい見本である。



「…じー」



 そんなアンシュラオンをサナはじっと見つめていた。


 妹への愛情が爆発している兄を見て、彼女が何を思ったのかはわからない。


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